第陸話「新たなる覚醒!《めざめ》」
a.
それは太陽が燦々と照り付け蝉が合唱を繰り返す中学一年の暑い夏のある日、母の友人が娘を預かってくれないか?と頼んできた、普通なら断るか承諾するにしても暫く考えるのだが、お人好しの母は即決。
こうして我が家に彼女が現れた。
「あ、あの、水崎 茉莉です。よろしくお願いしましゅ!あっ、えと噛んじゃった....」
これが初めて聞いた茉莉の台詞だ。
今思い返すと凄く可愛いのに、当時の馬鹿な私は如何にも鈍臭そうな奴が来たものだと思っていた。
第陸話「新たなる覚醒!」
b.
出会って最初の数日はまだ良かった、ご飯も掃除も茉莉と交代交代でやっていたし話掛けられたら最低限の言葉数で返していたから。母親の目もあったし、 でも日に日に彼女に対する鬱憤は溜まっていった。
予想以上に鈍臭くて失敗ばかりだったのだ....食器は割るし塩と砂糖は間違えるし、その度謝ってくるが必ず泣きそうな表情を浮かべるのが、泣けば良いとでも思っているようで癪に障った
「なんかアンタが来てから成績下がるわ、試合の負けは増えるわ散々なんだけど」
「えっ、あのっ、ごめんね....」
今思えば自分の勉強、練習不足が理由なのにそれを認めたくなくて、茉莉のせいにしただけ....
夏休み明けの学校初日に、それは起こった。
昼休みに私は先生に職員室に呼び出され、怒られるのかなと思ったが心当たりはない、嫌な予感がする....そしてその予感は的中してしまう。
「先生....何ですか?私宿題ちゃんとやったし校則もちゃんと守ってます」
「ふぅ....落ち着いて聞いてね....あなたのお母様が、事故で亡くなられました....」
「えっ?」
遺産で十分に私と茉莉の二人分の学費や生活費はあるけど、母を失った悲しみはあまりにも大きかった
優しいお母さんだったのに周りからも好かれていた....尊敬できるお母さんだった、大好きなお母さんはもういない、会うこともできない....
お葬式が行われている間、あいつが....茉莉が来てから何一つ良いことなんかない。
自分の実力不足なのに赤点は増えたし部活のレギュラーから外されたのはあいつのせいだ。悪いのはスピード違反をしていた軽自動車の運転手なのにお母さんが死んだのはあいつが家に来たからだ。
と、理不尽な憎悪を茉莉に対し募らせていた....
「えっと」
「私の鞄も教室まで持って行きなさいよね。ジュースも買ってきてね、私と井川と詩織と芽季の分、バイト代あるでしょ」
「う、うん....分かったよ」
「うは〜百合子ん家の居候マジ使えるね」
母が亡くなり心の荒んだ私は、すっかりグレて三人の不良友達とつるみ始め、補導されることも増えていった。
そして私の茉莉に対する陰湿で最低ないじめが始まる....
彼女達と私の分の鞄を茉莉に学校に一人で持っていかせ、遺産で生活費は十分あるんだからする必要のないバイトで貯めたお金で買わせたり....
「不味いわね、作り直しなさいよ!!」
「は、はいっ!」
一生懸命作ってくれた料理も、少しでも辛すぎたり甘過ぎたりすると食器ごと引っくり返したり....
「ちょっとまだホコリ残ってるわよ!」
「ごめん....」
自分は母が居なくなってから家事は全部、茉莉に任せきりでゲームばかりしてる癖に少し埃が残っているくらいで文句を言ったり....
だがまだこんなのは序の口で、理不尽ないじめは段々とエスカレートしていった
「あれ!私の宿題知らない!?」
「さぁ知らないわよ」
頑張ってやった宿題も捨てて、次の日先生に怒られたと聞いた時は内心ざまあみろと笑った。
「また!?」
「文句あんの?そろそろバイト代入ったでしょ」
「でもそれじゃ....」
「居候が逆らうなよ」
「うぅ....」
茉莉のバイト代が振り込まれる月末になると、汗水垂らして頑張って貰ったバイト代を強引に取り上げて友人と夜遊びに明け暮れた。
「あーもうイラつくわね!」
「きゃああっ」
未成年の癖に入ったパチンコ店で負けた上に補導され、帰宅すると茉莉に八つ当たり。
「ごめんなさい」
「無理」
「きゃあああ!」
自分が悪くないと分かっている筈なのに、泣きそうな顔で謝る彼女の髪を引っ張りあげて何発も顔面を殴った。何回謝られても何本歯が欠けても何発も....
