迷宮・天国への階段。5
『あれ? 誰もおらん…』
トト達がダンジョンに籠り少し経った頃、アヴァロ大陸の王都ギアメルンにやって来たテラティエラは、アーラ家の中に忍び込んでいた。
もちろん中に誰も居らず、テーブルに『ミリアン大陸のダンジョンへ行ってきます』という書置きを発見。唇を尖らせ、詰まらなさそうにアーラ家を出る。
『んー…どないしょかな。混沌は、やす兄ちゃんが持っているから…暇やねんな』
一応、各エリアの大地の状態を見る仕事もあるが、大地に急激な変化がある訳でもなく…混沌を監視する仕事がメインなので、暇神テラティエラは悩む。
『ミリアン大陸か…多分、天国への階段やな。…行きたいんけど、押し掛けんのも迷惑……しゃあなし…ポンコツ神でもからかいにいこか』
バシュン__テラティエラは天上に転移していった。
天上の集合場所に転移。
集合場所には、ルナライトが一人でこたつに入り、ぐでーっとしながら焼いたイカをムッチャムッチャ食べている。
「…ルナちん、イカまだある?」
ルナライトがのそーっと動き、テラティエラの場所に焼いたイカをポンッと出す。そして、またぐでーっとしながらイカを食べ始めた。
テラティエラはとりあえずこたつに入り、ムッチャムッチャしているルナライトを眺める。
(…あかん、ルナちんがポンコツモード全開や…こうなったら一週間はこたつから動かん…)
からかいに来たが、既に無気力状態のルナライト。
ラグナが封印されて以来たまに起きる現象で、いつも気を張っている分、落差が酷い。
最近上手くいかない事が多いルナライト…
「すばら~しき~…この~日に~…あなた~と~…私~は~…色んな所に~身を投げた~」
(なんやその暗い歌…ポンコツがパワーアップしとる…しかもなんでイカ食べながら歌えるんや…)
面白そうなので、ルナライトの観察を続ける事にした。
しばらく見ていると、アクアマリンが入って来て、テラティエラとルナライトを交互に見る。
「元気ぃ? …あらぁ?」
アクアマリンがルナライトの前に、お皿一杯の干し貝柱を置くと、ルナライトの手が干し貝柱に伸びて口に入れる。
モッチャモッチャと干し貝柱を食べるルナライトを、ウンウンと眺めアクアマリンは去って行った。
「ルナちん、一個頂戴」
「……うん」
「……ありがと」
二人でモッチャモッチャしていると、フラマフラムとヴェーチェルネードがやって来た。
「やっほー…ありゃ」
「あぁ、いつものアレか」
フラマフラムが黙って酒を置いていき、去っていく。
ヴェーチェルネードがせん餅を置いて去って行った。
こたつの上にはイカ、干し貝柱、酒、せん餅が置いてある。
ルナライトがのそっと起き上がり、テラティエラをジーッと見詰めている。
テラティエラからまだ何も貰っていないという目を向けていた。
「…これ食うか?」
テラティエラがこたつの上に、フルーツロールケーキを置くと、ルナライトがフヘッと笑う。
「気張り過ぎやんと、たまには息抜きしいよ」
「うん…テラ、大好き」
「ウチも好きやで。じゃあ外にでも出よか」
「それは嫌」
「…太るで」
「…」
_____
トト達一向がダンジョンに籠って十日程経った。
パワーレベリングによりレベルを順調に上げていったが、強くなりすぎたのかレベルが上がらなくなっていた。更にある時から、レベルが消えてしまう。
「…成長の限界かな。なんでレベル消えたんだろ?」
「レベルカンストって奴? でも強さは上がるんだよね」
「私だけなんでこんなに伸びたんですかね?」
「強くなっても兄ちゃんに全然追い付けないなぁー」
≪タケル・マツダ、龍神の使徒、強さ49995≫
≪応龍神剣・天之四霊長、ランクーー、天之四霊長ーー、攻撃ーー、黄龍奥義、四聖獣奥義、龍神降臨≫
≪ノーレン・アーラ、極壁の勇者、強さ22330≫
≪極壁剣・ダブルクロス、ランクーー、極壁の勇者ーー、攻撃ーー、極壁聖技、回復魔法、自己修復≫
≪異銃・ライトニングブラスター、ランクーー、天雷ーー、強さーー、光雷属性、溜め撃ち、自己修復≫
≪ノワール・アーラ、破滅の至聖、強さ58563≫
≪天厄・破滅の剣、ランクーー、ーー、裏魔法・裏奥義・破滅の星≫
人間の中では異常な程の成長を遂げた。もう人間の限界は超えていそうだが、これで出来る限りの準備は出来た筈。
トト達は最下層に居るクラス9の魔物に対峙した。
≪天魔、クラス9、強さ96850≫
中心に佇む天使と悪魔が合体したように、白い半身と黒い半身を持ち、天使の翼と悪魔の翼を持つ魔物。
皆が強くなっている為、以前対峙した時より威圧感を感じない。
「じゃあみんな頑張れー」
トトはノーレンと共に先頭に立つと、天魔が白と黒の魔法陣を展開。高エネルギーが部屋中に渦巻き、魔法の威力が伺える。
『矮小なる人間よ…我が糧となるがいい__合成魔法・黒の光』
真っ黒い光の玉が複数出現。
天魔の周囲に配置され、ギュィイイ!__魔力を溜めている。
「闇のレーザーかな。ノーレン、よろしく」
「ああ! 勇者魔法・極壁!」
ノーレンが剣を掲げると、前方に透明な壁が出現。
バシュンッ!__黒いレーザーが壁に衝突するが、少し揺れるだけでレーザーを弾いた。
ノーレンが極壁を展開している間、タケルが後方から応龍神剣を天魔に向ける。
「四聖獣奥義・朱雀昇天破!」
応龍神剣から赤いオーラを纏った鳥が出現。
キュエエエエ!__甲高い鳴き声を上げ、天魔に衝突。
朱色の炎が巻き起こり、天魔を包む。
天魔が怯んでいる間に、ノワールが距離を詰め、銀色の剣を構えた。
「いきます!__裏奥義・七星滅剣!」
えいっ!とノワールが銀色の剣を振り下ろすと、無数の軌跡が舞い、天魔が細切れに崩れ去る。
簡単にクラス9を撃破出来、皆で喜びを分かち合った。
「おつかれー」
特に何もしていないトトが天魔を武器に変えると、奥にある壁が開き、通路が現れる。
通路を進んでいくと、小部屋に到着。
見慣れた石碑と、黒色宝箱が二つ。
更に奥には台座があり、虹色の玉が置かれていた。