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流れの武器屋  作者: はぎま
アヴァロ大陸。
102/163

オハイ山のダンジョン。

 

 オハイ山に入って直ぐにあるダンジョン。

 ダンジョンの前は緩やかな坂になっており、露店や宿屋など、小さな集落が出来ていた。

 事前に食材などは買ってある。特に買う用事も無いので、そのままダンジョンへと向かう。


「おい待ちな!そんな軽装で行くのかよ。遊びに行くんじゃねえんだぞ__ぐぁ!」

「そこの姉ちゃんは俺達の相手してくれよ。ダンジョンより楽しいぜぇ__がはっ!」


 冒険者が話し掛けて来たが、気付いたら倒れている。

 トトが何かをしたというのは解ったが、ノーレンとノワールには見えなかった。


「に、兄ちゃん…何かしたのか?」

「ああ、邪魔だから寝て貰ったよ」


 喋るのは面倒なので、早撃ちで意識を刈り取る。


 ダンジョンの見た目は、前に来たダンジョンと大差は無い。


 トト、ノーレン、ノワールの三人はダンジョンへと入った。



「……森だな」

「…森だね」

「上層部分は森林地帯になっているんですよ。中層が山岳地帯ですね」


 ノワールは上層までなら来た事があるという。


「どれぐらい広いんだ?」

「迷わずに歩いて一週間で、次の階層に行けます。二階層も森で、三階層目から中層…山岳地帯ですね」


「二週間で中層かぁ…広いなぁ…」

「兄ちゃんはどれくらいで攻略したんだ?」

「全部で…三週間くらいかな。その内、二週間くらいは雪原を歩いたよ」


「雪原…」


 一人になってからほとんど寝ずに攻略した事を思い出す。

 良くやったなぁ…というのが感想。


 冒険者が居ない場所まで森を進む事に。

 植林された針葉樹の森の様に、上を見上げると葉っぱが生い茂り、人の高さの枝は少なく視界は悪くない。

 地面には落ち葉が敷き詰められ、歩くとふんわりとした感触。


 次の階層までの方向はノワールが知っているので、案内を任せた。


「ただの森ですけど…魔物は居ないんですか?」

「この周辺は少ないです。隠れられる場所が少ないですから。稀に上から降ってきますので、そこだけ気を付けて貰えれば良いですよ」

「そうですかぁ…」


 魔物は、視界が開けている場所は少なく、視界が悪い場所は多い。

 進んで行くと、徐々に枝が多くなってきた。

 そろそろ魔物が出る。

 このダンジョンの魔物は上層部がクラス1~3。



 正直、魔物は弱いから余裕。

 索敵で魔物の場所も解るから、来る前に撃ち抜ける。

 木が多く姉弟を強くするには、森だと不便。

 お宝も取り尽くされている様子。


(上層部って時間の無駄だよなぁ…)



 上を見上げるトトの出した結論は、


「ノーレン、落ちるなよー」

「__ちょっ!兄ちゃん!速いぃ!」

「__うぅ…トハシさん…恥ずかしいです…」


 ノーレンを背負い、ノワールを抱っこして木の上を走る…だった。


 木の上は緑や黄色、赤、青と色取り取りの葉っぱが広がり、綺麗な絨毯の様に見える。

 木の高さが均一なのは、ダンジョン特有な物なのだろうか。


 一応ノーレンは紐で縛っているので、落ちはしない。次第に慣れて来たのか、葉っぱの絨毯に目を輝かせる様に喜んでいる。


 ノワールはトトが抱っこしているので、顔が近いが早く上層部を出る為なので我慢して貰いたい。

 最初は両手で顔を抑えていたが、慣れて来た様子。綺麗な絨毯をチラ見した後は、トトの顔を凝視している。吐息が掛かる至近距離から見ているので、ノワールの方を向いたら唇が重なってしまいそうだ。


「……トハシさん」

「…はい、何でしょう?」

「顔をこっちに向けて下さい」

「向けたら顔がぶつかってしまいます。危ないですよ」

「……」

(姉ちゃん頑張れー)


