2(泳ぐだけで賞状が貰える)
中間試験が終わり、初めての市総体。一年もエントリーされる。個人競技にレギュラーも補欠もない。
アッコはブレスト、ユッコはバック。
ふたりともきれいなフォームで泳げた。顧問の吉川先生はエントリーシートにわたしの名前を記入し忘れそうになって、取り繕うようにアキのある競技に出るよう勧めた。
四〇〇メートル個人メドレー。
毎年希望者は少なく、泳ぐだけで賞状が貰える。取り立てて得意種目がないからどれに出ても同じ、むしろ全部泳いだら? なんて軽くいわれて、わたしの返事も待たず、先生は名前を書き込もうとし、「ごめん、名前なんだっけか?」
ぺろっと舌を出す吉川先生はまだ大学出たばかりですって感じだった。本当は二年目か三年目らしいけど。
そんなわけでわたしの大会デビューは四コメだった。
エントリーは五人。
ビリにはならなかったけど賞状は貰えなかった。
四コメはわたしの出場種目で固定された。
しんどいけれども、わたしは毎回がんばって精いっぱい泳いだ。
男子は県に行ったけれども、わたしたちの代の女子は、誰も市より上には行っていない。
今年は誰か好成績残せたらいいのにと思いながら部活に顔を出した。
ばしゃばしゃ泳ぐみんなを見ながら、わたしは授業の見学みたいにセーラー服姿のままプールサイドにしゃがんで、両足を水に浸して遊んでた。
夏と呼ぶにはまだ早くて、春というには遅すぎて。
コースの向こうで男子が「足つった!」叫びながらプールサイドに危なっかしく出て、こむら返りを治してた。
わたしは水に入れた足がなんかの拍子に小さな波を作るのを、面白いなぁとぱちゃぱちゃ遊んでいた。
「どうしたの」ユッコの声がした。ゴーグルを上げ、顔を拭いながら、「なんかあるの?」
アッコがわたしの足の辺りを見つめていた。わたしは水に浸かった足を動かすのをやめた。
「なんでもない」アッコは首を振って滴を払い、ゴーグルを降ろすと、プールの底を蹴ってイルカみたいに大きくジャンプ、ことさらしぶきを立てるかのような無茶苦茶なフォームのバタフライを披露した。
プールサイドはしとどになって、ユッコも「もうっ」とかいいながらその被害を文字通り頭から被った。
部活の後は三人で帰った。前を歩くアッコとユッコ。
ずっとそんな、いつもと同じ。
ふたりがしゃべってふたりで笑って、ときどき振り返って同意を求めたり。たいていわたしはしゃべるより訊くほうが多い。
「総体で引退かな」
アッコの言葉に、そうね、とユッコは同意した。「あとは受験勉強一本」
げぇーってひどい声を上げて、「ユッコは成績いいからなぁ」
「がんばり次第、いっしょに高校行こう?」
「高校、かぁ」アッコはついと振り返って一瞬、わたしに視線を投げるように「行きたいね」顔を前に戻した。
「夏はいっしょに勉強しない?」
その提案にアッコは、「いいの?」
こくりとユッコは頷いた。「数学、教えて?」
「中間、大差なかったじゃん」
「でもアッコの方が分かってる」
「そうかなぁ」
そうだよ、とユッコは微笑む。「それにけっこうみんな誰かといっしょに勉強してるみたいだよ?」
「そだっけ?」
「そうだよ」ユッコは悪戯っぽくいった。「男子とふたりで、お勉強」
「マジでッ」
アッコが食いつく。それからはぁーと長いため息をついて、「受験の逃避かなぁ」
「張り合いになるんじゃない?」あはっと、ユッコは笑った。「同じ学校に行こうよ、がんばろうよ、みたいな」
「どっちかが落ちたらシャレになんねー」
うけけとアッコは笑う。だよね、ってユッコも笑う。わたしも笑う。
夏の到来を予感させる夕暮れに、三人の笑い声。
コイバナといえば、じつは気になっている男子がいた。
一年の頃から知っていたけど、同じクラスになったのは三年になってからだった。
十勝くんといった。
背が高くて大柄で、ちょっと無口な美術部の部長だった。
クラス委員の吉田さんとよく喋っているなぁと思っていたけど、二学期になってほどなくしてふたりがいい仲だと知った。
夏の間になにがあったかだなんて、わたしの知ったことじゃあない。
秋。文化祭。
わたしはアッコにユッコといっしょにぶらぶらまわっていたけれども、ふと通りがかった美術室にはひとりで入った。
作品展だった。
これを展示するのはどうなのだろうってものから、すごいなぁってものまで絵がメインだったけど、色々あった。中でも目を引いたのは四枚の連作だった。




