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第参話「地底怪人への挑戦」


a.


女子高生三人組が平行して並び、ファーストフードを貪りながら脇目も気にせず悠々と歩いている。


他の人間から見て邪魔で迷惑でしかないが彼女達はそれに気づいていない、いや気付いていたとしても気にはしないだろう



「でさ〜うちの彼氏さぁ、今月は金出せないってんだよ〜」



「マジかよぉ、あんたの彼氏は金持ってるだけが取り柄なのになぁあ?」



「金の切れ目は縁の切れ目と言うしなぁ、そろそろ乗り換えっか〜」



あまり上品とは言えない会話をする彼女たちの足元で、ボコボゴと奇妙な音が鳴り始める



「なっ、なによ....こ....きゃあああああ!」



音が止んだかと思うと丁度三人分の巨大な穴が空いて、彼女達を吸い込んだのだった....




「何だ!?女の子達がいきなり開いた穴に落ちてったぞ!」



「嘘でしょ....本当に穴が開いているわ!!」



周囲はパニックになり、ある男が穴を覗いてみたが...



「し、死んでいるーッ!三人とも胸を抉り取られて死んでやがるううう!!」



胸部を抉り取られた女子高生三人の死体がそこにあり、それを見た彼は野太い悲鳴をあげる羽目になってしまった。




第参話「地底怪人への挑戦」



b.


「はぁ....」



「茉莉ってば!」



「はぁ....」




太刀華先輩が引っ越してから二週間経つが茉莉はずっとこの調子だ。


何回も呼びかけてやっと反応する。赤信号を渡ろうとする。私がいつも通りご飯作るから!って言ったのにおやつ食べたいとか言って勝手にラーメンと間違えて焼きそばを作る。



など、かなりの重症だ。


私も辛くなかったわけではないが、いつかまた出会えるだろうと前向きに捉えて憂鬱な気分になるのを辞めた。



しかし茉莉のデリケートな性格だと私のようにはいかないだろう、しかも認めたくないが....私とは違った“好き”という感情を彼女に抱いていたんだから尚更きついのだろう。



「茉莉、今は授業中よ!先生に指名され、数学の問題を解答しなくてはならないの」


そして授業にもこうやって悪影響を及ぼしている、いつもは先生に当てられたらその問題を即答するのだが



「えっ、あっ!えーと、69oxoですか?」



「うむ、正解だな。ぼーっとしていたことは許してやる」



「すっ、すみません」



「まあ皆そうだ、お前だけじゃないしな」




先生の言う通り太刀華先輩がいなくなってこの調子なのは茉莉だけではなかった、この学校の生徒の半数もなんだか落ち込んでいる様子。


彼女は優秀で真面目で万能、我が学園の自慢の生徒だったので生徒だけでなく多くの先生も引っ越したことを残念がっていた。



「はぁ....」



「ちょっ、あんたご飯こぼしてるわよ!」



「あっ、うん」



愛する者が落ち込んでいるのを見るのは相当辛い、本当に辛い。それを二週間も見てきている、精神に悪いのだ。



「ほら、あーんしなさいよ、私が食べさせてあげるから」



弁当箱から割り箸でミートボールを掴んで、茉莉の口に運ぶ



「えぇ....いいよ....恥ずかしいもん」



「ぐぬぬ....」



いつもなら喜んで食べてくれるのに、お弁当だけじゃない、私が自分から言ったことだけど昼食と夕食は全て作っているが それも食べ終わるのにかなり時間がかかる。



普段は美味しい!ってばくばく食べてくれるのに、どうすれば元の調子に戻ってくれるの....



「いつまでも、そうやってても、何にもならないよ?」



茉莉の隣に座って山盛りの牛丼を食べていた希里子が会話に混ざってきた。


彼女が去った太刀華先輩のかわりに私達を守ってくれるし、その能力も申し分ない強さで頼りになるのだが....



