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流れの武器屋  作者: はぎま
ヴァイラ王国へ。
143/163

再会。4

 

「……」


 奥の扉…聖女の間を守る騎士達。その最奥に立つ一際存在感のある女性が杖を振るうと、室内の温度が下がっていく。


「騎士達は寒くねえのかな?」

「寒かったらここに居れないでしょ」

「そうだなー…あっ、来た扉は閉じておくかぁ。作成」

「それで家作ったら世紀末な家になりそうだよね」


 騎士達は剣を抜き、トト達を囲んでいる。

 普通だったら投降してもおかしくない状況で呑気に雑談する異様な二人に、精鋭の騎士達は一歩が踏み出せない。

 気だるげな男は強さを感じないが、もう一人の男の強さは遥か高みの存在に感じていた。

 その中で、一番豪華な鎧を纏う騎士が前に出る。


「お、お前達は…何者だ!」

「俺はただのクソ男だ」

「僕は彼の付き添いで、ただの一般人だよ」


「目的を言え! こんな事をしてただで済むと思うな!」

「目的は聖女様に会いに来たんだよ。少し話したら帰るぞ」

「お前らみたいな下民に会わせる訳が無いだろう! お前達! 殺せ!」


 激昂する騎士の合図で、精鋭の騎士達が一斉に襲い掛かる。

 ガキンッ!__騎士達の剣はトトの時空結界に阻まれた。

 騎士達は尚も攻撃を仕掛けるが、トトの結界を壊せるような攻撃は無く、剣が結界に当たる音だけが響く。


「…ん?」

「泰人? どうしたの?」

「…ここってデカイ教会みたいなもんだよな?」

「そうだね。城自体が大きな教会……ぁ」

「この気配…緑の女神様が観てるぞ…」


 ミリアン大陸が管轄の女神…ヴェーチェルネードの気配。

 遠く…恐らく天上から観ている気配だが、こちらに来る様子は無い。トトが居るから警戒しているのか、人形の気配を探っているのか…


「今動かれると困るね。騎士達は任せて」

「任せた」


 タケルが応龍神剣を抜き、無造作に振るうと周囲の騎士が倒れた。そしてまた振るうと次々倒れていく。

 その光景を茫然と眺める豪華な鎧の騎士は動けず、気付いたら目の前にタケルが居た。


「__なっ!」

「少し眠っていてね」


 ガクンッ__糸の切れた操り人形のように崩れ落ち、タケルに引き摺られて端に寄せられる。



 全ての騎士が昏倒し、残るは最奥…アイリス・フォートのみとなった。

 トトは奥に向かって歩き、アイリスも前に出る。部屋の中央で対面する。


「…」

「…会うのは二度目だな。俺の名前は戸橋泰人。神に仇なす存在だ」

「……」


≪白雪召杖・クロウカシス、ランクーー、白雪姫ーーー、魔力攻撃ーーー、火水氷風属性無効・氷雪の造形・カミル召喚≫


 アイリスが白い杖…白雪召杖をトトに向けると大量の氷柱が発生。

 トトに次々と当たっていくが、ダメージは無い。


「無駄だ。そんなんで聖女を守れるのか?」

「……武装・白雪姫」


 ヒョォオオ__吹雪が発生し、アイリスを包む。吹雪が晴れると、真っ白いドレスを纏った姿に変化し白い杖を振るう。


 ヒラヒラと、雪が舞った。



「やっぱり…綺麗だな」


 トトが思わず笑ってしまうほど、アイリスは美しい。白雪の姫のような真っ白いドレスに、銀色の髪が輝き、無表情で冷えきった視線を送る姿は…女神と並んでも全く見劣りしない美しさ。

