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第漆話「深き眠り!能力使用不可能!!」

a.


両親とも無口な性格で人付き合いは不得手だった、そんな二人の娘である私が無口なのは仕方ない、血筋だ。 反面教師で饒舌になったりも別にしなかった。



楽しみなんて食べることと寝ることくらいでドラマ、アニメ、漫画、小説、ゲーム、映画、スポーツ....etc....色んなものに触れてみたものの面白いと思えるものは見つからなかった。



何か楽しい事がないかなぁ、が口癖で好きな人は誰かだとか昨日あの番組を見たかだとか、クラスメイトの話題に関心が持てず将来の夢も特にない。



そんなつまらない私に友達と呼べる存在が出きるわけなんて無かった、彼女達に会うまでは....





第漆話「深き眠り!能力使用不可能!!」



b.



桜が舞い散る、入学式の日....



「迷った....この学園、無駄に、広い」



私は名門校という訳でもないのに無駄に広い校内で迷子になっいた、このままでは入学式の行われる体育館に辿り着けない。



入学する学校の選択ミスをしてしまったかもしれないと、今更ながら少し後悔。



「困った、初日から、遅刻かも....」



「あの〜もしかして迷子ですか?」



いっその事帰ってしまうという選択肢すらも脳内に浮かべていたところ、背後から声を掛けられたので振り替えると....



澄んだ青い長髪からはラベンダーのような甘い香り、目は子犬のようにくりっとして可愛い女が立っていた。これが、茉莉との出会いだった。



「うん、恥ずかしながら」



「そっかぁ、私も迷子なんだよ。百合子ちゃんとはぐれちゃって、あ、百合子ちゃんって言うのは私の大事なお友達でね」



「....」



この時に彼女の浮かべた笑顔が私の心を射止めた。今まで見てきた何よりも可愛い、惚れた、一目惚れだ。



「茉莉〜〜〜!良かった、心配したのよもう!!」



彼女の笑顔に見惚れていると、黒いリボンで赤いサイドテールを結び、若干目付きが悪いが整った顔立ちの女子が泣きそうな顔をして走ってきた、それが百合子だった。



「ごめんなさい」



「全く高校生になって迷子だなんて!....ってあなたは?」



「私も、高校生になって迷子です」



百合子が溜め息を付きながらも案内してくれたお陰で、何とか入学式に間に合うことができた。



「ありがと」



「礼はいらないわよ」



入学式を終えて発表された席もたまたま近くになって、休み時間に他愛のない話をしていると....趣味の話題になってしまった。



「趣味が食べることと寝ることくらい?」



「うん、つまらないでしょ」



「そんなことないよ!食べるのも寝るのも楽しいよ〜」



「てか逆に面白いわよ、アンタ」



今まで周りの人達は私をつまらない人間だと避けていたし、自分でもそう思っていたから驚いた....



「うんうん。面白い友達が出来て嬉しいよ私」



「友達....?私が....」



「アンタ以外に誰がいんのよ」



「嬉しい、友達なんていなかったから」



「えーこんなに可愛いのに」



「かわ....」



「寂しい人生とはおさらばよ、私達が友達になったからには退屈な日々は送らせないわ!」



「う、うん」



こうして私に人生で初めての友達が出来た、ふたりも....



初めて出来た友達と一緒に食べるご飯は今まで一番美味しく感じたし、休日に色んなところに遊びに行ってみると、前までは楽しくなかったものも楽しく感じられた。



「ふたりが、いるから....かな」



「嬉しいこと言ってくれるわね」



「やっぱり皆で遊ぶのが一番だよ〜」



退屈な人生を送ってきた記憶が嘘のように楽しい時間が過ごせた、茉莉と百合子と出会えて良かった....




....なのに、そう思っていたのに。



「あ....そんな....」



友人に蔑んだ目で見下ろされて、百合子は今にも泣きそうな顔をしている。



「まさか貴方が、茉莉にそんな酷いこと、してたなんてね。最低....最悪....」



初恋の人である茉莉を、親友である百合子が苛めて苦しめて、身も心にも消えない傷を付けたことを知ってしまった。



知らなければ良かった、知らなければ親しい友人に対し怒るなんてことしなかったのに....軽蔑なんてせずに済んだのに。



「でも百合子ちゃんはもう....隠してた訳じゃないの、私が言わなくて良いって気にしなくても....むしろ忘れてってお願いしたの!」



やっぱり茉莉は優しすぎる、そこが長所であり短所でもあるけど....



