俺…いる?
姉弟と共に、王都ギアメルンの名所を巡っていく。
大きな噴水、謎の石碑、触れない看板、ウンコにしか見えない石像、公園を徘徊するおじいちゃんの集団など、意外と名所と呼ばれる物はある。
「やっぱり、一番の名所はお城ですね!」
「ほーっ、綺麗だなぁ。全部青レンガ?」
「そうだよ!お祭りの時は花火が上がるんだ!綺麗だぞ!」
「へぇー、花火かぁ…」
花火なんてあるんだー…と思ったが、魔法を打ち上げて花の模様にするらしい。
造形魔法と呼ばれる魔法で、強さよりも美しさを競う魔法。
「父ちゃんと母ちゃんが生きてた頃はよく行ったなぁ…お祭り」
「…亡くなったのは…事故か何かか?」
「魔物に襲われたんだ。…まぁ昔の事だし、もう寂しくないよ。
…兄ちゃん、本当にありがとう。姉ちゃんが死んだら、立ち直れなかったと思う」
「ノーレン…ごめんね、心配掛けて…」
白と青がベースの城なので、某シンデルゼ城の様な綺麗な城を眺めながら、王都の真ん中にある公園に到着。ベンチに座る。
徘徊するおじいちゃん達を発見。話し掛けたらクエストが発生しそうなので眺めるだけ。
「兄ちゃんは、これから王都を出るのか?」
「ああ、未到達ダンジョンに行こうと思って」
「未到達ダンジョンは…北にあるオハイ山にありますよ。あの、もしかして一人で行くんですか?」
「はい、一人の方が楽なんで」
一人で行くと言っても、トトの鑑定結果は強さ444。誰が見ても一人行くなど自殺行為だ。上層が限界の数値。
「良かったら、私も御一緒します」
「…ノワールさん、死にますよ…折角治ったのに。俺は最下層に行くつもりですから」
「本気かよ兄ちゃん。攻略なんて出来ないぞ」
むしろ一人じゃないと攻略出来ない…言っても信じて貰えない事は解っている。どの道、この姉弟とはここでお別れだから良いのだが。
「あぁ、俺は攻略者だから大丈夫」
「またまたー、冗談だろ?」
収納から、石碑を取り出して二人に見せる。『迷宮・古壁の回廊、終着点』と書かれた石碑。
これを鑑定したら解る。
≪古壁の回廊、終着点の石碑。おめでとう!君はSランクダンジョンの攻略者だ!これがあれば自慢できるぞ!≫
何故か鑑定結果が変わっていた。誰の言葉か解らないが、証明になる物なのは確か。
姉弟の表情が徐々に変わっていく。王都にある博物館にある物と酷似した石碑。鑑定結果もほぼ同じ。
「本物…」
「すげぇ…S…」
「そういう事なんで、大丈夫ですよ」
「「……」」
本当に攻略したのなら、何も言えない。
相応の実力があるという事を証明していた。
石碑を仕舞い、無事証明出来た事に安堵する。これで引き留められる事は無い。
驚愕しながらも、何かを考える様にしていたノワールは、トトの手を握った。
「凄い…ですね。凄い栄誉を持っているのに…なんでそんなに寂しそうなんですか?もっと誇らしくすれば良いじゃないですか…」
「そうだよ!すげぇじゃん!」
「…それは解っています。もう、充分案内はして貰いました。ありがとうございました」
立ち上がろうとして、ノワールの手を離し、ノワールの手を離し、ノワールの手を離すが、また手を握られる。
「…あの、離して下さい」
「嫌です。離したらもう会えません」
「…そうですね。こんな男も居たなって、たまに思い出してくれれば…それで充分です」
「それが嫌だから!離しません!」
本当に時々思い出してくれればそれで良いのだが、ノワールは納得していない様子。絶対に離さないと顔に描いてある様に、トトを睨み付けている。
「そう言われても…ノーレン、助けてくれよ」
「俺には無理だねー。こうなった姉ちゃんを止められた試しが無いよ」
「……」
