表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
流れの武器屋  作者: はぎま
アヴァロ大陸。
118/163

ちゃ、ちゃうねん…

 

 神獣ニャートラから逃げ出したトトは、ルナライトを抱えて秘境に転移してきた。


「いや、危なかったな…ニャートラってアレだよな」

『テラティエラちゃんの武器だね。って事は、テラティエラちゃんと闘っていたのか…』


 状況を飲み込めぬままテントを出して、ルナライトをベッドに寝かせる。


「…さっきの嵐でビチャビチャだけど…どうしよ…」

『とりあえず…タオルで拭いてあげなよ』


 その時トトはルナライトの額を確認したが、何も書いていない。しかし、よく見るとうっすら『るならいと』と書かれていたので、満足げな表情で文字を消した。


『あれ? 文字消しちゃうの?』

「あぁ、喧嘩したく無いし。どうせ消せって言われるからな」

『まぁそうだねー』


 まだ起きる様子は無いので、テントから出て砂の上に寝転がり星を眺める。

 竜の巣に居る竜達は寝ているのか解らないが、とても静か。

 星が綺麗に見えるので、星座なんてあるのかなーと思いながら過ごしていた。




 しばらく星を眺めていると、砂の上を歩く音が聞こえてきた。


「よう女神様。お目覚めかい?」

『…何故、お前が居る…』

「たまたまデカイネコに襲われている女神様を見付けてな。ここまで連れて来たんだ」

『……』


 剣呑な雰囲気でトトを見据えるルナライトは、神槍を向けている。

 トトはルナライトに目を向けず、星を眺める。


「なんだ。女神様は恩を仇で返すのか。まぁ良いけど…仲良くしようなんて思って無いし」

『何故…助けた』

「理由はねえよ。助けたかったから助けた…それだけ」

『…私は死なない。余計なお世話だ』

「…そっか」


 ルナライトは神槍を向けるのを止めた様子だが、トトに対しての敵意は変わらない。

 沈黙が続く。トトは話す事無いなら帰れば良いのにと思っているが、口に出すと面倒なので黙っていた。



『…私を、憎んでいるか?』

「…別に。憎んでもみんなの記憶が戻る訳じゃない」

『…戻る方法は…ある』


 ピクリとトトが反応し、身体を起こしてルナライトを睨む。


「今更何言ってやがんだ?」

『…私は』

「戻してどうすんだ?今まで通りの関係なんて絶対無理だぞ…それに…」


 皆…トトを神敵として憎んでいた。憎んでいた事実は変わる事は無い。もし、記憶が戻ったら罪悪感を持ちながらトトと接する事となる。


「俺を攻撃したアイリスさんは、姉を失って一度心を壊している。記憶が戻ったら…二度と笑う事なんて出来なくなるかもしれない。

 だから、戻る方法があるなんて言うなよ。俺を期待させんな」

『…』

「みんなが辛い思いをするくらいだったら…今のままで良い」


 トトはため息を付きながら、再び寝転がり星を眺める。

 ルナライトの表情は解らないが、何か言いたげな雰囲気だけは伝わった。



「…」

『…』

「…帰らねえのか?」

『…』

「…そういや、なんでテラティエラちゃんと闘っていたんだ?」

『…喧嘩になった』

「原因は?」

『…私が…記憶の削除(イレース・メモリー)を使った事だ』

「そっか…独断専行の末に猛批判を浴びている上司と同じ顔してんな」

『…否定はしない』



 チラリとルナライトの顔を見ると、疲れた表情をしていた。

 嵐での戦闘のせいか、顔が少し赤い。

 女神でも風邪引くのか?という疑問はあるが、近くで突っ立っていられると居心地が悪いのは確か。


「…はぁ…俺は朝までテントに入らないから、奥にある風呂に入れ。ベッドも貸してやるから寝とけ。酷い顔してんぞ」

『いや…そういう訳では…』

「良いから、今日は停戦。それで良いだろ?ほれ行け、今行け、直ぐ行け、早く行け」


 トトはテントを指差しながら、ルナライトに早く行けと言い続ける。

 最初は行かなかったが、やがてルナライトは顔を顰めながらテントに入って行った。


「はぁ…」

『泰人って、なんだかんだで優しいよねー』

「いや、だって帰らないんだぞ? ずぶ濡れで黙ってこっち見続けるとか耐えられないだろ」

『何か言おうとして止めてを繰り返していただけだよ。謝りたかったんじゃない?』

「殺し合う相手に謝るもくそも無いだろ。それに謝って来たら今度こそ怒るし」


 いつ殺されるか解らない状況なので、徹夜で過ごす事に。


 ……

 ……



 朝方、太陽が昇る頃にルナライトがやって来た。

 トトは暇だったので水辺で釣りをしている。


「やぁ、お早いお目覚めで」

『…次に会った時は敵同士だ』

「敵…か。もし、俺が悪神の力を持っていなかったら、味方になってくれたか?」

『…あぁ、そうだな。味方になっていた』

「そうか。その言葉で充分だ」

