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流れの武器屋  作者: はぎま
アヴァロ大陸。
120/163

国の危機…

 

 謁見の間の前にて、近衛騎士から注意事項を聞かされる。

 強さ五千を超えるノーレンには関心がある様子だが、強さ444のトトに対する見下した目はいつもの事。


「謁見の間に入ったら中央に跪いて待て。そして、お言葉を賜ったら、慎んでお受けしますと言えば良い」

「跪かなきゃ駄目?それに断るつもりだし」

「何を言っている?平民風情がここに入れるだけでも名誉な事だ!それを断るだと!?野蛮人が!」

「ほらノーレン。これが上流階級の態度だ。下手に爵位を貰うとこんなのと付き合わなきゃいけないぞ?」

「あぁ…嫌だな。姉ちゃんにも迷惑掛かるし…」

「_貴様ら…」


 剣呑な雰囲気で抜刀しようとする近衛騎士。

 そこで何かを思い付いた様にニヤリと笑った。


「おい、こいつを牢屋にぶちこめ。この男は招待されていないから居なくて良いだろ」

「__はっ!」


「えっ?兄ちゃん!」

「あぁ、大丈夫だ。どっちの返事をしてもこの国は俺達に謝る事になる。俺が何があっても絶対に守ってやるから安心しろ。それに…ちょっと面白そうだから捕まってくるな」

「くくっ、負け惜しみを。おい連れて行け」

「なんでだよ!くっ…」


 不安一杯の表情でノーレンは慌てるが、暴れてしまうと皆に迷惑が掛かるので抑えていた。

 近衛騎士は満足げな表情でノーレンを見下ろす。


「くくっ、私の言う通りにしろ。あいつがどうなるか解らないぞ?」

「くそっなんなんだよ…」


 ここまでは、この国がノーレンを先に取り込む為の筋書き通り。

 トトを人質にして了解を得る一般的な手法だが…


 悔しそうにしているノーレンは、謁見の間に通される。



 ______



 トトは二人の騎士に両腕を捕まれて、牢屋へ向かう。


「お前もやっちまったなー。あの近衛騎士、侯爵のボンボンだから面倒だぞー」

「そうだな、何かと罪をでっち上げられて処刑なんて事もあるし」

「へぇーそうなんだ。でも大丈夫だよ。女神様が助けてくれるから」

「まぁ、今のうち女神に祈るのは大事だわな」


 会話が弾み、意外と楽しく牢屋へ向かっていた。

 あの近衛騎士は権力を振りかざす面倒な奴で有名らしい。

 トトは自分で抜け出すのは簡単だが、どうせなら助けられる側も良いなと思っていた。作った武器…『千神拳・ニャートラ』が近付いてくるのが解るからだが…


 ガチャン__


 雑談しながら歩き、城の地下にある牢屋へ入れられた。

 二人の騎士は少し申し訳無さそうにしているが、トトは気にするなと手を振った。


「牢屋に入るのは初めてだなぁ。今の内にちょっと寝るかな」


 フッと笑いながら、冷たい床に仰向けになって寝転がる。




 ______




 謁見の間にて、ノーレンは中央まで歩き、跪いて国王の登場を待つ。


「……」

 壁際には、高そうな服に身を包んだ、貴族と思わしき人が並んでいる。ノーレンは居心地の悪さを感じつつ、沸々と沸き上がる怒りを抑えていた。

 しばらくして、高官の合図と共に国王が登場。気品のある40代のガッシリとした体格の男性。

 書簡を持った者が長い挨拶をしているが、ノーレンには回りくどい話でよく解らない。

 早く終わらないかな…と思っていると、国王が口を開いた。


「では、ノーレン・アーラ。我が国の為に働いてくれるな?」

「……」


 ノーレンは黙ったまま、床を見ている。尊敬するトトを牢屋に入れる様な奴らに返事をしたくない訳なのだが、貴族達には国王の言葉を無視した様にも捉えられる。

 沈黙が支配する謁見の間。


 次第にざわざわしてくるが、国王が手を上げて制する。


「ノーレン・アーラよ。何か不満でもあるのか?」

「…はい。不満しかありません」


 ざわっ__


 貴族がざわめく中、国王は目を細めて理由を言えとノーレンを見据える。肉食獣が獲物を狙う様な威圧感を込めているため、貴族達は黙り、ノーレンも少し気圧される。


「…今…ここに入る前に、俺の尊敬する人が近衛騎士に平民風情と罵られ、牢屋に入れられました。そんな国の為に働きたくありません」