「今日はこれくらいね、あースッキリしたわ」
「うぅ....ぐす」
理不尽に耐えきれず茉莉は泣いたけど、私は罪悪感を感じなかった。
「喧しいわね!泣くなら外で泣きなさいよ」
そう言って私はすすり泣く茉莉を家の外に追い出して鍵を閉めた。夏の夜は冷え込むのに....一方自分は暖かい布団でぬくぬくと寝る
翌日、茉莉は風邪を引いていたがそれでも何時も通りマスクをさせてご飯を作らせ掃除をやらせた。鞄も持たせた、愉快な気分で苦しそうな茉莉を見ていた。
「ねぇ茉莉さぁ、池田にコクられたらしいよ〜」
「マジ〜あんなトロい子に〜顔は可愛いけどさ〜」
「でも断ったんだってぇ私池田狙ってたのにムカつくぅ〜」
次の日、いつもの三人と会話をしていると茉莉がクラスメイトの池田に告白されたらしいと聞く。
どうやら健気で優しい態度が気に入ったようだ....そして池田は井川の好きな男子....都合が良いなと私は微笑を浮かべずにはいられなかった。
「お灸を据えてあげましょう、きっと調子に乗っていると思うから」
私と三人は先生の悪口や低レベルな恋愛ドラマ等について会話しながら自宅へ向かう。
茉莉は先に帰っていた、突然の来訪者たちに彼女はちょっと驚いた顔をして「こんにちは」と深く頭を下げた。 彼女達が自分にとって決して良くない相手だと知っているから不安そうな顔を浮かべている。
「あのさぁ、茉莉ちゃん〜」
「えっ、はい、何ですかっ....!?」
他の二人と同じく頭のネジが緩そうに見えるが実は頭が良く、狡猾な井川が茉莉をホールドして動きを封じ私に顎でやれと伝えた、詩織と芽李も両腕を押さえて笑っている。
「いやっ、離してください!」
「茉莉、これが今日のアンタの晩御飯ね」
私は“それ“を箸で摘まんで茉莉の口へと運ぶ。
「嫌っ、嫌ああああ!許して、そんなの食べられないよ」
茉莉が取り乱し暴れる、無駄な抵抗って奴だ....三人がかりで押さえつけられては....
まぁ、無駄と思っても抵抗するのも仕方がない。私が茉莉に食べさせようとしたのは“蚯蚓“に“蟋蟀“などの気持ち悪い虫....しかも生きたまま....
「口開けなさいよ〜」
硬く閉じていた口を、鳩尾を思い切り殴ることです開かせた隙に蠢く蚯蚓と蟋蟀を無理矢理口に入れた。
「んんん〜んん!?げぼっ、ごぼっ....ええお、おええ!」
「吐かせないわよ、飲み込みなさい」
茉莉は青ざめた顔で今までに無いほど涙を流し放心状態になった。こんなことをされたら当然だ....
この時のトラウマで、茉莉は蚯蚓や蟋蟀を見るたびに吐き気を催してしまう。
その様子を見る度に私は激しい後悔に襲われる、何でこんな非道な事をしてしまったのだろう....と
赦されない....もう償い切れない罪を犯してしまっていることに愚かな私はまだ気付いてない
「つんつ〜ん、あっれ〜反応なし〜」
「マグロになっちゃったのかなぁ〜」
「良い気味ね」
私達は動かなくなった茉莉の制服を脱がして背中に煙草を押し付けた。かなり熱い筈だがそれにすら無反応なのが面白かった。
この時の火傷は未だに残っており、お風呂に一緒に入るときに背中を見ると涙が自然と零れてしまう。
取り返しのつかないことをしてしまった、一生消えない傷を心だけでなく体にも付けてしまったと....
「壊れちゃったかしら」
「折角だしまだ遊びましょ」
次の行為も反吐が出るくらい最低で下劣だった。今までも最低なのだが、これは特に....
ぐったりと横たわり最早抵抗する気力もない茉莉の靴下を脱がして素足、セーラー服やスカートを脱がして胸もお尻も撮影し、その画像をクラスの男子に金と引き換えに渡したのだ。
茉莉はこの時から女の子らしくて、優しくて小動物のように可愛いらしい。
男子からかなり金を集めることができたし、女子の中にも茉莉をそういう意味で好きな奴がいて、金をやるから画像をくれと言ってきた....
