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悲しみの童貞達

一時の気の迷いです。

適当に書いたのでさらーっと流し読みしてください。

それでも楽しんでくれたら嬉しいです。

 これは、ある日の物語。

 翌日に成人式を迎えた、男六人の物語。

 有村有稀(ありむらゆうき)

 長谷寺棚下(はせじたなし)

 渡瀬智也(わたらせともなり)

 加斗雅理(かとまさり)

 岩見拓楽(いわみたくら)

 松笠連(まつがれん)

 彼等には彼女がいなかった。

 過去に居たものもあれば、生まれてこの方女子とまともに手さえ繋げていないものいる。

 とにかく、成人式の前日の時点では、彼等に彼女は居なかった。

 童貞として、彼女がいないものとして、彼等の結ばれていた絆は堅い。

 恐らく。

 多分。

 メイビーだけれども。

 しかし、そんな堅い(?)結束を破壊する出来事が、起きてしまったのだ。

「ん?」

 その日連は、昨今若者を中心として急激に普及されているSNSアプリ、『ツイタン』を覗いていた。

 無作為に流れるタイムラインの中から、偶然目にした一つの呟き。

 なんの面白味もない言葉と共に添付された短い動画を、彼は目にした。

 呟きの主は有村有稀。

 内容は、特に説明することは無い。強いて言うなら、旅行先での一コマっと言った感じだ。

 そこで問題になったのは、六秒程しかないその動画の最後に、『女子』が映っていたことだ。

 そう、『女子』。

 その『女子』が映っている時間は一秒も無い。けれど、その一瞬に映る彼女はとても楽しそうだ。

 とてもではないが、偶然映ってしまったとは考えにくい。顔を隠してはしゃぐその姿はまるで、『彼女』のそれだった。

「???」

 正直、彼の頭は理解が追いついていなかった。

 非現実的なその景色に、ただループする動画を淡々と眺めることしか出来ない。

 信じたくはなかった。

 まさか、まさか……。

 連は頭を切り替えて、『ツイタン』のタイムラインを追った。

 何かヒントがあるかもしれない。

 そうではないと否定する材料が流れているかもしれない。

 しかし、現実は残酷だ。

『……爆ぜろ』

 それは、岩見拓楽の呟きだった。

 有村有稀に充てた、言葉。

 なんかそれだけでもう察した。

「あー……」

 連の口からはそんな、いろんな感情の入り混じった、ため息にも似た声が漏れた。

 そして連は、『ツイタン』を閉じてもう一つのアプリを開く。

 これまた若者に浸透しまくりのSNSアプリ『LAN』。言わばチャットだ。

 そのアプリ内に作られたグループチャットにて、連は一言発する。

「ねえ有村。もしかして、おなごと秩父行ってたの?」

 言わずには、いられなかった。

 聞かなくてもなんとなく判ってはいたけれど、気持ちは抑えられなかった。

「かりんだよ。」

 間もなくして訪れた返事にはそんな短い一言。

 答えたのは有稀ではなく拓楽だった。

『かりん』

 見覚えのある名前だ。

 たしか、そう、

「あのバイト先の?」

 以前遊んだ時に、有稀が片思いに近い感情を抱いていたのだと聞いた覚えがある。

「そう。」

 すぐさま帰ってきたのは、またしてもとても短い言葉。

 けれど、その一言の中には彼の抱くすべての感情が内包されているような気がした。

 タバコ吸おう。

 安らぎが、欲しかった。

「裏切り者だわ」

 連は思わずチャットに呟く。

「おもむろにひをつけた」

 雅理が呟く。

 彼も同じ感情に陥ったようだ。

「童貞じゃねえやつに興味はねえ、消えな」

 続けて送られてきたのは、渡瀬智也からのメッセージと、時を止めちゃう某漫画のスタンプ。

 辛辣であり、みんなの気持ちの代弁だった。

「いや純粋な童貞ですよwww」

 有稀による明らかに調子に乗った言葉。

 イライラする。

「方向性の違いでグループ解散だわ」

「マヌケは見つかったようだな(スタンプ)」

 連、智也と続け様に発言。

 言ってることはよくわからないが、とにかく突き放さずにはいられない。

 そして有稀の返信は、

「一緒に行っただけで付き合ってないですよ?」

 ときた。

 おいおい。

 おいおいおい。

「お前さ、それだけでも童貞からしたら宝だよ。家宝だよ」

 連は言う。

 家宝とまでいくかは怪しいところだが、女子との接点が極端に少ない童貞からすれば羨ましい限りでしかない。

 そんな謙遜されたって、嬉しくもなんともない。むしろ、調子の波にノリノリ具合が文字だけでもヒシヒシと伝わってくる。

 次に来たのは智也の言葉。

「でも宝の持ち腐れだよ」

 うまい事言ってる。気がする。

 確かに、童貞的には一度のおデートだけでは何もわからないだろう。活かすことも、後世に伝えることも出来ない。なんせ童貞だから。

「成人式目前にして聖人式挙げてきました」

 有稀の言葉の訳だけれど。意味はわからない。全くわからない。聖人式ってなんだ。気になってググってみたけれど、なんにも出てきやしなかった。

 取り敢えず、調子に乗りまくってることだけは理解出来た。乗りまくりだ。

「言いたいことは、それだけか?」

 拓楽から送信された、物々しいフォントのスタンプ。

 もはや怒りを隠そうとはしていない。

「でも彼女、アダスに恋愛的な感情抱いてないですよたぶん」

 だからなんだと言うのだろう。

 それは、あれだろ『なのでこれからもフラットな関係を築いていきます。あわよくば付き合いたいです。ウェヒヒ』って事なんだろ分かんってんだよ!感情見え見えなんだよ!あと無駄に落ち着いた風のコメント止めろ!優越感に浸ってんな!