「ほぅ…我が国を愚弄するのか?」


 完全なる不敬罪。

 いくら隣国の貴族を助けた功績があっても、これは処刑に値する言動だった。

 国王が興味の無い目でノーレンを見据え、連れて行けと近衛騎士に目配せする。

 その時…


 バーンッ!__

 謁見の間の扉が勢い良く開け放たれる。


『やっすにーちゃーん!どっこやぁー!…ん?ノーレン!ちょいとやす兄ちゃん知らん!?』


 空気を読まずにズカズカ入って来た小さな女の子。

 黄色いドレスに身を包み、神のオーラを撒き散らしながら焦った表情でノーレンを捕まえる。


「__ぐえっ!ちょっ!テラティエラ様!やめて!」

『一大事なんや!どこにおるん?』


 予想外の女神の来訪に、謁見の間に居る全員がフリーズした。


「兄ちゃんは、牢屋にぶちこまれてる」

『そか!牢屋やな!ほな行くで!』

「_首!首絞まって…ぬふぉ!」


 ノーレンの首根っこを捕まえて引き摺るテラティエラが、入り口で首を傾げてピタリと止まる。


『なぁ…なんで牢屋にぶちこまれてるん?』

「_げほっ!げほっ!…平民風情と罵られて…連れて行かれました」

『……そか。残念やな』


 テラティエラは指をパチンと鳴らす。すると、城から何かが抜けた。全員が気付く程の喪失感に、国王が焦りだす。


「お、お待ち下さい!何故国の加護を消したのですか!?」

『それ相応の事をしたからや。ウチの加護を持つ、やす兄ちゃんを投獄したんやろ? それはウチと敵対するっちゅう事や』

「_なっ!申し訳ありません!それは知りませんでしたが加護を持つ者というだけでは敵対にはならない筈です!」


 テラティエラは国に掛けてある加護を消した。それを意味する事は衰退。それは絶対に避けなければいけない国王は、国が始まった時の契約を思い出して、テラティエラに伝えるが…


『そやな。加護だけでは敵対にならん。ただ、やす兄ちゃんは違うねん。加護うんぬんの前に…』


 テラティエラは振り返り、国王を見据える。

 心底興味無さそうな瞳を向けられ、国王の冷や汗が止まらない。


『神武器を作れる唯一の存在や。下手したらこの世界の女神より大事な存在…この意味解るか?』

「なん…ですって…」

『ほな行こか、ノーレン』

「あの、それ言って良いんです?」

『あかん…けど慰謝料に身体で払うからええやん』

「…そすか」


 ノーレンを引き摺り、そこら辺に居た騎士を捕まえ牢屋へ向かって行った。



「「「……」」」

 残された国王達は突然の事で混乱している。

「…最大限のおもてなしを…しなければいけない」

「…かしこまりました」


「_はぁ、はぁ、失礼致します!」

 そこに、慌てた様子の騎士がやって来た。


「…どうしたのだ?慌ただしい」

「_フラマフラム様、アクアマリン様、ヴェーチェルネード様が来訪されました!」

「…なん…だと」


 国王は天を仰ぐ。

 この国に、危機が訪れていた。



 ______




「あの、本当に兄ちゃんしか神武器を作れないんですか?」

『この世界ではな。ウチの元の武器は、別次元の神職人に千年分の神格を売って発注してな。千年後にようやく完成したオーダーメイドや。せやから一瞬でそれ以上の神武器を作るやす兄ちゃんは、次元界一の名工になりうる存在やねん』

「…すみません、話が壮大過ぎて解りません…」

『はははっ、せやな。本当なら、ウチらが全力で守らないかんのやけど…まぁ言うてもしゃあないか…』


 地下へ向かい、テラティエラとノーレンが牢屋に到着。

「……」

『……』

 そこで見た物は…


『テラぁー、捕まっちゃったぁー』

『テラ、助けてくれ』

『テラ、あなたもどう?』


 楽しそうにトトの牢屋に入っているアクアマリン、フラマフラム、ヴェーチェルネードの三女神。

 キャッキャウフフしながら三女神は鉄格子を掴んでテラティエラを手招きしている。

 寝心地の悪そうなトトは、面倒なので三女神を無視して寝ていた。


『__なぁーにしてんねん!アホか!オバハン!』


 ピキッ_バキッ_ミシッ_


 三女神の手から、鉄格子の割れる音が響いた。


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