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その変化に気の付いた狐の霊は、すっくと立ち上がってみます。
前の腕を、もちあげると、人間と同じ手が見えました。
「・・・!」
その様子を見ていた、人型の妖怪が言いました。
「おやおや。変化してみれば。髪は金色。随分若い娘に。生娘じゃな。お主は早死にしてもうたんじゃな。
1年も生きられなんだか。まあ、よいわ」
この事に答えようとする狐。
「あのっ!」
自然と言葉がでた。その事に、狐自身がびっくりする。
しかし、何か礼を言おうと狐は必死だった。
「あのっ!どなたか知りませんが蘇らせてくれてありがとうございます」
「礼には及ばぬよ。しかし何だ。ちゃんと喋れるではないか。お主、名前はなんと申す?」
「名前?名前ってなんですか?そんなものは知りません」
「ははっ。名無しの権兵衛か。ならば、わらわが名を授けようかの?」
そう言いながら、人型妖怪はあたりを見回す。
すると、その場所には黄色い菊が咲いていました。
それをみた人型妖怪は、狐の髪色が金であることもあり、黄色が近くも感じたので、そのままつけることにしたのです。
「そうじゃ。お主はキク。キクと名乗るがよい」
「キク、ですか!ありがとうございます。それで、お姉さまのお名前は?」
「わらわは空だ」
「空様、ですか」
「ああ。そう呼ぶといい」
「あ、あのっ!」
「今度は何じゃ?」
「あたい、無念があって。そのお。野いちごをお腹いっぱいたべたくて」
「あはは。女子なのに、食い意地の張った奴じゃ。残念だが、野いちごを食う事は出来ぬよ?」
「何でですか?」
「少しは考えてみんしゃい?わぬしはもう、生きてはおらん。もののけになったのじゃよ。じゃから、お腹は空かぬし、人間なんかよりずっと素早く動ける。特に不便はないぞ?」
「信じれません」
「そうか。ならばわらわについてくりゃれ。何故なのか教えたもうぞ?」
そう言うと、空と名乗る妖怪は、ある方向へゆっくりと歩き始めます。
そこにまた、キクは黙って付いていきました。
「さあ。着いたぞ」
空にそう言われ、辺りを見回すキク。
「あっ!ここは」
キクが目にしたのは、生前、好んで食べていた野いちごが生えていた場所でした。
そして、その近くには新しい罠が仕掛けてもありました。
「キクや。先ずはその罠に触れてみい。何も起こらないから」
「はい・・・」
空に促され、おそるおそる罠に近づくキク。そしてキクは、手で罠に触れてみました。
すると、何も起こりません。手が罠をすり抜けてしまうのです。
「触れない!それに痛くもない!」
「そうじゃろ?」
キクは前まで狐だった時とは違う感覚に戸惑いました。そして、もうひとつの行動に出たのです。
それは、口から直接野いちごを食べる事でした。
そして、勢いをつけて口をもっていきました。
でも、見事に口は野いちごをすり抜け、食べることは出来ませんでした。
その事実を知ったキクは、急に涙をこぼします。
「食べれないぃー。空しいよおぉー」
キクは力なく言いました。
その様子を見た空は
「ありゃまあ。早速壁にぶつかったか。キクや。もののけになった者が、最初にぶつかる試練なんじゃ
その事はじきに慣れるさね?」
と、言いました。
「本当ですか?」