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俺の名は

ああ俺は何をしてるんだろう

ずっとこのままなんだろうなあ


目が覚める。チチチと鳥の鳴き声が聞こえる。

「よっと」

朝飯に目玉焼きでも作るか。


俺はステイン・ジェシカー、27歳だ。

仕事はスライムハンターをやっている。この国はモンスターの数がスライムに偏っている。

だからスライムを処理し安全を確保する仕事が必要なんだ。

ただ別にこの仕事に誇りを持っているわけじゃない。なんとなくやってる口だ。

地元にある修練学校を卒業後、俺は就職した。仕事は何でもよかった。とにかく働いて自立したかったんだ。

ただあの時は若かったなと感じる。もっといい仕事があったんじゃないか。もっと考えて進学する道があるんじゃなかったか。もっと俺には魔法の才能があったんじゃないか、とそんな考えが頭の中をぐるぐる回る。


ジュウウ

目玉焼きに水を入れる。あとは蓋をして完成だ。

はあ、何してるんだろうなあ、俺。またよぎる。そしてまあいいかと妥協する。そうやって俺は今まで生きてきたと思う。要は何も積み上げてきてないんだ。

俺は空っぽ、空っぽの人間だあ。


「いただきまーす」

さっき焼いといたパンに目玉焼きをのせて食べる。

うむ、おいしい。

いつも同じ朝食だが朝はやはりこれに限る。

早くてうまい、最高だ。


「ごちそうさま」

幸せな時間もすぐに終わりだ。

食べてる間は幸せなのにすぐ終わってしまう。

あっという間、一瞬の幸せだ。そんなものを追い求めて日々生きていく。

俺の楽しみはこんなものしかない。


シャコシャコ

歯を磨く。ボーっとした顔が鏡に映る。

なんと覇気のない顔なんだろう。まるでこのまま死にゆくような顔だ。

当然元気になる必要もない。そんな気力もない。俺は朝の仕事を淡々とこなす。それだけだ。


「行ってきまーす」

服を着替え、仕事道具を持ち、古い一軒家を後にする。

目的はサドンドの町。ここシュバインの森から一番近い街だ。

シュバインの森と言うがそれほど森の中でもない。郊外に住んでいる感じだ。

俺はこの静かな森が好きだ。というより街の喧騒が苦手だ。

俺はまるで人を避けるように奥の森で暮らす。

まるでコビット族のようだなあ。


ガヤガヤ

街に着く。相変わらず市場通りは人が多い。

この道をまっすぐ行きハンテラー広場を右に曲がりヴェクター3丁目に入る。

このパン屋の隣が俺の職場だ。


ギイ

戸を開ける。

「おーきたか、こっちだこっち」

このうるさいのはエドウィン。俺と同じスライムハンターの同期だ。何かとお節介なところがありよく声をかけてくる。


「今日の仕事は地下水道の掃除だってなあ。なんたって最近、街にスライムの数が増えてきて困ってるみたいなんだ。俺らはそれの処理係だとよ。」

「ほーん、そうなのか」

後で正式に知らされることをなぜか知っている。こいつの七不思議のひとつだ。


「はーい、みんな集まってー」

部長が呼ぶ。ゾロゾロとハンターが集まる。


「今日の仕事は地下水道でスライムの処理です。頑張ってください。」

早い、そして短い。要件しか言わない、それが部長だ。


「だってよ、じゃあさっさと行こうぜ」

「ああ、そうだな」

シュトルムテーラーを手に取る。

これは仕事道具だ。これで掃除機の要領でスライムを吸い込み水分を絞り出す。残ったコアの重さで給料が決まるシステムだ。


コツコツ

地下水道へ向かう。中は広いが薄暗い。

奥を探索する。


ニュルン

スライムが現れた。

俺はさっと横を取りホースを取り付け、スイッチを押す。


ブオオ

スライムが吸われていく。それに合わせホースについた袋からびちゃびちゃと水が音を立てる。

基本この繰り返しだ。こいつらは単調な動きしかしない。避けるのは容易だ。


ニュルン、ブオオ、ニュルン、ブオオ

それにしても本当にスライムが多い。そもそも何故スライムができるのかというと空気中に漂う魔力が付着して生き物となるらしい。そして魔力は水に付着しやすいそうだ。だから魔物の中でもスライムの数は飛びぬけている。そんな中退治するには魔法等の特殊な技術が必要だが、凡人でも対処できる道具が発明された。それがこのシュトルムテーラーだ。操作は簡単なのは先ほどお見せした通りだろう。


「ハア、ハア」

長時間作業をしていると疲れてくる。少し広い場所で俺は布を広げその上に座る。

ふう。一息つき水を飲む。もちろん持ってきた水だ。

それにしてもこのままでいいのだろうか、いや、いいなんてこともなければ悪いこともない。ただ心の持ちようだけで見方が変わる。いつもいつも同じ作業の繰り返し、頭打ちの給料、このまま年を取っていくだけの何も変わらないこと、それにうすら寒い恐怖を感じる。

わかってる、変わらないことはない。こうしてる間にも体の力は徐々に衰えていってるんだ。自分が年を取る分だけ周りも年を取る。年を取ればガタが出る。それを感じたくないから家を出たが、外に出ても感じる感覚は変わらなかった。

まるで籠城戦だ。時が経てば経つほど状況が悪くなる。援軍は来ない。詰んでるのか?いや、わからない…なぜなら絶対に援軍が来ない保証はないからだ。連絡がつかないだけでいつか来るかもしれない。

じゃあ来ないのか?わからない。何もしないわけじゃない、自分ができる精一杯のことはしている。しかし状況は変わらない…


ゴクッ

もう一口水を飲む。なんだか堂々巡りな考えになってきたなあ。いつもこうだ、袋小路に自分は全力ダッシュしているんだ。

少し歩くか、そう思い立ち上がる。


コツコツ、ニュルン、ブオオ

だいぶ奥の方まで来たなあ。この地下水道は街の生活用水として使われている。水は森から引いてきてるそうだ。つまり奥の方に来るということは街から離れることとなりそれだけ危険な魔物が出てくるということだ。まあ、出てくるのはスライムなのだが。


ニュルルルルルルルルン

突如前方にスライムが現れた。こいつ、デカい!

高さは優に俺の身長の倍はある。幅も広い。これは、ヤバいかもしれない。


ダッダッダッ

巨大スライムと反対方向に走り出す。こういう時は逃げるが勝ちだ。危険を冒してまで倒す必要はない。

スライムの足は遅いから追いつかれるはずはない。

そう思っていた矢先だった。


ニュルルルウルルルルン

目の前にスライムが飛び出す!

キッと急ブレーキをかけ止まる。

なんということだ、囲まれてしまった。こいつら、思ったより知性があるぞ。

勝負は下に見たせいで決まる。つまり油断した方の負けだ。

俺は覚悟を決め、シュトルムテーラーを構える。こいつらを吸い取るしかない。

何焦るな、いつもの要領でやればいいんだ、そうだ、いつもの要領で。


「うおおおおお!」

続きます。

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