元鞘なんてありえません。
「俺が悪かった。俺が本当に愛しているのは、お前だってわかってるだろう?」
わかるか!ぼけ!
彼はとてもモテた。
だって、家柄が良くて、顔もいい。成績もよかったしね。
なんで私が婚約者なのか物凄い謎だった。
いや、謎ではない。
幼馴染だから。
両親が仲良しだったから。
彼は婚約が不服だったのか、昔から私にだけ冷たかった。
だけど、私は耐えた。
うちの両親は本当、お金の事を考えない人たちで、財政状況は最悪だった。
それを支えてくれていたのが隣に住んでいたフォルダー家。
彼の家柄の話をしたけど、うちの家柄もよかった。
王妃も輩出したことがある名家。
だからこそ、代々宰相を務めているフォルダー家と仲良くできるわけだったけど。
婚約者として私は耐えてきたけど、さすがに浮気というか寝取られた時はもうブチ切れた。
両親も流石に見放した。
そしてやっと、両親は彼が私にしてきたことを理解してくれた。
で、その彼、私の屋敷に来て土下座してるんだけど。
土下座。
日本人かーい!
まあ、よくあるテンプレ小説の世界に私は住んでいるみたいなので、まあ、いいや。
本当の中世だったら、汚物まみれだっただろうし、食べ物も日本人好みのものはなかったかもしれないし。
この世界での、私の役割は知らない。
だけど、私は彼を許さない。
顔がいいから許す?
いやいや、我慢したよ?私。
でも浮気はいや、しかも寝取られ。汚い。
触らないでほしい。私に二度と。
そういうことで、婚約は解消してもらいました。
え?物語としては面白くない?そんなの知らない。
嫌なものは嫌だもん。
でもその代わりに……。
「十七歳で、婚約解消。どうしますかね。お嬢様」
私には従者がいる。
私にはまったくなびく様子がない可愛げのない従者。
だけど、元婚約者が私を詰った時はさりげなく、仕返ししてくれた。
苦いお茶を出すとか、そういう小さいことだけど。
まあ、従者だからね。
「そんなの決まってるじゃない。あなたが代わりに婚約者になってくれるんでしょ?」
「へ?私が?ありえないですよ。ふざけないでください」
「だめ?領主の仕事、父の手伝いをしてるからできるでしょ?だめ?」
「だめに決まってます!私は平民です」
「そんなのどっかに養子にしてもらえれば、いいだけじゃない。私が聞いているのはあなたの答え。私の婚約者になってくれる?」
「辞退させてください。私には分不相応です」
彼は直ぐに断ってきた。
でも私は諦めなかった。
十回目の誘いを断られ、私は十八歳。
両親が焦り始め、お見合いが何度も組まれた。
「もしかして、あなたも好きな人がいますか?」
「好き?ううん、わからない。でも夫にしたい人がいるわ」
正直彼への気持ちが好きなのかわからない。
でもずっと傍にいてほしいのは彼以外いなかった。
「それは好きですね。私にも好きな人がいるのです。なので、少し試してみませんか?」
「はい?」
ベルバト様に誘われた計画はこういうもの。
お互いの好きな人に嫉妬させよう。
そして仲を進展させようというもの。
いやいや、嫉妬されないなかったらどうするの?私はそう思ったけど、少しだけ期待して計画に乗ることにした。
デートをする。
しかもお互いの好きな人を連れて。
私の好きな人は従者。
ベルバトさんの好きな人は侍女。
私たちは仲良そうな振りをしたけど、作戦は失敗。
お互いの従者と侍女が仲良くなってしまった。
平民同士だから壁もない。
「……私、泣きそうです」
「私もだ。こんな展開になるなんて」
二人は店の外で楽しそうに話している。
私とベルバトさんは沈痛な面持ちで二人の様子を窓から眺めていた。
「リズ嬢は、何度彼に告白というか、プロポーズをしたのですか?」
「十回です。でも、無理みたいですね。本当に。ちなみにベルべトさんは何回?」
「十五回です。二年かけてます」
「私は一年です。ステラさんは可愛いもの」
「ステラは可愛い。まあ、爽やかなトールくんとはお似合いだな」
「そうですね」
そこで私たちは同時に溜息を吐く。
作戦は失敗。
前よりも悪くなったみたい。
「そのうち、結婚して仕事を辞めてしまうのか」
「ステラさんはそうかもしれないですね。トールもきっと辞めてしまうのかしら」
「だろうな。君の気持ちを踏みにじることになるからな」
トールのいない世界。
そんなの耐えられるかしら。
彼が別の人の夫になっても、傍にいてくれたら……。
無理、無理よ。
「悲しいな」
「ええ」
私たちはそれっきり会うのをやめた。
「お嬢様。ベルべト様には会われないのですか?」
「ええ。私ももう十九歳なのにね。早く別の相手を探さないといけないのに」
トールはまだ私に何も言ってこない。ステラさんのこと。
だから、私から聞くわけにもいかず、普通に答える。
「お嬢様。あの話、まだ有効ですか?」
「あの話?」
とっさに聞かれて私はわからなくなった。
ううん。
期待したけど、怖くてそれを考えなかった。
「ベルべト様と楽しそうに会われるあなたを見て、私は心を決めました。どうか、私をあなたの伴侶にしてくださいませんか?」
「トール?!え?ステラは?」
「ステラ?ああ、ベルべト様に今頃告白しているのではないでしょうか?あの方、手が早そうだし、今頃は……」
「え?どういうこと?」
「どういうことって。ショックでしたか?ベルべト様はステラを愛しているようなのですよ。ステラは私と同じで使用人の身。プロポーズを十五回も断ったらしいのですが、リズ様と一緒にいる姿を見て、考え方を改めたようです。私もですね」
「トール?それ本当なの?」
「本当ですよ。あなたが楽しそうに他の男性と話している姿を見ていて、とても苦しい。ベルべト様以外とはあんなに嫌そうだったのに、彼とだけは気があったようですね」
「違うのよ」
トールに誤解されたくなくて、私は全部を話してしまった。
「私のために、そんなことを。本当に私はなんてことを。分不相応なことはわかっています。けれども、私はあなたの側にいたい。従者としてではなく伴侶として。こんな風に触ったり」
「ト、トール?!」
「可愛いですね。お嬢さま」
目を細めてふわりと笑うトールに私は心を奪われてしまった。
なんてカッコいいのかしら。
くらくらする。
そうしてトールは懇意にしている伯爵家の養子になって、私と婚約を結ぶ。
陰口をたたく者、元婚約者のやっかみなどがあったけど、トールはそれをすべて薙ぎ払った。
かっこよすぎる。
両親も反省してか、娘の幸せを想ってくれたのか、散財することをやめてくれた。
従者から伯爵子息、私の婚約者になってから、トールは色々うちの財政に手をいれた。前から思うことがあったらしいけど、立場的に抑えていたみたい。
おかげでうちの家の懐も温かくなり、一年後、二十歳になって、私はトールと結婚。
結婚式には赤ちゃんを連れたステラがベルべト様と一緒にきてくださった。
余りにも展開が早くて、目が飛び出そうになった。
「先を越されましたね。私たちも頑張りましょう」
トールにとんでもない発言をされて、真っ赤になった顔を冷やすのが大変だった。
結局、前世でネット小説を読み漁っていた時に、読んだことがあるような展開にはなったけど、幸せだからいいかな。




