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第三話 ボーイゴーホーム

サブタイ統一失敗。

「ただいま・・・」


 玄関の扉がやけに重い。


「あらおかえり。遅かったのね」


 台所で夕食の支度をしている母親の声が出迎える。

 トオルはそのまま黙って自分の部屋に入り、ベッドに倒れこんだ。


 今日あったいろいろなことが頭の中でグルグル回っている。グルグル回っている色んな考えが、徐々に一つになっていき……。

 最後に残るのは、あの中学生のことだった。


 穴に入っていくときはどんな感じなんだろう。

 あんな小さな所に入っていくなんて、やはり痛いのだろうか。

 彼は、死んでしまったのだろうか。


 自分は……人を殺してしまったのだろうか……。


 悶々としたまま天井を眺めて過ごしているとやがて夕食に呼ばれた。

 メニューはトオルの好物のシチューだったが、味はしなかった。

 まるで味覚をどこかに落としてきてしまったみたいだ。


「ごちそうさま」


 いつもならおかわりするトオルを母親は少し心配したが、大丈夫だよと言って食卓を離れ、風呂に向かった。

 湯までなくなってしまうから、左手を湯船につけないように気をつけながら入浴を済ませる。


 自分の部屋で包帯を巻きなおしながら、トオルはこれからのことを考えた。

 しばらくはこの包帯で大丈夫だけど、いつまでも包帯をしていると怪しまれるだろう。


 それからまたあの中学生の事を考える。

 最初は穴の非日常性にワクワクしていたトオルだが、今はこんなものなければ良かったとしか思えない。

 どうして突然、自分にこんな穴が空いたんだろう……。


 やがていつの間にか、トオルは眠りに落ちていた。


 ◇


 痛い……イタイ……


 どこからともなく声が聞こえる。悲痛なうめき声が。

 闇の中から聞こえる声は、ただ痛みを主張するだけ。それ以外の情報を与えなかった。


 イタイ……イタイ……


 徐々に声が近づく。なお姿は見えない。あたりは全て闇。


 突如、声が鼻の先から聞こえた。「うぅ、ああぁ……イタイ……」反射的に仰け反る、が、体勢を変えたという感覚がない。

 自分の体の存在が感じられず、感覚もが闇に溶けてしまったかのようだ。


 その中で声だけが確かに存在する。

 吐息さえ感じられそうな距離だ。

 そう思った瞬間、目の前に顔が浮かび上がった。


 いや、もはやそれは顔と呼べたものではないかもしれない。かつて顔だったもの。

 まるで細い穴に無理やり通されてきたかのように、不自然な形に引き伸ばされたり裂けたりしている。

 唇らしき肉の隙間が動き、声が漏れ、この哀れな少年が声の主だと判った。


 少年? そう、もはや肉塊にしか見えないそれは、少年だった。

 そしてトオルにはそれが誰だか判っていた。


 イタイ……イタイ……。


 自分が、自分の「穴」に「落として」しまったあの少年。

 そして彼をこんな姿にしたのは、自分だ。

 そう思った瞬間、トオルの中で何かが振り切れた。叫ばずには、いられなかった。


「うわあああああああああああああああああああああああああああああ」


 掛け布団を押しのけ、ものすごい勢いで跳ね起きた。

 全身からは汗が噴出し、ベットリとパジャマが肌に張り付いている。

 あの歪んだ顔が頭に焼き付いて離れない。

 部屋に荒い息の音と、コチコチという時計の無機質な音だけが鳴り響いていた。


 落ち着け。あれは夢、ここは僕の部屋だ。

 見慣れた天井も、昔好きだったあのアニメのポスターも僕の部屋のものだ。

 机の上の置きっぱなしのペットボトルも床に転がった鞄も僕のだ。

 それからえーと、なんだっけ、この白いの。


 床に散らばった大量のトイレットペーパー。

 ゴミの詰まったビニール袋。

 それから――


 トオルはトイレットペーパーの海の中に、自分の左手に消えた、あの中学生を見つけた。

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