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流れの武器屋  作者: はぎま
アヴァロ大陸。
116/163

どやぁ!

 翌朝、トトは2つの転移石を使いギアメルンの王都に到着した。


「あっ、トハシさんおかえりなさい! …あれ?その子は?」

「あぁ、ちょっと山で拾いました」

「えー…」

『どもっ!ティラ言うねん! って…やす兄ちゃんコレ居たんか?』


 トトの背中にしがみついているテラティエラが、ノワールをじろじろ見ながら小指を立てる。

 力を解放しなければただの小さい女の子なので、ノワールは気付いていない。気付いたら平伏して大騒ぎになるのは目に見えているが、鑑定結果も弄れるので問題無い。


≪ティラ、武闘家レベル1、強さ5≫



 テラティエラはニシシと笑いながらトトから降りて、トトの手に自分の指を絡める。

 ノワールの眉がピクリと動いたが、テラティエラは気にしない。

 むしろ見せ付ける様にしているのだが、当のトトは遠い目で虚空を見詰めていた。


「ティラちゃん…大人しくするって言ったでしょ?」

『えー、でも女居るなんて聞いてへんもん』

「あ、うん、えっと…トハシさん?どういう事です?」

「すみません、急に連れて来ちゃって…迷惑は掛けませんから。ちょっと徹夜だったんで…少し休んで良いですか?」


 ノワールが困惑する中、トトが逃げる様にテントを出して中に入っていく。

 もちろんテラティエラも付いて行く訳で…


「えっ、ちょっ、トハシさん!?」

「はい、なんです?」

「その子も一緒に寝るんですか!?」

「ええ、まぁ、眠いって言うんで」

『安心しぃ。ウチがやす兄ちゃんを気持ちよーく寝かせてあげちゃるから』


 得意気な表情のテラティエラに、ノワールが焦った表情で止める。

 トトからしたら小さい子と寝るだけなので、気にする事では無いと思っているのだが、ノワールは嫌な予感しかしない。


「じゃ、じゃあ私も一緒に寝ます!」

「いや、それだと俺が気になって眠れませんよ」

『そやそや、やす兄ちゃんはウチと朝まで逢い引きしとってん。疲れてるんや』

「_っ朝まで逢い引き!?」

「ティラちゃん…話がややこしくなるから大人しくしててね」

『なんや?間違うて無いやろ。 ならこれでどや!_女神バージョン!』

「__あっ!何してんの!?」


 トトが止める前に、痺れを切らしたテラティエラが変身。

 キラキラしたドレスに身を包み、神のオーラを出して女神っぽさを演出。



『_どやぁ!』


 ノワールは口を開けて、呆然と目の前の光景を見ていた。

 何故女神がここに…そして、自分はなんという態度を取ってしまったのかと考えている最中…

 面倒になったトトは、テラティエラを抱えてベッドに入る。


『もぅ…やす兄ちゃん、強引やなぁ…でもええよ。ウチそないな感じ嫌いやない』

「ティラちゃん、ちょっと目を閉じて」

『こか?』


 そして背中をポンポンすると、テラティエラはスヤーッと眠りに付いていった。


「……ふぅ」


 心底疲れ切った表情で、未だに困惑しているノワールの元へ。


「ノワールさん、すみません。テラティエラちゃんと戦闘になって…色々あって付いて来ちゃいました」

「…あっ、えっ、いやっ、あのっ…えぇ…」

「まぁ…敵では無いので安心して下さい。彼女にも役割があるんですよ」


 ノワールにとっては敵になり得る存在だが、そうも言っていられない女神という存在。

 混沌の力を管理していたテラティエラは、何かと口実を付けて『混沌を持っているトトの管理』という名目で行動している。


 とりあえずノワールが落ち着くのを待っていると、ノーレンがやって来た。


「兄ちゃんおかえりー…どしたの?」

「あぁ、山で女神を拾ったから連れて来たんだ。これで理解しろ」

「何言ってんの?説明雑過ぎない?」

「これ以上無い解りやすい説明だろ。あっ因みに誰にも言うなよー、殺されるから」

「物騒だな!」


 殺されるというかパチュンとやられるだけだが、似たような物。

 トトは普通の女の子として接してあげれば良いと言うが、姉弟にとってそれはかなり難しい。


 とりあえず落ち着かせながら、今後を話し合う事に。


「そういえば、国の使いは来た?」

「いや、まだ来てないよ。このまま遠くに行っちまう?」

「何言ってんだよ。故郷を捨てるのか?」

「いや、そういう訳じゃないけど…」

「じゃあ来るまで待つか…でもいつ来るか解らないし…出掛けているって貼り紙でもあれば良いか」


 いつ来るかも解らない者を待っても仕方ない。来るのかも解らない状態なので、ダンジョンに行く準備を進める。

 ノーレンとノワールは買い物へ。

 トトは準備が終わるまで、テントに引きこもり。



「さて、ホムンクルスを作ろう」


 ホムンクルスの種と、苗床を用意。

 苗床に種を入れて、左手を突っ込む。


「_錬金…おっ、作り方が解る!…タケル、イケメンにしてやるから喜べ」

『おっ、楽しみだなー。黒髪にしてよ』

