表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

第肆話「茉莉の親友」

a.


蒸し暑い夜のこと、飯縄いいなわ 亀子かめこという少女が自殺しようと、踏切の中に立っていた。



電車による自殺を行えば周囲に多大な迷惑がかかる、特に遺族は多額の借金と頭を抱える羽目になるだろう。




しかし彼女の狙いはそれだった。




この醜い世界から解放される上に、恋人との仲を度の超えた嫌がらせによって引き裂いた憎い家族へと、借金という呪いを背負わせられるし、まさに一石二鳥なのだ。



とうとう電車は、彼女に激突するまであと僅かまで来ていた。



車掌が彼女に気付いてブレーキを踏むが間に合う筈はない!!



「さよなら、憎いこの世界。そしてざまあみやがれ憎たらしいお兄ちゃん、ママ....パパ....」



小柄な少女は目を瞑って巨大な殺人兵器と化したそれによる死を静かに待つ....しかし一分後にそれは起こる。



ドゴンと激しい音が鳴り響き、その音に飯縄は目を開けると信じられない光景が目に入ってきたのだ。



「電車が....電車が四等分に切断されてる....っ、誰!?」



飯縄はふと背後に気配を感じ、恐る恐る振り向く。



「可愛い娘だ....そうだ、君を真っ二つにしよう。あの電車には誰一人可愛い娘なんて乗っていなかったから、むしゃくしゃして四等分に切断してしまった....」



そこには鎌状の両腕に、巨大な複眼が特徴的な黄緑色の、蟷螂に似た怪物がいた。



「い、いや....化け物!!」




「どうせ自殺する気だったんだろ?だったら良いじゃないか、殺させてくれても」




そう言って鎌を振り回しながら、怪物は飯縄に迫りくる!!




「いやあああああああ!!」



飯縄は思わず悲鳴をあげて逃げ出した、死ぬ覚悟は確かに出来ていたのだが....不気味な化け物が目の前に現れて、自分を殺させてくれと頼んできた。



異形の怪物に襲われる....そんな馬鹿馬鹿しくも恐ろしい現実に混乱し、死にたいと願う気持ちは何処かへ吹き飛んでいってしまっていた。




第肆話「茉莉の親友」



b.



日曜日の午後、解放された殺人鬼探しの休憩中に立ち寄ったファミレスにて....



私は喉の渇きを潤す為にクリームソーダをストローで飲んでいたのだが。



「はぁ....!?茉莉、いま何て言った....」



隣に座っていた茉莉の言葉に思わず吹き出し、前に座っている希里子にクリームソーダをぶっかけてしまった。




「友達を百合子ちゃん達に紹介しようと思って」




「そいつら何処の馬の骨よ....!」




「馬の骨って、彼氏ができた、訳じゃないんだから。ただの友達、独占欲が強すぎ」




「そんなの出来てたまるもんですか!!てか茉莉に彼氏ができるわけないでしょ!」



出来たとしても彼女だ、何故なら茉莉が惚れているのは男子ではなく女子である太刀華先輩なんだから



「百合子ちゃんってば、酷いよぉ....」



でもぐいぐい来られると、彼女の押しの弱い性格上嫌でも断りきれずにOKを出してしまうかも....そう考えるとかなり憂鬱な気持ちになる



「とにかく、その友達って言うのは?」



希里子が濡れた髪を気だるげに、ハンカチで拭きながらも茉莉に訊ねる


彼女の目はいつも通り眠たそうだけど、私にクリームソーダを浴びせられたせいで怒ってるのか僅かに吊り上がって見えて、ちょっと怖かったのでごめんとアイコンタクトで謝罪しておく。



「あ、うん。その友達は二人なんだけど、私が引っ越してくる前に知り合ってね」



「じゃあだいぶ古い付き合いじゃない」



「そうか、忘れてたよ、あなたは、引っ越してきたんだ」



茉莉は十年前にこの街に、田舎から引っ越してきた....いや、親に捨てられたとも言った方がいいかな。



最低な両親だった、自分たちがイチャイチャするのに邪魔な茉莉を、知り合いだった私の母親に預けたんだ。



そして茉莉は私の家に居候することになった....そして彼女の地獄は始まったの....私のせいで....