「自分でも分かってるんだけど、どうしても吹っ切れなくて」




「そっか、それより、アーク現れないね」




希里子や太刀華先輩がアークと呼ぶ超人的な力を持った怪物達は、太刀華先輩が去ってからと言うもの全く姿を現さない。




まあだから何の事件も起こらず、学校がまた始まったのだが嵐の前の静けさと言うような不気味さを感じる。




「まあ平和に越したことはないでしょうよ」




「うん、百合子の、言う通りだね」



無気力に頷いて希里子は三パック目になるオレンジジュースをストローから口に流し込んだ。




いつも思うが、彼女の胃袋はどうなっているんだろう、この前だってラーメンを二杯チャーハン四杯を苦もなく食べていた、しかもそれで腹八分目らしい。



娘の食費に頭を抱えるご両親の姿が目に浮かぶ、御愁傷様です。




「私の占いじゃ、茉莉ちゃんはもうすぐ吹っ切れるわよ。うふふ」



「わあああああ!ちょっ、いきなり現れた上に顔を近付けて言わないでよ!」




突然、唾が思い切り鼻や目にかかるほど顔面を近付けて喋られたものだから驚いてしまったではないか。




「あ、今日は来てたんだねフェルちゃん!」



彼女....八溝山やみやまフェルはオカルトマニアで痛々しい女の子。


髪も紫色に染めて制服も着ずにゴシックロリータ服を着ている、なので学校に来るたびに教育指導を受けている馬鹿だ、いつもは幽霊探しや心霊スポット巡りを楽しんでいるが霊障により時々しか学校に来れないらしい。



ぶっちゃけ私も含めて皆学校をサボる為の言い訳としか思っていないが。


ただ真夜中、心霊スポットである廃病院に一人で赴いてチンピラに暴行され暫く入院して休みというのを今は亡き....というか希里子が殺した嶺澄から聞いたときは信じられたけど。




「フェルちゃんではなく、 ダークサイド・ルシフェルちゃんと呼びなさい....うふふ」



ネーミングセンスが酷い。もうちょっと他にあったでしょ、えーとブラックエンジェルとか!



どっかで聞いたことあるわね、私も人のこと言えないみたいだわ。



「うん、ダークサイド・ルシフェルちゃん。うーん長いし略してフェルちゃんで良いかな?」



結局変わってない!



「良いわ」



やっぱりバカだわ



「えっと、八溝山さん。真理がもうすぐ吹っ切れるって何で分かるの?本当なら嬉しいけど」



「私の占いは当たるのよ....六十五パーセントくらい」



微妙な確率ね、でも占いか....いつか真理と私の未来を占って貰おうかしら



「占い、オカルト、信憑性なし」



希里子の疑いの眼差しに、フェルは露骨に不機嫌そうな顔をした。



「む....」




「えー!でも、私この前見たニュース番組の占いコーナーで赤がラッキーカラーって言ってたから赤い傘を持って赤い靴を履いて出かけたら、その日に人なつっこい可愛い子猫ちゃんに出会えたんだよ?意外と当たるんだよ」




「偶然、だと、思う」




「まあまあ、たまにはメルヘンな話も悪くはないわよ」




「百合子、茉莉には甘いからね」




「はぁ!?」




「そうだよ、ちょっと優し過ぎるよ」




「あんたまで!?」




そりゃちょっと自分でも甘すぎだって思ってるけど仕方ないじゃない、だって、だって....私はそうでもしないと彼女に対する贖罪を....




