「どうしてこうなった」
「だから絶対に帰しませんわ! 仁音様は、私と婚約しますの!」
「………………はぁ? あたしのお姉ちゃんなんだけど。あんたみたいな雌猫には関係ないでしょ」
「その通りね。仁音はわたしの旦那さんだから、あなたなんかには渡さないから」
(うーん、混沌としている……)
ボクは目の前の状況に、そんな感想を抱く。
瑞姫の方にちらっと目をやると、彼女はどこから取り出したのか、手にハサミを握っていた。
「さっきから何を言っているのかしら? 仁音様と結婚するのはこの私ですわ!」
「いーや、わたしが結婚するんだから!」
「ダメ! お姉ちゃんと結婚するのはあたしなんだからね! あ………………」
『えっ!?』
瑞姫が言い放った瞬間、ボク、絆奈、フレーゼ、全員が声を揃えて驚愕した。
全員の視線を集めた彼女は、気まずそうにしながら肩をすくめる。
(まさか、瑞姫がそんな風に想っていたとは……)
17年生きて始めて知った妹の想いに、ボクは衝撃を受けた。
「っ、あのね! お姉ちゃんは昔、事故に遭ったときにあたしのことを庇ってくれたの! そっからずっと大好きなの!」
「それならわたしも、病気で倒れたときに助けてくれてから、ずっと愛してるの。幼稚園のときからだよ」
「わ、私だって……公園で泣いていた私を慰めてくださり、その上、一緒にお遊びまでしてくださって……そのときからずっとお慕いしていますわ!」
ボクへの想いを隠すのをやめた瑞姫は、堂々と好きになった理由を語った。
それに感化されたのか、2人も続いて理由を話し出す。
「君たちの想いはとても伝わったよ。3人もの美少女たちから、こんなに熱いラブコールを貰えるなんて。ボクは本当に幸せ者だね」
ボクがそう伝えた瞬間、3人の顔がボンッと真っ赤に染まる。
絆奈は自分の両手を頬に当てながら、そして瑞姫はツインテールの毛先を指で弄りながら、照れたようにボクから顔を逸らした。
(フッ、照れる2人の姿も可愛らしいな)
そんなことを思いながらボクは、なぜか俯いているフレーゼに視線を向ける。
すると彼女は顔を上げた瞬間、勢いよくボクに抱きついてきた。
「仁音様! 愛しておりますわ!」
フレーゼはそう叫ぶと、ボクにトンッと顔を近付けてくる。
そして次の瞬間、彼女のくちびるがボクの口元にソッと触れた。
「………………………………ッ!?」
(い、いいい、いま、キスされた!? フレーゼに!?)
混乱したボクは1歩1歩と後ずさると、自分のくちびるに指を持っていく。
ボクがラグが発生したかのようなカクカクとした動きでフレーゼの方を向くと、彼女は頬を紅潮させながら妖艶な笑みを浮かべていた。
「ッ!!! な、何やってんだお前ェっ!!! あたしのお姉ちゃんに手ぇ出しやがってっ!!!」
次の瞬間、そう叫んだ瑞姫がハサミを構え、フレーゼに向かって勢いよく飛び出した。
その様子を見たボクは、2人の間に素早く身を挟むと、瑞姫を抱きしめて抑えつける。
「お姉ちゃんどいて! そいつ殺せない!」
「瑞姫、急いては事を仕損じるよ。ほら、早くハサミを仕舞うんだ」
(くっ、どうすれば瑞姫を落ち着かせられるんだ……!)
瑞姫はボクの腕の中で暴れながら、フレーゼのことを強く睨みつける。
どうすれば彼女を落ち着かせられるかを考えていたとき、ボクは直前の行動を思い出した。
「すまない瑞姫………!」
次の瞬間、ボクは腕の中で暴れる彼女にキスをした。
数秒にも満たない時間、瑞姫のくちびるに触れていると、ボクはゆっくりと顔を離す。
「な、な……な………………」
「フッ、どうだいマイエンジェル。落ち着きは取り戻せたかい?」
開いた口が塞がらない状態の瑞姫に、ボクはそう声をかける。
彼女はこくこくと首を振ると、ボクの腕の中からそっと抜け出した。
「いい子だね瑞姫。さすがはボクの妹だ」
そんなボクたちの様子を見ていた絆奈は、光を失った瞳でボクの目を捉えた。
彼女は少しずつ近付いてくると、ボクの目の前まで来て顔を押さえようとしてくる。
「ねぇ仁音……どうしてわたしとはキスしてくれないの? 瑞姫ちゃんとも、その女ともしたのに………………こうなったらも――」
ボクは絆奈が話し終わる前に、彼女にも触れるようにキスをした。
「………………ッ!?」
次の瞬間、彼女から『ボンッ!』という幻聴が聞こえてきそうなほどに、絆奈は顔を真っ赤にした。
「あら、まさか仁音様が全員に口付けをしてしまうなんて……少しばかり破廉恥ですわ」
使い物にならなくなった瑞姫と絆奈を見たフレーゼは、どこか興奮したような、どこか呆れたような表情を浮かべながらそう呟く。
すると彼女は、ボクの目を見ながら言葉を続けた。
「それにしても私、仁音様に初めてを奪われてしまいましたわ。これは責任を取って貰わないといけませんわね」
「……っ、それを言うならあたしだって、実の姉とキスしたことが誰かに知られたら、もう普通の恋愛は出来ないよね! お姉ちゃんにはその責任を取って貰わないと!」
「………………ぁ、わたしも、キスの責任を取って貰わないと、いけないよね」
3人は独り言を言うかのように順番に呟いていくと、ボクのことをジッと見つめてくる。
彼女たちはゆっくりとボクに迫ってくると、目の前で止まって、一斉に口を開いた。
「お姉ちゃん!」 「仁音!」 「仁音様!」
『誰と結婚するの(よ)!!!』
どうやらボクには、もう逃げ場が無いらしい。
「フッ……どうしてこうなった………………」
そんなボクの小さな呟きは、迫ってくる3人の愛の言葉に、かき消されたのだった。
Fin.