それが茉莉の味方ぶって私達にも物怖じせず噛みついてきたクラス委員長だった時は失笑した。
....これこそ取り返しのつかない、自分の裸の画像を数多の人間が持っている。
どんなことに使われるか想像しただけでおぞましく、ネット等で流出したらと考えると気が気でないだろう。
だけど私は自分の行いに全く罪悪感を感じずに集めた金でまた夜遊びを繰り返す....パチンコ、カラオケ、ゲームセンター、ディスコ....
「ねぇ茉莉」
「はい」
「分かってんじゃない」
もう茉莉は感情を失ったかのように淡々とした態度、絶望しすべてを諦め、もうどうでも良い....と言うような
言わなくても自ら金を出すし鞄も持つ、ジュースも買ってくるようになった。
私がイラついている時は正座して殴られるのを待つ....
「あ〜良い気味だわ私の人生最高」
清々しい気分だった、こいつは幾らいじめても居候だから下手に出る。誰にも言わない、最高の玩具を手に入れた....!!
でも中学二年の夏、丁度茉莉が来てから一年経った頃、遂に遅すぎる天罰が下る。
私は友人達と待ち合わせの約束をしている人気のない廃墟に向かい到着すると何時もの三人以外に熊のような厳ついスキンヘッドの男がいた。
「誰よこの人?」
訊ねても三人は口角を上げるだけで何も答えない。
「おうこれが百合子ちゃんか、上玉だな....遊びがいがあるぜ」
「遊びがい?ね、ねえどういうこと!?」
てっきり肝試しでもするのかと思って来たのに、どういうことなの!?
「う〜んとねえ、お兄ちゃんに百合子ちゃんの写真見せたら気に入ったみたいでさ」
どうやら、この男は詩織の兄らしい。
恋愛ドラマやスイーツが好きで中身は下衆だが一見清楚な詩織と本当に血が繋がっているのか怪しいくらいに似ても似つかない!
「ま、まさか私を....」
「あー犯したりはしないから安心してよ」
詩織が嗤いながら私を見る、その眼は茉莉をいじめている時と同じ目だった。
「だって俺は、可愛い娘を痛めつけることでしか満足できねえんだよな....」
その言葉を聞いて脚がガタガタ震え始める、こんな熊みたいなガタイの奴に殴られたら死んじゃう....!
「行方不明者が増えたな」
あ....その言葉の意味を理解してゾッとした。私を家に返すつもりなんてないんだ....少なくとも生きては返す気はないんだ!
「な、なんで私達は友達でしょ!?」
「そうだよ、友達だよ〜だから友達の私の、お兄ちゃんの相手してあげてね〜」
「それにぃ〜百合子だって友達どころか一緒に住んでる茉莉ちゃん苛めてただろうが?えぇ、おい」
芽李がドス黒い本性を現す。
冷や汗を流しながら全力で走って逃げる、私は運動神経は良いんだ。四人の中でも一番に、脚の速さだって....!
「きゃっ!」
けれど逃亡は失敗に終わる、何かに引っ掛かって転倒してしまったのだ。
「さっすが井川〜」
「ふっふふ、こんなことも〜あろうかとぉ!ワイヤー張っときましたぁ!」
「何逃げてんだ?あぁ!?」
三人の悪魔と、一人の鬼が私を見下ろしている....怖い、怖い!!
「いや....やめて来ないで!」
詩織の兄にトマトの如く潰されかねない程に強く頭を掴まれて、私の脚が浮く。そして....鳩尾に大きな拳がめり込み呼吸が出来なくなる、苦しい!!
「ぐひひひ、苦しそうだな....たまらん」
「お兄ちゃん〜お礼のケーキよろ〜」
「あぁ....何個でも買ってやるよ」
「やったー!」
イカれてるわ、この兄弟....!
「あ....うぅ....もう許しっ!?」
「次はどうしようかなぁ!」
「が....はっ....」
思い切り地面に叩きつけられて全身に激痛が....そして間髪入れずに背中を鉄パイプで殴られる。あぁ、もう死ぬんだと思った....
けれど人間とは意外としぶとい物で結局死ななかった。すぐ殺したら勿体ないと言ってじわじわ時間をかけて殺すつもりらしい。
....お腹すいた....喉渇いたな....痛いな....寒いよ....帰りたい....あいつらはもう帰ったけど私は木にきつく縛られて逃げれない。
熊や猪が出たら....もしかしたら幽霊とか出ないわよね、怖い、寂しい....