「まあ、ともかく八溝山さん。私は一応あんたの占い、信じてみたいけど」




「ふふ、信じることは良いことよ....なんなら占ってあげましょいか、あなたとあなたの愛する茉....」





「わー!わー!いいわよ、別に!!今度、今度でいいわよ!」





彼女私が、茉莉を愛していることに気付いてる....いや、まさか占いで....!?そうだったら、本当に占って貰おうかしら。



でも、運勢が最悪だったらどうしよう....と考えていると一人の男子がスマホを見てなにやら騒ぎだした、可愛い女の子でも映ってたのかな



「なあ、見てみろよ。このSNSでさっきアップロードされた動画をよ!」



「すげえ、ちとマナーがなっていないが可愛い子達じゃんか....!」




あ、やっぱり可愛い女の子が映ってたのね。



興味を惹かれて周囲に集まっていた女子生徒達はやれやれ、と溜め息をついたかと思ったら、「きゃあ!!」と女子生徒達が一斉に黄色い声をあげた。



茉莉はそれにびっくりして、私が愛を込めて作った卵焼きを落としてしまう、勿体ない....!



「わわっ、どうしたのかな?」



「心霊映像かしら?」




「ふふ....心霊映像なんて、生でいつも心霊見てるから慣れてるわ....ふふ」



それって得意気に言うことなの....? 普通は悲しげな風を装って切なげな....あーもう霊感ある私辛いわ、と言うような表情を浮かべながら言うことだと思うんだけど。



「な、なんだいきなり穴が空いて彼女達はその中に落ちていったぞ!」



なにそれ、フェイク動画じゃないの....今までだとそういう思考で終わっていたのに....


二週間前にあんな目撃、どころか体験をしたからまさか....奴等かと思ってしまう、実際そうだろうけど。



「百合子、茉莉、久々にアークかも」



「....」



私達は唾を飲む、あの恐ろしい怪物が二週間ぶりに現れたかもしれない....!!



「ねぇ、その撮影場所ってどこなの?」



コミュニケーション能力がいまいち低いこの三人の代わりに私が、騒いでいる男子に訊ねる




「あ、これ?東璃莉尉駅前だぜ」




「あんがと!だってさ希里子」




希里子はこくりと小さく頷いて「ありがと」と呟く、人に礼をする言うときはもっと大きな声で言えっての。



「行こっか、調査に」



「ちょっと待ちなさいよ、茉莉は大丈夫なの?




「代償が気になるの?」



「それはそうよ!」





「結局、なんか体に軽い傷がつくだけですむんだよ。希里子ちゃんが死んじゃう方が辛いよ、だからいつでも治療できるように」




「そして、私が、茉莉を守る」



軽い傷でも、傷は傷....誰かを守るために自分が傷付くなんて、彼女らしい健気な能力だとは思うけど胸が痛くなる。



彼女は自分の幸せだけを考えていればいいのに、その権利はちゃんとあるのにな....そう直接伝えても、ただ彼女は儚い笑顔を見せるだけなんだ。



「じゃあ私は....」



「多少、危なくても、側にいた方が、いいね。一人で、いる時に、襲われた方が、危ないから」




「そうよね、茉莉と私をしっかりと守りなさいよ」




「言われる間でもなく」




放課後に私は、いつも通る自宅ではなく東璃莉尉駅前までの道を歩きながら、バニラ味のソフトクリームを食べながらの希里子による怪物....アークについての説明を思い出していた。





やつらは元々は猟奇的な趣味を持つ人間である。三十人の人間を手にかけた者が、その瞬間に最も近くにいた生物の特徴を持ち、その種類の生物を自由自在に配下の如く操れる怪物に進化した存在。


故にその種類の動物の最上位に位置する存在・アークと呼称された。



未解決事件の三割が彼らの仕業らしい。



それが初めて確認されたのはいつか、何故そんな存在が誕生したのかなどの詳細は不明。



だが、とにかく人類の敵であることは確かだ、三十人も殺害した悪人のみが進化した存在なのだから。




「着いた」



回想終了と同時に目的地である駅前に到着、周囲には大勢の警察官とパトカーが数台、スマホを手にした野次馬がたくさんいる。




「うわあ警察の人がいっぱい来てる」



「うーん、警察の人を邪魔するわけにはいかないわね」



「大丈夫」



「え?」



偉そうにぶくぶく太っている警察官の耳元で希里子が何か呟くと、キープアウトのテープの向こう側に入らせて貰えた。



一体なんと言ったのだろう....はっ、まさか賄賂....?



