お城へ。2
ガタゴトと馬車に揺られる。
高官の態度は朝とそこまで変わらないので、トトもボーッと街並みを眺める。
「…トハーシ殿は、何者なのだ?」
「ん?転移者だよ。身分は平民以下のな」
「…転移者だったのか…その強さの数値は、偽りか?」
「そうだなー。本当は強さ5の数無し…って言ったら信じる?」
「…信じられぬな。私は…トハーシ殿は女神様より強いのではないかと推測しているのだが…」
「おっ、やるねぇ。正解だ」
高官の眉がピクリと動く。冗談のつもりだったのだが、本当だとすると、今目の前に居る者は、凄い人物なのではないかと思った。自国の王よりもだ。
「…」
「あっ、名前聞いて良い?」
「鑑定すれば良いと思うが…」
「直接名乗り合う方が好きなんだよ」
「…ドーマンだ」
「よろしく、ドーマンさん」
「…名乗らないのか?」
「トハシヤストだ。トハシって呼んでくれ」
「よろしく、トハシ殿」
やがて王城へと入っていく。
ドーマンに案内され、謁見の間の隣にある部屋に通された。
奥に扉があり、対面のソファーがある。メイドが数名控え、ドーマンが壁際の椅子に座る。トトは国王と対話する部屋だと言われ、ソファーに座った。
「トハシ殿、少し待っててくれ」
「あぁ、あっ…ドーマンさん、王様の名前知らないんだけど…」
「…エイブラハム・ギアメルン様だ」
「ありがと」
少し待っていると扉が開き、メイド達が頭を下げる。
扉から出てきたのは、40代のガッシリとした体格の男性。金髪を短く刈り上げ、口髭蓄えたダンディーな雰囲気。
ゆっくりとソファーに座った国王は、対面に座るトトを見据えて口を開く。
「トハーシ殿、わざわざ来てもらって悪いな。この度は、城の者が失礼した。あの騎士には厳罰を与える…それで、この件は不問にしてもらえないか?」
「どうも。不問も何も怒ってはいないし、平民以下の男が無礼を働いたから、騎士は仕事をこなしただけだと思いますよ?」
「客人に無礼を働いたのは変わらない」
あの近衛騎士に厳罰を与える事は決定らしい。テラティエラが呆れる結果になった原因であるから仕方ないのだが。
トトは元より気にしていないが、それよりも本題がありそうで目を細めて国王を見据える。
「…神武器を作れると聞いた」
トトの眉がピクリと動く。それを知っているのは、姉弟と女神だが…
「…誰から?」
「テラティエラ様だ」
「…そうですか」
ニンマリ笑うテラティエラを思い出す…可愛いからチクった事は許そうと思っていた。
国王は何か言いたげで、何か欲しいのか?と勘繰ってしまう。
「もし、良かったら…神武器を見せて貰えないか?」
「良いですけど、触ったら死ぬかもしれませんよ?」
「それは残念だが…是非とも拝見したい」
トトは立ち上がり、収納から焦熱の竜斧を取り出した。
≪焦熱の竜斧、ランクーー、焦熱ーー、攻撃ーー、火の理、焦熱火炎、焦熱大王召喚、斧技・赤≫
(焦熱大王?…あぁ、炎の大王か…)
「おぉ…素晴らしい…吸い込まれそうな深紅の輝き…これをトハーシ殿が?」
「えぇ、ベースはたまたま手に入れた魔武器ですけどね」
国王からため息が漏れる。魅入られた様に手を伸ばそうとするが、危ないのでトトは焦熱の竜斧を収納する。触ったら火ダルマになられると困るからだが。
「すみませんね。目の前で人が死ぬのを見たくないもので」
「い、いや…私が触ろうとしたから仕方ない。しかし、見事な物だった…」
どうやら純粋に神武器が見たかったらしい。
国王は武器が好きで、魔武器を集める趣味もあり、色々な武器の話をしていくが、トトは急に火が付いた国王の武器談義に少し困惑する。武器が欲しいから交渉するのかと思っていたがそうでは無く、武器を語りたかっただけという…
