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流れの武器屋  作者: はぎま
ヴァイラ王国へ。
134/163

情報収集。

 王都ノールへと到着。北区の丘に着陸し、トトは古代武装・アヴァロス…黒い全身鎧に武装した。


「じゃあ…タケルは適当に情報収集よろしく。俺は王都を回ったら、ここで武器でも作ってるから」

「了解。武器作りって…人が来るかもしれないじゃん」

「別に見られたって、もうここには来ないから良いんだよ」


 投げやりな言葉を言いながら、トトは丘を下りていく。

 ノワールもトトに付いていき、タケルとノーレンは別の方向へと歩き出した。



「タケル兄ちゃん、本当に帰っちまうのか?」

「うん。今故郷がどうなっているか解らないけど、心残りがある以上…帰らないといけないから」

「ヤスト兄ちゃんも?」

「そう、だね。残りの人生は故郷で過ごしたいみたいだし」

「残りの? 直ぐじゃなくても…十年とか二十年先じゃ駄目なの?」

「まだ解らないけれど…泰人は…帰ると思うよ」


 タケルは言って良いものか悩む…もう、トトは無理をし過ぎて十年も生きられない事を。復活の宝珠があれば寿命は伸びそうだが、果たして自分の為に使うのかという疑念があった。



 タケルとノーレンは、情報収集の為に冒険者ギルドへ。

 ランクの低い白い色の冒険者ギルドに入った。

 ギルドの中は、流石王都という感じで混んでいる。どうしようかと辺りを見渡していると、ハゲのおっさんに話し掛けられた。


「お前さん達、見ない顔だけど…何者だ?」

「…僕達は情報収集に王都へ寄ったんですけど、情報をくれるなら何者か教えますよ?」

「…そうか、じゃあ来てくれるか? 俺はゴドム…ここのギルドマスターだ」


 チラチラと冒険者達に見られる中、奥の別室へと案内される。

 タケルは話が早くて助かるなーという感じだが、ノーレンは少し緊張した面持ちで、いきなりギルドマスターと話すとは思っていなかった様子。


 商談に使われる様な、対面のソファーに座り、軽く自己紹介をする。


「僕はタケル・マツダです」

「…ノーレン・アーラです」

「タケルとノーレンだな。情報収集って何だ?」

「魔物の大移動が起きたと聞きまして、どのように終わりを迎えたのか知りたくて来ました」


 ノール王国で起きた大規模な魔物の大移動。あれから何日経ったか解らないが、一ヶ月くらい経ったかと思う。

 ゴドムは腕を組んで、当時の事を話し始めた。


「白い光の柱が上がってな、女神様が顕現したんだ。そして、魔物達と神敵を討ち滅ぼし、天上へと帰られた」

「はい、そこまでは知っているんですが…聖女様が居たのは本当ですか?」

「ああ、居たぞ。聖女クシャトリス様が女神様を呼んで下さったんだ」

「女神様が帰られた後、聖女様は?」

「勇者一向と共にヴァイラ王国へと向かった」

「勇者一向? メンバーを教えて下さい」


 ゴドムが立ち上がり、棚にある資料を取り出しタケルに渡す。

 資料には勇者一向の名前…ホークアイ、アイリス、ニグレット、ミランダ、リンダウェルの名前が載っていた。

 タケルは欲しかった情報を手に入れ、少しホッとした。ヴァイラへ行けばトトの仲間が居る…と。


「ありがとうございます。知りたい事が解りました」

「そうか? じゃあお前さん達の事、教えてくれるか?」

「はい、ノーレン君は極壁の勇者です。僕は…昔、不壊の勇者と呼ばれていました」

「……ノーレンが勇者なのはまだ解る。鑑定が効かないからな…だが、不壊の勇者とは…どういう事だ?」


 勇者物語の不壊の勇者は、オーランドという冒険者。タケル・マツダの名前はターケルという似た名前でならば登場する。

 不壊の勇者を知っているのは帝国の上層部のみだから、ゴドムが知っている訳もない。


「そのままの意味ですよ。五百年前、僕は不壊の勇者の偽者とされ処刑されました。信じるかどうかは任せます」

「本当だとしても…何故、生きている?」

「良い巡り合わせに出逢いましてね。これを見れば少しは信用するかな?」


 タケルが救世剣・シクザールメサイアを見せ、輝かせる。

 ゴドムの目が見開かれ、救世剣を凝視。本物…と呟きながら、ドカッとソファーに座り直した。


「くははは! 面白いな! 本当だとしたら、どうするんだ? 帝国に復讐でもするのか?」

「しませんよ。もう帝国に興味ありませんし、ここも直ぐに出ていきますから安心して下さい。ノーレン君、そろそろ行こうか」

「うん」


 タケルとノーレンが立ち上がり、笑っているゴドムに挨拶。

 部屋から出るところで、タケルが立ち止まりゴドムを見据える。


「…なんだ?」

「…魔物の大移動が終わったところ、悪いんですけど…また、何か起きるかもしれません」

「何か…とは?」

「さぁ、そこまでは。でも、警備は厳重にした方が良いですね」


「…分かった。ご忠告、感謝する」



 曖昧な会話を交わし、冒険者ギルドを出た。


「優秀なギルドマスターだったね」

「ん? そうなの? ただ話しただけだよね?」

「そうだね。じゃあノーレン君がギルドマスターだとして…ギルドに僕らみたいな奴が現れたらどうする?」

「様子を見るか…取り込むか…かな?」

