再会。5
大きな氷の刃が様々な軌道でトトに襲い掛かる。
先程よりも氷の密度が高く、斬り捨てられた氷の刃は原型を留めている物もあった。
それでも、アイリスの攻撃は当たらない。当たらないのだが、魔力は上昇を続けていた。
「そんなに怒らなくても、充分伝わっているぞ」
「お前だけは…もっと…力を!」
「くくっ、流石だな。俺達の領域に足を踏み入れた事を評して、教えてやる」
「何を偉そうに!」
「お前の姉は死んではいない。生きている」
アイリスの魔力制御が乱れた。明らかな動揺。
だが、姉を引合いに出され、怒りが更に上昇していく。
過去にアイリスが魔力暴走で失ったフォート家三姉妹の次女…
「私を揺さぶろうとしても無駄だ!」
「…正確に言うと、フォート家三姉妹の次女は存在していない。長女のオブリス・フォート、次女はアイリス・フォートだ」
「馬鹿な事を! 家族と共に過ごした思い出もある! 家系図にも名が残されている!」
空から巨大な刃が出現。トト目掛けて落ちてくるが、スッと避けるとトトの真横に巨大な刃が突き刺さり、シャンッ__青い刀で斬り捨てられ粉々に砕け散る。
攻撃が通じなくとも、アイリスの戦意は衰えない。
「アイツにとって、人の家族に入り込むのなんざ…簡単なんだよ」
「姉は死んだ! 私が…殺した!」
「確かに十数年前の、あの時に姉は消し飛んだ。あの日…お前が誘拐され、閉じ込められていた所を助けに来た姉は誘拐犯に刺され…それを目の前で見たお前は、魔力を暴走させた」
「…何故…知っている」
誰にも話していない事。家族でさえ、姉を魔力暴走で失った結果は知っているが、詳細を知らない。
知っているのは、アイリスと、その場に居た者だけ。
「姉の身体は、具現体だったんだよ。そこでだ…お前にはもう一つ、悩みがある」
「…」
「謎の加護が付いている。自分の鑑定にしか載らない加護」
「…なぜ」
「俺も同じようなものを持っているから、解るんだ」
トトが偽装を解除。
≪トト、武器師、強さ5、テラティエラの加護・ラグナレヴィアの寵愛≫
トトのステータスを視たアイリスが、目を見開き驚いている。トトは新鮮だなぁ…と心の隅で思いながら、アイリスが落ち着くのを待つ。
少し落ち着いたアイリスは攻撃を止めたが、魔力を上昇させながらトトを見据えている。
「……」
「自分の容姿を見て、誰かに似ているって思った事はないか? 自覚あんだろ」
「…ルナライト様」
「そう、ルナライト。天上の女神に暇な神が居てな…制約により自分の妹と喋る事が出来ない。そんな暇神は世界を眺めている時に、妹によく似た女の子を見付けた。
そして…元気に笑う女の子を眺めている内に、会いたくなってしまったんだ」
「それが…ラヴィー姉さん…」
「そうだ…寂しさに負けてフォート家に入り込んだ。懺悔しやがったぞ」
頭の痛い内容に、トトが不機嫌そうに話す。この女神姉妹のせいで、トトの精神がどんどん削られているのだ。
ルナライトには記憶の削除を使われ、ラグナレヴィアにはアイリスを頼まれ更に自分を殺せと言う……ここまで来ればトトはただの被害者にしか見えないが、自分で選んだ道だと諦めた。
もう、ここまで話せばアイリスは理解すると判断。
話は終わりと言うように、武神装の闘気を上げていく。
「安心しろ、殺しはしねえ」
「…私はお前を殺すぞ」
「はははっ、やってみろ」
アイリスが魔力を解放。
魔力暴走にも似た爆発的な青い光が放たれた。
トトは力強く、美しい光の柱を眺め…青い刀をアイリスに向ける。
アイリスが白い杖を振るうと、青い魔法陣が多数出現。
次々と魔法陣が重なっていく。
「受けとれ__禁術・氷刃雪崩」
ゴオォォォ!__高密度の細かい氷の刃が雪崩のように押し寄せる。
刃の数を数える事など馬鹿らしいと思える程の災害級の魔法。
全てに殺傷能力の付いた刃を防ぐ事は難しい。
「すげえな。氷無効を無視する魔法か…ラグナの加護が付いているだけあるよ」
トトは氷刃雪崩に向かって突進する。神速の刃を放ち雪崩を崩しながら。
「__極光刀技・金剛通し!」
ギュンッ__雪崩を崩し、アイリスへの道筋を直線に突き進む。
身体に傷を負いながらも、トトは雪崩を突破。
そのまま突き進み…
ザシュッ__「__あぐっ!」青い刀がアイリスの腹部を貫いた。
全力を出してもトトは更に上を行く。
アイリスは泣きそうな顔で悔しそうに顔を歪め…トトは視線を合わせず、シュッと刀を引く。
アイリスは腹部を抑えながら膝を付き、トトを睨み付けた。
「……届か…ない…か…」
「あぁ…その内ここまで来れるさ…でも、もう会う事も無いから勝ち逃げしてやるよ」
「本当に…嫌味な…奴だ」
「おう嫌え嫌え、世界で一番嫌いな男になってやるよ」
「くっ…言われ…なくとも…大嫌いだ」
アイリスは気を失い、倒れ込む。
「……ごめんな。アイリスさん」
トトは直ぐにアイリスを治療し、腕に新しい友情の腕輪を嵌めた。
≪友情の腕輪・極、ランクーー、状態異常無効・全属性軽減・幸運・結界≫
トトは倒れているアイリスの腕輪に手を添え、結界を発動させる。
「…タケル、お待たせ。行くぞ」
「…了解。愛情の腕輪じゃなくて良いの?」
「馬鹿か、未練垂れ流しに思われるだろ」
「実際は?」
「ドバドバ垂れ流してるな」
嫌われる覚悟なんて元々持ち合わせていない。
磨り減った精神状態で、最奥の扉を開けて中へと入った。
聖女の間。聖女の為に作られた広い部屋は、白い魔力の通った防護壁に囲まれ、奥に五体の女神像が並ぶ澄んだ空気の部屋。
その中心に立つ白いローブを着たトリスが、聖女に相応しい慈愛の笑みを浮かべながらトトを見詰めている。
久し振りに会うトリスは、少し大人びていて…周りには、ウサギの兵隊が守りを固めていた。
「久し振りだね…流石、トトさん…答えに辿り着いているなんて。…それに…アイリスさんとイチャイチャして…妬いちゃうなぁ…」
「トリス…記憶があるのか…」
「うん。みんなには言っていないよ…私ね、未来が視えるんだ」
「未来視か…この世界の未来は…存在していたか?」
未来視。トリスは女神でも発現しない能力を持つ。
特殊な力を持つが故に、視たくもない未来を視ていた。
「…色んな種類の未来が視えたよ。この世界が救われる未来…なんとか生き延びる未来…神が死ぬ未来…みんな死ぬ未来…この世界が…死ぬ未来……」
「そっか…未来視でも解らないくらい…大変な戦いって事か…」
「でも…一つ、共通している事がある」
「…聞きたく無いけど、教えてくれ」
「トトさんだけが…居ないの」