「私は魔武器を五つ所持しているんだ」
「へぇ、凄いですね。ダンジョンとか行くんです?」
「ああ、オハイ山のダンジョンにも行ったぞ」
「オハイ山…あぁ、この前攻略しましたよ」
「「えっ?」」
国王が上機嫌で話すので、トトもそれに付き合う形で話しているのだが、つい攻略した事を言ってしまい、国王と聞いていたドーマンの声が重なる。
トトは収納から証拠の石碑を出した。
≪大自然ダンジョン、終着点の石碑。おめでとう!泰人はSランクダンジョンを攻略したからAランクの大自然ダンジョンなんて余裕だね!≫
笑い声が聞こえて来そうな、やや見覚えのある口調で書かれた石碑を見て、トトからため息が漏れる。国王は目を見開いて石碑を凝視していた。
「…と、トハーシ殿…これ…」
「オハイ山のダンジョンの石碑ですよ。あれでAランクだったんですね」
「攻略者…しかもSランクまで攻略しているのか?」
「えぇ、大変でしたよ」
武器の話から、ダンジョンの話に移行したのは当然の事で、トトは自分で蒔いた種だから仕方無く話に付き合う事に…
ずっと話しているけど時間大丈夫なのか?国王は暇なのか?と思っていると、話を聞いていたドーマンが国王に耳打ちをし、国王がニヤリと笑う。
「もう、夜も更けてしまった。御詫びをかねて泊まっていかれよ」
「えー、嫌です」
「なっ、なんでだ?」
「いや、近いんで帰りますよ」
「夜は危ない。泊まっていけ」
「嫌ですよ。それに女神より強い人が来ない限り俺は大丈夫です」
「いやいや…」「いやいや…」
「「いやいやいやいやいやいや…」」
国王が譲らない。トトも譲らない。
国王はもう少し話したいのだが、トトは泊まったらハニートラップが怖いから遠慮したい。
ドーマンが呆れた目を向ける中、両者譲らず平行線を辿る。
「…じゃあこうしましょう。俺が武器を作るんで、俺とアーラ姉弟には不干渉…いいです?」
「あぁ、解った…」
国王の武器コレクションの部屋に移動。中から適当に取り、オリハタイト等で合成する。
≪震鎚・アトラスハンマー、ランクーー、アトラスーー、攻撃3960、地震・粉砕技・巨大化≫
「はい、これで帰るから」
「いや、素晴らしいな…本当に…いや、男に二言は無い」
「まっ、魔物の大移動とか起きたらノーレンに懇願して貰えれば良いですよ」
「トハーシ殿は…」
「俺は一ヶ月後に故郷へ帰るんで。その頃には居ない。じゃあお元気で」
話は付けたので、トトは片手を上げて一人城を出る。
星空を眺めながら、何処からか聞こえる笑い声に釣られてフッと笑った。
≪泰人、構ってくれないから寂しかったぞ≫
「なーに言ってんだよ。楽しそうに観ていた癖に」
≪ふふっ、久しぶりに世界を観れて楽しくてな≫
「そっか……ラグナ、殺す以外に道は無いのか?」
殺す以外に方法があるのなら、助けたい気持ちはある。
少しの沈黙、トトが再び催促すると、ラグナが喋り始める。
≪無い…事も無いが…道に反する邪道だ…≫
「聞かせてくれ。ラグナの助かる道があるのなら、たとえ邪道だろうと歩いてやるよ」
≪…なんだ泰人、惚れてくれたのか?≫
「そんな理由じゃねぇよ」
≪えー惚れてよー≫
ラグナは少し落ち込んだ声でポツリポツリと話し始める。
そしてラグナの話を聞き終え、深夜までブラブラした後、アーラ家へと戻った。
「あっ、泰人おかえりー。どうだった?」
「おー不干渉を約束してくれたぞ」
「流石だねー。ノーレン君も帰ってきたけど直ぐ寝ちゃった。ノワールちゃんも寝ちゃったよ」
「そっか、つい遅くなってな」
タケルが出迎え、城での話をしていく。それから、ダンジョンで手に入れた酒を出す。
「じゃあ僕の復活を祝って…で良いかな?」
「ああ、後…帰還の目処が立ってだな」
「「乾杯」」