「解ってるよ。あっ、元の顔知らないんだけど…」

『あっ、そうか…じゃあ剣持って』


 破壊神剣を持ち、目を閉じると顔の記憶が流れて来た。

 ……

「…あれ?…この顔どっかで…まぁ良いか。イケメン補正っと」


 とりあえず身体の強化に、宝石等色々ぶっ混んでみる。

 直ぐには出来ないので、これで放置。


「ちょっと眠いな…」


 ふぅっと一息付いたので、スヤスヤ寝ているテラティエラの隣に入り目を閉じる。


 ……そのまま眠りに付いた。




 ______




『…んぅ…あかん、寝てもうた…おっ、やす兄ちゃん…チャンスやぁ…

 …なんや?ルナちん、今良い所なんや……たぁー分かった分かった。真面目やなぁ…』


 目を覚ましたテラティエラがのそりと起き上がる。

 トトはまだ寝ている様子で、寝息を立てていた。


『…やす兄ちゃん…ちょっと行ってくるな』


 テラティエラはトトの頬にキスをして、テントから出る。

 テントの外にはノワールが居て、テラティエラに一礼した。

 通り過ぎようとしたテラティエラが立ち止まり、ノワールをじっと見詰める。

 見詰められるノワールは少し身体が強張っていた。


『なぁノワールちゃん。やす兄ちゃんの事ごっつ好きなん?』

「はっ、はい。好き…です」

『くくっ、ウチと一緒やな』


 少し笑い、天上に行ってくると言って歩くテラティエラは、再び立ち止まる。


『なぁ、知っとるか?女神の恋は実らんのや』

「えっ?なっ、何故…ですか?」


 ノワールは初めて聞く事に首を傾げる。物語や伝説では、女神と恋に落ちる男の話は数多くある。多すぎる程に。


『本物の愛と違うから…』

「…」


 女神人形による呪い。

 その呪いでの恋は経験している。

 だがそれはどれも実る事は無く、良い結末を迎える事は無い。


『…怖いんや。この想いが、本物と違うんやないかって…不安で、不安で、…ウチ、こない好きになったん初めてやねん』

「…本物って…」

『これは…呪い。ウチらが恋に破れて絶望すれば…これが奴の力になる…』


 半ば独り言の様に話すテラティエラに、ノワールは何と声を掛けて良いのか解らない。

 悩んでいる内に、テラティエラは何かを呟き去って行った。


「…テラティエラ様…泣いてた…私は、どうしたら…」



 ______

 ______




 この世界の上空にある裂け目…天上。


 ルナライトが待つ集合場所。

 そこに、不機嫌な様子のテラティエラが入って来た。


「なんの用や、ルナちん」

「あぁ、テラ。急にすまない。混沌の穴に異変が無かったか?」

「あったで。殻岩獣が暴れとった。倒したけどな」

「そうか…他には、誰か…居なかったか?」

「おったで。ルナちんの良い人と会うた」

「…良い人?」

「やすキュンって呼んでるんやろ?妬けるわぁ…」


 ピタリとルナライトが止まる。

 少し視線をさ迷わせ、強い視線でテラティエラを見据える。


「それで?奴は?」

「ん?ちょいと遊んで貰お思たら、ボッコボコにされたで。いやぁ強いなぁーやす兄ちゃんは」

「…」


 テラティエラが負けたとなると、確実に力を付けていると判断。

 ルナライトは、どうやって討伐するかを考えていた。


「なぁ、ルナちん。やす兄ちゃんと闘ったんやろ?」

「ん?あ、あぁ。逃げられてしまったがな…」


 テラティエラが闘いの様子を聞きたがる。

 ルナライトが思い出す様に話そうとした所で、集合場所に風の女神ヴェーチェルネードがやって来た。


「やっほー。あらテラ、元気?」

「お蔭さんでな」

「あっ、そうそう聞いた?ルナったら神敵の所にいきなり押し掛けて、記憶の削除(イレース・メモリー)使ったのよー?もう、怒ってあげてよ」

「……は?ほんまか?」

「…あぁ」

「ほんまに…やす兄ちゃんに使ったんか?」

「…あぁ」


 テラティエラが耳を疑う。記憶の削除(イレース・メモリー)は、周囲の者から指定した者の記憶を消す禁術。

 ルナライトの魔力で行使すれば、大陸全体に広がる程の大魔法に発展する。

 孤独を無理矢理に押し付ける魔法。


「…なんでや…なんでやなんでやなんでや!」

「…テラ?」

「なんでそない悲しい魔法使ったんや!」


 予想外のテラティエラの剣幕に、ヴェーチェルネードとルナライトが気圧される。

 本来ならば、災害級の魔物などを忘れさせ、心の傷を緩和する為に使う魔法。

 それを一人の人間に使う事は、ただ殺すよりも残酷で…

 しかもそれが、愛する人ならば…


「テ、テラ…落ち着いて」

「落ち着かん!…おいルナちん…表出いや!」

「テラ…」

「ウチがその性根…しばき倒したる!」



 この日、とある大陸で大きな災害が起きた。


 嵐が吹き荒れ、地震が起き、地形が変わる。


 後に、『女神の慟哭』と呼ばれた大災害により、大陸の形が変わる事になった。







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