改心したとはいえ百合子が自分を酷く苛めた事実は消えない、一生赦さず憎んでも良いくらいなのに....庇うなんて。



「良いのよ....悪いのは私だから」



何時もの強気な態度は何処へやら....友人に過去の罪を知られ罵倒されショックだったのか?



「茉莉は私が....私が貰うから、あなたなんかには、あげない。それにもう、貴方は友達じゃない」



「そっか....仕方ないわよね....あんた茉莉のこと....好きなのね、だったら余計によね」



「あ」



つい感情的になってしまい、“貰う“って堂々と....茉莉の顔が赤くなっていく。



でも私は動じない、むしろ都合が良いとさえ思った、どのみち告白するつもりで居たのだから。



「そうだよ。私は茉莉のこと、好き」



「やっぱり、尚更....嫌われても仕方ないわね....」



「ちょっと待ってよ!私はもう百合子ちゃんのことっ!」



「あなたが許しても、私が、許せないの。こんな最低なっ....!?」



頬に痛みが走る、一瞬何が起こったのか理解できなかった。



理解したくなかった....茉莉が涙を流しながら私の頬を叩いたからだ。




「希里子ちゃんの馬鹿、私が良いって言ってるんだよ!! そりゃ希里子ちゃんが苛められたなら赦さないのは勝手だけど、苛めらてれたのは私、その私が赦してるって、もう良いって言ってるんだよ!!」



「茉莉落ち着いて、全部私が悪いのよ!希里子はアンタのことを想って....!!」



「百合子ちゃんもだよ!いつまでも引き摺らないでよ!!気にしないでって言ったの覚えてないだなんて言わせないから!!」



「ご、ごめん....」



いつもは大人しくて、優しい茉莉....そんな彼女がこんなに感情的になるなんて。顔を真っ赤にして怒鳴るなんて....



「私は、そんな....」



「帰ってよ....私のこと想ってくれてるのは嬉しいけど、私の大切な友達に酷いこと言う人なんか....私だって希里子ちゃんなんて嫌いだよっ!」



「嫌い....」



愛する人に言い放たれた“嫌い“というたった二文字の言葉。それは今までのどんな言葉、どんな怪我よりも私に痛みを与えた。



「っ....!」



気が付くと私の脚は勝手に走り出していて....逃げた。怒った茉莉が怖かったから? 違う、現実から目を背けたかった....






c.



希理子が去った時、私は追いかけようとしたが茉莉に制された、追わなくていいよ....と。茉莉は涙を流していた。



「....」



空気がとても重い、茉莉は暗い顔で椅子に座ってからぼうーっとしている。


太刀華先輩が去った時と同じような状態、かなり落ち込んでいるようだ。


話しかけたかった、慰めたかった。



けれどこうなった原因は私だ....だから言葉を選ぶのにかなり時間がかかり、口に出せたのは夕御飯の時だった。



「さっきはありがとね茉莉、けど....希理子はアンタのこと想って言ってくれたのよ。私が最低なのは事実だし....」



「だからっ....!!ううん....最低なのは私もだね、確かに私のこと思って言ってくれてたのに、言葉選ぶの下手だよ私、謝りに行こう」



「私も嫌われたままなんて嫌だわ。話し合いたい....」



「うん、一緒に行こ」



ここから希里子の家までは約三十分もかかる....



けど一刻も早く私は希里子と会いたかった....いや茉莉と会わせてあげたい、電話すれば直ぐに会話できる。



けど直接会って話した方が絶対に良い....



去り際の今まで見た事のない哀しみに満ち溢れたいつも無表情な彼女が見せた泣きそうな顔を思い出すと、そう思わずにはいられなかった。




d.


「久々に帰ってきたな」




「うん、たまにはね」



茉莉と百合子を守る為に最近は鷹椙家に寝泊まりしていたが、あんなことがあって久々に帰宅した。



だが久しぶりの自宅というのに居心地は良くない、布団の中に潜っていても、ご飯を食べているときも、お風呂に入っている時も“嫌い“という茉莉の言葉が私の頭の中で延々と繰り返されるからだ。



何でだろう、何であんなに茉莉は怒ったの?分からないよ....