「それも大事だね。でもゴドムさんは、追い出す選択をしたんだ」

「追い出す? 少しでもギルドに貢献して貰ったら良いんじゃないの?」


 強い者が現れたら、ランク等を確認し、依頼を斡旋。利益に繋がるように持っていくのが一般的。

 だが、ゴドムはランクの確認すらしておらず、情報交換だけで終わっている。

 ノーレンはそれに違和感があったが、何かまでは解らなかった。


「先ず、真っ先に僕らに話し掛けて冒険者達と関わらせないようにした。そして、勿体振らずに直ぐ情報を提示した事から、用が済んだら消えろって意味になる」

「ふーん。もし依頼を受けようとしたら?」

「一番高い…ホコリを被った依頼を受けさせられるだけだよ」


 ポッと出の強い者は、市場を荒らす。生態系を壊す。魔物や素材を見境無く大量に納品し、魔物の価値を下げ、自分だけ利益を得る事が多い。嫉妬ややっかみで都合が悪くなったら去っていく。

 全ての者がそうでは無いが…

 価値が下がると、冒険者達は無理をしたり、犯罪に走る事も少なくない。

 一時の利益よりも、不利益を察知し安定を図ったゴドムは、流石王都のギルドマスターとも言える。


「俺ツエーは考え無しにやると駄目だって事だよ。ノーレン君、覚えておいて」

「なるほど…ありがとう。気を付けるよ」


 ノーレンはこの先、強い力を持った状態で生きていく事になる。

 闘い方は解っても生き方が解らない方が問題だ。

 タケルとトトは、ノーレンに少しでも多くの事を教えようとしている。



 タケルがとりあえず商店街でも行くかー…と歩き出し、ノーレンと商店街をブラブラしていた。


 一通り回り、歩いていると、後ろからタケルに殺気が飛んで来た。

 しかし面倒なので、そのまま振り返らずに歩いていると、前に立ちはだかる人影。


「ちょいとお兄さん、無視するなんて連れないねぇ…あたいと遊んでくれない?」

「嫌です」


 猫耳をピンッと立たせ、タケルを見据える懐かしい顔。以前トトに突っ掛かって来ていた猫耳ピチピチお姉さんことミニャだった。

 強い者に反応する獣人は、闘いたいという本能が強い。

 たまたま標的にされたタケルは、面倒だなーという感想で、ミニャに向けて威圧を放つと…「ぎにゃ!」毛を逆立たせ、警戒する姿。

 次は殺気を放つ。


「…死にたくなかったら、視界に入らないでくれるかな?」

「くっ…なんて…いう…殺気…」


 膝を付き、息を切らしてミニャの戦意がどんどん無くなっていく。苦しそうにしている様子をチラ見して、タケルはノーレンに行くよと言って商店街へと歩き出した。

 ノーレンは少し心配そうにミニャを見つめ、タケルに付いていく。


「タケル兄ちゃん、あのお姉さん苦しそうにしていたけど…ほっといて良いの?」

「良いんだよ。泰人から聞いたんだけど…あのお姉さんね、泰人に嫌がらせをしていたから容赦出来ないんだ」

「あっ、なるほど…兄ちゃんってレベルが無いから、女の人からの当たりがキツそうだよな…」


 トトはあまり語らないが、周りからの評価が低かった事は聞いている。その中でも、獣人の中で特に強さに拘る種族は酷い。勝てば正義。負ければ悪という思想もある。



「ミニャちゃん! どうした!?」

「くっ…あっ…あいつ…に…」


 ミニャの知り合いらしき男がミニャに駆け寄る…ミニャが上手く喋れず、苦しそうにタケルを指差すと、男がタケルを追いかけ詰め寄って来た。


「おいお前! 彼女に何をした!」

「喧嘩売られたんで、黙らせただけですよ」

「お前が喧嘩売ったんだろうが! _っ!」


 タケルが男に殺気を当てる。男は膝を付き、苦しそうにしながらもタケルを睨んでいる。

 タケルは心底面倒そうな視線を向け、ノーレンは行く末を見学。

 もちろんこの騒ぎに野次馬が集まっているが、タケルは特に気にしない。


「相変わらず、仲間思いですね。ドーグ・サラスさん」

「くっ…俺を…知っているのか…」

「ええ、魔武器をポキッと折られたSランク冒険者さんですよね?」

「……」

「まぁ、死にたくなければ僕らには関わらないで下さい。次は殺します」


 殺気を解き、去ろうとしたタケルはふと思う。トトの記憶が消えた者は、どんな風に記憶が変わるのか…ドーグは誰に魔武器を折られたのか解っているのか…

 これも、情報収集の一部と考えた。

 振り返り、スタスタとドーグに近付くと、警戒するドーグはミニャを守るように立っていた。


「気が変わりました」

「…殺すのか?」

「いえ、僕の質問に答えて貰えれば、その魔武器…ドラゴンキラーを直せる人を紹介します」

「…信用出来ねえな」


 信用出来ないのは当然。魔武器を作れる者は何処かに居るらしいが、直せる者など聞いた事が無かった。

 だが、タケルは自信ありげに薄く笑う。


「その人は、ミランダ・サラスの武器…星剣・メティオールブレイドを作った人です」

「__っ! 分かった…質問に答えるから、会わせてくれ」


「ふふっ、じゃあ…付いてきて下さい。因みに、直して貰えるかは…あなたの交渉次第ですが…」


 タケルは笑みを崩さずに、北区の丘へと歩き出す。

 横で見ていたノーレンは、悪い顔してんなぁ…と乾いた笑いを浮かべていた。


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