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第2話 事件解決は煙にまかれる【中編】

「おい!?秋葉??!」

ナガレさんの声がどんどん遠ざかっていく。


(あれ…不思議だな…誰かが支えてくれる気がする…。)

次の瞬間、何かがフッと浮いた気がした。

そこからの記憶は曖昧になってしまった。


「あんたは…!?」

『オヌシハ彼女ヲ頼ム。』

俺の目の前に突如現れた老公は、秋葉を支えながらそう告げた。

「そうだな。御頭見習いんとこ戻るか!」


俺は優ちゃんを抱きかかえ、朧車の元へと戻った。

「無事だったか。」

「ああ、未遂ってところだ。犯人はあの騒動で逃げただろうよ。」

「そうか、今朝の天火までお出ましとは。つくづくこいつの周りにはアヤカシが集まりやすいのか。」

その時、俺の袖を何かが引っ張った。

「お、意識戻ったか?」

天火に抱かれた彼女が、何かを言おうとしている。

「なんだ?どうした?」

彼女の口元に、自分の耳を近づけた。

とてもか細く小さな声で、彼女は俺に告げた。


(あのね…流れる雲に、流雲なぐもさんって、どうかな…?)

彼女ははにかみながら笑って、再び気を失ってしまった。

(参ったな…。)


「とりあえず、優ちゃんを店か家に送り届けたいが…。」

『少ナクトモ、今回ノ記憶ハ消シタホウガイイダロウナ。』

「俺がやろう。」

親方見習いの兄さんが、優ちゃんの額に手を翳そうとしたその時だった。


「…え?…ッ!!?いや!!」

突如目を覚ました優ちゃんが、混乱しながら声を上げた。

「お、落ち着け優ちゃん!!俺だ俺!!」

俺の顔を見た優ちゃんが、だんだんと呼吸を落ち着かせた。

「あ…、え、流のお兄さん…?どうして…?」

「あの子、秋葉が優ちゃんが危ないって教えてくれて、今助けたところ。」

「そう…ですか…秋ちゃん。」

秋葉の寝顔を見つめ、優ちゃんは泣きそうな顔になった。

「お前、俺達には驚かないんだな。」

御頭見習いが、優ちゃんに淡々と告げた。

「おいこら、女の子にそんな口の聞き方は無いだろ。」

俺は思わず御頭見習いを諌めた。


「い、いいんです。本当のことだし…、あの…、私と秋ちゃんが同い年だって言ったらお兄さんは信じますか?」

その言葉に御頭見習いは目を見開いた。

「秋ちゃんは私の幼馴染なんです…。同じ保育園に通って、同じ小学校に通って、でも秋ちゃんは途中から小学校に来なくなったんです。でも、神社に行けばいつでも遊べて、いつもと変わらない笑顔で、本当にいつも変わらなかったんです。」

彼女の一言一句が思い出を振り返るような、感慨深い言葉になっていくのを、俺も天火の老公も、ただただ聴いていた。

「だけど私だけがどんどん大きくなっていく、どんどん変わっていってしまう。それでも秋ちゃんは変わらずに、私を笑顔で受け入れてくれて、ああ、この子はきっと人間じゃないんだ。優しい優しい神様なんだって。だからいつも両手を広げてくれるんだって思ってたんです。」

優ちゃんの目から、じわじわと涙が滲み始めた。

「いつからだろう、その差がすごく苦しくなって、秋ちゃんがどんどん遠くなっていくような気がして、なんでも言える友達だったのに、秋ちゃんの笑顔以外見たくないってなっちゃって。」

彼女は自分の顔を覆うように泣き出した。

「わからんな、俺には。」

呆れるような溜息を、御頭見習いの兄さんは吐いた。

「野暮だなあ、御頭見習いさんよ。そんなんじゃ百鬼をまとめられる器には程遠いぜ?」

『おい!!お前だって妖怪の癖に御頭様を愚弄する気か?!』

『…。』

天火の老公が、雀を睨み付けた。

「なあ、優ちゃん。あんたはこれからどうしたい?」

俺は思わず彼女に尋ねた。

「今回の事件、あんたには大きな傷になるのは間違いない。この事件の記憶、消してやれないこともない。何なら今回の事件を引き起こした奴もあんたの知らないところでどうにもできる。

けど、あんた本当は一番忘れたいことがあるんだろ。」

そう言うと、彼女は驚いた顔をした。

そして悲しい眼をして、俺じゃなく、御頭見習いに告げた。

「お兄さん、私と…私と秋ちゃんの中から私たちの記憶を消せますか?」

「何故だ?意味がわからんぞ?」

『コノ娘ハ秋葉ト自分ヲ比ベテシマウノダロウ。ソレガコノ娘ニトッテ何ヨリ大キイ苦シミニナッテイル。』

「まあ、アヤカシの存在が普通の人間に知られるのはあまり好ましくはない。いいだろう。」

御頭見習いは、優ちゃんの額に再度手を翳す。

「秋ちゃんを、お願いします…。私が言えたことじゃないけど。」

そう告げると、彼女はそっと目を閉じた。

「よし、御頭見習い。悪いが二人見ててくれよ。」

「は?」

俺の言葉に、御頭見習いは訳が分からないという顔をした。

「おいおい、まだ事件は終わってねえだろ?それに、秋葉の記憶をどうにかするの、多分時間がかかりそうだからよ。」

俺はびしっと、指を御頭見習いに向けながら告げた。

「お前1人で行くつもりか?」

「まっさっかー!天下の老公!あんたもどうだい?煙と炎の競演とでも行こうじゃないか」

『悪クナイナ。』

俺達二人は、朧車から降りる準備を始めた。

「お、そうだそうだ!秋葉を丁重に扱えよ~?なんったってお嬢様なんだからよ!」

『不本意ダガ任セタゾ。』

そう告げて、俺達はとっくに幻術が解かれたホテル周辺へと降り立った。


『お、御頭…?』

あの飄々としたやつから告げられた言葉に、唖然とせざるを得なかった。

「この女と同い年で…女だと?このガキが…?」

突如己の中で目まぐるしく起きた様々な出来事が、荒波のように押し寄せたことに、戸惑いをどうしても隠せなかった。


俺は、ガキ呼ばわりしていた女の額に手を翳し、記憶を消す作業に諦めて専念することにした。


「あの煙々羅、何もかもを見透かしたような眼をしていたな…。」

澄んだ瞳を思い返し、少しだけ俺の手に負えるのかという不安を零したくなった。

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