ヴァイラ城へ。
帝国の東にある国、ヴァイラ王国。
女神教が国教の宗教国家。
聖女が生まれる国として有名で、王族よりも必然的に聖女の権力が強くなるような国。
帝国を出発したトト達は、ヴァイラ王国の王都ヴァイラに到着していた。トトは巡礼者っぽく白いローブを着て、深くフードを被っている。
女神の住まう天上をイメージしたと言われる程に美しい、白い都…そう呼べば正しいと思うほどに白い街並み。
その大きな通りで、白く大きな城を眺める一向。
「白いですねー」
「なんか眩しい」
「泰人、天上の女神が住んでいる所ってあんな感じ?」
「全然違うな。田舎の町内会館みたいな地味な部屋だったぞ」
こたつとテレビがある部屋を思い出す。
視線の先にある城とは大違い。あの女神達らしいな…とは思うが、一応神だからもう少し豪華にしても良いんじゃないかと思っていた。
「予定は?」
「今日はもうすぐ夕方だから…明日の朝、城に行って…タケルと俺で正面から訪問かな。ノワールさんとノーレンは、何かあれば通信石で指示するから、近くで待機。だから今日は自由行動って事で」
「了解。トトは神敵なんだから気を付けて行動してね」
「大丈夫。霊体化で行動するから」
夜に王都の外で集合する事を伝え、それぞれ行動する。
一応全員に通信石を渡しているので、何かあれば直ぐに報告する予定だ。
皆が情報収集をする中、トトは霊体化して城の近くに来ていた。
(ぐるっと回ってみるか)
白く大きな城壁に囲まれ、外周や城壁を巡回する騎士の多さに厳重な態勢を伺わせる。騎士の強さも、他の国と比べて倍の強さ。高い監視塔から騎士が数人、街を監視している様子も見えた。
(聖女がいかに大事かが解るな…邪悪の気配は、城の中だな)
邪悪の力の気配は、城から感じられる。
ある事が解り、少し安堵。
外周を回り終え、城壁を飛び越えて城以外の施設を確認。一応転移者が居ないか調べてみる事にした。
収納から、トレジャーサーチを出し転移者を探す。
(居るかなぁ……んー……居ないな。死んだか逃げたか…居ないなら仕方無い)
転移者を一目見たかったが、居ないものは仕方無い。地球とは違う別の世界からの転移者の可能性もある…そう思う事にした。
少し歩き、騎士の詰所らしき場所を発見。
中に入り、辺りを見渡す。
事務員が数人と、休憩室に騎士の姿。
話す内容は詰まらないものだったので特に聞かずに、壁に貼られていた城の案内図をこっそり収納。
こそこそと詰所を出た。
(んー…もう用事無いな…おっ、あれは…)
帰ろうとすると、見覚えのある顔を発見。騎士達と話しているニグレットとミランダの姿。
(元気そうだな。……あの二人は邪悪を持っていない)
ニグレットとミランダからは何も感じない。
ふと、ミランダがトトの方向を見た。
(んー…気付かれた? 逃げるか)
こそこそと移動。転移でバシュン! と逃げた。
「ふぅ…危ない危ない。流石に今俺だとバレたら駄目だな」
用事は終わったので、集合場所でのんびり過ごす。
しばらくして夜になり、タケル、ノワール、ノーレンが帰って来て情報交換。
城の案内図を広げながら話していく。
「まぁ、帝国で仕入れた情報と大差無いねー」
「そっか。邪悪の力は城にあるから、予定通り俺とタケルで明日訪問だな」
「兄ちゃん達、頑張ってなー」
「頑張って下さいね。私とノーレンは異変があったらお知らせします」
「じゃあ、明日…頑張りますかぁ」
「泰人、みんなと会う訳だけど…あまり無理しちゃ駄目だからね」
「分かってるよ。ボロクソに言われるのは慣れているから大丈夫だ」
乾いた笑いを浮かべるトトを、タケル達は心配そうに見詰めるがトトの意志は強い。
タケルは、せめてトトの心が堕ちない様に支えようと心に決めていた。少しでもトトに恩返しを出来るように。
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ヴァイラ城…白を基調とした神殿のような、教会が大きくなったような城。その最上階…女神像が並ぶ聖女の間に、ヴァイラの新しい聖女…トリスが居た。
本来する筈の祈りは捧げず、椅子に座り古い書物を読み漁っている。
「…これも違う。どうして載っていない…」
「トリス、もう夜だから少しは休みなよ。女神様は五柱、常識じゃないか?」
「ニグお姉ちゃん…女神はもう一柱居る筈なの。でも何処にも載っていない…」
トリスは予知能力…少し先の未来が視える。断片的に視える未来の中に、知らない女神が居た。女神なのかは解らないが、感じた気配はルナライトに似ている。だから古い書物を漁り、何か情報が無いか調べていた。
しかしそれでも、書物には載っていない。
悪神の情報は沢山出てくるが、女神の情報は赤、青、黄、緑、白黒の五柱の女神。
「載っていないなら、女神様に直接聞くしか無いんじゃないか?」
「…それは、嫌だ」
ニグレットがため息を付き、ほどほどにな…と伝えて聖女の間を出ていく。それでもトリスは諦め切れず、片っ端から書物を読み漁っていった。
「…知っていそうな人は……はぁ…きっと、トトさんは答えに辿り着いているんだろうなぁ…」
ウサギが駆ける聖女の間で一人、何処に居るのかも解らないトトを思い浮かべ、顔をしかめる。
トリス達は、魔物の大移動の後…聖女と勇者の特権を使い、魔導馬車でヴァイラ王国へ。
勇者一向とウサギの兵士を引き連れた聖女クシャトリスとしてヴァイラ城に乗り込み、当時聖女だった転移者を聖女の座から引摺り降ろす。
ある程度の力を持っていた転移者は抵抗したが、武装を使いこなす勇者一向には敵わず、直ぐに白旗を振った。
それから直ぐに、ヴァイラ王国王女クシャトリス・ヴァイラ・オーレンは聖女となり帰ってきた。と民衆に広まり、不動の地位を会得。
現在に至る。
トトは神敵として勇者一向に認知されてしまっている。
憎むべき敵…話題に上がる度にトリスの精神は削れていった。
「少し…眠ろう」
翌朝。
何か、騒がしい。
何事かと思っていたら、近衛騎士が急いだ様子でやって来た。
「何かあったの?」
「はっ! 賊が現れました。念の為、聖女様は外には出られぬようお願い致します」
「そう。賊は、どのような人?」
「黒髪の男二人組です。今、勇者様が向かいました」
「ふふっ、そう。ありがとう。一人にしてくれる? 祈らなければいけないから」
「かしこまりました!」
近衛騎士が出ていき、トリスは椅子に座る。
口角が上がり嬉しそうな表情で、どす黒い光を放つ勾玉を眺めていた。
「会いに来てくれた…嬉しいなぁ…」