どやぁ!
翌朝、トトは2つの転移石を使いギアメルンの王都に到着した。
「あっ、トハシさんおかえりなさい! …あれ?その子は?」
「あぁ、ちょっと山で拾いました」
「えー…」
『どもっ!ティラ言うねん! って…やす兄ちゃんコレ居たんか?』
トトの背中にしがみついているテラティエラが、ノワールをじろじろ見ながら小指を立てる。
力を解放しなければただの小さい女の子なので、ノワールは気付いていない。気付いたら平伏して大騒ぎになるのは目に見えているが、鑑定結果も弄れるので問題無い。
≪ティラ、武闘家レベル1、強さ5≫
テラティエラはニシシと笑いながらトトから降りて、トトの手に自分の指を絡める。
ノワールの眉がピクリと動いたが、テラティエラは気にしない。
むしろ見せ付ける様にしているのだが、当のトトは遠い目で虚空を見詰めていた。
「ティラちゃん…大人しくするって言ったでしょ?」
『えー、でも女居るなんて聞いてへんもん』
「あ、うん、えっと…トハシさん?どういう事です?」
「すみません、急に連れて来ちゃって…迷惑は掛けませんから。ちょっと徹夜だったんで…少し休んで良いですか?」
ノワールが困惑する中、トトが逃げる様にテントを出して中に入っていく。
もちろんテラティエラも付いて行く訳で…
「えっ、ちょっ、トハシさん!?」
「はい、なんです?」
「その子も一緒に寝るんですか!?」
「ええ、まぁ、眠いって言うんで」
『安心しぃ。ウチがやす兄ちゃんを気持ちよーく寝かせてあげちゃるから』
得意気な表情のテラティエラに、ノワールが焦った表情で止める。
トトからしたら小さい子と寝るだけなので、気にする事では無いと思っているのだが、ノワールは嫌な予感しかしない。
「じゃ、じゃあ私も一緒に寝ます!」
「いや、それだと俺が気になって眠れませんよ」
『そやそや、やす兄ちゃんはウチと朝まで逢い引きしとってん。疲れてるんや』
「_っ朝まで逢い引き!?」
「ティラちゃん…話がややこしくなるから大人しくしててね」
『なんや?間違うて無いやろ。 ならこれでどや!_女神バージョン!』
「__あっ!何してんの!?」
トトが止める前に、痺れを切らしたテラティエラが変身。
キラキラしたドレスに身を包み、神のオーラを出して女神っぽさを演出。
『_どやぁ!』
ノワールは口を開けて、呆然と目の前の光景を見ていた。
何故女神がここに…そして、自分はなんという態度を取ってしまったのかと考えている最中…
面倒になったトトは、テラティエラを抱えてベッドに入る。
『もぅ…やす兄ちゃん、強引やなぁ…でもええよ。ウチそないな感じ嫌いやない』
「ティラちゃん、ちょっと目を閉じて」
『こか?』
そして背中をポンポンすると、テラティエラはスヤーッと眠りに付いていった。
「……ふぅ」
心底疲れ切った表情で、未だに困惑しているノワールの元へ。
「ノワールさん、すみません。テラティエラちゃんと戦闘になって…色々あって付いて来ちゃいました」
「…あっ、えっ、いやっ、あのっ…えぇ…」
「まぁ…敵では無いので安心して下さい。彼女にも役割があるんですよ」
ノワールにとっては敵になり得る存在だが、そうも言っていられない女神という存在。
混沌の力を管理していたテラティエラは、何かと口実を付けて『混沌を持っているトトの管理』という名目で行動している。
とりあえずノワールが落ち着くのを待っていると、ノーレンがやって来た。
「兄ちゃんおかえりー…どしたの?」
「あぁ、山で女神を拾ったから連れて来たんだ。これで理解しろ」
「何言ってんの?説明雑過ぎない?」
「これ以上無い解りやすい説明だろ。あっ因みに誰にも言うなよー、殺されるから」
「物騒だな!」
殺されるというかパチュンとやられるだけだが、似たような物。
トトは普通の女の子として接してあげれば良いと言うが、姉弟にとってそれはかなり難しい。
とりあえず落ち着かせながら、今後を話し合う事に。
「そういえば、国の使いは来た?」
「いや、まだ来てないよ。このまま遠くに行っちまう?」
「何言ってんだよ。故郷を捨てるのか?」
「いや、そういう訳じゃないけど…」
「じゃあ来るまで待つか…でもいつ来るか解らないし…出掛けているって貼り紙でもあれば良いか」
いつ来るかも解らない者を待っても仕方ない。来るのかも解らない状態なので、ダンジョンに行く準備を進める。
ノーレンとノワールは買い物へ。
トトは準備が終わるまで、テントに引きこもり。
「さて、ホムンクルスを作ろう」
ホムンクルスの種と、苗床を用意。
苗床に種を入れて、左手を突っ込む。
「_錬金…おっ、作り方が解る!…タケル、イケメンにしてやるから喜べ」