「誰かっ、誰か助けてよ....ぐすっ」
助けて? 誰が助けてくれるんだろう、親はもうこの世にいない。あの友人達は元凶だし論外....クラスメイトも私の陰口言ってるのを知ってる。
茉莉は....いや一番あり得ないか....あんなに自分をいじめた奴がいなくなって、むしろこのまま帰って来るなと思っているに違いない....
自業自得なのだが私は絶望する。
友人に裏切られ、いたぶられ、誰にも助けて貰えない....この時、はっと気がついた....茉莉も今の私と同じ境遇だ。
新しい家族の私に裏切られて、散々いじめられて、居候という引け目から誰にも助けを求められない。
「茉莉....あんたは....」
ガサッ、落ち葉を踏む音が聞こえた。戻ってきたんだ、あいつらが!
「うぅ....」
心臓が激しく鼓動する、耐え難い恐怖に襲われる。嫌だ、まだあんな苦痛を味わうなんて絶対に嫌だ!!
「お待たせ〜いいね、まるで鼠取りに引っかかって絶望する間抜けな鼠みたいな表情!」
詩織が私に邪悪な笑みを見せた時、涙が流れた....感動して泣いたり辛くて泣いたこともない。
赤ん坊のとき以来初めて泣いたのが、恐怖によるものだなんて恥ずかしい。
「さぁて今日も楽しみますか」
どうやら今日は詩織と兄だけ来たようだ、他の二人はどうしたの!?と、せめて苦痛を味わう時間を先伸ばしにする為に質問すると、芽李は補習、井川は株取引があるから来れなかったと答えられた。
「じゃあ今日でそろそろ殺すか、新しい玩具は見つかった」
「遂に来ました、私〜可愛い娘が死ぬ瞬間大好き〜」
「分かってんじゃねえか、流石は俺の妹だぜ」
そんな....死にたくない、狂った趣味の兄妹が揃ってナイフの刃先を私に向けているのを見て、心臓の鼓動が更に早くなり、動悸も激しくなる。
「ひゃははは!!」
「あはははは」
観念して目を閉じる。双つの刃が皮膚を突き破り、引き抜かれ血の飛沫く音が聞こえた....けれど痛みはない....何故かは目を恐る恐る明けると分かった。
「あ....ああ....うぅ」
「ま、茉莉....嘘....」
私の前に大の字で血塗れの茉莉が立っていた、庇ったのだ私を....私の代わりに茉莉が刺された....
「なんだ茉莉ちゃんじゃあん〜そんなボロボロになってまでこんなとこに探しにきたの?健気だねぇ」
私には全く理由が分からなかった....自分を散々いじめた憎い奴の筈なのに探しに来た理由も庇ってくれた理由も。
「百合子....ちゃんの....友達なのに、なんで....そんな....酷いこと!」
「うるせえな!!さっさと死ねや!」
「やっちまえ詩織!!」
鮮血により深紅に染まった双つの刃が再び茉莉を狙う。
「茉莉ーーーーッ!!」
出血により茉莉が膝を着く、このままだと今度は頭部が貫かれてしまう!!
間一髪、茉莉の頭に刃が到達しようとしたとき、銃声が鳴る。
「ぐあああああ!」
「いやああああ私の腕がああああ!!」
気が付くと周囲を警察が囲んでいた、パトカーも数台止まっている。よくこんな細い道を通ってこれたものだ....普段は敵だが今はとても心強く感じる。
「殺人未遂の現行犯で貴様らを逮捕する!」
「チッ!」
「覚えてやがれ茉莉....」
兄妹は捨て台詞を吐きながら連行されて行った....
「はぁ....はぁ....お巡りさん、百合子ちゃん....を病院に、大切な....家族....だから、早く....お願い....しま、す....」
駆け寄ってきた渋いコートを着た貫禄のある初老の刑事に、そう伝えると茉莉は目を閉じた。
「おい、しっかりしろ嬢ちゃん!!くそっ....救急車は既に呼んだが....間に合ってくれ....自分より姉のことを真っ先に心配するような、こんな優しい娘を死なせる訳にはいかねえ!」
一生懸命茉莉の応急措置をする刑事の部下らしき人に解放されながら、ずっと茉莉を見ていた。
私は姉じゃないよおじさん....血も繋がっていない。それどころか苛めていた私を....助けるなんて....何で?
