大自然ダンジョン。3
翌朝、準備を終えた三人は北の山脈を目指す。
今日は山の麓まで行く予定。
「よーし、今日も魔物を見つけ次第、ノーレンが倒す事。ノワールさんは、山脈に行ったら一気にやるんで待ってて下さい」
「…はい」
「ん? 姉ちゃん調子悪いのか?」
「ううん、大丈夫よ」
この階層は三週間掛かるというが、トトは明日で四層に行くつもりだ。
ノーレンのレベルが上がって来たので、ランニングしながらペースを上げていく。
「そういえば、兄ちゃんの剣って喋るのか?」
「ああ、喋るけど俺しか声が聞こえないぞ」
「へぇー、どんな事喋るんだ?」
「世間話だよ。こいつとは故郷が一緒だから、その話が多いかな」
「故郷が一緒?」
「五百年くらい前に死んだ、それはもう可哀想な男の幽霊が入っているんだ」
ノーレンが破壊神剣に話し掛ける。
簡単な質問…年齢や趣味など。
トトを通してタケルが答えを返していく。
「じゃあ兄ちゃんは、タケルさんを故郷に返してやりたいんだね」
「そうそう。今の目標だな」
「タケルさんを故郷に返したら、兄ちゃんはどうするんだ?」
それは考えていない。
この世界に戻っても、帰る場所は無いから。
でも、やりたい事は沢山ある。
「やりたい事をやり尽くしたら、考えるよ。予定は未定だ」
「ふーん。じゃあ、全部終わったら会いに来てよ。待ってるから」
「ああ、終わらなくても遊びに行くかもな」
「それも大歓迎!」
ノーレンはトトを尊敬している。力に溺れず、傲らず、自分のペースを持っている。
今まで会ってきた大人達とは違う安心感。
「あっ、職業が変わった…」
≪ノーレン・アーラ、聖雷騎士レベル5、強さ2250≫
「帝級の職業かな?基準がよく解らないんだよなぁ…」
「聖雷騎士なんて聞いた事無いです」
「武器によって、ある程度職業も操作出来るんですよ。ミリアン大陸では新しい職業も沢山作りました」
「職業を作るって、兄ちゃん神様みたいだよなぁ」
「まぁ、神に貰った様な能力だからなぁ…」
「…えっ?」
ノワールから見たら、能力を貰ったのに、人が持ってはいけない力と言われて神敵になったトト。
色々と矛盾があるが、悪神から貰った様な能力とは言い辛い。
「その、権力者とか黙っていないですよね?」
「そうですねぇ。前にお城へ連れていかれましたけど、黙らせたので大丈夫でしたよ」
「そ、そうですか。無事で良かったです」
「ええ。そういえば、ギアメルンってどんな国なんですか?」
ギアメルンは、アヴァロ大陸の南に位置する王権政治の国。
魔物は少し強めだが、海産資源や鉱山資源が豊富で、宝石の産出量も高い豊かな国。
トトが転移してきた場所は、死の森と呼ばれる場所。
「住みやすい国なんですね」
「はい。王都は物価が高いですが、冒険者に優しい所なので活動しやすいんですよ」
「なるほど…」
「兄ちゃん、目的が終わったらギアメルンに住まない?」
「そうですよ。住みましょう?」
「それも良いですね。探し物が見付かったら考えておきます」
「探し物?」
寿命を伸ばす物があれば、良い選択だと思う。
収納の中に、不老効果のある『神酒』があるが、もう一つ不死効果のあるアイテムがあれば、死なない武器が作れると思っている。
「ええ、色々探していまして、ダンジョンの宝箱に期待してるんですよ」
「だから昨日、兄ちゃんは宝箱探しに出ていったんだな」
「そうだな。何か良い物あったらやるよ」
「やりぃ!」
それから、ノーレンはレベルを上げ続ける。職業は変わらなかったが伸び率は良かった。
再び夜になり、トトは一人で宝探し。
銀色宝箱以上に絞って探索。二つ発見したので、SGドラゴンに乗って回収した。
「銀色二つ、何が出るかなー」
≪神経麻痺針、ランクB≫
≪思い出の藁人形、ランクB-、不幸にする≫
「思い出?」
『良いドラマがあったのかな?』
≪激情のオルゴール、ランクB+、怒らせる≫
≪愛の指輪、ランクA+、愛が増す≫
≪喜びの腕輪、ランクB、喜べる≫
「感情系多いなー」
『泰人が開けるからじゃない?』
≪斬魔刀、ランクB+、攻撃907、魔族特攻≫
≪絵画・憂う少女、ランクA≫
≪ピンクのマフラー、ランクB≫
「ランクは良いんだけど、物がなぁー」
『結構良い物なんだけどね。次開けよ』
≪アシッドソード、ランクB、攻撃741、酸攻撃≫
≪雪鎚・アヴァランシュハンマー、ランクA+、攻撃1580、氷属性、雪崩れ、氷魔法≫
「おっ、魔武器だ!」
『やったねー!』
≪聖女ニーナちゃんの聖水、ランクーー≫
「……」
『……』
≪ルナライトちゃん人形・グリーン、ランクーー≫
≪テラティエラちゃん人形・イエロークリスタルバージョン、ランクーー≫
≪名槍・クルスヴェイ、ランクB、攻撃500≫
≪偽造小切手、ランクB+、黒金貨五枚まで≫
≪シルカバン絨毯、ランクA+≫
「まぁ、銀色にしては当たりの箱かな」
『そうだね。次の階層だと金色ありそうだから期待だねー』
テントに戻り、眠気を回復させながら武器を作成していく。
(試作しなきゃなー作成)
≪マジックガード・ミックス、ランクA+、合成属性半減≫
(半減かぁ…)
≪白の腕輪、ランクA、光属性防御≫
≪黒の腕輪、ランクA、闇属性防御≫
連日記憶を消す魔法の対抗策を考えているが、上手く行く気がしない。
(あの神槍…ルナハート級の武器があればなぁ…)
破壊神剣の他に、神の武器に匹敵する武器が無いと、またボコボコにされる。
(量より質…かな。ここを攻略したら魔武器を合成しまくってみるか…)
______
今日は山脈を越える予定。
現在空中から山を見下ろしている。
トトはノーレンを背負い、ノワールは飛行出来る靴を履いている。
ノワールは悲しそうにトトを見詰めている。
森では抱っこしてくれたのに、今は飛行出来る靴を履かされた。
「…もう、抱いてくれないんですか?」
「凄い聞こえが悪いですけど、抱っこは危ないんですよ」
「俺、あの靴履きたい」
「山脈越えたらな」
山には多くの魔物が見える。
人が居る様子は無い。
ノワールがトトから受け取った剣を持ち、下に向ける。
「じゃあノワールさん、魔力を込めながら『滅亡の星』です」
「は、はい。頑張ります」
ノワールが魔力を込めていくと、銀色の剣が光り輝いた。
「防御障壁は張っておきます。どうぞ」
「いきます!_滅亡の星!」
上空から巨大な隕石群が出現。
山脈に向かって次々と墜ちていく。
轟音と共にクレーターが発生。
その上にクレーターが重なっていく。
魔物達はおろか、山脈までも潰される。
「……」
粉塵が巻き起こり、視界は閉ざされるが轟音は鳴り止まない。
しばらくして音は止み、粉塵が落ち着くのを待つ。
「……」
やがて粉塵が晴れると、視界に広がっていた山脈は消え去り、クレーターが数え切れない程に見える。
「……」
トトは呆然としているノワールをヒョイッと抱き上げ、奥にあるトンネルに入っていく。
「さて、次の階層に行きますか」