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流れの武器屋  作者: はぎま
ヴァイラ王国へ。
144/163

再会。5

 

 大きな氷の刃が様々な軌道でトトに襲い掛かる。

 先程よりも氷の密度が高く、斬り捨てられた氷の刃は原型を留めている物もあった。

 それでも、アイリスの攻撃は当たらない。当たらないのだが、魔力は上昇を続けていた。


「そんなに怒らなくても、充分伝わっているぞ」

「お前だけは…もっと…力を!」

「くくっ、流石だな。俺達の領域に足を踏み入れた事を評して、教えてやる」

「何を偉そうに!」


「お前の姉は死んではいない。生きている」


 アイリスの魔力制御が乱れた。明らかな動揺。

 だが、姉を引合いに出され、怒りが更に上昇していく。

 過去にアイリスが魔力暴走で失ったフォート家三姉妹の次女…


「私を揺さぶろうとしても無駄だ!」

「…正確に言うと、フォート家三姉妹の次女は存在していない。長女のオブリス・フォート、次女はアイリス・フォートだ」

「馬鹿な事を! 家族と共に過ごした思い出もある! 家系図にも名が残されている!」


 空から巨大な刃が出現。トト目掛けて落ちてくるが、スッと避けるとトトの真横に巨大な刃が突き刺さり、シャンッ__青い刀で斬り捨てられ粉々に砕け散る。

 攻撃が通じなくとも、アイリスの戦意は衰えない。


「アイツにとって、人の家族に入り込むのなんざ…簡単なんだよ」


「姉は死んだ! 私が…殺した!」

「確かに十数年前の、あの時に姉は消し飛んだ。あの日…お前が誘拐され、閉じ込められていた所を助けに来た姉は誘拐犯に刺され…それを目の前で見たお前は、魔力を暴走させた」

「…何故…知っている」


 誰にも話していない事。家族でさえ、姉を魔力暴走で失った結果は知っているが、詳細を知らない。

 知っているのは、アイリスと、その場に居た者だけ。


「姉の身体は、具現体だったんだよ。そこでだ…お前にはもう一つ、悩みがある」

「…」

「謎の加護が付いている。自分の鑑定にしか載らない加護」

「…なぜ」

「俺も同じようなものを持っているから、解るんだ」


 トトが偽装を解除。


≪トト、武器師、強さ5、テラティエラの加護・ラグナレヴィアの寵愛≫


 トトのステータスを視たアイリスが、目を見開き驚いている。トトは新鮮だなぁ…と心の隅で思いながら、アイリスが落ち着くのを待つ。

 少し落ち着いたアイリスは攻撃を止めたが、魔力を上昇させながらトトを見据えている。


「……」

「自分の容姿を見て、誰かに似ているって思った事はないか? 自覚あんだろ」

「…ルナライト様」

「そう、ルナライト。天上の女神に暇な神が居てな…制約により自分の妹と喋る事が出来ない。そんな暇神は世界を眺めている時に、妹によく似た女の子を見付けた。

 そして…元気に笑う女の子を眺めている内に、会いたくなってしまったんだ」

「それが…ラヴィー姉さん…」

「そうだ…寂しさに負けてフォート家に入り込んだ。懺悔しやがったぞ」


 頭の痛い内容に、トトが不機嫌そうに話す。この女神姉妹のせいで、トトの精神がどんどん削られているのだ。

 ルナライトには記憶の削除を使われ、ラグナレヴィアにはアイリスを頼まれ更に自分を殺せと言う……ここまで来ればトトはただの被害者にしか見えないが、自分で選んだ道だと諦めた。



 もう、ここまで話せばアイリスは理解すると判断。

 話は終わりと言うように、武神装の闘気を上げていく。


「安心しろ、殺しはしねえ」

「…私はお前を殺すぞ」

「はははっ、やってみろ」


 アイリスが魔力を解放。

 魔力暴走にも似た爆発的な青い光が放たれた。

 トトは力強く、美しい光の柱を眺め…青い刀をアイリスに向ける。


 アイリスが白い杖を振るうと、青い魔法陣が多数出現。

 次々と魔法陣が重なっていく。


「受けとれ__禁術・氷刃雪崩」


 ゴオォォォ!__高密度の細かい氷の刃が雪崩のように押し寄せる。

 刃の数を数える事など馬鹿らしいと思える程の災害級の魔法。

 全てに殺傷能力の付いた刃を防ぐ事は難しい。


「すげえな。氷無効を無視する魔法か…ラグナの加護が付いているだけあるよ」


 トトは氷刃雪崩に向かって突進する。神速の刃を放ち雪崩を崩しながら。

「__極光刀技・金剛通し!」

 ギュンッ__雪崩を崩し、アイリスへの道筋を直線に突き進む。


 身体に傷を負いながらも、トトは雪崩を突破。

 そのまま突き進み…

 ザシュッ__「__あぐっ!」青い刀がアイリスの腹部を貫いた。


 全力を出してもトトは更に上を行く。

 アイリスは泣きそうな顔で悔しそうに顔を歪め…トトは視線を合わせず、シュッと刀を引く。

 アイリスは腹部を抑えながら膝を付き、トトを睨み付けた。


「……届か…ない…か…」

「あぁ…その内ここまで来れるさ…でも、もう会う事も無いから勝ち逃げしてやるよ」

「本当に…嫌味な…奴だ」

「おう嫌え嫌え、世界で一番嫌いな男になってやるよ」

「くっ…言われ…なくとも…大嫌いだ」


 アイリスは気を失い、倒れ込む。


「……ごめんな。アイリスさん」


 トトは直ぐにアイリスを治療し、腕に新しい友情の腕輪を嵌めた。

≪友情の腕輪・極、ランクーー、状態異常無効・全属性軽減・幸運・結界≫


 トトは倒れているアイリスの腕輪に手を添え、結界を発動させる。


「…タケル、お待たせ。行くぞ」

「…了解。愛情の腕輪じゃなくて良いの?」

「馬鹿か、未練垂れ流しに思われるだろ」

「実際は?」

「ドバドバ垂れ流してるな」


 嫌われる覚悟なんて元々持ち合わせていない。



 磨り減った精神状態で、最奥の扉を開けて中へと入った。


 聖女の間。聖女の為に作られた広い部屋は、白い魔力の通った防護壁に囲まれ、奥に五体の女神像が並ぶ澄んだ空気の部屋。

 その中心に立つ白いローブを着たトリスが、聖女に相応しい慈愛の笑みを浮かべながらトトを見詰めている。

 久し振りに会うトリスは、少し大人びていて…周りには、ウサギの兵隊が守りを固めていた。


「久し振りだね…流石、トトさん…答えに辿り着いているなんて。…それに…アイリスさんとイチャイチャして…妬いちゃうなぁ…」


「トリス…記憶があるのか…」


「うん。みんなには言っていないよ…私ね、未来が視えるんだ」


「未来視か…この世界の未来は…存在していたか?」


 未来視。トリスは女神でも発現しない能力を持つ。

 特殊な力を持つが故に、視たくもない未来を視ていた。


「…色んな種類の未来が視えたよ。この世界が救われる未来…なんとか生き延びる未来…神が死ぬ未来…みんな死ぬ未来…この世界が…死ぬ未来……」


「そっか…未来視でも解らないくらい…大変な戦いって事か…」


「でも…一つ、共通している事がある」


「…聞きたく無いけど、教えてくれ」


「トトさんだけが…居ないの」




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