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第5話:それでも俺は、王都に戻らない
魔物が退いたその夜、村は久しぶりに灯りが消えなかった。
誰もが眠れず、ただ生き残った事実を噛みしめていた。
村長は俺を呼び、静かに頭を下げた。
「……助かった。
この村は、あんたがいなければ終わっていた」
俺は首を振る。
「俺は、風を聞いただけです」
「それでもだ」
村長は顔を上げ、まっすぐ俺を見た。
「ここに残ってくれないか」
報酬は出せない。
立派な住まいも用意できない。
それでも――必要だと言ってくれた。
俺は、風を読む。
この村には、まだ折れていない流れがある。
人の気配も、希望も。
「分かりました。しばらく、ここにいます」
その言葉に、村長は深く息を吐いた。
夜。
ひとり外に出ると、南から別の風が流れてきた。
硬く、乾いた匂い。
鉄と革の気配。
――人間だ。
しかも、武装している。
(王都か……)
俺を追放した場所。
俺を不要と判断した場所。
だが、不思議と心は揺れなかった。
「今度は、選ばせてもらいます」
追放された男は、
辺境で初めて、自分の居場所を選んだ。
そして風は、次の試練が近いことを告げていた。
ここまでで第一章です!




