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流れの武器屋  作者: はぎま
アヴァロ大陸。
122/163

覚えていますか?

 場所は城の会食用の大きな部屋。

 王族、貴族を含め、百名を超える者が集まっている。

 もちろん会食の予定だったルーデバルク公爵家のご令嬢も居るのだが…


「「「……」」」


 カタカタ__時折、震えたフォークで食器を鳴らす音が聞こえる。

 カタカタ__食器を鳴らす事はマナー違反だが、誰が鳴らした音なぞどうでも良い。

 カタカタ__そう思ってしまう程の緊張感…圧迫感が会食の場を支配していた。

 一人、諦めた表情で食べ進めるノーレンは、どうせトトは何処かで眺めてニヤニヤしているんだろうと信じている。居なかったら本気で泣いてやると心に決めていた。ノーレンの正面に座るご令嬢が泣きそうなので、大丈夫と笑い掛ける。



 その緊張感の原因とも言える存在…上座に座り、喋りながら食事をしている女神達。


『うん、まぁまぁ美味しいわねぇ』

『もっと酒精の高い酒は無いのか?』

『テラが持っていた…ろーるけーきは無いの?ノーレン君、ろーるけーき持ってる?』

「持ってないっす。兄ちゃんに頼んで下さい」


 アクアマリン、フラマフラム、ヴェーチェルネード。

 空気を読もうとしない女神達は、給仕の者を慌ただしく動かしていた。

 国王が話し掛けようとするが、ずっと喋っている為会話に入れない。話を切ると失礼に当たるのだが、どうしても話し掛けなければいけなかった。


「あの…女神様…」

『あーあ、私も神武器欲しいなぁ』

『テラだけずるいよな』

『テラは一度殺し合ったみたいよ?ボコボコにされたって』

「あ、あの…」

『でもあんなに仲良いじゃないのぉ』

『みんなで猛アタックする時が来たか』

『フラマ、ここじゃ制約で全力出せないからあの二人に全員ボコボコにされるだけよ』


 国王の言葉を無視し、部屋の隅をチラチラ見ながら喋る女神達。もちろん部屋の隅には何も無いのだが、女神達には見える存在が居た。


(ティラちゃん、人形の秘密教えて?)

(だ、駄目や…)

(駄目って事は秘密があるんだね?)

(し、しもた…)


 あんなに仲良いと言われる程に、部屋の隅でテラティエラを抱えて人形の秘密を聞き出しているトト。何か凄く嫌な予感がするから早急に聞きたかったが、テラティエラは中々口を割らない。


(どうしたら教えてくれる?)

(ど、どうしても駄目や…)

(千神拳・ニャートラに新しい機能付けてあげるよ?)

(ほ、ほんまか? あ、いや駄目や)

(うーん…じゃあ他の女神様に聞こうかな。そこに三人?三柱居るし)

(そ、それはあかんよ…神武器と引き換えに教えそうやないの…)


 やいやいと頭を振って嫌がるテラティエラ。サイドテールがペチペチ顔に当たるが、気にせず聞いていく。


『なんかイチャイチャしているわねぇ』

『なんだろう…腹立つな』

『仲良いわねぇ…』


「_あの!女神様!」



 シーン__国王が意を決して女神達を呼ぶ。一応女神達は国王に目を向けてみると、緊張しきった様子だが真剣に女神達を見据えていた。特に話す事は無いが、ちゃんと呼ばれたら返事をしない訳にはいかないので、誰が話す?とコソコソ話した後に、ヴェーチェルネードが返事をした。


『何?』

「同じ場に居られる事を至極光栄に思います。お、お食事はいかがですか?」

『美味しいけど…別に言葉を並べなくて良いから、言いたい事言って良いわよ』

「で、では…な、何故急な来訪を?」

『テラに用事があったから来ただけよ? そしたらご飯どうですか?って言われたから付いて来ただけじゃない。別にこの城に用があった訳じゃないわ』

「そ、そうですか…テ、テラティエラ様はどちらに?」


 ヴェーチェルネードが部屋の隅を見る。相変わらずトトとテラティエラは会話していた。テラティエラが『…呪いやの』ブツブツと喋り、トトの顔が引きつっている様にも見える。

