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第1話 それはきっと運命の出会い【前編】

 朝日が昇る前、僕はうつろな目を何とか開けて普段着に着替える。起きる合図は婆ちゃんが作る味噌汁の匂いだ。

布団を畳んで押入れに仕舞い込み、階段を下りる。

「婆ちゃんおはよ。」

「おはよう、顔洗っておいで。」

「うん。」

毎朝の変わらないやりとりだ。洗面所に向かって、歯を磨いて、顔を洗う。鏡を見れば、見慣れた自分の顔が映った。

「わーい、ご飯だご飯。」

「じゃあ、食べようかね。」

「いただきまーす!」

「いただきます。」

婆ちゃんがいつも作ってくれる朝ごはん、白いご飯に赤だしの味噌汁、甘い卵焼きにたくあんの漬物。

いつもと変わらない味だけど、それを食べればいつだって心が温かくなる。

「婆ちゃんのご飯美味しい―!」

「嫌だよ、この子は。毎朝同じこと言うんだから。」

ばあちゃんは笑う。

「だって本当なんだもん。」

と言いながら、僕はご飯を食べ続けた。

「今日は掃除以外にすることある?」

「いや、とくにはないよ。」

このやりとりも毎朝の日課だ。季節の変わり始めた時くらいしか、変化がない。

 食事を終えた後、僕は竹ぼうきを持って外に出る。

秋は決まってこの掃き掃除をする。いや、桜の散る時もそうだ。

だけど、僕はこの季節が好きだ。赤に黄色に、茶色の葉っぱ、少し冷たい風、柿の樹に銀杏の樹、焚火で焼く焼き芋、少しだけ寂しい季節。

(そういえば…。)

ふと境内の方を振り返る。

 ずっとずっと、見続けている夢がある。夜の神社の境内、とても大きな炎、それを見上げている。

(あの夢は、なんだろう。)

そう思いながらも、僕はずっと掃除を続けた。

 日がだいぶ登ってきたけれど、まだ午前中の時。

その日は参拝客が来た。

「あれ、優ちゃん!」

僕は思わず駆け寄った。

「秋ちゃん!こんにちわー!」

柔らかな雰囲気を持つ彼女は、僕の友人だ。

と言っても彼女は大学に通い始めて、ここ数か月は会えなかった。

「えへへ、今日は学校午後からだから顔見に来たんだー。」

そう言って僕の頬を両手で押さえる。こうすると、彼女は落ち着くらしい。

 だけど少しだけいつもと様子が違った。

「大丈夫?」

「何が?」

あくまで平然を装う優ちゃん。

「なんか、しんどそうだ。」

そう言うと、優ちゃんは苦笑いをしながらも僕のおでこに自分のおでこをくっつける。

「ありがと、でも秋ちゃんの顔見たら元気出たよ。」

「本当?」

「うん、勉強とバイトとで、ちょっと忙しいから疲れてるだけ。」

少しだけ、うーんと思いながらも僕は思いついた。

「ちょっと待ってて!」

僕は慌てて社務所に戻り、柿を持ってきた。

「これ、良かったら食べて!甘いよ!」

優ちゃんはやさしい声で「わぁ、ありがとね。」と言った。

「何かあったら、いつでも言ってね。僕は此処に居るから!」

僕がそう言うと、優ちゃんは僕に抱き着いた。

「秋ちゃん、ありがと。」

優ちゃんは「また来るね」と言って、学校へ向かった。

 掃き掃除を終えた時、めずらしくまた人が来た。背の高い男の人だ。黒い服をまとっている。

その人はじっと境内を見つめている。

「どうがしましたか?」

僕は思わず声をかけた。

「いや、少し…変わった神社だなと思ってな。」

お兄さんは、少し低い声でつぶやいた。

「この土地の土地神様を祀っているんだと聞きました。祭事になると結構にぎやかなんですよ。」

僕はこの神社の説明をする。

「お前…こんな時間に神社に居て、学校は行かないのか。」

「が、学校?」

「平日だぞ?俺が来るとき、チビ達はグランド駆け回っていた。」

(もしかして…。)

小学生じゃないですよ!と言いかけた時、彼の肩に留まっていた雀が居た。

その光景に思わず言った。

「ずいぶん人懐っこい雀なんですね。」

その言葉に男の人はみるみる表情を変える。

「お前、こいつが見えるのか…。」

その人はさっきまでとは違う、薄ら笑いを浮かべていた。

『御頭!あまり人間を巻きこんじゃだめですってば!』

「うわ!喋った!」

雀の言ったことよりも、雀が喋ったことの衝撃の方が強かった。

「なるほど…。じゃあお前にもこいつが見えるんだろう?」

お兄さんはそういうと、境内に向かって指を指す。

僕は毎晩見る、夢の光景が蘇った。

「偶然通りかかったが、土地神を祀る神社にしては神気が弱い。代わりに同類の気配がしてな…。」

その指の先には、夢で見たようにとてつもなく大きな炎が燃えていた。

「鬼火…、いやこの地方では天火と言ったな。」

お兄さんがそうつぶやくと、炎には大きな目と口が現れた。

「こんなところに縫い付けられているとは…、よほど凄腕の退魔師でも居たのか…。」

お兄さんが境内に足を歩ませる。

 次の瞬間、天火と呼ばれた炎は更に燃え盛った。

「うわあ!!」

『小僧!!貴様ノ思惑二俺ハ付キ合イハセンゾ!!』

猛々しく燃える天火は、僕を囲い覆う。

でもそれは、なんだか僕を守っているように思った。

「やれやれ、入内雀。ここはいったん引くしかないな。」

『御頭!そうしないと、僕焼き鳥になる!!』

「ま、待って!!」

お兄さんは大きな翼を生やして、空へと飛び立っていく。

「すっげー!!何あれ!!」

僕はあまりの好奇心で、お兄さんを追いかけようとした。

『追ウノカ?』

先ほどの天火が僕に声をかけた。


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