「....はぁ」



....晩御飯も残してしまった....失恋でもしたのか?とお父さんには本気で心配され、お母さんにも明日は隕石、落ちるかしらとまで言われた。


無理もない、高熱が出ようとお腹壊そうと絶対に完食、それどころかお代わりまでしてきた私が産まれて初めて残したのだから。



しかもメニューが大好物のハンバーグと豚丼だったから尚更だろう。



「失恋....かもね。嫌われ....ちゃった....」




電気も点けずにベッドの上に大の字に転がる....色々と考えていると、いつの間にか涙がぽろぽろと零れてきた。



「う、うぅう....うわああああん嫌われちゃった、嫌だよ、嫌だ、嫌われるなんて嫌だよっ!!分からないよ何であんなに怒ったの?私は好きなのに....嫌いになれないのに!!」



....産まれて初めて出来た友達と喧嘩して、産まれて初めて食事を残して、産まれて初めて大声で泣いた。



一階にいる親にも聞こえてしまっているだろうが、涙を止められない。



「お友達と何かあったのかしら、帰ってきたのも....」



「今はそっとしといてやれ」



....と両親の会話が微かに聞こえてきた、やはり聞かれていたことを確信し、恥ずかしくなってくる....それでもまだ涙は止まらない、もうベッドのシーツも枕もびしょびしょに濡れてしまっていた。



「はー....はー....」



泣き出してから一時間も経って、やっと落ち着いてきたので涙を拭き鼻を噛んでいると、スマホが鳴った。



もしかしたら茉莉からかもと思ったが、その期待は呆気なく裏切られた、電話番号は茉莉のものではなくVatの物からだ。



今はそんな気分じゃないけど無視する訳にもいかないので電話に出る。



「もしもし、はい....分かりました」



どうやら近くの山道で女性が絞殺されるという事件が発生し、現場調査に向かったVat隊員が全滅、至急私に出動要請が出されたらしい....



「この要件が終わったら、謝ろう....茉莉に。百合子にも言いすぎちゃった....赦して、くれるかな....きゃっ!」



突然、窓ガラスが割れて足音が部屋の中に入ってきた、“足音“だけで姿は見えない....この“能力“は間違いなく奴だ....



予想通り、季節外れの浴衣姿に水風船を持ったお面の少女....夏目 鈴音が足音が止まった場所から姿を現した。



「今一人らしいなぁ、くくく!!三人集まってりゃ良かったのによ〜〜喧嘩したのが運の尽きだなぁ。死んだがスコロペンドラは誉めてやらねえとなあ」



そう言って夏目は水風船を叩き割ると、緑色の体に巨大な目をしたカメレオンのごときアーク態へと変貌し、舌を突き出してきた。



「正体を現したね」



だが遅い....!!



「うーむ、やっぱ当たらねぇなあ....流石と言ったところだな」



当然だ、この“加速“能力があれば全てが....雨粒も、車も、弾丸さえも遅く感じられる程に速くなる。



通常の人間には難しいアークの攻撃を回避することすは容易い、時々私のスピードについてくる奴もいたが....追い越されたことは一度もない。



「捕まえました〜!」



「あうっ!?」



私の脚が何かに巻き付かれ床に叩きつけられる、この音によって両親がこの部屋に来てしまうと思ったが足音すら聞こえない。


寝ていて気付かないのか、それなら都合が良いのだが....



「いたい....それに、流石に今の音で起きないなんて鈍感にも....まさか」



「あらら、可愛らしい敵さんだこと。あら察しました?あなたのご両親は始末済みだわ」



夏目の声じゃない....顔を上げると、巨大な蛭のようなおぞましい姿のアークが頭部の真っ黒で巨大な口から舌を伸ばして私を捕らえていた。




「くっ....よくも、こんなもの」



親を失った悲しみに暮れるのは後でもできる、今はこいつらを倒すことだけ考えなければ....



それにはこの拘束状態から解放される必要がある、手ではなく脚を封じたこいつのミスだ、私は鋼鉄すら切り裂くナイフはを使うことを知らないのか。



銀色の刃が赤い舌を切りつける、しかし逆に粉々になってしまった。



「なっ」



「残念ね〜、私の舌はダイヤモンドの十倍は硬いのよ」



「痒い....」



舌で脚から血を吸われてしまったようだが、痒い程度で貧血にすらならない....



武器が駄目でも、能力がある。加速能力が発動されればこの舌が腐敗するまで加速させれば逃れられる....



