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第二話 ボーイミーツボーイ

 カタンカタンとランドセルを鳴らしながらトオルは一人で帰っていた。

 あんなに上がっていたテンションが、掃除のせいで一気にさがってしまった。もはや家まで走る気は起こらない。


 もう普通に帰ってゲームでもして飯食って風呂入って寝ようかな。そう思っていたときだった。


「ねぇ、そこの君」


 突然後ろから声がした。周りには自分以外誰もいない。

 つまりあの声は自分に話しかけているということだ。


 トオルは嫌な予感がした。でも、振り返った方がいいという予感もして振り向く。

 立っていたのは、この近くの中学校の制服を来た男子学生だった。


 その髪は金髪で、重力に逆らっている。つまりワックスやジェルなんかでテカテカに固められて逆立っている。


「なぁ君、ちょっと金貸してくれない?」


 カツアゲというやつだ。


『と、言うわけでみんなも登下校の際には十分に気をつけるように――』


 ホームルームでの先生の言葉が思い出される。


『最近学校の帰り道でカツアゲに遭ったという生徒がたくさん出ています。いずれの生徒も被害に遭ったのは一人のときでした』


 ちゃんと聞いておけばよかった。


「なぁ、金持ってない?」


 今一度呼びかけられる。トオルは知っている。これは疑問文ではなく、命令形だ。

 相手は金を出せといっている。出さなければ、暴力だ。そんな事は常識だ。


 本来トオルは揉め事を好まない。

 波風立てずにやり過ごすのがもっぱらの彼の生き方だった。学校でも他の生徒と喧嘩をするなんてことは、ここ数年来してこなかった。


 だが、このときは何故だか分からないがいつもと違った。

 穴が彼を変えたのか、それは定かではないが。


「持ってるけど渡す気はない」


 と喧嘩を売る。


「ふーん、そう」


 中学生はそれだけ言うと次の瞬間には右手の拳をトオルの腹めがけて突き出していた。

 よく体重の乗った右ストレート。しかしそれは目標に当たる事なく空を切った。


 実はトオルは意外と反射神経が良い。とっさの所で身をかわしたのだった。

 トオルは後ろに下がって少し距離を置いた。


 中学生は少し驚いた様子でトオルの方に向き直った。

 その間にもトオルはジリジリと後ずさる。懐にもぐりこまれたらさすがに避けようがない。

 それに今の距離だと走って逃げてもすぐに追いつかれるだろう。距離をとらなければ。


 しかし二、三歩さがったあたりで相手が一気に近づいてきた。あっと言う間に距離が詰まる。

 相手はすでに拳を後ろに引き、殴る準備万端だ。第二撃が来る。

 完全に走り出すタイミングを逸してしまった。今背中を見せるのは非常に危険である。

 ここは、正面から受けとめるしかない、か。

 トオルは覚悟を決め、身を守るために両手を体の前に突き出した。


 だがその次の瞬間……鈍い衝撃とともに中学生の姿が視界から消えていた。


 自分の心臓の音と息遣いだけが聞こえ、辺りが急に突然静かになったように感じた。

 左手の、ほどけた包帯が目に入る。

 さっきゴミを捨てたときに縛りなおしたのが緩かったのだろか。


 包帯の隙間からのぞいている穴。

 この穴に吸い込まれた生き物は一体どうなってしまうのだろうか。


 トオルは頭の中が真っ白になったような気がした。

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