....やがて救急車が到着し、茉莉と私は病院に搬送されてから一週間が経った。
手術で一命を取り留めた茉莉は私と同室で入院生活を送ることになった、先生に聞いた話だと大人達の計らいらしい。
けど茉莉からしたら別の部屋にして欲しい筈だが....
お昼にクラスメイト達が見舞いにきた。
茉莉には花束や千羽鶴を渡したり早く退院できると良いねと言っていたが、私にはざまあみろと言わんばかりの視線と嗤いを向けるだけ....心配してくれる奴なんかいなかった。
「下心しかない癖に....」
正直、悲しかった。
自業自得なのは分かっている、私なんか嫌われたって当然だ....それでも....誰にも心配して貰えないのは辛かった....だから....
「私はね、百合子ちゃんの事すっごく心配したんだよ!?何処か行くなら言ってから行ってよ!」
就寝前。初めて、いくら私が苛めても怒らなかった茉莉が涙を流しながら怒った....怒ってくれたこと、心配したと言って貰えたことが私は嬉しかった。
もしかしたらまた苛められたくないから吐いた嘘かもしれないと一瞬思ったけど、この言葉の温かさは....間違いなく本音だと分かった。
実際に後で先生から聞いた話だと茉莉が色んな人に百合子ちゃんが帰って来ないの!何か知らない!?と尋ねて回ったが皆は
「あんな奴居なくなってもいいでしょ....」
「あなたもあいつに苛められてるの知ってるよ、放って置こう?」
と皆は言っていたらしい、話してくれた先生も....
詩織達三人組にもしつこく友達なら知ってるよね!?と問い詰めていたが知らねーよと一蹴されるところも目撃されていた。
けど茉莉は諦めずに捜索願いを出したあと、一人で学校を休んでまで私を探してくれていた。
この前警察が来たのも茉莉と警察の捜索する時間やタイミングが奇跡的に重なったからだ....
茉莉がいなければ私はもうこの世には居らず、とっくに地獄に落ちていた筈だ....
「ごめん....なさい....何で、私なんかをっ、探してくれたのっ?」
「だって、家族だもん....」
「ばか....やっぱりアンタは馬鹿なんだから....うぅ、ああああああ!!」
夜の病院であるに関わらず大声で泣いてしまった。この前泣いたばっかなのに、私はこんなに泣き虫だったのか....
「よく耐えたね....怖かったでしょ、もう大丈夫だからね」
茉莉の胸に顔を埋めて、優しく頭を撫でられながら、まるで幼い子供のように何時間も泣き続けた。
静かにしろと注意しにきたのであろう看護師の気配を感じたが、「幸い周りの病室に今患者はいないし、野暮なことはしないでおくか」と言って立ち去っていったのが分かった....
「なにそれ」
退院して自宅に帰って来ると、茉莉が生き生きとした表情でピンク色の箱を持ってきた。
「誕生日おめでとう!遅れちゃったけど....」
「あ....」
明けると前に欲しいと漏らしていた黒いリボンが入っていた、高いから諦めてたのに。
「アルバイトを代貯めて買ったんだよ!前に欲しいって言ってたから」
「あの、えっと....ありがとう」
私にこれをプレゼントするために頑張ってバイトしてたんだ....それなのに私は....と思いながら、このリボンで私は片方の髪だけくくってみる。
「わあー似合うよ、可愛いなぁ」
前からこのサイドテールって髪型にしてみたかったから、似合うって言ってくれて嬉しい。
鏡で見てみると実際に、自分で言うのも何だけど凄く可愛いかった。
「まぁ元が可愛いからね!」
「もう百合子ちゃんったら!」
無邪気に笑う茉莉を見て、私は胸が苦しくなった。こんな素敵な笑顔ができるのに、私のせいで....笑うことなんてずっと出来なかったんだ....
「ねぇ....茉莉....」
「え?なぁに?」
「私のこと....好きなだけ殴っていいわよ....」
「突然どうしたの、まさかドMさんになっちゃったの!?」
「違うわよ、私にそんな趣味はないわ!!それに....もしそうだったら償いにならないじゃない....」
「償いって....」
「私は散々....あんたに酷いことしてっ....!?」
いきなり茉莉が私を抱き締める、凄く良い香りがする....
「それ以上言わなくていいよ....あのね、だったらね」
「えっと....!?」
自分でも顔が赤くなっていくのが分かる。何で顔赤くなってんの私っ!!
馬鹿馬鹿、女の子同士で抱き合うなんて日常茶飯事で....!