そんなお金が、警察を動かすほどのお金が、彼女の手にあるというの?



だとしたら一体どうやって稼いで....あ、いけない方向に妄想しちゃったわ、これ以上考えるのは辞めておこう。



てか直接訊いてしまえば解決じゃあないの、それが私の性分だものね!




「どういうことなの?賄賂?」



「警察と、アーク対策本部、通称VATとは繋がっている。その理事長は、太刀華先輩の、お知り合い。賄賂とか、そんな、下衆な発想は、なかった」



下衆で悪かったわね



「そんな組織初めて聞いたわよ。いよいよ出来の悪い都市伝説みたいになってきたわね、はぁ」



ついてけない....けど多分これも現実なのよね....溜め息をつくと、覚えのある声が聞こえてきた



「ちょっここを通しなさい!!この先になにか秘密があるんでしょう....!」



「君はなんだね、いたっ、公務執行妨害で逮捕するぞっ!」




「陰謀よ!これはきっと闇の組織による陰謀だわ、それとも終末への予兆なのか!」




この声は八溝山さんか、学校とは違ってかなり元気そうだ....言ってることは相変わらずだけど。



何しに来たのだろうか、嫌な予感しかしない。




「八溝山さん、学校でもあれくらいテンション高ければ友達増えると思うんだけど」




「私はいつもの八溝山さんも素敵だと思うけどな」




「あんな、陰気くさいと、友達、難しい」




希里子と真理の意見が面白いくらいに真反対だな。




「あんたが言うわけ?それより何かわかったの?この穴をみて何か分かった?」




「幅は、十メートル、縦に、三メートル」



「いや、そういうことじゃなくて」




「そういえばさっき運ばれてった三人とも胸が抉られてたよ、うぅ、間近で見ちゃった」




さっきから真理の顔が少し青いのは、そういう理由だったのか、体調でも悪いのかと思ったから良かった....いや、よくないか。



「胸が?それはつまり....」



「巨乳を憎む、貧乳の、仕業かもしれない」



「それってボケなの?マジなの?」




「....」



ノーコメントかよ....!! 結局、彼女のユーモアだったのかどうかは分からないままだ。



「私だって胸はないけど....大きい人を妬まないよ?」




とはいいつつも涙目だよ茉莉。でも、つるぺたなアンタが素敵よ....違う、こんな慰め方じゃ駄目だわ!



「私だって胸はあまりないから!」



「私、も」



悲しいかな貧乳しかいない、現実は非情である。茉莉を慰めたかったのに、私まで慰めて欲しい気分になってしまった。



「それよりこんな穴、人間じゃこれ掘るのは、無理だよ」



「でしょうね....やっぱりアイツらか、まだこの近くにいるのかしら?」



「うぅ、やっぱりちょっと怖いよ」




「大丈夫よ私がついてるから」




「でも百合子、奴等相手じゃ、何もできない、でしょ」



「うぐぅ!!」




容赦のない言葉が胸に突き刺さる、実際にその通りだから余計に辛い、きつい....




「まあまあ、私は百合子ちゃんが側にいてくれるだけで十分心強いよ?」




「ふ、ふん!なに言ってんのよ、ばか」




天使だわ、天使がいるわ、私の心の傷が癒されていく....笑顔が眩しい....



「真理は、天然たらしだね。百合子の、顔赤い」



やだ、私ってば顔赤くなってる!?



「と、とにかく!見なさい、あそこ洞穴があるわ」




「ほんとだ!よく見えたね」




「危険だけど、降りてみよう。ロープ持ってきたし」



希里子はスカートからロープを取り出した、この前はナイフが出てきたし摩訶不思議なスカートだ。



この前それも一応、異能力なのでは?と尋ねたら違うよ、と軽く返されたし、単純に不思議で仕方がない。




「準備万端だね!」



「ゆっくり気を付けて降りなさいよ」




「怪我しても私が治すから安心してね」




「それでも、痛いのは、嫌だよ」




「まあそうね」




一人ずつロープをつたって、まるで地獄への入り口のような薄暗い穴へとゆっくり降りていく。



すぐに地に足をつけることができたが、目の前にうねうねした生き物が現れた!