「百合子ちゃん?昔を思い出してるの....?暗い顔しないで....」



「....」




茉莉は笑顔を浮かべて優しく撫でてくれる、あんなに酷い目に遭ってもなお歪んだ性格にならずに優しいままだなんて。




「それでね、その友達がお手紙くれたの。こっちに明日来るんだって、駅で待ち合わせ、だからその時に紹介したいなあって」




「へえ....いいんじゃない。明日が楽しみね、あんたの友人はどんな人間かしら?」




「分かった、その友人達も、私が守る」




「私だって、あの電気さえあれば闘えるよ!」




「駄目よ....!もし怪我してもあんたは自分を治癒できないってもう何度も」




「わかってるよ!でも、後方支援なら良いでしょ」




確かに、それなら....まだ良いかもしれないと希里子も思ったようで「わかった、無茶は、しないで」と容認。



「やった!頑張るからね」




やがて、それぞれが注文した料理がやってきた。




私の頼んだステーキ、茉莉はケーキ、希理子はハンバーグと唐揚げ定食とピザとミックスグリルとパフェ....次々と美味しそうな料理が並んでゆく、一人だけ異常な量だが気にしない気にしない。





....ご馳走さま、三十分程で休憩を兼ねたディナーは終わった、さて、殺人者探しを再開しよう。



一応VATだかに希里子は連絡したので大規模かつ隠密捜索が行われたようだが....一応私達も探すことに決めた。



そっちの方が早く見つかる確率が上がるから、その活動の休憩の為に私達はこのファミレスに立ち寄っていたのだ。



三手に別れて捜索した方が効率は良いのだが、安全が第一、三人一緒に行動することになっている。



警察から全員分、写真と書類が希里子に渡されているためターゲットの容姿は分かった。




だから割りと簡単に見つかると思ったのだが....八人中、一人も見つからないだなんて。




「ていうか後は何処を探すわけ?」




もう駅やショッピングモールに、商店街、ファーストフード屋さん....街中のあらゆる場所を探したのだが手がかりすらない。何故だろうか?




「もしかしたらこの街の外へ逃げたんじゃないの?」




「あ、それ有り得るよね!」




「確かにそうかもしれない、これだけ探しても、いないとなると....それか先に他のVAT構成員が捕まえたか、だね」




「そうだと良いけど」




マンションやビルなど、私達みたいな学生には探しにくい場所はVATの人達が捜索してくれているので除外。




「あれ?あそこに誰か倒れてる」




公園に立ち寄るとトイレの裏に、ボロボロの白いワンピースを着た私達と同じくらいの女の子が倒れているのを見つけた。




「う、うぅ....」



「萬茶ちゃん!?」



「えっと、もしかして茉莉....?」




「知り合い?」




「さっき言ってた友達、萌掬めすくい 萬茶まんさちゃんだよ!」




取り敢えず萬茶さんを連れて、病院へ....幸いかすり傷以外、異常なしとの診察結果が出た。骨折とかしてなくて良かったわね。




茉莉と私の愛の巣....じゃなかった、自宅でシャワーを浴びてもらい、ミルクコーヒーを飲ませ、落ち着いたところでようやく話を聞くことにした。




「何があったのよ?場合によっては警察に行かないと」




「それは....」




「もしかして怪物に襲われたの?」




「!」




希里子の口から出た、「怪物」という言葉を聞いて萬茶さんは青ざめる。




「当たり、みたいだね」





「知ってるの?皆さんは怪物のこと」




希里子が事情を淡々と、それでいて分かりやすく簡潔に説明してくれた。




「そうだったの、お願い助けて....厚かましいとは思うけど私そのアークとかいう怪物に襲われて逃げてきたの!」





「怖かったよね、うん。いいよね二人とも」





「仕方ないわね....」






「これで四人、暮らし」




はぁ....茉莉との二人っきりの時間が段々消滅していくんだけど。




ところで後一人、友達が来る予定だったらしいけど、その子はどうしたのかしら?