 とりあえず部屋の隅を指差すが、女神以外の者が見ても何も無い。


『テラー、お呼びよー』

『…ちょっと10分待ってや……………………なんや?』



 トテトテと部屋の隅から現れたテラティエラ。少しムスッとした表情でヴェーチェルネードを見据えるが、ヴェーチェルネードが顎で国王を差す。

 視線を移したテラティエラが興味無さそうに国王を見詰める。

 国王は大きな身体に似合わない程に恐縮していた。


「…もう一度考え直して頂けないでしょうか?」

『嫌や。別にウチやなくても良いやないの。そこにも女神がおるんやし』

「…ですが」

『私は嫌よぉ。家から離れてるし』

『俺も厳しいな。大陸が違う』

『私も担当違うからね』

「…」


 要は面倒くさいから嫌だという女神達。そんな答えを言うのは解っていたが、テラティエラは自分しか見ていない国王が気に入らないだけである。


「どうすれば…考え直して頂けますか…」

『謝ればええんと違う? 知らんけど』

「…申し訳ありませんでした」

『ウチやない。…やす兄ちゃん、謝りたいって』


 テラティエラの呼び掛けに、トトが霊体化を解く。

 見慣れない男が現れ、会場はざわめく。主に誰だという話なのだが…


「どうもーはじめましてー。平民以下の男でーす。ノーレン、言った通りだろ?謝る事になるって」

「いや、話振らないで…注目されてるから…」

「はっはっはーシャイボーイだなぁ!ノーレン、どうしてあげたら良い?」

「…加護戻してあげるのが一番だと思うけど…」

「そうかそうか。ティラちゃん、ノーレンが加護を戻して欲しいって言っているよ。ノーレンが!」

『…ふふっ、そかそか。ノーレンが言うなら戻そか。ノーレンが言うなら!』


 凄く嫌そうな顔をするノーレンをよそに、テラティエラがパチンと指を鳴らす。すると、失った物が戻る感覚。ギスギスした城の空気が暖かい空気に包まれた。


「……誠に、ありがとうございます」

「ん?お礼ならノーレンにどうぞ。俺は何もしていないからねー」

『そやな、お礼ならノーレンにやな』

「…ノーレン殿、誠にありがとうございます」

「え?あ?いえいえ、はい」

「良かったなぁノーレン。今王様のお礼を受け取ったから、これ以上のお礼は不要だ」

『せやな。国で一番偉い奴の礼やから、これ以上の褒美はいらんな』

「え?…あっ!はい!お礼を受けとりました!」

「……」


 今、国王からお礼の言葉を受け取ったノーレンは、これ以上この国から礼を貰う必要は無い。少し安心した表情で、トトに笑い掛けるノーレン。


 トトはノーレンに少し笑いを向け、ノーレンの向かいに座る女の子に目を向ける。

 ビクッ__目が合うと女の子の肩が跳ねる様子に苦笑した。


「お嬢さん、ノーレンはこれ以上のお礼は不要なんだってさ。よろしくね」

「は、はい…」

「まっ、ノーレンが望むなら別だけど…なっ?」

「まっ、まぁ…うん、そうだね」

「ノーレン様…」



 少し引きつった表情のノーレンと女の子が見詰め合うのを眺め、トトは黙って見ていた女神達に向き合う。


「どうも、女神様。ちょっと聞きたい事があるんですけど…それぞれ…全力に近い力で闘える場所って何処なんです?」

『ん?私は海よぉ』

『私は空とミリアンの一部かしら』

『俺はハールゲンの一部』


 一部というのは、悪神の力が封印されていた付近。

 ミリアン大陸なら帝国。ハールゲン大陸もそれに似た場所。トトの質問の意図が解らないが、女神達は正直に答えてくれた。


「ありがとうございます。今日は丁度本人(タケル)が居なくて助かりました…では、ヴェーチェルネードさんにお聞きします」

『え?私?』


 トトが名指しするヴェーチェルネードは驚く。トトは人形を持っていないから、自分は関係無いと思っていた様子で気が抜けていた。