「きゃっ!!」



「ただの蚯蚓だよ」



「あ....うん、そうね」




「?」



蚯蚓....ただの蚯蚓、か....ただの、蚯蚓....ね。希里子と知り合ったのは高校生になってからだから、彼女は知らないのよね、何も....




「この洞穴から移動したのね」



「そうだと、思う。私が先頭に立つから、一般人の百合子は、真ん中」



「分かったわ」



「後ろは任せて」





予想通りスカートから取り出した懐中電灯を手に希里子は慎重に進む。



私と茉莉も周囲に気を配りながら、ゆっくりと後を歩く、蚯蚓やケラなどの虫がいて茉莉が悲鳴をあげて私はびっくりする



それを繰り返しながら進むとやがて、広場のような場所に出た。




「ここは....」



学校のグラウンドくらいの大きさはあるわね、この広場は....それに見上げると人一人が通れるくらいの穴から光が射し込んでいる。



その為、希里子は懐中電灯をスカートの中にしまった。



それと同時に....




「やはり来たな!」



突然、どこからか声がしたかと思ったら、地面の中からアークが出現した!



「やっぱりただでは、いかないか」




「うわ、気持ち悪い!」



茉莉が露骨に嫌そうな表情を浮かべる、実際に気持ち悪いので仕方ないが。そのアークは蚯蚓のような姿をしていたのだ。



蚯蚓は茉莉と私にとって嫌な思い出しかない生き物....特に茉莉にはね。



「あー!?うるせえな。俺だってよ〜こんな気持ちの悪い姿になるなんてショックだったつーのさ!」




「自業自得でしょ!あんたは人をたくさん殺したんだからね」




アークは三十人の人間を殺害した者が進化した生命体、だから悪人しかいない....と希里子から聞いたそのことを思い出す。



「ぐひひ、まあ。殺しがやり易くなったのはいいことだな〜〜〜こうやってな!!」



「きゃっ!」



「わわっ!」




茉莉と私は、突然投げられたピンク色の輪っかに締め上げられ、拘束される。



「てめえは躱したか!」



流石に加速能力を持つ希里子は、容易く回避に成功したようだ。



「痛っ....くっ、きつっ....」



抜け出そうともがくほど、肉体に何か....食い込んでくる。抵抗は無駄ってわけか....



「うぅ!」




どうやら茉莉も抜け出そうと頑張っているみたいだが、私と同じく抵抗するだけ無駄なようだ。



「じっとしてなさい!抵抗すればするほど体に内側から何かが食い込んで来るわ!」




「わ、わかった....よ。けど、このままでも、苦しい....」




「大丈夫、私が、解放して....!!」




恐らく私達を拘束している輪っかを切断しようとしているのだろう、ナイフを持った希里子が私と茉莉に駆け寄ってくる。




「させるかよ!!」



蚯蚓怪物は輪っかをいくつも投げつけて希里子を妨害する、彼女は輪っかを全て一瞬で切断してダメージを受けずにすんだ。



百匹の鼠すら切り刻んだ刃、だかが数個の輪など全くの無力だ!



「ごめん、二人とも、こいつ倒すまで、耐えて」



どうやら先ずはアークを倒してから、私達を解放することにしたらしい。



「う、うん!」



「なるべく早くやってよね!」



「わかった、すぐ終わらせる」




「この俺、アースワームアーク様にすぐに勝てると?バカめ....」




「いくよ」



希里子のナイフがアークの胴体を切り裂く、すると黄色い血が飛び散り希里子はその返り血を浴びる。



「やった!瞬殺ね!」



だが不敵に微笑んだのはアークの方だった。



「なっ、痛いッ!....なに、この右手を、襲う、激しい、痛みはっ!?ああ!」



「希里....子....!?」




「希里子ちゃん!?まさか毒を.... !」



この前も太刀華先輩がアークの毒針により、苦痛にのたうち回ったことがあった。


しかし今回は違う、毒針など刺さっていない! ただ返り血を浴びただけ....まさかあの血に理由があるのか....!?