私ですらそう思ったのだから、当然茉莉が疑問に思わない筈もない。




「亀子ちゃんはどうしたの?連絡とかした....?ご両親にも」




ふーん、もう一人の友人の名前....亀子さんって言うのね。




「それが怪物....アーク?に襲われた時にスマホ落としちゃって」




なるほど、それじゃ連絡できないわね。




「公衆電話を使って警察と亀子に連絡を、とも思ったけど、そんな暇なくて」




追われていたのだから、公衆電話を使うために電話ボックスなんて閉鎖空間に逃げ込むのは迂闊だ。



彼女の判断は間違いなく正しかった、アークなら簡単にそんなもの破壊するだろうし。




「じゃあ私が代わりに電話しておくよ、番号覚えてるんだ」




茉莉が電話をかけている間に、私は気になったことを萬茶さんに訊ねる。




「ねぇ、あなたと茉莉ってどれくらい仲が良いのよ?」




もしかしたら、遠距離恋愛中の恋人同士だったりしないでしょうね....。




「昔はよく遊んでたよ、でも引っ越してからは時々メールでやり取りしてたくらい」




「どんな内容の?」




「他愛もない会話、私の恋人についてとか....」




「ふふふ!もう良いわよ〜それ以上は!」




「なんで嬉しそうなの?」




萬茶さんは首を傾げて質問してくるが、恋人いるなら茉莉にちょっかい出さない筈だから安心した!



なんて口が裂けても答えられない、浮気とかしない限りはだけどね。



とにかく、私と茉莉の方が固い絆で結ばれてることが

分かって満足だわ!




「出ないね....亀子ちゃんも萬茶ちゃんの御家族も」




「留守なんじゃないの?」




「もしかしたら、アークに亀子も私の家族も殺されたんじゃ!?」




萬茶さんは冷や汗をかいている、友人も家族も殺されたかもしれない、その不安と恐怖は計り知れないものなのだ。




「萬茶ちゃん....大丈夫、アークは私達が退治するから!」




「うん、私達に、任せて」




二人ともやる気ね....やっぱり無能力ってもどかしい!




「そうだ、隣街、行かない?」




「うん、調査範囲を広げないとね!それに萬茶ちゃんの家や亀子ちゃんの家にも安否確認のため行ってみよう!」




ということで、隣街に行くために駅に着いた訳だが。




「はぁ!運航中止ぃ!?」



思わぬトラブルに出くわした、まさか電車が全部ストップなんて....これでは隣街に行けない!!




「何でですか?」




駅員さんは茉莉の質問に、頭をボリボリとかきながらヒソヒソと教えてくれた。





「お嬢ちゃん達、全員可愛いから特別だよ。隣町で夜中に電車が四等分に切断されたんだ、乗客や車掌は全員死んだ。いいかい?こんなこと僕から聞いたとか誰にも言うなよ、クビにされちまう」



「ありがとうございます!」




茉莉がぺこりと頭を下げる、その動作に萌えながら私達も頭を下げる。




「これもアークの仕業に違いないよ!」



「そうよねー、そうとしか考えられないわよね」




電車の代わりのバスがあったのでそれを利用することにした、四人分ちゃんと座ることが....出来なかった。



殆ど満員だったのだ、そりゃそうよね、学生やら会社員やら普段電車に乗ってるたくさんの人がバスを利用しているんだから。


茉莉と萬茶さんはなんとか座れたが、私と希里子は座れず手すりに掴まり立ちっぱなしの羽目に。



「茉莉〜膝の上座らせてよ」



と揺れによる酔いを誤魔化す為に冗談めいて言ってみると、彼女は優しくいいよと微笑んだ。



「ふんだ、嬉しくなんかないんだからね!感謝してあげるわよ....あんがと」



正直滅茶苦茶嬉しいです、はい。あぁ、凄く良い匂い....




