深紅の豚2
赤黒く染まるクリムゾンオークは雄叫びを上げた後、深呼吸をする様に息を吐く。
潰れた右目からは既に血は流れておらず、左目が鋭くトトを睨み付けていた。
「赤い斧が無いから爆風は無いけど…この威圧感。クラス3はこんなに強いのか…」
実際にはクラス4の魔物だが、トトには知る由も無い。
相手が動いていない硬直した状態。隙を見て軋んだ身体を回復する為に、ポーションナイフを押し当て治療する。
「治りが遅い…刺した方が効果あるかな_っ痛くない。刺した方が回復力が高いな」
腕に刺してみると、回復効果が違う。これ幸いと軋んだ部分にツンツン刺していく。
「ブルルルルル!」
「…来るか」
クリムゾンオークは_ガンッ!_拳を打ち鳴らし、小細工は無用だとばかりにズンズンと歩き出した。
「今度こそ捕まったら死ぬ。あの変色は…恐らく防御特化。まずは…」
走りながら鋼鉄の槍を取り出し、隙を見る。一点集中で突けば貫ける自信はあった。
クリムゾンオークが拳を振りかぶりトト目掛けて殴る。
殴る動きが早い。足に力を入れて加速。
ドンッ!トトが躱した後の地面を殴り付ける。
小さなクレーターが出来上がっていた。
「うわ…食らったら骨砕けるぞ…」
殴った後の前傾姿勢。
伸びた腕目掛けて「そこ!一点突き!」_ザクッ_「くっ浅い」
槍の先は刺さったが奥まで行かない。
「ブルル」
かすり傷程度。出血も無く、傷は直ぐに筋肉に埋もれる。
クリムゾンオークは傷を気にせず攻撃体制。
「硬いなー。でも数撃ちゃ弱るはず!」
ドンッ!トトが避けて地面に衝撃。
「二段突き!_ザシュ!ザシュ!「_ッブオオ!」よし!」
突き出した拳、指目掛けて突く。
クリムゾンオークの小指と薬指を貫き、トトはバックステップで後退。
「ブルル!」
指を貫かれ、痛みに耐える様に右手を振ってグーパーしている。しかし手に力が入らない様子で顔が歪んでいた。
「この調子。集中を切らすな。気を抜いたら殺られる」
ふぅーっ、と息を吐き、流れる汗もそのままに集中していく。
「来いよ」
「ブルル…ブガァ!」
中々仕留められない苛立ちなのか、ドンドンと地団駄を踏み近くにあった小屋を力任せに蹴る。
ドカッ!「うおっ!」破片が飛び散りトトが怯む。
クリムゾンオークが好機と見たのか、次々と小屋を蹴り破片をぶつけてきた。
ドン!ドン!ドン!ドン!「ブオオ!ブオオ!」
「うおっ!子供かよ!ハンマー!」
バラバラと破片が舞い、大きな破片はハンマーで弾く。
気を抜くと近付いて来るので走りながら躱すが、次々と襲ってくる破片に疲弊してくる。
「はぁ、はぁ。いつまで闘えば良いんだよ…逃げたらきっと街まで追ってくるし…」
現状の問題は確実に仕留めるレベルが足りない。
ドン!ドン!「くっ…仕方ない。使うか」
一目散にダッシュ。クリムゾンオークから離れる。
追ってくるのを感じながら全力疾走。
ぐるぐると回りながら、やがて50メートル程離れた所で。
「やっぱりこれしか無いよな!赤い斧!」
ドンッ!クリムゾンオークから奪った、2メートルを超える長柄の赤いバトルアクスを出す。
「重たっ!これを!一番レベルの高い鋼鉄の剣と合わせて!」
赤いバトルアクスと鋼鉄の剣を合わせて集中する。
「_っんあ?なんだ?この感覚…」
バトルアクスと剣を合わせて強い剣を作成しようとしたが、いつもと全く違う感覚。
「教えて、くれるのか……_っ!はははっ!すげえな!」
最適な形を教えてくれる。魔武器に意思があるのか分からないが、トトはこの赤いバトルアクスに感謝を込める。
「武器作成!」
鋼鉄の剣と、赤いバトルアクスが輝き合わさる。そして、赤い光が立ち昇った。
「ブオオ!ブオオ!ブオオ!」
逃げようとする存在を追いかけ、怒りに燃えるクリムゾンオーク。
赤く光り出したが構わず拳を振りかぶり。
渾身の一撃。
ガンッ!「ブモオ!?」
確かに直撃した。しかし鋼鉄の壁を殴る様な、押し負ける拳。
ガンッ!ガンッ!ガンッ!
目標目掛けて殴る殴る。しかし硬い。
その時、_ボンッ!_「ブギャァ!」_クリムゾンオークの右手が爆散した。
「…なっちゃいないねぇ。終わるまで待つもんだろ」
先程とは違う落ち着いた、重みのある声が響く。
スラリとした曲線を描くフォルム。
顔は見えず、表情を伺う事は出来ない。
右手に持つ斧は、身長程の長さ。
熱を発しているのか、ゆらゆらと陽炎が見てとれる。
赤いオーラを纏う深紅のフルプレートメイル。
「ブモオ!ブモオ!」
「武装…爆炎の戦士。っていうんだって。…痛くて聞いちゃいないか」
爆散した右手を抑え、荒い息で睨み付けるクリムゾンオーク。
「この鎧は全身が武器なんだってよ。よく分からないけど防具という括りじゃなくて、兵器という扱いかな」
淡々と喋りながらクリムゾンオークに向かって歩く。
得体の知れない強さを持ったトトに、少しずつ後退していく。
「慣れてないのかこれ凄く疲れるんだよ。だから、次で決める」
斧を両手で持ち、力を溜める様に集まる赤い光。
「ブオオオオ!」
クリムゾンオークも終わりが近い事を悟ったのだろう。力を左手に溜めていく。ボコボコと筋肉が迫り上がって肥大する左手。
「ブオオオオ!」
「行くぞ!爆炎破斬!」
ボオォン!激しい爆発と衝撃。
粉塵が舞い、その音は遠くの街まで響く爆音。
街の者が恐れを抱く程の衝撃が響いた。
「……」
粉塵が晴れ、静寂が支配する集落跡地。
中心部には10メートル程のクレーター。
そこには、武装が解け斧を杖替わりに立ててフラフラしているトトと。
胴体が吹き飛び、上半身と下半身が別れたクリムゾンオークが絶命している姿があった。
「勝った…」
へたっとその場に座り、空を見上げる。太陽が真上に昇り、トトを祝福する様に輝いていた。
ポーションナイフで回復しながら、斧を収納し、クリムゾンオークを収納する。
「…帰ろう。…あっ、あの女の人無事かな?」
行っても女性は逃げ出しており、居ないのだが、それを知らないトトは探しに行こうとフラフラ歩き出した。
「明日は、休もう。ちょっと身体が痛い」
フラフラと歩き、女性を木に固定した場所へ。
幸い魔物は先程の闘いで逃げ出しており、遭遇する事は無かった。
少し回復したトトは木を確認。
「あれ?居ないなー。ロープが解けてその場にあるから、脱出したっぽいな」
一応確認の為に辺りを散策する事にした。
そのお蔭か、爆音を聞き集落へ向かった調査団と入れ違いになる。
調査団は集落跡地にクレーターを確認したが、警戒していたオークの上位種の姿を確認出来ず。
謎の爆発事件として取り扱われる事になった。