『おっ、楽しみだなー。黒髪にしてよ』
「解ってるよ。あっ、元の顔知らないんだけど…」
『あっ、そうか…じゃあ剣持って』
破壊神剣を持ち、目を閉じると顔の記憶が流れて来た。
……
「…あれ?…この顔どっかで…まぁ良いか。イケメン補正っと」
とりあえず身体の強化に、宝石等色々ぶっ混んでみる。
直ぐには出来ないので、これで放置。
「ちょっと眠いな…」
ふぅっと一息付いたので、スヤスヤ寝ているテラティエラの隣に入り目を閉じる。
……そのまま眠りに付いた。
______
『…んぅ…あかん、寝てもうた…おっ、やす兄ちゃん…チャンスやぁ…
…なんや?ルナちん、今良い所なんや……たぁー分かった分かった。真面目やなぁ…』
目を覚ましたテラティエラがのそりと起き上がる。
トトはまだ寝ている様子で、寝息を立てていた。
『…やす兄ちゃん…ちょっと行ってくるな』
テラティエラはトトの頬にキスをして、テントから出る。
テントの外にはノワールが居て、テラティエラに一礼した。
通り過ぎようとしたテラティエラが立ち止まり、ノワールをじっと見詰める。
見詰められるノワールは少し身体が強張っていた。
『なぁノワールちゃん。やす兄ちゃんの事ごっつ好きなん?』
「はっ、はい。好き…です」
『くくっ、ウチと一緒やな』
少し笑い、天上に行ってくると言って歩くテラティエラは、再び立ち止まる。
『なぁ、知っとるか?女神の恋は実らんのや』
「えっ?なっ、何故…ですか?」
ノワールは初めて聞く事に首を傾げる。物語や伝説では、女神と恋に落ちる男の話は数多くある。多すぎる程に。
『本物の愛と違うから…』
「…」
女神人形による呪い。
その呪いでの恋は経験している。
だがそれはどれも実る事は無く、良い結末を迎える事は無い。
『…怖いんや。この想いが、本物と違うんやないかって…不安で、不安で、…ウチ、こない好きになったん初めてやねん』
「…本物って…」
『これは…呪い。ウチらが恋に破れて絶望すれば…これが奴の力になる…』
半ば独り言の様に話すテラティエラに、ノワールは何と声を掛けて良いのか解らない。
悩んでいる内に、テラティエラは何かを呟き去って行った。
「…テラティエラ様…泣いてた…私は、どうしたら…」
______
______
この世界の上空にある裂け目…天上。
ルナライトが待つ集合場所。
そこに、不機嫌な様子のテラティエラが入って来た。
「なんの用や、ルナちん」
「あぁ、テラ。急にすまない。混沌の穴に異変が無かったか?」
「あったで。殻岩獣が暴れとった。倒したけどな」
「そうか…他には、誰か…居なかったか?」
「おったで。ルナちんの良い人と会うた」
「…良い人?」
「やすキュンって呼んでるんやろ?妬けるわぁ…」
ピタリとルナライトが止まる。
少し視線をさ迷わせ、強い視線でテラティエラを見据える。
「それで?奴は?」
「ん?ちょいと遊んで貰お思たら、ボッコボコにされたで。いやぁ強いなぁーやす兄ちゃんは」
「…」
テラティエラが負けたとなると、確実に力を付けていると判断。
ルナライトは、どうやって討伐するかを考えていた。
「なぁ、ルナちん。やす兄ちゃんと闘ったんやろ?」
「ん?あ、あぁ。逃げられてしまったがな…」
テラティエラが闘いの様子を聞きたがる。
ルナライトが思い出す様に話そうとした所で、集合場所に風の女神ヴェーチェルネードがやって来た。
「やっほー。あらテラ、元気?」
「お蔭さんでな」
「あっ、そうそう聞いた?ルナったら神敵の所にいきなり押し掛けて、記憶の削除使ったのよー?もう、怒ってあげてよ」
「……は?ほんまか?」
「…あぁ」
「ほんまに…やす兄ちゃんに使ったんか?」
「…あぁ」
テラティエラが耳を疑う。記憶の削除は、周囲の者から指定した者の記憶を消す禁術。
ルナライトの魔力で行使すれば、大陸全体に広がる程の大魔法に発展する。
孤独を無理矢理に押し付ける魔法。
「…なんでや…なんでやなんでやなんでや!」
「…テラ?」
「なんでそない悲しい魔法使ったんや!」
予想外のテラティエラの剣幕に、ヴェーチェルネードとルナライトが気圧される。
本来ならば、災害級の魔物などを忘れさせ、心の傷を緩和する為に使う魔法。
それを一人の人間に使う事は、ただ殺すよりも残酷で…
しかもそれが、愛する人ならば…
「テ、テラ…落ち着いて」
「落ち着かん!…おいルナちん…表出いや!」
「テラ…」
「ウチがその性根…しばき倒したる!」
この日、とある大陸で大きな災害が起きた。
嵐が吹き荒れ、地震が起き、地形が変わる。
後に、『女神の慟哭』と呼ばれた大災害により、大陸の形が変わる事になった。