「私も茉莉の膝の上、乗りたかった」




なっ、そんな羨ましそうにジト目向けないでよ希里子!早い者勝ちよ!!茉莉の膝は渡さない!



「私の方が軽い、百合子は重い」



「何ですって?」



事実なのが尚更ムカつく、希里子は暴飲暴食、鯨飲馬食の癖に全く太らないし背も伸びない。



身長はともかく体重が増えないのは羨ましいことこの上ない....




「もう二人とも喧嘩は駄目だよ、交代交代ね」




そんなぁ....!!



「うん、ありがとう」



「くすくす」



萬茶さんが笑う、私達の滑稽なやり取りを見て嗤っているのかしら?



「萬茶ちゃん、どうしたの?」




「ちょっと!何がおかしいのよ」




「だって、皆さんの最期の一日がこんなに愉快なのかと思うとつい....くすくすくす」



萬茶さんの様子がおかしい....ってこの彼女から放たれる殺気、最近良く感じる奴等のものと同じだ....まさか!



「まさか、あんたッ!?」




「そうだよ....私が君たちの言うアークさ....こんな有りがちでダサい名称だとは思わなかったがね」




萬茶は既に怪物となっていた、細長い体に両腕の鎌に巨大な複眼の中にある黒目のような点。




まるで蟷螂のような怪物の、アークの姿に!!




「そんな、萬茶ちゃんがアークだなんて....嘘だよ!」




乗客がパニックになり、運転手もミラーで見たアークを見て悲鳴をあげたものの、流石はプロだ、事故ることなく冷静に運転を続けている。




「事実だよ。闘うから、サポートお願い」





「萬茶ちゃん!!何で?何で三十人も殺したりなんかしたの!?」




「三十人も殺せるわけないよ、たかだか十人だ」





十人でもかなりの数だが、三十人殺した奴がアークになるんじゃないの!? いや、まさかこいつは....





「確かに、今までのアークは全て変身前、三十人殺した履歴が、残っていたから、三十人殺した奴がアークになるのは、間違いじゃない筈」




普段は冷静な希里子も少し戸惑っているようだ。彼女の言う通りなら、やはり........




「新種ってわけ!?」




「そうなる」




茉莉の友達がアークで、しかも新種....か。




「うぅ、ぐすん....」




だけど、そんなことよりも私の大切な茉莉を泣かせるなんて、赦せないという怒りの感情の方が遥かに勝ってしまっている。



だからって闘う力は私にはないのだけど....。




「ふふふ、ここならさぁ、貴方らも周囲に普通の人間がいるから能力使えないよね」




これが狙いで....!!




「くくく、噂は聞いたんだよね。だから君たちをふふ、ゆっくりと真っ二つにしてさぁ、ふふふ」




「卑怯もの....」




「卑怯もらっきょもないよ〜ふふふ」




気に食わない、こういう卑怯な真似を平然と行う奴には一層腹が立つ....!




「萬茶ちゃん、辞めてよ!!じゃないと私....」



「こんなチャンス逃せないよ、もし太刀華と協力されたら勝ち目ないしな」




「太刀華先輩!?」



まさか、こんなタイミングで彼女の名前を聞くとは....