「あれ....」



「貴女の加速能力、とても厄介だけど私の能力程ではないのよ」



「何で、能力が」



幾ら念じてもスピードは変わらない、能力が使用できない。



二対一での戦いも今まで幾度とあったが乗り越えてきた....しかしそれは“能力“があったからだ。



いくら能力者の肉体の強さが常人の数倍であっても能力を使わずアークに勝つことは難しい....



「私はね、相手の能力を奪うのよ....今です、鈴音様!」



「厄介な、能力....」



だから、この“能力を奪う能力“を持つというアークは能力者の天敵とも言える、かなりの脅威だ。



そんなこいつですら従っている、“夏目 鈴音“....強敵二匹と、能力を使わず戦うしかないなんて。



「きゃああ?!」



「しまった!!」



私は身体中に力を込めて一回転、蛭のアークの舌が私に振り下ろされた筈の手刀の真下に移動し断ち切られた。



「解放、された」



「痛いれふ〜」



「このっ....」



夏目が伸ばしてくる舌を掴んでジャイアントスイング、屋外に引き摺り出せた....屋内ではやはり戦い憎い。



「があああああ!!」



「よし」



「ぐふっ....能力が使えずとも強いな....久々に楽しめそうだな」



ふらふらと立ち上がった夏目の姿が消える、透明能力は厄介だけど....



「きええよくも夏目様を〜!」



「っ....うるさい」



蛭のアークは私の蹴りで吹き飛ぶ、能力は厄介だけど素の強さは大したことないみたいだ。



「きゅ〜」



「奴は何処に....」



殺気も完全に消えている。足音も消こえない、と言う事は動いてなかったりして?



試しに背後に蹴りを入れてみるが手応えはない....足音も立てずに移動しているのか。



「いっ....」



腹部に連続で衝撃が走る、目視は出来ないが恐らくパンチを放ったのだろう。



「こっちだぜ間抜けが....見えなかったのか? 眼科行きやがれくくく!」



そして恐らく、今攻撃してきた場所からは既に移動している....



「くっ....次は、何処から....」



ダイヤモンドの十倍は硬いと自称する配下である蛭の舌すら簡単に切断する腕から繰り出される連続パンチ攻撃は痛かった。



ただのパンチなのに、雑魚アークの武器を食らった時並みの苦痛....やはりこいつは強いっ....!



口から血が出てくる....“血“か....私はさっき破壊されたナイフの破片で腕を軽く切りつけて振り回す。



「くく、何処から攻撃が飛んでくるか分からぬ恐怖にイカれたか....ぬおっ!?」



空中に血が浮かんでいる....そこへさっきのお返しに連続パンチを見舞ってやる。



「大当たり」



今度は手応えがあった。吹き飛びながら姿を現した夏目は電柱に衝突し伸びてしまう、攻撃力は高かったが、耐久力は低いようだ。



「馬鹿な〜〜〜〜」



なんとか二匹ともダウンはさせられたけど、能力を失った私に止めを刺すことは不可能。



親の亡骸に向かうのも後だ、今は茉莉の元へ....治癒能力なら失った能力もまた戻るかもしれない。



「今のうちに....逃げ....」



「に、逃がさんぞ〜、今だやれお前ら!」



夏目がむくりと起き上がったかと思うと私に指を差す。だけど私に言った訳ではないよね....



「お前ら?」



足が動かない....!!気付くと無数の小さなカメレオンの舌に拘束されていた。



恐らくこいつらも透明になって待機していたのだろう、主人の命令を....



「今度こそ終わりだぜ」



夏目の....カメレオンのごとき怪物のピンク色の長い舌が、動きを封じられた私の心臓を貫き “それ“ ごとゆっくり引き抜かれた。



「あ....ああ....」



「流石に能力者は即死しねえか?逆に辛いな」



....グシャリと目の前で自分の“心臓“が握り潰されると同時に全身から力が抜けてコンクリートの冷たさが全身に広がる。



「全くですね....くすくすくす」



うつ伏せに倒れて動けない私を直接は見えないけど....かなりの邪悪な念と殺気を纏った二つの視線が見下ろしているのが分かった。



「死んじゃったのかしら」



「この程度とはつまらん奴だな、少しは楽しめるとは思ったんだがしけたぜ。帰るわ」



「ふふふ、そこで孤独に死ぬがいいわ!....あ、お待ち下さい〜!」



二人がかり、しかも殆ど部下の能力で私を倒した癖に偉そうなことを言う夏目とその配下の蛭は消えて言った。



....私の命の灯火も消えかけている、声を出す力も残っていない....責めて死ぬ前に茉莉に会いたかったな。



「き、希里子ちゃん!!」



あれ、幻聴....?力を振り絞って顔をあげると茉莉と百合子が駆け寄ってくるのが見えた....幻覚かな....