 またしても、ヘイトが溜まってきた。

「今日はもう寝ろ」

 と拓楽。

「やれやれだぜ」

 と智也。

 そして連は、

「女友達ってやつか……。雲の上の存在だわ」

 憧れを、素直に言葉には並べていた。

「雲とおっぱいは掴みたいもんだよ」

「むしろ揉みたい」

 智也と連が続けざまに発言していく。もうこの当たりからは自分たちでも何を言っているのかわかっていない。

「彼女なかなか胸でかい」

 巫山戯るな。

「どうやらお前は死にたいらしいな」

 その言葉は、自然に連の指が打ち込んでいた。

 それに呼応するかのように智也の「オラオラオラオラ!!」とあいつのスタンプ。

 そうだ、やっちまえ。

 ボコボコにしてやりてえよ!

「いやアダスもまだそこは未接触な部分である」

 当たり前だ。

「接触してたらお前の命なかったわ」

 連は言う。

「まだって何だよ、揉む前提か?お?お?」

 煽っていく智也。そのまま、煽りを続けていくのかと思いきや、

「お?っぱい」

 なんだそれは。

「おっぱい」

 返信したのは連。なぜこの流れに付き合ってしまうのか、連も連である。

「とりあえず腕ぶった切ってイイっすか??」

 しれっと発言してきたのは拓楽。

 なんだか発言がバイオレンスになってきた。

「三角チョコォオッパイ」

 智也よ、流石にわからん。

「大っぱいですよ」

 流れを掴んだかのように発言してきた有稀。

 しかし、

「は?」

「は?」

 智也、連と共に冷たくあしらった。まあ、意味がわからないのだから仕方がない。敵に付き合っていくのも癪だしな。

「表出てこい」

「表で裏筋晒せや」

 またしても連と智也。

 智也の発言は違う意味で危なくなってきている。

「もう有村嫌い。寝る。」

 遂に強く突き放していく拓楽さん。だが、嫌いになってるのはこっちも一緒。眠りに逃げたくなっていく。

「キ〇タマの裏筋晒せや、キ〇タマ」

 もはやアウトでしかないわけだが、それもいい。盛大に暴れたくなるものだ。

「手繋いで登場しますね」

 流れも汲まず有稀は言った。

 調子に乗るなよ本当にぃ!

「キ〇タマもう寝よう、明日たっぷり聞こう」

 ここで智也は、一度区切りをつけようとした発言。内容には少々突っ込みたい部分があるが。

 だが、翌日は成人式。朝が少し早いということもあって、連としても寝ておきたいところではあった。

「話の内容しだいでは有村の命日は明日になる。内容関係なくそうなる可能性もある」

 と打ち込み、眠りについてやろうと思った矢先だ。

 通知が鳴った。

 安い電子音。

 画面を覗くと、

「また春にも行くだなんて口が裂けても言えない」

 なんだと?

「あ、もう裂けてたっぽい」

 巫山戯てるな。

「ここ裂け」

「殺す」

 連は、我慢出来なかった。

 仕様がない。仕様がないよ。

「もう、イヤ何も信じられない」

 あんな人間にも女は寄っていく。その現実は、連の心に重くのしかかった。

 悲しくて、もう、辛い。

 ヘイトは限界だ。

 タバコ吸お。

「明日覚えとけよ」

 もう戦う気力が残っていなかった連は、そんなセリフだけを残していくことしか出来なかった。

 負けた気分だ。

「はぁ〜……有村I〇I〇に拉致されねぇかなぁ………」

 拓楽、帰ってきたのかと思ったら、とてつもないバイオレンスを置いていった。

「そしたらクソコラ作ってやるよ」



 流れは止まり、連はもう一度『ツイタン』を開いた。

「グループ崩壊の機器。炎上ってこえーわー」

 と、呑気に呟いてしいる棚下。

 そういえば、いちども無効では発言していなかったが、高みの見物をしていたとは。

 まあ彼も、同じ気持ちだと思いたい。

 その後に調子にノリノリでビッグウェーブサーフィン真っ最中の有稀のつぶやきを見つけたが、イライラしたとだけ言っておく。


 一人ベランダて吸うタバコ。

 夜空に向けて立ち上っていく煙を眺めていると、何とも言えない気持ちになる。

 夜風は冷たい。それがまた、彼に孤独を強く感じさせる。

「明日の成人式が楽しみだ」


 オチはない。

 ただ、童貞の結束は余りにも脆いということだけを伝えたい。

 これは、そんな物語。

読了ありがとうございます。

「ヒカリと影と」も、よろしくお願いします。

そっちは割と真面目です。

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