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流れの武器屋  作者: はぎま
ヴァイラ王国へ。
135/163

情報収集。2

 タケル達がギルドに行っていた頃、トトとノワールは東区の商店街へと足を運んでいた。

 漆黒のフルプレートを纏った異様な男と、鑑定の効かない明らかに強者な女性の二人組。すれ違う人々はギョッとしながら道をあける。これは予想出来ていたので二人は気にしていない。


「この奥で武器を売っていたんですよ」

「人通り無いじゃないですか…売れました?」

「全然ですね。別に儲けたいとかじゃなくて、この世界で生きていくなら何か仕事をと思った結果です。今じゃトレジャーハンターと言った方がしっくりきますね」


 懐かしむように、過ごした場所を巡っていく。武器を売っていた事や王城へ行った事を話しながら。

 商店街を回っていると、トトがふと立ち止まる。

 ノワールがトトの見ている方向を見ると、ガラス張りの高級感漂う魔導具店。

 店内で接客しているオレンジ色の髪をした女性…クルミナ・サムスンを見ていた。


「…トハシさん。知り合いですか? 可愛い人ですね」

「はい、知り合いでした。一生懸命な人で、良い取引相手でしたよ」

「…もう、トハシさんの事を覚えていないんですよね」

「そうですね。ミリアン大陸全てに、記憶の魔法が行使されましたから。ちょっと話して来て良いですか?」

「はい、待っていますね」


 ノワールが待ち、トトがサムスン魔導具店へと入る。

 店内は前とさほど変わらず、清潔感のある店内。そこに漆黒の全身鎧が入って来ると、流石に目立つ。

 直ぐに店内の空気が張り詰め、従業員が警戒し出した。


「…いらっしゃいませ」


 クルミナが目を細め、トトの前に立つ。威圧感のある全身鎧に、少し身体が震えているが真っ直ぐトトを見据えていた。


「どうも。商談をしたいのですが…少し、お話よろしいですか?」


 トトは収納から、天使剣・ロストエンジェルを取り出し、クルミナに見せる。


≪天使剣・ロストエンジェル、ランクS+、古天使レベル100、攻撃3000、天使化≫


「__っ! 魔武器……分かりました。こちらへどうぞ」


 直ぐに魔武器と判断し、トトを商談用の部屋に案内。

 ソファーに対面で座り、トトとクルミナは向き合った。


「この魔武器を売っていただける…という事でよろしいですか?」

「ええ、良いですよ。条件はありますが」

「…聞きましょう」


 魔武器は簡単に取引出来ない貴重な物。それを解っているクルミナは、ある程度の条件を飲むつもりでいた。

 しかしトトは別に駆け引きをするつもりは無く、ただクルミナが元気なのか知りたかっただけだ。だからトトの出す条件は簡単。


「これを、受け取ってもらえたら魔武器はタダで譲ります」

「…? これを私が貰えば良いんですか? 鑑定が効かないんですが…」


≪守護天使の腕輪、ランクーー、守護結界・閃き・器用さ増加・クルミナ専用装備≫


「これは危険から守ってくれる腕輪です。クルミナさん専用なんで、売れませんからね」

「あの…なんで…」

「ただの気まぐれです。これで、何も無い所で転んでも大丈夫ですね…じゃあお元気で」

「えっ、ちょっと…」


 トトはその場で転移で店を出る。残されたクルミナは、理解出来ない状況に混乱していたが、とりあえず守護天使の腕輪を着けてみた。


「__ひぅ! これ…魔防具…なんで……何か、書いてある…『最高の魔導具職人になれる事を願って。戸橋泰人』」


 突然現れ、消えていった黒い鎧の男。自分を知っているようだったが、心当たりは無い。

 ただ、とても寂しい気持ちになっていた。


「………絶対、会ったことある筈なのに…恩がある筈なのに…こんなに寂しい気持ちなのに…思い出せない…ほんとうに、私はバカだ…」


 後に、サムスン魔導具店が天使の剣を展示したところ…客足が増加。天使の剣を欲しい者は後を経たず、どんなにお金を積まれても決して天使の剣を売る事は無かった。


