Science without Humanity
短編シリーズ「罪の残したモの」2作品目です。
今日も始まる神々の悪戯。
牢屋に響く足音がそれを意味している。
実験が始まる、それだけで恐怖に包まれる。
「No.01」
黒髪の研究者が指示すると、護衛らしき者たちが私を牢屋から出す。
もう反抗する気も無く、されるがままにする。
金属だらけの部屋に連れてかれると、いつものように台に寝かされ錠をはめられた。
仕事が終わった護衛が部屋を離れるのと交代で、白衣の男達が入ってくる。
男の一人が私に注射針を刺すと、とアナウンスが響く。
「準備完了。実験開始」
無機質な声と同時に注射針から液体が流れ始めた。
液体が私の体の中に入ると、私の体を蝕んでいく。
「自分」が無くなっているような、いや実際そうなのだろう。
そういう感覚がした。
これで何回目?この感覚にも慣れてしまった。そんな自分がとても嫌でしょうがなかった。
だが、嫌悪感をもろとも消してしまう、恐怖という感情。
自分が何にも残さず消えるかも、これが一番怖い。
知らず知らずの内に鼓動は早くなり、息も上がっていた。
「No.01に異変あり。実験中断」
アナウンスが聞こえると、液体の注入も止まった。
自ずと、鼓動も落ち着いてくる。
もう、嫌だ。
No.01は中々の結果だ。
他の試験体が壊れていくなか、これだけは大丈夫だった。
今日は強めのものを用意したが、耐えきっている。
これが成功すれば、食糧ができる。
そして、自分自身も評価される。
そうすればもっと大規模な実験ができる。
悪魔を使えるかもしれない。
自分の野望を巡らせつつ、長い黒髪をかきあげ、No.01の結果解析を頭の中にインプットする。
牢屋をでて、自分を失い、牢屋に戻り。
ずっと、ずっとそれの繰り返しで研究者への怒りも無くなって。
でも、現実は何も変わらない。悲しい位に。
変わったのは私の心。最初は実験の度に大粒の涙をこぼしていたのに、今は涙なんて見当たりもしない。
もうこんな色のない世界、嫌だ。ここから出れない自分も、ものすごく嫌。
カラフルな世界をもう一度... ...、
「No.01」
その声で、私の思考は止まる。
結局何を考えても現実は変わらなかった。
だが、そんな日常はいきなり消え去った。
実験が終わり、牢屋に連れてかれる時、私の「自分」が無くなった。
全部吹き飛ばされて、真っ白に。
けれど、真っ白は永久に続く訳ではなかったらしい。
真っ白が身を引くと、目の前には大きな空があった。
いつかぶりに見る空。何も変わらず悠然と広がっている。
この空の下もう一回、人の世界が始まればいいのに。
そこらにあった石を握り、そう思った。
そして、石を思い切り投げた。
石は見事少し先の岩に当たり、割れた。
そんな馬鹿なこと。叶うはずもない。
踵を返し、ぼんやり見える森を目指して歩き出した。