「俺の体液に触れた生物は、激しい痛みに襲われ腫れ上がる! 勿論、血に触れてもだ!」



「確かに、私の手、腫れてる」



まるで右手が大きなトマトになったかのように真っ赤に腫れている。



万年腹ペコの希里子のことだから、自分の右手をトマトと間違って食べてしまわないか心配だ。


「そして茉莉は拘束されウゴケナイ!治癒や鎮痛は不可能だ!!大きなダメージを受けたが、思わぬ勝機を手に入れたぞ!」




「これ、くらいの、痛みなんか....耐えて、お前を倒す....!」




「辛そうだなぁ、本当にそんな状態で倒せるかよ?」



「希里子....くっ」




汗だくだ、ヤバイ。かなりきつそうだ、激痛に耐えることにいっぱいでナイフを持つことすらもできないぞ!



「武器のない貴様など!」



「っ!」



「今度は俺がお前の返り血を浴びる番だぜーッ!」



アークの輪っかが、ふらついて回避に失敗した希里子に直撃し出血させた。敢えて拘束せずにダメージを狙ったのか....



「きゃああああああ!!」



「くく、他愛ないな。雑魚め」



アークは希里子の返り血で赤く染まり、黄色い血と赤い血で地面が染まっていく!



「私は、雑魚、なんか、じゃ....」



「早く治癒しないと....うぅ、動けないよぉ!」



茉莉が必死にやっぱりもがくほど肉体に輪っかが食い込んで更なる苦痛を与えるだけだ。



「ひひひ!!ざまあねえな、さてじわじわとなぶり殺してやる」



「きゃあ!!」



蚯蚓のみたいな鞭になっている両手で、腹部を連続で叩かれて希里子はその場に倒れてしまった。まずい、このままでは全滅だ....!!



「ヤバイかも....ちょっと希里子!私はともかく茉莉は守り抜きなさいよ!!アンタは茉莉と私の護衛を太刀華先輩から頼まれたんでしょう!?」



「百合子ちゃん....!!」




「わかった、終わりに、する」




「ほう?諦めたのか」




「ただし、終わるのは、あなた」



「は?」



何を思ったのか、希里子は正常な左手でナイフを持ち、腫れ上がった右手に思い切り突き刺した!



「な、なにーっ!?バカか!!」



このアークの言う通りだ、馬鹿なの、アンタ馬鹿なの?死ぬ気なの!?血がたくさん出て....



「痛すぎるよ、だけど、痛みが、無くなるまで、進める」




「そ、そうか。希里子は、本来であれば時間がかかる自分の手の痛みが最早感じなくなる時まで、加速させたのね!」



再び立ち上がりった希里子は、血まみれの手に引き抜いたナイフ持って、アークの胴体、手足、顔面を瞬時に切りつける。



「ぐぅはあ!!」




「うん、もういたくない、痛みを、上書きすることは、できないんだね、そして....私はもう、痛みを感じない!お前の能力は、通用しない、右手で....攻撃する限り!」