 そして、とある魔導具職人が様々な魔導具を発明。サムスン魔導具店はミリアン大陸で、最も力のある魔導具店になっていく…




 ______




 店の前に転移したトトは、待っていたノワールと再び商店街を回っていく。


「トハシさん…あの人に何かプレゼントしましたね?」

「はい、何も無い所で転んでも大丈夫な物を渡しました」


 身に付けてくれたら良いが、得体の知れない男から貰った物を普通は身に付けない。ただ、クルミナは少しズレている人だからきっと身に付けるというトトの謎な自信があった。


 その後は特に回る所も無く、北区の丘へと足を運ぶ。

 誰も居なかったので、テントを出して結界石を設置して仲間以外入れない様にしてから、中で作業する事にした。


「じゃあ、武器でも作っているんで…ゴロゴロしてて下さい」


 ノワールはゴロゴロしながらトトを眺めている。

 トトは何を作るかなー…と呟きながら収納の中身を確認している所で、タケルとノーレンがこちらに向かっている感覚。



 一時中断して、二人が来るのを待っていると、他にも誰かが居る様子。

 ノワールに出迎えると言ってから、テントの外に出た。


「…」

「泰人、ただいまー。良い収穫があったよ」

「兄ちゃんただいまー。俺はテントの中に居るねー」


 タケルが手を上げてトトに挨拶。ノーレンはテントの中へ入って行った。そして、タケルの後ろから付いてきている二つの人影は、見覚えがあった。


「…はじめまして、ドーグ・サラスだ」

「…ミニャ…です」


 鎧の中で、トトはどんな表情なのかは伺い知れないが、歓迎していない雰囲気なのは、直ぐに解る。


 緊張した表情のドーグとミニャ。タケルが案内する道中、ミニャが喧嘩を売った事を言った為、ドーグはタケルに謝る場面があったがタケルは適当に流していた。

 その影響か、ミニャの猫耳がペタンとなっている。


「…タケル、説明を」

「了解。そこのお姉さんに喧嘩売られてね。黙らせたらそこのヤンキーに絡まれたっていうよくある話だよ」

「なるほど、よく解る説明をありがとう。_武装解除」


 トトが武装を解除。黒い玉になった古代武装を収納し、ドーグとミニャを見据える。

 二人は鎧が一瞬にして消えた事に驚いていたが、トトを見て何かを思い出した様子は無い。


「はじめまして、トハシだ。さて、俺に何か用事があるのかい? ドーグさん」

「ああ、妹の…ミランダの武器を作ったって本当か?」


 トトがチラリとタケルを見る。タケルはウンと頷くだけ。ある程度を理解したトトが、「本当だ」と伝える。


「妹は、あの武器を作った人を思い出せなくて困っていたんだ。とても恩がある筈なのになんで…と、思い出せなくて悔しそうにしていた…」

「なるほど…(スッポリ抜ける感じか…でも抜けた境い目はぼやけている…か)」

「妹に会ってやってくれないか?」

「良いけど、妹さんは何処に?」

「ヴァイラ王国だ」


 そこでタケルが補足する。聖女と勇者一向の名前を伝えると、トトがため息を付いた。


「…じゃあ、ヴァイラに行ったらな。それと、その剣は誰に折られた?」


 トトが指差すのは、ドーグが背負っている折れた大剣。トトがポキッと折った魔武器…ドラゴンキラー。

 ドーグは暗い表情で、真ん中から折れたドラゴンキラーを手に取った。


「…思い出せないんだ。妹に纏わり付く虫を払おうとしたら、返り討ちにあった事は覚えている。だけど、それが誰に折られたかは全く思い出せないんだ」

「…そっか、実力を測れなかったんだな…未熟だねぇ…」


 トトがチラリとミニャを見る。すると、何かを思い出すようにビクリと肩が跳ねた。一度殺気を当てられた事を、本能で感じ取っている様子だ。

 だが、『トハーシ強さ444』…この中の誰より弱い事に、少し見下した表情なのは種族特性か…


「泰人、なんかアレだね。いじめっ子はいじめた事を覚えていないってこの事だね」