 女神ルナライトと並べば、姉妹にしか見えない程…


「…細雪」

 細かい雪が舞う。触れると身体が溶ける雪だが、トトは平然と立ちアイリスを見据えている。


「…雪嵐」

 細かい雪の数が増し、前が見えない程の雪が発生。

「…終雪」

 雪が収束。雪の柱が出来上がった。

 クラス8の魔物を簡単に仕留める魔法だが…

 ボコボコと柱から出てくるトトに、変化は無い。


「…何手加減してんだ? 本気でやれよ」

「…手加減などしていない。氷雪」


 鋭い氷が降り注ぐ。だんだんアイリスの魔法の威力は上がっているが…


「まだまだこんなもんじゃねえだろ。命を掛けるぐらいの気概を持て」


「…」


「守るっていう事は、そういう事だ。お前は何を守っている? 聖女か? 国か? 仲間か? それとも…自分の心か?」


「…」


「全てを捨てても構わないと思う程に…力を解放しろ…じゃないと俺には全く届かないぞ、アイリス・フォート」



 ここで初めて、トトが武器を持つ。

 青い刀…極光刃・新水氷霧を掲げ、「武神装…青」

 青い着流しを纏い、ダランと自然体でアイリスを見据えているが、今までと段違いの威圧がアイリスを襲う。


「…くっ…なんだ…この強さ…」


「ここでお前が倒れたら、俺が全てを壊してやる。この城も、お前が守ってきたノール王国も、お前の大切な人も全て…」


 ビリビリと武神装の力を増加させていく。アイリスの心を逆撫でしながら…


「そんな事は…させない……っ!」

 アイリスが腕に違和感を覚え、確認すると身に付けていた腕輪が無い。

 ハッとトトを見ると、左手に腕輪が握られていた。

≪友情の腕輪、ランクB+、毒無効(大)・魔力上昇(大)≫


 かつて、トトがアイリスにあげた物。


「それを…返せ…」

「もう…これは必要無いだろ」

「…お前が…触って良い物ではない…」

「まっ、俺に勝てたら返してやるよ」


 ピキピキ__空気が氷点下を遥かに下回り…昏倒した騎士達が震えだしている。無表情なアイリスだが、瞳は怒りを内包していた。


 アイリスが杖を振るうと、氷の刃が視界を埋め尽くす程に出現。

 一斉にトト目掛けて放たれるが、トトの間合いに近付いた瞬間に斬り捨てられ、砕け散っていく。

「…氷刃乱舞」今度は軌道が変わり、直線から曲線へ。読みにくい軌道が放たれるも全てトトに斬り捨てられていった。


「怒りが、足りないぞ…」

 トトが間合いを広げていく。氷の刃が軌道を変える前に斬り捨てていく。


「くっ…氷刃大乱舞!」

 アイリスが初めて声を荒げ、視界を埋め尽くす氷の刃が肥大していく。大きく、速く、鋭くアイリスの攻撃が洗練されていった。

 アイリスはこのまま洗練させていけば攻撃が届く…そう思ったが、自分の限界…魔力切れが迫っている事に焦りを感じていた。

 氷の刃一つ一つが上級魔法を超える威力…ここまで放てるだけでも英雄の域に達しているのだが…まだトトの領域まで行くには、足りなかった。


「はぁ…はぁ…」

「もう終わりか?」


 アイリスの攻撃は確実に衰え、変わらずトトに攻撃は通じない。

 怒りを内包していた瞳に、諦めの感情が見え始めている。

「…」

「…悪いな」

 トトは左手に持った友情の腕輪を掲げ、

「やめ…ろ…やめろぉぉ!」

 バキッ__握り潰す。


「ぁ…ぁあ…」キラキラと砕けた腕輪の破片が輝き、アイリスが茫然とその様子を眺めていた。

 為す術も無く、大切な物を壊された末路は…

「うあぁぁぁぁぁ!」

 怒りの感情が爆発する。


 ゴオォォォ!__アイリスの魔力が限界を超えて解放された。

 城の天井が崩壊。

 快晴の空が顔を出し、天を貫くほどの青い光が上がる。

 アイリスの真っ白いドレスを氷が包み、鎧…ドレスアーマーに変化。

 氷が舞い降り、魔力を含むダイヤモンドダストが起きていた。


「そう…それで良いんだ。おめでとう…やっと…感情を表に出せたな」


「神敵…お前だけは…許さない!」


 そして、アイリスの表情が怒りを表し、歯を食い縛りながらトトを睨み付けている。

 トトはアイリスの変化した怒りの表情を見て、寂しそうに笑っていた。


「道は違えど…共に前を向こうぜ。アイリスさん」


 再び、闘いが始まる。

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