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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

正しい召喚

作者: 赤川ココ
掲載日:2026/06/24

手慰み第数弾は、召喚ものに挑戦いたします。

お楽しみいただければ、幸いであります。

 世界が瘴気に侵され始め、各国で対策が議論される中、神国に近いこの国の方針は、いち早く決まった。

「唯一神のお告げ通り、異世界より救世主を召喚する。救世主殿に不自由させぬよう、衣住の準備を整え次第、召喚準備に取り掛かるように」

 国王の決定に、三人の王子を含む家臣一同が、厳かに一礼する。

 それを満足気に見下ろし、国王は息子たちに目を向ける。

「そなたたちには、救世主殿の世話を任せる。くれぐれも、失礼のないように」

「は、はい。尽力いたします」

 戸惑いの色を浮かべながら、王子たちは臣下の礼を取った。


 これで、何とかなればいいがと、国王は内心溜息を吐く。

 何せ、救世主として召喚予定の少女は精神的に幼く、極小さな不安がもとで、その力を喪失させてしまうのだ。

 そう、国王には同じ人生を、悲劇で終えた記憶がある。

 気が急いて、何の準備もなく救世主を召喚し、突如この世界に来た少女を混乱させ、ただの穀潰しになり下げた挙句、闇堕ちさせてしまった記憶が。

 無理に力を覚醒させようと、様々な苦行を少女に課した事が、完全に裏目に出た。

 救世主にあるまじき、黒い空気を纏い始めた少女を止めようと、国王は自ら武器を取り、騎士たちと鎮力したが、力及ばず空気に飲み込まれて絶命した。

 と思ったら、巻き戻ったのだ。

 丁度、瘴気対策が決定する直前だった。

 そう咄嗟に察した国王は、決定の後に付け加えたのだ。

 今度こそは、準備を整えてから救世主殿を迎え、世界を救って見せる。

 そして無事瘴気を払ったら、王子たちに引き止めさせれば、国の知名度も向上するだろう。

 父親譲りの顔と地位をもつ、自慢の息子たちだ。

 誰か一人は少女の心を射止めてくれるはず。

 そんな思惑もあって、国王は世界の危機にも関わらず、浮き足だった気分で召喚の儀に立ち会ったのだった。

 神殿の、獣神像の前に描かれた、召喚用の魔法陣を前に、神官たちが力を注ぐ。

 前の人生の時と同じように、反応は早かった。

 魔法陣が眩い光を放ち、真ん中に立ち尽くした人影が、一つ。

「成功、いたしましたっ」

 疲弊した神官の声と共に、国王は魔法陣の方に近づいた。

 前の時はこの時点で、少女は混乱と恐怖を覚えて立ち竦んでしまったのだ。

 そっと魔法陣のスレスレまで近づき、少女と目線を合わせるべく、膝をつく。

「このようなむさくるしい場所に、突然呼び出してしまった事を、まずはお詫びいたします」

 出来るだけやんわりと、そう呼びかけた国王は、違和感に気づいた。

 未だ光が消えぬ魔法陣の中で、救世主はただ、黙っている。

 混乱も恐怖も、見受けられなかった。

 それどころか、戸惑う国王の元に自ら近づいて来る。

「? ……!」

 その堂々とした様子でもしやと思い、国王は声を掛けた。

「もしや、あなた様も前の出来事を、覚えておられるのですかっ? あの節は、誠に……」

「覚えているのは確かだが、あの娘じゃない」

 国王を遮った声は、男の声だった。


 唖然とした初老の男を見下ろした男は、溜息を吐いた。

 矢張り、認識すらされていなかったんだな。

 確信したら、話は簡単だ。

「前の人生で犠牲になった少女は、私の召喚に巻き込まれただけです」

 真実を、告げるだけだ。

 驚愕する国王の後ろで、三人の王子は安堵していたが、これには男の方も安堵した。

 自分一人だけの説明で、勘違いしたままのこの国の者が、納得してくれるか、不安だったのだ。

 前の人生でも召喚された男は、一緒に来てしまった少女の挙動で勘違いした国王とその他一同を尻目に、神官と三人の王子に国の危機を聞き、助けを乞われた。

 その時の男は所帯持ちで、丁度十年勤務した会社から、事業縮小を理由に自己退職を願われて、途方に暮れていた。

 さしたる資格も持っていないため、転職しても今ほどの収入の維持が難しいし、まだ新婚の妻にも負担を強いなければならなくなると、かなり悲観していたため、その命乞いには心を揺すぶられた。

 彼らの説明によると、救世主として選ばれた者は、元の世界とこの世界を行き来する事が出来、瘴気が消えた後も残ってくれるなら、相応の地位と生活基盤の確保もしてくれると言うので、男は一旦戻って身の回りを整理して、再びこの世界に自らやって来ることにした。

 身辺整理と言っても両親は既におらず、妻と失業を理由に離婚し、住んでいた部屋も引き払う位の事だったが、一年近くかけてしまい、その一年で、彼の国の情勢は大幅に変化してしまっていた。

 そして、巻き込まれただけの、まだ十代らしき少女が、犠牲になっていた。

 聞けば、少女を救世主と勘違いした一同が、覚醒を促す修行を敢行し、それまでで完全に精神を病んでいた少女は、闇堕ちしてしまったと言う。

「……」

「止められなかった、我々の責任です。如何なる罰も受けます」

「それは、飲み込まれた少女を助けられるか試してから、話し合いましょう」

 焦燥と諦観が入り混じる表情の、神官と王子たちに答えながら、男も激しく後悔した。

 何故あの時、無理にでも連中から引き剥がして、少女と共に戻ると言う選択が、出来なかったのだろうか。

 あの後、瘴気を払った後、飲み込まれた者たちも戻ったが、全員絶命していたから、これは完全に後の痼として残った。


「こちらで生涯を終え、巻き戻ったのは、召喚される五年前です」

 魔法陣の中で正座して前の人生の、国王が逝った後の経緯を話した男は、静かに口を閉じた。

 話を聞いている間に、流石に国王も思いだした。

 上下同じ色の、少しくたびれた変わった服に身を包んだ二十代後半の男が、確かにあの時少女の後ろに座り込んでいた。

 だが、思い出すのに時間をかけたのは、仕方がなかった。

 くたびれてはいたが、前は身綺麗な印象があった。

 今は、最近国に増え始めた浮浪者と、遜色ない見た目だ。

 この変化には、前の彼をよく知る神官や王子たちも、戸惑っているようだ。

 その戸惑いにも気づいていた男は、苦笑した。

「私は当時妻帯していましたが、長く勤務していた会社での、社内結婚だったんです」

 どうせ退職に追い込まれ、離婚を選ぶならと、巻き戻った後すぐ、男は思い切って会社を辞めた。

 今度は、誰も巻き込まないよう、人を避けて生活して来たのだった。

「なんと……」

 顔見知りの神官が、顔を歪めるのにも苦笑し、男は軽い口調て言った。

「向こうには、何の未練もないから、すぐに動けるぞ。その代わり、また、この国で生涯世話になる」




 

 

ここの縛りでは、このくらいの話しか、思い浮かびませんでした。

もう少し考えて、いずれ再挑戦したいです。

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― 新着の感想 ―
この国に来ること前提に過ごしてたんですか…笑 異世界の方が現代より過ごしやすいのかな
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