僕は薬売り
読んで頂けたなら幸いです。
鬱蒼と生い茂る木々の根を乗り越え、僕は歩を進める。
自身の背丈の数十倍はあろう樹木達は、木の葉を互いに擦り合わせて音色を出し、周りは遥か高くから降り注ぐ木漏れ日で美しく光輝いている。
しかし、濃緑のロングコートに漆黒の牛革バッグ。日除けの深緑色の帽子を被っている僕には意味を成さない。
「……うん。迷ったね……。」
先程から同じところを通っている気がする。
言葉の冷静さとは裏腹に心臓は激しく脈を打つ。
ここは森の中。
一般人どころか狩人も迂闊に近づかない立入禁止区域。
「さて……どうしようか」
こんな時に都合良く家など無い。
現実は厳しいのだ。
「あ、確か……」
僕は古びたバッグをまさぐり、コンパスを取り出した。
「よし!これで帰れるかもれない」
そう上手くいかないのが現実。
森の磁場によりコンパスの針は円を描いていた。
「……まじか」
諦めた僕は再び歩き出そうとした時、僕の左頬を矢が掠めていった。
何が起きたか分からずその場に慌ててしゃがみこむ。
「うわぁあぁぁあ!!!」
僕の叫び声だけが森中に響き渡る。
(何何何!?盗賊!?山賊!?海賊!?強盗!?)
高速で脳内が死ぬ準備をしている時、頭を抱え伏せているすぐ頭上で綺麗な声がした。
「貴方……誰ですか?」
恐る恐る顔を上げるとそこには黒髪の美しい狩人が立っていた。
「あ……狩人」
盗賊で無いことに安心した僕はそっと胸を撫で下ろす。
「貴方……誰ですか?」
「あ、僕はクロワ。薬売りです。」
「薬売り?」
「はい。世界中の薬草や薬品を売っている商人です。因みに僕は見習いです。」
「何でこんなところに居るの?」
「新薬草の探索、発見も僕達薬売りの仕事なんです」
「ほぅ」
身分証明の紋章も見せ、さらに相手を信用させた。
「クロエさん」
「呼び捨てで構いません」
「クロエ……頼みがある」
「何ですか?」
「私の病気を治して欲しい」
木漏れ日の中、弓矢で強襲され、頬の傷も癒えないまま診察を頼まれたこの日が、僕とエルフの狩人、リリとの出会いだった。
読んで頂き、誠に有難うございます