宝物
あの頃
私はいつものように笑っていた
私は幸せだった
それが幸せだとすら感じないほどに
しかしそれは
無知なるがゆえの幸せだった
私はまだ何も知らず
ただ すべてを信じていた
やがて
蛙は井戸を抜け出して海を知った
人の心の変わりやすさや
矛盾した自分の心を知った
裏切られ 裏切り
そうして傷つくことを知った
信じることの難しさを
知った
なぜか
知識の量と比例して
分からないことが増えた
私は何を信じていたのだろう
どうして信じられたのだろう
他人の心など分からないのに
自分の心すら
混沌として把握できないのに
信じることが怖い
信じて裏切られるのが怖い
けれど
誰も信じられなくなるのは
もっと怖かった
そして
私は気付いた
私が信じられたのは
裏切られることを知らなかったから
建前と本音の違いを知らなかったから
今は違う
私は知っている
それなのに―――
それなのに
私はいつの間にかまた信じていた
信じられる友ができた
しかも
裏切られることはあり得ないと
信じている
この気持ちは
どこから湧いてくるのだろう
それは分からないけれど
これだけは言える
今 私は幸せだ
新たな友は
私がここで得た
最高の宝