「マツダ・タケルって…覚えていますか?」

『……』

「…貴女の人形を5体程持っていた筈なんですけど」


 微笑むトトに、ヴェーチェルネードは視線を逸らしている。

 うんと言わないが、態度で解るのは幸いか。


『…えぇ』

「では、その当時…帝国民に何か魔法を掛けましたか?」

『……』


 周りの者にとっては、意図の解らない質問なのだが、トトの言い表せない圧力に誰も口を開けない状態。他の女神でさえも何かを察した様に口を閉ざしている。


「ノーレン、先…帰っててくれ。悪いけど…もしかしたら、今後の予定が崩れるかもしれない…」

「…分かった」

「ティラちゃん、お家に行くのは延期になりそうだ」

『…そか』


 トトはノーレンとテラティエラに話し掛けた後、ヴェーチェルネードをじっと見詰めている。

 やがて、空気に耐えきれなくなったのか、ヴェーチェルネードが口を開いた。


『嫉妬の…風…』

「…そうですか…貴女がタケルを殺したんですね」

『__違う!』

「失礼しました。言葉が足りませんでしたね。貴女が、タケルの心を殺したんですね」

『……』


 トトがヴェーチェルネードに近付き、手を差し伸べる。

 意図を察したヴェーチェルネードが、少し視線をさ迷わせながらも、その手を取った。


「__テレポート」


 バシュン__トトとヴェーチェルネードは、何処かに転移していった。

 状況を理解していない者がほとんどの中、ノーレンは俯き、テラティエラはムスッとした表情を崩さない。

 もちろんアクアマリン、フラマフラムも状況をよく解っていない様子でテラティエラを見る。


『…ね、ねぇテラ…どういう事?』

『…ちょいと前に、ヴェーチェがミリアン大陸でやらかした事あったやろ?』

『え、えぇ…確か…婚約者が待っているからって振られたのよねぇ?…それで、ヤケ糞で嫉妬の風を使って…』

『嫉妬に狂った人間に処刑された…その人な、やす兄ちゃんの友達やねん』

『…そんな』

『じゃあ、ヴェーチェは…』

『まぁ…やす兄ちゃんに本気出されたら、殺されんな。ウチはヴェーチェの味方は出来んから、止めたかったらご自由に…ほいじゃあ』


 テラティエラはヒラヒラと手を振って消えて行った。


 残されたアクアマリンとフラマフラムは顔を見合わせ、立ち上がるとフッと消えて行く。


 更に残された人々は、呆気に取られるばかりだった。




 ______



 トトとヴェーチェルネードが転移した先は、ミリアン大陸。帝国の北…かつて殻兵獣と闘った場所。


『…』

「__武神装…青」


 青い刀を持つトトが、青いオーラに包まれると、青い着流しを着た姿に変化した。

 纏う力に…ヴェーチェルネードは圧倒される。一人の人間が持つ力を遥かに超えていた。


『…なんて…力なの…』

「俺はタケルの友達なんだ……まぁ…復讐とか、仇とかっていう訳じゃねぇ…きっと、優しいタケルはお前の事を許す筈だから…」

『だったら…なんで…』

「心の底から、泣いていたんだよ。信じていた者達から裏切られ、誰一人味方の居ないまま処刑され、五百年絶望を背負いながらずっと独りだった。

 俺が気に食わねえのは…絶望に堕ちたタケルに…お前が手を差し伸べなかった事。五百年も、チャンスがあった筈なのにな…」

『…違う…私は』


 青い刀の切っ先をヴェーチェルネードに向ける。


「女神は人形の呪いに苦しんでいる? なら呪いの被害者は…お前らに殺されれば良いのか?」

『…お前に何が解る』

「被害者の気持ちなら痛いほどな……まぁ、とりあえず…殺り合おうや」





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