『…また会おう…泰人』


 お互いに顔を合わせず、ルナライトはフッと消えていった。


「…なんだろう。もう、闘いたくねえな」

『ルナライトちゃんもそんな感じだったね』

「ったく…礼くらい言えってんだ」

『言おうとしてたみたいだけどねー。誰かさんみたいに素直じゃないみたいだね』

「俺は素直な部類だ。あっ、なんでメイド服バージョンが無いか聞くの忘れたな…」



 トトはテントを仕舞い、ギアメルンの王都に転移する。


 アーラ家に到着し、中に入るとテラティエラが待っていた。


『やす兄ちゃん、どこ行ってたん?』

「転移石の調査をしていたんだよ」

『……ルナちんの匂いがする』


 テラティエラはトトに抱き着き、クンクンと匂いを嗅ぐ。

 訝しげな目でトトを見据えていた。


「…昨日たまたま浮遊城に転移して、ルナたんが飛んで来たんだよ」

『…ふーん…ん?』


 ジーッと見据えるテラティエラが、ハッと何かに気付く。


『浮遊城って…ルナちんは逃げた訳や無かったんか…やす兄ちゃんがお持ち帰りしとったんか…くそっ…もっと早く浮遊城に行っとれば…』


 ぶつぶつと思考の海に沈んでいくテラティエラをスルーして、トトはテントを出してベッドに入る。徹夜だったので直ぐに眠れそうなのだが…


『な…なんやて…お風呂やと…』

「…」

『_そのままベッドインとぁ!あかん!あかんでぇ!』

「…あの、寝かせて」

『あかん!しかも…くぁ!』

「ティラちゃんおいで…目を閉じて」

『ん?こか?』


 テラティエラの背中をポンポンすると、直ぐにスヤーっと眠りに付いて行った。

 トトもそのまま眠りに付く。


 トトが眠りに入った頃、テラティエラの目がパチリと開いた。


『…ふっふっふ。狸寝入りはお手の物や。ルナちん、待っててや』


 そろりそろりと抜け出し、テラティエラは天上へ向かった。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 天上に戻ったルナライトは、集合場所で一人でボーッとしていた。


「…あの状況で…人形を譲れなんて言えないじゃん…いや、そうじゃなくて…はぁ…私は馬鹿か…自分の事ばかり…」


 設置してあるこたつに入り、ぐでんとしていると…テラティエラがやって来て、無言でこたつに入る。


「…テラ」

「…ルナちん。昨日の事は水に流そうや」

「…あぁ」

「で?やす兄ちゃんとしたんか?」

「…は?何を?」

「ナニをや。やす兄ちゃんのベッドにルナちんの匂いがあったんや。で?したんか?」

「してない」

「ほんまか?」

「あぁ、してない」

「_かぁー!ヘタレやなぁ!なんでや?ウチより呪いが強いのにしてない?どんだけ我慢強いん?」

「…ちょっと待て…テラより呪いが強い?」

「そや、少なくともウチの3.5倍くらい強いで」

「…え…テラは…何体なんだ?」

「ウチは4体やから我慢出来るけどな…流石は真面目神やな。っていつもの感覚で解るやろ?」

「いや、初めて…なんだ…よ」


 テラティエラは、そういえばそうだったと少し後悔していた。

 最初が一番辛い事は、各女神共通している。

 泣きそうになっているルナライトを、テラティエラは慰めようとするが…


「いや、まぁ、結構嫌われてるけど頑張りぃ」

「そんなの解ってるから言わないでよぉ…」

「あ、いや悪い。口が滑ったんや。大丈夫や!記憶の削除を使ったんも、自分だけ見て貰いたかったんやろ?知らんけど。

 まぁ…悪い意味で見てくれてるやん!」

「大丈夫じゃないじゃん…うぅ…」


 素になって泣き始めたルナライトに、テラティエラがオロオロして何か言うが、益々悪化していく。

 こういう時に限って誰か来る訳で…


「やっほー。あら?あらあら?テラ…泣かしたの?」

「い、いや…違うねん」


「ねぇーみんなぁ聞いてぇー、って…テラ、ルナの事泣かしたのぉ?」

「ちゃ、ちゃうねん…」


「皆いるかぁ?…ん?テラ…ルナを泣かせたのか?」

「なんやの…みんなして…」


「だって、テラって慰めるの下手くそじゃないの」

「そうねぇー。ルナは多感な時期なのに…めっよ」

「よしよし…ルナ、大丈夫か?」


 ヴェーチェルネード、アクアマリン、フラマフラムがやって来てテラティエラを口撃。

 このままでは不味いと判断したテラティエラは、ダッと逃げ出そうとするが、ルナライトに捕まった。


「ル、ルナちん…離してえな」

「駄目…行く場所は…解ってる」

「え、ええやないの…堪忍して、な?」

「テラも…道連れ…」


「そうねぇー。ヴェーチェから聞いたわよ?良い思いしているんですって?」

「そうだな。詳しく聞こうか?」

「私の家を壊しておいて、逃げられるとでも?」


「あっ、ちょっ、勘弁してやぁー!」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