思い残す事は…
特に思い残す事も無いので、もう王都に用事は無い。
近場で一泊した後、トト達は帝国へと飛び立った。
「そういや、勇者一向はどうやってヴァイラ王国に行ったんだ? 結構遠い筈だけど…」
「魔導馬車があれば、十日で着くらしいよ。ノール王国秘蔵の馬車だって」
「へぇー。魔導馬車…車みたいなもんか。なら帝国に行けば、ヴァイラの情報が入っていそうだな」
帝国でやる事は特に無いが、武器の調整をしたかったから寄るだけ。調整中はみんな暇なので、帝都を散策してもらうつもり。
「じゃあ、いってらっしゃい。時間はまだあるし、三日くらい引きこもるからよろしく」
トトは帝都に入らず、人気の無い場所にテントを張る。タケル、ノワール、ノーレンは帝都へと向かった。
「あっ、タケルって上層部には名前知られているんだよな…まぁいっか」
タケル・マツダは皇帝や公爵に、本物の不壊の勇者として知られている。だがそうそう会う事も無いかと思考の隅に追いやった。
すっかりダンジョンのお宝で豪華になったテントの中で、トトはベッドに寝転がり、しばらくボーッとしていた。
≪泰人、お話しようよ≫
「良いぞ、ラグナ。最近大人しかったけどどうしたんだ?」
≪他の場所を見ていただけだよ。他大陸に異変が無いか、ね≫
もうすぐ復活すると言われたが、ラグナの口調はいつも通り。引きこもる理由の一つに、ラグナには色々聞きたい事があった。
「ラグナ、特定の女神を呼ぶにはどうしたら早い? 連絡手段が無くてな」
≪んー…何か世界規模でやらかすか、女神人形を五体以上教会に納めたらホイホイやって来ると思うよ≫
「その場合は恋愛フラグ付きだから危険だな…まぁ女神より強ければ良いか」
世界規模でやらかすのは、女神が怒って出てくるので戦闘になる。流石にもう闘いたくないので却下。
トトが女神人形で呼び出せるのはルナライト…喧嘩になる未来しか見えない。とりあえずまた後で考えよう…と、別の話題へ。
「ダンジョンのお宝で、ルナライトちゃん人形が異様に多いのは、ラグナのせいか?」
≪お蔭って言って欲しいな。頑張れば確率を上げる事は出来るよ。妹と私、どっちがお好み?≫
「バカ言ってんじゃねえよ。人形の呪いでルナライトちゃんが困ってんじゃねえか。どうやったら呪いを解ける?」
≪テラにやったように、ボコボコにして敗けを認めさせるか…私を殺すか、かな≫
「ん? じゃあティラちゃんは呪いが解けている?」
≪テラは気付いて無いけどねぇー≫
ふふふ…と笑い声が響き、トトは流石悪戯神様だなぁ…と合わせて笑う。
「そもそもなんで呪い付きの女神人形なんてあるんだよ」
≪元々人形作りとか物作りが趣味でね。ルナ達が寝ている隙に髪の毛を拝借して、人形に埋め込んであるんだ≫
「それ呪術だな」
トトが武器作成の力を持っているのは、ラグナの影響だと思っているが、ラグナ曰く武器を作れるのはトトの固有能力らしい。不幸系のアイテムが多いのもラグナの影響と邪推してしまう。
「ラグナ、いつ復活するんだ?」
≪早く会いたいのかい? …正確には解らないけれど、封印が軋んでいるからね。復活する時は空に黒いオーロラが出るから、解りやすいよー≫
「じゃあ、その時は教えてくれ」
ラグナが復活した後、現れる場所は以前殻兵獣が眠っていた近く。帝都の北らしいが、まだ解らないという。
正直ここまで気さくに話してくれるラグナとは、闘いたくない。何が起きるか予測出来ない状況で、皆を守れるとも思えない。だからトトは一人で闘おうと思っているが、それを周りが許してくれるか…
「そうだ…寿命を伸ばす方法知らない?」
≪ん? 神格を得れば伸びるよ≫
「神になれって? 興味無いから別の案」
≪なんでさ。楽しいよー≫
「神って意外と忙しいから御免だね。それと、神はどうやったら死ぬんだ?」
≪神格を消す程の攻撃を加えて、致命傷を与えれば大概死ぬよ。でも神によって細かい条件は違うかな≫
神格を得る事は、神になる条件の一つ。神にとって最も大事な物でもある。神格が無くなれば、人間と大差無い身体になるので、死が近くなる。
大方聞きたい事は聞けたので、ラグナの世間話に付き合っていると、昼を過ぎて夕方になっていた。
≪泰人、楽しい時間をありがとう≫
「おう、感謝しろ感謝しろ。明日も聞いてやるから」
≪ふふっ、ありがとう。またね≫
ラグナの気配が消え、シーンとするテントの中。ベッドに転がりながら、目を閉じる。
(ラグナが復活したら…殺し合いか…)
その日が来る前に、思い残す事は終わらせたい。