「あーそうだなぁ…正直さぁ、連れてこなくても良かったんじゃないか? 不毛だぞ」



 とりあえず帰って良いよと伝えるが、二人は帰ろうとしない。

 待っていると、ドーグがトトを見据えて話し始める。


「…どうして、妹にあの武器を渡したのかを知りたい。あの武器を手にしてから妹は、俺を避けるようになった…」

「どうして、か。強くなりたいと言っていたから、その手伝いをしただけだよ」

「それは嘘だ! ギルド員としてこれから頑張るって言っていた!」

「面倒だから熱くなんな。『ドーグ・サラスの妹』って周りの冒険者や、パーティーメンバーに比べられていたんだ。そりゃ嫌にもなるさ。

 お姉さんもドーグ・サラスの妹だからパーティーメンバーに誘ったんだろ? ミランダさんは君たちに陰口を叩かれていた事を知っているからな」


 ミランダがドーグの妹だと知ったミニャともう一人は、ミランダをパーティーに誘ったが、いざ組んでみると器用貧乏なスタイルにガッカリしていた。ドーグと繋がりがある以上突き放す事はしなかったようだが。


 納得していない様子のドーグと、黙っているミニャ。トトはミニャとは話しても無駄と判断…意識から外した。


「ところで、ダンジョンでの話しは聞いたか?」

「…あぁ、ダンジョンに行ってから職業が変わったと聞いた」

「ふーん。クラス7と遭遇した事は?」

「…なんだと…知らない」


 クラス7は冒険者パーティーごときが遭遇したら命は無い。ミニャも知らなかった様子。ミランダが面倒だから言わなかったのだが、ドーグは何故そんな大事な事を言ってくれなかったのか…と、ショックを受けていた。


「詳しく…教えてくれ…」

「良いぞー。ダンジョンでクラス7と遭遇…ホークアイも居たが勝てる見込みが無かった。そこで、一人が囮になって、クラス7を引き付けている隙にミランダさんとホークアイは撤退したって感じかな」

「そう…か。その…囮になった人は…」

「その剣…ドラゴンキラーを折った人と同一人物だよ。ここまで言えば解るだろ?」

「…俺は…妹の恩人を襲ったのか…」

「正解」


 ドーグは自分のしてしまった事に、顔を覆って後悔している。ミランダがドーグに愛想を尽かしている理由が解ってしまった。その恩人に謝りたいのに思い出せない様子を見て…トトは中途半端に記憶消しやがって…とルナライトを恨んでいた。


「…これじゃあ…嫌われても仕方ないな…」

「そうだな。俺から見たらクソ野郎だぞ。で? 仲直りしたい?」

「あぁ、そりゃ…」

「じゃあその剣を寄越せ」


 ドーグが持つ折れた剣を受け取り鉱石を複数添えて、「作成」一瞬で直す。

 驚愕に目を開かせるドーグとミニャを見ずに、ポイッと剣を投げ渡した。


≪竜殺剣・ドラゴンキラー改、ランクS+、攻撃3200、竜特攻・竜剣・竜魔法≫


「これを見せれば、優しい妹さんは許してくれるぞ。じゃあな」

「いや…礼を…」

「いらん。敢えて言うなら、そこのお姉さんともう一人の縁を切れ。そして家族は正しく守れ。以上だ。じゃあな」


 しっしっ…とドーグとミニャに帰れと言い放つ。仲良くする気は全く無いので、早く行かねえと殺すぞと脅しを掛ける。

 中々行かないので、威圧をペシペシ当てると、ミニャが逃げるように退散。しかしドーグは中々退かない。


 仕方ないので、トトはノワールとノーレンを呼んでテントを仕舞い、転移で王都の外へと転移した。



「泰人、謝って貰えば良かったじゃん」

「そういうのは、もう会わないからいらん…なぁ、タケル…聞きにくい事なんだけどさ…」

「…予想は付くけど、なんだい?」

「好きな人を思い出せないって…どんな気持ちだ?」

「辛いよ。どうしようもなく…ね。やっぱり気付いちゃった?」


「あぁ、俺の記憶は消えても…感情までは消えていない…」


 遠い目で空を眺めるトトを見て、「泰人…グレないでね」タケルが少し焦っていた。



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