「仲良くなってほしいの....一緒に遊んだり....一緒に勉強したり、駄目かな?」
どう考えても今までの仕打ちと割に合わない....体にも心にも消えない傷を残した相手にそんな!
「駄目なわけない!けど....そんなのじゃ償いはならないよ!!」
「もー!今までの事は気にしない!これからずっと私と仲良くして!!....償いたいなら、それだけで良いから!!」
「はっ、はい....」
「えへへ....じゃあ改めてこれから宜しくね百合子ちゃん」
「うん....」
けど、やっぱり忘れたりなんか出来なかった。気にしないなんて出来なかった。
茉莉の優しさに....可愛さに触れる度に、罪悪感や後悔は増していった。
だから茉莉はいいよそんなことと言ったが、ご飯やお弁当は私が全部作るようになった、掃除だって私が全部するようになった。
不良やいじめっ子、ナンパしてくる奴からも私が守ったけど、私のせいで怪我したら....無茶しないで!と茉莉は泣いた。
茉莉が好きそうな物は私がバイトして買った。けど、自分で欲しいものは自分で買うからと言われた。
償いきれないんだ、私の罪は....しかも最近は茉莉に守られて情けない....贖罪なんてどうしたら良いか分からない、だから....
「なるほどな....見てやったがとんでもない屑だな貴様」
「そんな能力あるなら最初から聞かないでよっ....」
「かつて茉莉に守られたように今度は自分が守ろうってわけだ、泣かせるなあ」
「痛い....生き地獄だわ....ざまあみろ私....あはは」
「ああ....私のせいで....私のごめんなさい、ごめんなさい....」
茉莉もずっと罪悪感を感じていた、私は過去を思い出して泣いていた、泣きたいのは茉莉なのに。
責めてもっと償いをと思って色々なことをした。
けど、それが逆に茉莉を苦しめていたなんて....
「もっと苦痛を味わえよ最低のクソアマさんよぉ!!それがてめえにできる贖罪だ」
「確かに私は最低の糞アマだわ....だから、こんなんじゃ....贖罪になんかならない」
「あ?」
「私は最低で生きている価値なんかない....けど、そんな最低で価値のない私を赦してくれた、馬鹿なこの娘を守りたいの!!」
お願い神様....“能力“《ちから》を下さい....!どんな代償だって払うから!!だから、与えてください....
「私に....愛する人を守れる能力をッ!!!」
「無理だ無理!!」
私の心の叫びは....
「なっ、俺の脚が凍っているだとっ!!あぁ、寒さで手が悴んで鞭を落としてしまった!」
天に届いたっ....!!どんな代償かは分からない。けれど私に目覚めた能力は分かった....
「手に入れた....これでアンタ達から茉莉を守れる能力!!全てを凍てつかせる冷却の力っ!」
いつの間にか私の手にはクリスタルで出来た綺麗な、まるで魔法のような杖を手にしていた。
これの使い方が、脳裏に流れ込んでくる....!
「白銀の桜吹雪!!」
「馬鹿な、俺の体が凍っていくううう!」
アークに杖を突き刺すと、漆黒のボディは忽ち白銀へと変わっていく。氷漬けだっ....!!
「これでラストよっ!!」
私は冷却したアークを窓から外へ放り投げ、そこへ大ジャンプしし、空中一回転からの急降下キックを浴びせる!!
すると再生能力を持つ今回のアークも、凍てついたままバラバラになって二度と再生することは無かった。
けれど、念のために焼却炉で焼き尽くしておく。
こうすれば再生は不可能だろう、と考えると太刀華先輩の焔の能力はやはり強力なんだなぁ....
「百合子ちゃんにも能力が目覚めたんだね!!」
「えぇ....!」
元の状態に戻った茉莉が私に抱きつく。本当に良かった、これでこの娘を守れる....!!
「うぅ....ああああああ!!」
激しい頭痛に襲われる、これが....私の能力の代償っ!!
「代償、か....」
「ゆ、百合子ちゃん!!」
「....放って置こう、こんな、奴は....」
えっ....頭痛に苦しみながら私は希里子の言葉に耳を疑った。彼女はこんな冷たい言葉を放つような人間じゃない....どうしちゃったのよ!
「希里子ちゃん何言ってるの!?」
希里子は何時もの眠たそうな目ではなく、ゴミを見るような目で私を見下ろしていた....
「さっきのアークの能力で、記憶が、私に、流れ込んできたの、茉莉を苛めたこんな奴、大嫌いっ....!!」
つづく
優しくされた刻が辛いこともある....