「....」



「希里子ちゃん!!しっかりして、今治癒してっ....」



私の手が握られる、この温かくて優しい感触は本物の茉莉の手だ....傷口は塞がれ出血は止まっていくが意識は依然朦朧としている。



瞼が重い....まだ茉莉の顔見たいのに勝手に下がってくるよ、困ったな



「傷は治したんだよ....しっかりして、目を開けてよ....!」



「そうよ!こんな所で寝てんじゃないわよ!!」



「心臓....を取られちゃったから、流石に無理だよ。治癒能力にも限界が....ある、私の体は....死んでるの....命は治せないよ」



何とか掠れているが声を出せた、想いを....伝えなきゃ、最期に....



「そっ、そんな!!」



「百合子....茉莉のこと、頼むね....」



「....任せなさい、絶対に守り抜くから....アンタの仇も取ってあげるから」



強がっているようだが、百合子の目には涙が溜まり声も震えている。初めて会った頃から変わらない、素直じゃないんだから....



「それ聞いて安心したよ....じゃあね、お休み....死ぬのって以外と怖くないね....」



「じゃあ何で泣いてるの」



あぁ、私は泣いているのか....自分でも気づけなかったよ。



死ぬのが怖いから泣いてるのか、死ぬ前に茉莉に会えて嬉しくて泣いてるのかも分からない....寂しいからかもね。



「....茉莉こそ、泣か、ないで....笑顔が、みたいな」



「えっ?うん....えへへ」



茉莉は若干ぎこちないけれどいつもの笑顔を、一目惚れした笑顔を見せてくれた。



最期に見られて....満足だ、産まれこれて良かった....



「その笑顔に、一目惚れしたんだ」



「私っ....ごめんね私さっきはあんな....」



涙を我慢し、謝りながらも無理して笑ってくれる茉莉の横で百合子が声を圧し殺して泣いている。



私こそ百合子にさっきは酷いこと言っちゃった....そのせいで茉莉も傷付けた。



大切な、大好きな二人に謝らなきゃ....多分もう限界だから....最期だから....



「百合子、あなたのこと、友達として....茉莉と同じくらい大好き....だったよ。茉莉....百合子....ご、め....い....あ....が....う」



い、言えた....未練が無いと言えば嘘になるけど、満足だよ....今の百合子なら茉莉をきっと守り抜ける。



根拠はないけどどんなアークにだって、百合子と茉莉の二人なら勝てるって信じてる。



だから....二人で....



e.



死ぬべきは彼女の方だったのではないか、さっさと死んで地獄へ落ちれば良いのは私じゃないか?



希里子の自宅へ向かう途中に遭遇した残酷な運命にそう思わずには....



「いや....もう決めたのよ。死んだら償えない....だから、できるだけ生きて生きて....償い続ける」



「そうだよ。死んじゃったら、それこそ赦さないから....」



希里子の亡骸に縋り付いて泣いていた茉莉の瞳には深い哀しみと憤怒の感情が入り交じっている。



「死なないわよ、希里子にアンタを任されたから」



「ううう、うわああああああん!!」



「ぐっ....」



誰か通りかかるかもしれないが、涙を抑えられない....私と茉莉は希里子の亡骸を抱き締めてたくさん泣いた。



....暫くして、生前に彼女が教えてくれたVatの電話番号にかけ、希里子の死を伝えた。



「そうですか....希里子さんは、お弁当を忘れた私や同僚におやつをよく....わけて....くれ、て....すみません....すぐに回収に向かいます」



電話の向こうから聞こえてきたおじさんの啜り泣きにつられて、また泣きそうになる。



「お願いします」



私の声はまだ震えていた...



「百合子ちゃん....私許せない、希里子ちゃんを殺した奴らが....希里子ちゃんに勝ったような奴らだけど....」



「えぇ、絶対に倒すわよ....どんなに強い相手でもね!」



茉莉が力強く頷いて、涙を拭う。



私も気持ちを切り替える。今は泣いてる場合じゃない、勝つんだ....仇は絶対に討つわ!



