表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
流れの武器屋  作者: はぎま
アヴァロ大陸。
100/163

姉弟。

 ノーレンの案内で、宿屋から歩いて30分の所にある家に到着した。近道で路地裏を進んでいったので、もう帰り道は解らない。


「ここだよ…ただいまー」

「ほいほい。お邪魔します」


 小さな一軒家。青レンガで建てられた家で、他の家と大差無い。極貧という事では無さそうだ。正直、極貧だったら心が痛いから良かったと思っている。


「ノーレン?誰か来ているの?」

「あっ、うん」


 奥の部屋から女性の声。ノーレンが奥の部屋へ行き、説明している。少し揉めている様だ。

 トトは近くの椅子に座る。


「本当にその人大丈夫なの?騙されているんじゃない?」

「見た目は胡散臭いけど、大丈夫だと思うから。一回見て貰って!お願い!」


 全部聞こえているが、気にせず待つ。

 ノーレンが出てきた。証明出来る物が無いと駄目、無ければ帰ってとの事。



「まぁ、駄目ならこれやるから」


 トトは白金貨5枚を取り出し、ノーレンに見せる。再びノーレンが奥に行った。


「姉ちゃん。駄目なら薬代出してくれるって!」

「その見返りに何を要求されるか解ったものじゃ無いわ」

「そう…だけど…悪い人じゃないよ…多分。一回会ってみて」


 警戒心が強い。自分が親代わりだから当然か…と思いながら待つ。

 ノーレンは罠に嵌めた手前、トトには逆らえないので食い下がる。


 待っていると、ガタゴトと音を立てながら、奥の部屋からノーレンの姉が顔を出した。位置が低い、椅子に座っている事から足が動かないのだろう。



「どうも。トハシです」

「…ノワールです」


 少し見詰め合う。赤毛の髪に、少したれ目の人懐っこい表情をした女性。18歳くらいに見える。


「治すとおっしゃいますが、何が目的ですか?」

「ただの気まぐれですよ。ノワールに観光案内をして貰いまして、少し話を聞いただけの仲です。

 まぁ、何を言っても信用が得られないのは解っていますよ」


「…何か企んでいたら、絶対に許しません」


「ええ、見たら帰りますよ」



 少し睨み付ける表情で、ノワールが了解を出す。トトは立ちあがり、ノワールの元へ。鑑定しながら、足を観察。

 石になっているかと思ったが、見た目に変化は見られない。


≪ノワール・アーラ、火剣士レベル46、強さ1245、石化病≫


 確かに石化病に掛かっている。こっそり、収納から状態異常を回復させる短剣…カラドリオスの短剣を出し、足に当てて治療してみる。


≪ノワール・アーラ、火剣士レベル46、強さ1245≫


 簡単に治った。最近カラドリオスの短剣は眠気飛ばしに使う程度だったので、まともな使い道だなと苦笑する。


「…じゃあ帰ります」


「えっ?帰るって…」


 ただの気まぐれなので、困惑する声を無視して家から出る。帰り道が解らない…少し飛び上がって上から行く事に。



『泰人、帰って良いの?お礼にチューくらいして貰ったら良いじゃん。美人だったでしょ?』


「ああ…でも俺はまだ傷心中だ…」


『もったいないなー…でも言い寄られたら弱いでしょ?』


「まぁ…今、俺の心は段ボールアーマーくらいの防御力だからな…」


 みんなの顔が浮かぶ。寂しさがこみ上げてきた。

 独りは辛い。喋る剣と大砲が居るから、精神は保っているが、本当の孤独だったらどうなっていたか…



 時刻は夕方。少し落ち込んだので、宿屋に戻り無心で武器を作る。


『一人なんだし、娼館でも言ったら?』

「そういう所は、行かないという約束をしているから行かない」

『ふーん、誰と?』

「…別に誰でも良いだろ」


 武器を色々試作してみるが、上手くいかない。イメージが湧かない。


「あー…駄目だ。珍しいアイテムでもあればなー」


 コンコン_


「ん?はーい」

「あの、お客様に会いたいという方が居るんですが…お通ししても宜しいでしょうか?」


「誰です?」

「ノーレン様と、ノワール様です」


「帰って貰って下さい」

「いえ…ですが…」


「俺は居ないって言って、帰って貰って下さい」

「はい…かしこまりました」


 宿屋の従業員には悪いが、会う気は無い。今のトトは、一人なのに一人になりたいという、面倒な感情。



『お礼くらい言わせてあげなよ』


「…良いんだよ。見たら帰るって言ったし」


『仲良くなるのが怖いだけでしょ。また記憶を消されたらって』


「……そうだよ…悪いか。…また消されたら俺の心がもたない」


『なら、記憶を戻す方法でも探す?』


「……未練が残っちまう。それに、あったとしても…アイリスさんは、戻せないんだ」


『……ごめん』




 ______





 翌朝、トトが宿屋から出ると、ノーレンとノワールが待っていた。ノーレンはキラキラとした表情て見詰め、ノワールは申し訳なさそうにトトを見ている。


「あの…昨日はありがとうございました…」

「ええ、良かったですね」

「兄ちゃん!ありがとう!」

「…良かったな。独りにならずに済むぞ」


 ノーレンの頭にポンッと手を置き、地図を買う為に商業ギルドへ向かう。


「あ、あの!お礼をさせて下さい!…本当に帰るとは思わなくて…あの…すみませんでした」


「あぁ、良いんですよ。信用を貰えないのは慣れてますから。お礼は要りません。その約束ですからね」


「でも…じゃ、じゃあ案内させて下さい!まだ王都には名所があるんですよ!」


『泰人、断っても無駄じゃない?』


「…わかりました。お願いします」


 姉弟の笑顔を見て、少しの苦笑。


(俺に向けるこの笑顔も、その内…消えちまうのかな…)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