第1話 それはきっと運命の出会い【中編】
唐突に声を掛けられて、僕は思わず上擦ってしまった。
「え、あ…。追いかけたいけど…。」
僕がしどろもどろになっていると、目の前にとても綺麗な玉が現れた。
「これは…?」
『オマモリダ、ソレヲモッテイケ。』
天火はそう言うと、その玉に吸い込まれた。
「え!?え…ど、どうしよう…。」
戸惑いながらも、僕はさっきのお兄さんの方へ走っていった。
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「しかし、あの天火妙だと思わないか。入内雀。」
『確かに、御頭の力をもってしても従わないのは…。』
空路を飛びながら、先ほどの事案を思い返していた。
「いや、それもあるが…、天火があの神社を燃やしもせず、子供も食らう事もなかったのでな。」
『確かに…!でも、神社に封印されていたとかですかね?』
俺の肩で雀は唸り始めた。
(神気より妖気を感じたものの…、まるであの神社と同調していたのが気にかかる。)
「あ!居た!!」
唐突に響いた声に、俺は思わず足を止めた。
「なんだと…?」
『おっ御頭!!あれ!!!』
振り返ると、さっき神社で遭遇した子供が空中を飛んでいた。
「すっごーい、本当に追いついちゃった。」
「お前、どうやって…。」
ふと、子供の首に玉がかかっているのが見えた。
「なるほど、子供は子供でも神社の子か。そしてあの天火がその玉に封じられているというところか。」
「…お兄さん、よく喋るねぇ。」
『おっ!!!?お前ええええええ!!!』
入内雀が子供の目の前に飛んで行った。
『お前いくら子供でも御頭様にそんな口を聞くんじゃない!!』
「わああ!!さっきの雀さん!やっぱり喋れるんだねええええ!!」
可愛いと言いながら、入内雀を撫ではじめた。
『ソっそんなことをされても!!され…さ…。』
入内雀はすっかりおとなしくなった。
(さっきの剣幕が台無しだな。)
「それで…?お前は天火の助けまで借りて何で俺を追いかけてきた?」
「あ、そうだった。」
子供は入内雀を撫でながら尋ねてきた。
「お兄さんが何者なのか僕知りたいんだ。」
「何者…か。入内雀、教えてやれ。」
俺の声に咄嗟に我に返り、入内雀はあたふたし始めながら解説を始めた。
『御頭様は百の鬼の頂点に立つそれはそれは偉い御方なのですぞ!!今は各所に散っている妖怪たちを従えるため放浪の旅をしておられるのです!!』
「へぇ、それって百鬼夜行ってやつ?」
『お前、詳しいな!!』
「婆ちゃんが教えてくれたんだー。」
「戯れもその辺にしておけ。入内雀。」
その言葉に、入内雀は俺の肩に名残惜しそうに戻る。
「と、言う訳だ。いくら神社の子供といえどこれ以上の詮索は鬱陶しい。」
俺はただ、ひたすら子供を見つけ続ける。
俺の目は、記憶を操る力を秘めている。いくら子供とはいえ、これ以上嗅ぎまわられては厄介だからだ。
ところが、いくら見ても子供は怯むことなく、気を失うことも無かった。
それどころか。
「お前…、その眼は…。」
子供の目は、鮮やかな夕日の色に染まっている。違う、奴の眼が灯色に変化していたのだ。
(天火の力か…違う。)
「チッ。」
俺は仕方なく、子供から目を背けた。
『お、御頭様?』
「次は無い。好機の目で見られるのは気分が悪いんでな。」
「あ、ご、ごめんなさい。」
「朧車!」
俺が呼ぶと、鬼の面を前面に備えた牛車がやってきた。
『御頭…、僕が言うのもあれですけど、あのままでいいんです?』
「あの天火が居る以上手は出せない。それに…。」
もう一度だけ、子供の方を見る。
(あの子供、もしや…。)
「あまり力を使うこともないだろう。」
朧車に乗りながら、入内雀に言葉を返した。
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「あーあ。いっちゃった。ごめんね天火さん、せっかく協力してくれたのに。」
『構ワヌ、ガソノ眼ハドウシタモノカナ。』
「え?眼?そういや、お兄さんの眼真っ赤だったもんねー。なんか影響受けたかな?」
『逢魔ガ刻ノヨウナ色ダ。一先ズ、家二帰ルトシヨウ。』
「そうだね、ありがとう。」
『…相変ワラズダナ。』
「え?」
『ナンデモナイ。』
天火さんの力もあって、僕は自分の家に戻ってきた。
そして、神社の地に足を付けた瞬間だった。
「…優ちゃん?」
僕の頭の中に、優ちゃんの怯えた顔が浮かび上がった。
『ドウシタ?』
「天火さん…、優ちゃんが。」
『アノ娘カ。何カアッタノカ?』
玉を握りながら、僕は流れてくる情報を見る。
液晶画面、優ちゃんを追いかける影、優ちゃんの写真、気味の悪い文書、青ざめている優ちゃん。
(これは…優ちゃんの意識…?)
そして。
「天火さん…どうしよう…。優ちゃんが。」
「優ちゃんが誘拐された!!」