「そんな強引なあああああ!だが貴様もうその手は....!」



「あなたを倒したあと、茉莉に治してもらうから」



「あ、そっか」



「じゃ、バイバイ」




「....!!」



「なっ、ひいいい!!」



アークが断末魔をあげた後、私が一回だけ瞬きし終わると、そこには微塵切りにされた人間の死体があった。



「きゃっ、なによこれは!それにアークは!?」




「安心して、それがアーク、の正体。勢い余って人間体に戻ったままで切り刻んじゃっただけだから、それより」




じーっと視線が送られる、それに気づいた茉莉ははっと気がついた。




「わ、分かったよ!治すね!」




「ありがと」




「う、うん....」



茉莉が希里子の手の甲にキスをしている、見たくないので私は頭上を見上げる。



「ここ登っていけば外に出るみたいね」



「行こう」



ゆっくりと、ロープを使って穴の外に出る、真っ先に日光を浴びると思ったのだが、天井がある。



室内に出たようだ....どうやら日射しではなく照明が穴の中へ射し込んでいたらしい。




「ほう、あいつを倒してきたのか」




気がつくと強面の髭がびっしり生えたまるでゴリラのような屈強な肉体を持つ、ボーダー服を着たおっさんが私達を見ていた。




そして鉄格子に湿っぽい場所....ここは....




「牢屋!?」



「くく、ようこそ刑務所へ」



あのミミズのアークが犯人ではなくて、真犯人はこいつだったのか?



「その通り〜! 既にここの刑務所から極悪な連続殺人犯を解き放ってやったあ!! 警察に気づかれぬ間に、看守を殺してな〜!」



「なんてことを....!」



ウソでしょ.... 連続殺人犯なら、懲りずにまた殺人を繰り返すはず、それが街に放たれたと言うの!?



「一体、何人を解放したの?」



「五人だ....ここに来るまでてめえが倒したやつを含めたらな。よっててめーらは後四人を探す羽目になる、ま、俺を倒せたらだがな!」



「倒せるに、決まってる」



「ならば倒してみろ....」




そう言うと囚人は、両腕がドリルになっているがそれ以外は土竜に似たアークに変身した!!



「くくく、このドリルでてめえらの胸も抉り取ってやるよ、男のロマンの武器で男のロマンの女の胸をよ〜ひひ」



間違いない....やはりこいつが真犯人だ!



「何故、そんな猟奇的な」



「あ〜〜〜俺は女の胸を舐め回してえんだよ〜〜!だがそれには周りが邪魔なんだぜ」



「へ、変態!!」



「そこで考えた!!胸だけ抉りとってやれば良いとな!」




変態アークのドリルを希里子はナイフで受け止める。



「ぐぐ....パワーが、桁違い!」



しかし、圧倒的なパワーに希里子が押されている!




「あれ!?あいつ地面に逃げたよ!」



ナイフを弾くと地面に潜るアークだが、移動したあとがもこもこと隆起するため、何処から来るかは容易にわかる。




「そこ....ッ!?」




地面から現れる瞬間に!!大量の砂が希里子の目に入ったああああ!!



「うわっ、目が見えないっ」



「今だっ!ツインドリルアターック!!」




目が眩んだ希里子にアークが飛びかかる!!



「希里子ちゃん!」




「ダメ、あなた自身は、回復できなっ....ああっ!」




自分を庇おうとした茉莉を、逆に庇った希里子の胴体がアークの回転ドリルに貫かれる。




「うぅ、ああ....」



「希里子ーッ!!」



「い、今治癒するからね!」



「させるかーッ!」




ギュルギュルと唸るドリルが今度は茉莉を狙う....! 茉莉がやられたらおしまいだっ....!!




「きゃあああ....百合子ちゃん!?」




「ぐぅは....今のうちに希里子を」




「う、うん!ちゃんと治すから待ってて!」




「ちっ!」




腹部に穴が空いてスースーする....これ死ぬ奴....



「はあああ!」




希里子がアークと戦っているあいだに、茉莉が私を治癒する、みるみるうちに腹部の穴が塞がっていく。



「ちっ!小賢しい真似を....」



「また潜ったわッ!」



「さっきと、同じ手を使う、つもり?」




「ぐじゃああああ死ねええええ!!」



次のアークの攻撃は防ごうとせず皆、四方に散って回避した。



「はぁっ!」



「ダメだな、そんなのよ!」



アークは前方を超スピードのナイフによる攻撃を回転ドリルで防御し、後ろは頑丈な刑務所の壁にぴったり背中をくっつけ、左右は掘り出した岩石で防ぐ....!!