「ふふふ、ボロボロだったのは太刀華と闘ったからだよ、私の所業を偶然見られてしまったのさ。彼女は強かった....傷ひとつ与えられなかった、スピードは私のが上だったから何とか逃げれたんだよ」




「じゃあ太刀華先輩は隣街にいるんだね」




太刀華先輩はこの町へと引っ越していたのか。まだ大粒の涙を浮かべている茉莉だが、尊敬している人物の名前を聞いて少しだけ元気が戻ったようだ。



「だが会えないよ、君たちはここで死ぬんだから」




「そうかな」




希里子が不適な笑みを浮かべて親指でくいと後ろを差した。




「なに?乗客が全て気絶している!?」



二十人はいた乗客が皆ぐったりと項垂れているではないか。



「あなたがペラペラ、悠長に話してるあいだに、みんなに、腹ぱんち、したから、十秒あればできる簡単作業」




「くっ、だがまだ運転手は....」




「大丈夫、私はVatのものです。だから見なかったことにしますよ」




「なにー!!」




こうやって、色んなところへVATは潜んでいるのだろうか。



「いくよ、茉莉の友達だろうが、容赦はしない」




「ぐ!早い!」




希里子の蹴りが萬茶の脇腹にあたる部位に直撃したと同時に、バスが停車した。




バス停にはまだ到着していない、窓から外を見渡す、ここは人気のない細道だ....周りにあるのは草むらともう誰も住めないくらい崩壊した小屋くらい。




「今です!降りて戦ってください!!乗客は安全な場所まで運びます」




これで周りに気にせず闘えるわけだ。ナイス、運転手のおじさん!




「ありがとうございます運転手さん!!希里子ちゃん!」




「うん」




「ぬおっ!?」




ドアが開くと同時に希里子は蹴り飛ばして萬茶をバスから追い出し、自身も降りた。それに続いて私と茉莉も急いで飛び降りる。




「く、くそ....」




「さぁ、これで存分に、やれる。....茉莉、いいよね」




「うん、裁いてあげて....萬茶ちゃんを。きっと彼女は家族も、亀子ちゃんも殺したから」




何ですって....!?




「勘だから確証はないけど....」




「ううん。きっと、合ってる」




「勘はともかく、何で合ってるとわかる?」




「わっ」




質問しながら萬茶は鎌を振り下ろしてくる、希里子はナイフで弾き返して間合いを取る。



「茉莉の勘は結構な、確率で当たるし、それに電話に出ないって言ってたから」




希里子も答えながらナイフを構えて、萬茶に飛びかかる。



「なるほど」



「!」



防御の為に巨大な鎌が振りかざされるが、希里子はそれを回避しながら懐へ潜り込みナイフを突き刺す!




やった....茉莉の心境を考えると、表情を見ると、複雑な気分だけど希里子が勝ったわ!!




「ぐふっ....大当たり。私は私の家族と亀子を殺したよ」




なんてことを....誰であろうと人を殺してはならない。でもよりによって、家族を、親友を殺すなんて....!



「何でなの萬茶ちゃん!」




「だって....邪魔したんだよ、私と亀子ちゃんとの愛を」




「なっ、腹部から、何かが....これは!」




ナイフで貫かれ穴の空いた腹部から、細長くてうねうねした何かが希里子を縛り上げた!!




「うえええ!!ハリガネムシだわ!」




そうか、蟷螂はだいたいハリガネムシに寄生されている。そんな特徴まで再現されているなんて!!




「女の子同士でなんて変だって私達の仲を家族ぐるみで邪魔したんだよ!!鎌で。そしたら、この姿になったの」




「恋人なら、なんで亀子ちゃんを!!」




「....だって、可愛かったから....つい。この姿で襲ったら怖がってたけど、私の正体を勘で見破った」




「そしたら、貴方になら殺されてもいいって言ってくれたの、私との仲を邪魔されて自殺するつもりだったらしいから」



「そんな....」




「そして真っ二つにして....保管したの、腐らないように!!」



クレージーだわ....こいつ!




「電車を事故らせたのは、なんで!!」



この前より力強く振るわれたように見える茉莉の電撃チョップが、ハリガネムシを切り裂き、希里子を自由にする。



とにかくアークって拘束技が多いのね....