 木の上を走ると言っても、空中を走っている状態。二時間も走れば二階層への階段に辿り着けそうだ。

 という事は、二時間はこの状態。流石に同じ体勢は辛いので、一時間走った後に冒険者達が居ない場所で休憩する事にした。



「兄ちゃん、すげえな!木の上を走るなんて誰も思わないぞ!」

「上層部の魔物は弱いし、お宝も無いからね。早く抜けようと思って」

「トハシさん…凄いです」

「すみませんが、もう少し我慢して下さいね」

「は、はい!後で…してくるんですね!」


 何を?という問いにノワールは笑顔で返し、答えてくれない。



 ノーレンは幸せそうな姉を見て、気まずそうに目を逸らしている。

 姉は両親が死んでから、自分を養う為に恋愛なんてする暇も無かった筈だから、幸せになって貰いたい。

(姉ちゃん…兄ちゃんは、何処かに行っちゃうんだよ……そんなに好きになって、どうすんだよ…)

 未来を思うと、泣きそうになる。出来れば、姉を連れていって欲しいと思っているが、その為には自分が一人立ちしなければいけない。


「兄ちゃん、俺はこのダンジョンで、どこまで強くなれるのかな?」

「…望む強さにしてやるよ」

「…へへっ、頼むよ。じゃあドラゴンを倒せるくらいにしてくれ」

「そんなんで良いの?遠慮しなくて良いぞ」


 ドラゴンと言えば強さの象徴。一人で倒せる人間なんて国に何人も居ない。

 冗談で言ったのだが、それをそんなんで良いの? と軽く言うトトに、それが本当なら姉が惚れるのも仕方無いな…と乾いた笑いを浮かべた。



 ______



 休憩が終わり、一時間後。

 下に続く階段を発見。冒険者達が居るが、構わず降り立ちそのまま階段を駆け降りる。

 冒険者達は突然上から降ってきた人影に度肝を抜かれ、一瞬の内に階段へと消えて行ったトト達に呆然としていた。


 階段を駆け降りた先は、再び森。

 今度は木の数が多く、大森林の様に薄暗い。

 冒険者達が居るので、そのまま上へと跳び上がった。


 次の階層への方向に進む。



「兄ちゃんって冒険者達嫌いなの?」

「そういう訳じゃ無いけど、職業とレベルでしか判断しない人が多かったからね。自然と関わらない様になったんだよ」


「誰か、不遇な方が居たんですか?」

「あぁ、俺です」

「えっ…」


 数無しと呼ばれる人は、このアヴァロ大陸にも居る。なぜレベルの無い者が生まれるのかは解らないが、ほとんどの者は不遇な扱いを受けている。

 トトは不遇な目に合う事は少なかったが、未来に絶望した者は自ら命を断つ事は珍しくなかった。大陸が違っても職業とレベルを大事にするのは一緒だ。


 休憩を取りながら、森の上を走って行く。



「不遇って、兄ちゃんの何処が不遇なんだ?」

「数無しなんだよ。特殊な偽装の魔導具で誤魔化しているだけだ」

「レベルが無くても…こんな事が…出来るんですか?」

「普通は出来ませんよ。方法はありますが難しいです」


 職業を変えるアイテムは存在する。希少価値が高いので、手に入る事はまず無いが。

 一応偽装を解いて確認させる。やはりというか驚くが…


「兄ちゃんみたいな人が居るなんて知らなかった…あっ、違う大陸から来たんだっけ」

「そうそう、最近までミリアン大陸に居たんだよ」

「…いずれは…ミリアン大陸に帰るんですか?」

「そうですね。やり残した事があるんで」


 やり残した事なんて、数え切れない程にある。


 一つでも減らして日本に帰りたい。



 やがて、森林地帯の終わりが見えて来た。大きな壁が見える。


 山岳地帯は、その壁の下にあるトンネルから行く。緩やかな下り坂になっており、降り立ってからトンネルへと入る。


 周囲に冒険者達は居なかったので、三人で歩きながらトンネルを抜けた。


 トンネルを抜けた先。


 荒野が広がり、その先に標高千メートル級の山脈が見える。完全に大自然だった。


「ノワールさん。歩いてどれくらいで四階層に行けますか?」

「三週間…ですかね」

「…そうですか。未踏達な理由が解った気がします」


 物資が持たない。


 普通の冒険者では、難しいダンジョンだった。



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