敵ながら完璧な防御だ!



「ナイフが、粉々にっ....」



「がはははは!!俺のドリルクロウはダイヤすら砕く、本気を出した今はな!」




「がばあっ....うぅ、う」




「希里子ー!!」




「な、治さなくちゃ!」




「させるかあああ!」





「はっ、それこそ再び阻止してやるわよ!」




私は再び茉莉の前に庇うように立つ、あんな痛みを再び味わうのは嫌だが茉莉を失うよりはマシだ。




「なんてな」



しかし、その覚悟は空振りに終わってしまった!



「え?」



「なっ!再び地面に潜ったわ!!」




その隆起は、既に茉莉の足下、間に合わない!!




「ま、茉莉いいいいッ!!!」




「私が、しっかりしないと....くよくよしてらんない!」




もう駄目だと思われたその時、茉莉の体から電気が迸る!




「ぎゃあああああ痺れるうううう!!」




その電気に感電したのだろう、アークが悲鳴をあげて黒焦げになって地面からふらふら出てくる。




「どういうこと....茉莉の能力は治癒以外にあったの!?」




「え?え?」



茉莉自身も困惑しているようだ、ということは今電気を流す能力に目覚めたのか!?



「それは、ない。今まで二個の能力を持った能力者は確認されていない....」



「くそぅ....どうなっている!茉莉を始末すれば後は簡単だったのに....」



「私にも....分からないよ、けど、使い方は分かるよ!」




茉莉が全身に電気を纏う....!




「これでは手が出せ....逃げ....なっ、からだが動かん!」




電気で体が麻痺しているようで、アークは逃げようにも逃げられないようだ!




「どうやら、ここまでみたいだね」




茉莉が横たわるアークを見下ろす、右手を手刀にして電気を纏う。


右手に電流を集中させているのか!!



「そうか、茉莉は治癒能力。そして電気ショックで止まった心臓を再び動かすショック療法がある、つまり、彼女の能力は治癒や医療に利用できる能力なら使えるんだ」



淡々と解説する希里子だが、彼女の目からは驚きの感情が読み取れる。




「すごい....!」




「はあああああ!!」




茉莉の電撃ちょっぷが、アークの頭部に振り下ろされ、頭部を風船のように破裂させた。



「ぐがあああああああ!!」




「心臓が止まったみたいだね」




茉莉はどうやら吹っ切れたらしい、当たった....フェルの占いが!




こうして二匹のアークを倒した茉莉と希里子、だがまだ八人の殺人鬼がこの街に潜んでいると考えるとゾッとする。




私達は来た道を戻り、外へ出て日光に目を細めた。



この眩しさもなんだか久々に感じる。




そしてすでにその場に警察官の姿はなかったので、私が首を傾げると希里子は「VATに後は任せたら警察は別の事件を調べるから」と言った。




そして後日、この事件はただの陥没事故として新聞に掲載された。



「まあパニックになるしね、あんなやつらがいると皆知れば」




「そうだね、仕方ないよ」




希里子が私の隣でスヤスヤと眠る茉莉の頭を撫でながら答える。



彼女は二週間前から私達の護衛ということで四六時中睡眠時間も私達の見張りをしている、いつアークが襲ってくるか分からないから。


頼もしいのだが私と茉莉の二人きりの時間が....



「アンタも寝たら?ここ二週間、何も襲ってこないし」



「ううん、平気。私は、授業中に、寝るから、それに私は....」




「なによ?」




「何でもない」



「それにしても、解放された殺人犯達....」




「うん、この街に、あと四人の殺人鬼が、潜んでる。明日から、探さないと....ね」



あと九人の殺人鬼を早急に見つけ出して倒す、そうしなければ被害者の数は....平和だった筈のこの街に暗雲が立ち込めていた。




つづく

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