「ぐっ、ただの八つ当たりだよ」



「八つ当たり....」



「最低っ!!そのせいで罪のない人がどれだけ死んだと思ってるの!」



茉莉がこんなに大きい声で怒鳴るだなんて....仲が良い親友だからこそ、悲しみと怒りは私と希里子よりも激しいのだろう。



「知らないよ」



「このっ!」



拳を握り締めた茉莉が萬茶の前に立つ、そんな距離じゃ鎌の餌食になるのは必然。



だけど多分、今のあの子は激情に呑み込まれ我を忘れているんだ!



「駄目!!」



私が叫ぶと同時に茉莉は横へ吹き飛ぶ、希里子が突き飛ばしたのだ。



「きゃっ」



さっきまで茉莉がいた場所の地面に、巨大な鎌の鋭い刃先が突き刺さる。



「あなたは、サポートって言ったはず」



「あ....ごめん。私ついカッとなって....お願い希里子ちゃん、萬茶ちゃんを絶対に倒して!!」



「任された」




目にも止まらぬ速さで振り回される鎌。



茉莉や私なら避けることなど出来ずに微塵切りにされているだろうが、加速能力を持つ希里子は自分の手のスピードを加速させてナイフで捌ききる。



しかし今までのアークより一段上なのか、希里子の超速斬撃も腹部にダメージを与えてから全て防がれている。



「速い」



「あなたも速いね。しかも私の鎌より劣るナイフでね....でも決定打に欠ける、私はこの鎌を当てれば勝ちだけど」



「私はナイフを、いくら刺しても、意味ない、か....首なら、どうだろ」



「来るか?」



こいつの急所となるであろう頭部と首は希里子から三メートルは上だし、巨大な鎌で叩き落とされ地面に叩きつけられてしまう。



そうなると、希里子の勝率はかなり低くなる!!



「来ないなら、こちらから....!? がっ....」



いきなり萬茶が地面に膝まずき、頭を垂れる。すかさずに希里子は萬茶の首をナイフで貫く。



「終わりだよ。ありがとう、茉莉、親友なのに」



「ううん....赦すわけにはいかないから」



茉莉が萬茶の背中に触れている、恐らく電気を流したのだろう....それで萬茶は膝まずいたのか。



「茉莉....」



親友の黄色い血を浴びて涙を流す茉莉、彼女の悲しげな瞳に私は切なさを感じずにはいられなかった。



「はぁ、はぁ....茉莉、強く....なったね....あぁ、最期か。責めて死ぬ前に一目....え」




「連れてきたよ、彼女、だよね」



いつの間にか、希里子が女の子の頭を抱えていた。その表情は殺されたとはとても思えない幸せそうな笑顔....



「ああ....亀子ちゃん....!連れてきてくれたの」



「地獄じゃ、会えない、だろうし」




やっぱり、彼女が亀子さん....




血まみれだが、人間の姿に戻った萬茶が手を伸ばして彼女に触れようとした、その時だった。



「あああああ!!」



爆裂したのだ、萬茶の体が!こんな能力、私達の誰も持ってはいない!!



「何が起こったの....」



「萬茶ちゃん、そんな....!!」



「敗者は敗者らしく、さっさと死ねよ見苦しい」




その声は頭上から聞こえてきた。



見上げると電柱の上に浴衣姿でヒーローもののお面を被った小柄な人物が、私達を見下している!




あ、あの距離からどうやって萬茶を始末したの、手に持っているのはただの水風船くらいで....!




「....こいつ、かなり強い!!」



「これだけで私の強さを見破るとは、やるわね」



浴衣の少女は空中で一回転して、私達の前に降り立った!!




「さあ、祭りを始めましょう!」



つづく

蟷螂モチーフの怪人って格好いい奴多くないですか

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