「へぇ....楽しませてくれんのか? てめえらの仲間はつまらなかったが」



いきなり背後から粗暴ながらも幼い声が聞こえてきた、この声は....やっぱり、やったのはアンタか....



「そっちから出てきてくれるなんてね....!!」



電柱の上に夏目 鈴音が、私と茉莉の大切な親友を奪った憎い奴がまんまと姿を現した....何やら浴衣の帯の辺りに大量の血が付いている....きっと茉莉が....



「仇は討たせて貰うよ!」



「その前にブルートエーゲル!!そいつらの能力を奪いやがれ!」



「お任せを!!」



排水溝から無数の小さな蛭が這い出て合体し人間大のアーク姿に変貌する。



「アンタから相手ってわけね!」



「新しい能力にお目覚めになったようだけど、私はスコロペンドラとは違いますわ」



「スコロペンドラ?ああムカデ野郎のことね....!!」



私は拳を突き出す、しかしアークの舌に巻き付かれて攻撃は不発に終わる。



「気持ち悪い」



ぬるぬるしてる....



「ふふふ、血を吸ってやりますわ〜....あ、あら?」



「このキモい舌で血を吸った相手の能力を奪うってわけね」



夏目の命令は能力を奪え....こいつには“能力を奪う能力“があるようだ....恐らく希里子が倒された原因はこれだ....



その厄介極まりない舌も、冷凍してしまえば機能できないようだけど!!



「ひえっ....冷えっ....」



凍り付いた舌を引きちぎる、細長いし....武器になるわね、そして舌を引き抜かれたアークは夏目の後ろに隠れてしまった。



「チィッ....役立たずが!!」



「すみません〜」





「地獄に降るヘル・フォスキーア....!」



茉莉が地面に軽く電気を流すが何も起こらない、地雷や爆弾はないようだ....



「何も無いみたいね、これで思い切り動けるわ!....ん?」



「きゅううう!」



何匹かの小さなカメレオンが黒焦げになって姿を現した、こいつらが地雷変わりの武器だったようね。



「くそっ....!」



「す、少し痺れちゃいました」



舌打ちして夏目がカメレオンのようなアーク態に変身し舌を伸ばす....!!



「....この舌か!」



しかし茉莉は容易くその舌を掴んで....



「ぐっ....離せ!」



「この舌が希里子ちゃんを....!」



「ぐあああああああ!!」



腕から電流を流す、舌を伝い本体にも流れてあっという間に黒焦げにしてしまう....!!



「そんな馬鹿なっ....」



夏目は慌てて姿を消すが、血が空中に浮いている。力は強いけど頭は良くないみたいね....血を洗い流さずに現れるなんて!



希理子のお陰で、奴が姿を消しても居場所がわかる....



「茉莉、退いて....」



私は血の浮かんでいる場所へ夏目....希里子の仇に引導を渡すべく、冷凍し引きちぎった蛭のアークの舌を投擲する。



「死になさいっ....!!」



「ぐえっげぼぼぼっ....」



姿を現した....氷の舌が胴体を貫いている、その部分から身体が段々凍っていく夏目....



「馬鹿なっ、この俺は最強なんだあああああ!!」



....断末魔の叫びとともに身体が完全に凍り付いた親友の仇を....私と茉莉が同時に放った拳が粉砕する!!



「....あとは」



夏目の部下のブルートエーゲルアークだ、こいつを倒すことでやっと希里子の敵討ちが果たせる!





「うああああ、まさか貴女がやられるなんて!逃げますう」



「逃がさないわよ!!」



逃げ出したブルートエーゲルアークの背中に向け杖から冷却ガスを放つ。


氷の像と化したそれを私が空中に放り投げ、それを茉莉の電撃が粉砕する!!



稲光と降注ぐキラキラした氷の粒が綺麗に見える....



「これでアンタの仇は取ったわよ」



「希里子ちゃん....」



希里子が戦闘時に使ってたナイフを見つけた、粉々になっていたけれど....



「形見になるわね」



「うん....」



これで四人の殺人鬼のうち一人を倒すことができた。


けれど私達も一人の親友を失ってしまった....この悲しみは一生消えることはないだろう....



その夜、ベッドの中で私と茉莉は抱きあい、涙を流しながら眠りについた....




つづく

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