ノーレンは諦めムードで、トトとノワールを眺めている。トトと目が合うと、スススと目を逸らし、少しずつ離れていく。罪悪感はあるようだ。
「ノワールさん。じゃあどうしたいんですか?」
「私は…私はあなたを助けたい!」
「助けたい?別に困ってませんよ?」
「…嘘です。私達が笑う度に、あなたは寂しそうに笑う…一人の方が楽だなんて嘘です。
こんなに優しい人が、一人の方が楽だなんて嘘ですよ。もっと、沢山の人に囲まれる様な人なのに…」
「それは、俺の選んだ道です」
みんなに囲まれて過ごす未来は、自ら捨てた。今は、その結果というだけ。
「それでも…あなたは多くの人に愛される人です。
もう二度と会えないなら…もう少しくらい、私達と一緒に居て下さい……お願いします。…あなたの事が知りたいんです。…ほんの少しでも支えになりたいんです。
この手を離して、一生後悔したくありません」
『泰人、時間なんていくらでもあるよ』
(うるせぇよ…分かってる)
お節介な剣が言う様に、時間はある。
心に余裕が無いだけ…仲良くなるのが怖いだけ。
そんな自分に嫌気が差しているのも事実だが…一歩が踏み出せない。
「じゃあ、聞きますけど…俺がどうしようも無いクズだったらどうします?」
「ふふっ、なんですかそれ。私が責任を持って良い男にしてあげますよ」
ノワールが背中を押してくれるというなら、少しだけ甘えてみよう。記憶が消されるのが怖いなら、消されない様にすれば良いと思えた。
「…はぁ…困った。なんでこうも良い女ばかり出会うんだ…惚れちまうだろ…」
「あ、えっ…」
ため息と共に呟いた言葉は、ノワールにバッチリ聞かれていたが、まだ傷心中のトトは気付かない。
これは女神の呪いなんじゃないかと疑っているくらい、恋愛には消極的になっているので惚れる事は無いと思うが…
「…なぁ、ノーレン、ノワールさん。明日から暇?」
「うん、暇だよ」
「私は、冒険者をやっていたので、時間はありますけど…何かあるんですか?」
「じゃあさ、三人で冒険しないか?」
「「冒険?」」
「そう。一緒にダンジョン攻略しようぜ」
何言ってるんだという視線を受ける。ノワールはまだしも、ノーレンは12歳くらいの子供と言える年齢。ダンジョンに行くには早い。
「…兄ちゃん、俺は直ぐに死ぬぞ」
「大丈夫だよ。強くなりたいだろ?」
「なりたいけど…」
「じゃあ決まり」
「私も、攻略となると自信が…」
「大丈夫。絶対に守るから」
「…はい…あっ、いや駄目です駄目です」
「今の俺にはノワールさんが必要なんだ。だから、一緒に来て欲しい」
「…はい…あっ、うん、し…仕方ないですね」
付け焼き刃だが、二人には強くなって貰いたいと思っているトトは、強引に了解を取った。
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そして、次の日。二人を連れ出し、北の山にあるというダンジョンに向かう。
今回は急ぎでは無いのでSGドラゴンの移動はせず、ダンジョン行きの馬車に乗り込む。
ダンジョンまでは馬車で二日。
三人で会話をすれば、直ぐに時間は経つ。
「兄ちゃん…本当に…行くの?」
「もちろん」
オハイ山にあるダンジョンに到着。冒険者が多数みえる中、怪しい男と美人と子供という珍しい組み合わせは目立つ。
「それでは、頑張りましょう」
「はい!頑張りましょう!」
「…不安だ」
ノーレンは不安で一杯だったが、姉が嬉しそうだからと我慢している。トトの隣で嬉しそうに笑っているが、そんな気持ちで良いのかと、ため息が漏れる。
この後、その不安は吹き飛ぶのだが…
「姉ちゃん…ありゃ…兄ちゃんに惚れてんな……俺…いる?邪魔だよね?」
家で大人しくしてれば良かったと後悔していた。