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第2話 煙の中の真実【番外】

「おーおー、あったりまえだけど混乱してるなあ。」

人様には見えないように、俺と天火の老公は本来の姿になっていた。

「悪いな、老公付き合わせてよ。」

『フン、秋葉トアノ娘ニ最後ノ時間ヲトイウ心意気ガ嫌イデハナイノデナ。』

「あーらら、ばれちまってら。」

予想外に心情を読み取られ、少し照れくさくなった俺は頭をかくしかなかった。


『煙ト炎ハ否応ナシニ紙一重ダカラナ。オ前ノヨウナ風ニハオレハナレヌダケウラヤマシイガナ。』

「俺からすれば、アンタ火の妖怪の割には融通ききそうだけどな。」

『減ラヌ口ダナ。』

「そうだな、やるか。」


目星なんざ、とっくについていた。

秋葉の見た景色とやら、秋葉は気づいていなかったが、そこに今回の事件の犯人が纏っていた。


「アンタが見守ってた子、おっそろしい女の子だな。人間やあやかしの類よりも恐ろしい。」

『ソレデモ、アノ神社ノ恩恵ヲ一心ニ受ケタ、依知子ノ宝物ダ。』

「左様か、老公!あいつだ!秋葉の気配が見える!!」

『行クゾ!!煙ノ!!』


俺と老公は息を詰めるように、妖力をそいつに向けた。



「煙と炎とでは、龍虎のようなものだろうな。」

俺はただぼんやりと、自分の見識が見事に外れた女の記憶を消そうとしていた。

「!」

咄嗟に手を掴まれてしまった。

「おい。気が戻ったな?」

掴まれた手が離せず、若干の憤りを感じた。

「優ちゃんを、助けてくれて、ありがと…ね。」

突然のお礼に戸惑いを覚えたのは、悟られないようにしたい。

「俺は、何も、していない。」

「そんなこと、ないよ。」

秋葉は体を起こした。

「身体に障るぞ、お前。」

「僕じゃ、僕じゃ助けてあげられなかったんだ。優ちゃんの心は。僕がいなかったら、こんなに苦しまなかったかなって。」

「お前は、本当にそう思うのか?」

「え?」

「お前と自分を比べてしまったこと、それは彼女の過ちかもしれないが。」

それでも

「お前に救われた部分だって今日以外のことであったかもしれないぞ。」

「お兄さん…。」

妖怪を集める割には意外と人間的なんだね、と笑った。

「…。」

軽く咳払いをして、俺は秋葉に告げる。

「正直、俺の力がどこまでお前に通用するかわからん。もしかしたら彼女の記憶を消すこともままならん気もする。それでもどうする?お前、彼女を忘れるか?」

秋葉は静かにうなづいた。

「僕にも、優ちゃんにも、きっとお互いの路がある気がするんだ。」

「そうか、一番楽しかった思い出でも振り返っておけ。そうすれば記憶が消しやすい。」

「そっか、そうだね…。優ちゃんが成人式の時、持ってきてくれたお酒、美味しかったなあ…。」

「…。」

俺はあいつの言う通り、まだまだ器が足りてない。

静かに息を吐き、意識を集中した。



夜風が灰になったであろう気配を、持っていった。

「やー、こんなに力使ったの、ひっさびさだわ。」

一仕事を終え、俺は笑っていた。

あんなゲスな野郎をここで語るなんて、阿呆らしい真似をするなんざ御免だ。

『コレデ良イノダナ、秋葉ニハ。』

「あんな綺麗な子に、こんな所業見せられねえしな。」

『オヌシハ、優シイトイウノダロウナ。』

「どうだか。」

『…アレホドノ炎ハ、我デハ出セヌ。タダノ煙々羅デモダ。』

何かを感づいたように、老公は呟いた。

「まあ、こうなった以上はよろしくたのむわ。」

申し訳ないと思いつつ、今後も厄介になることを告げるのだった。

『案ズルナ。アレガ喜ブ。』

「?秋葉か?」

『否…。』

老公はそのまま口を閉じた。


結局、優ちゃんが攫われた事件の顛末は、優ちゃんの無傷での確保、記憶の削除、犯人が今後地獄の業火に焼かれる夢に夜な夜なうなされるという、人ならざる者の力での解決に至った。


俺は、秋葉が忘れたであろう名付けてくれた名前を抱いて、真実という煙の中の真実を風に流した。

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