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第3話:もうすぐ、この村は襲われる
辺境の村の夜は、驚くほど静かだった。
虫の声と、遠くで揺れる木々の音だけがある。
俺は村の外れに立ち、風を読んでいた。
北から流れてくる空気は、粘ついている。
冷たく、重く、そして数が多い。
――群れ。
魔物特有の、まとわりつくような気配が風に混じっている。
(まだ遠いが……三日以内)
そう判断した俺は、翌朝、村長の家を訪ねた。
「三日後、この村は魔物に襲われます」
唐突な言葉に、村長は眉をひそめた。
「根拠は?」
「風です」
俺はそれだけ答えた。
村長はしばらく黙り込み、やがて苦笑した。
「この村はな、そんな予言を何度も聞いとる。
当たった試しはない」
疑われるのは慣れている。
「逃げるなら、東の丘です」
俺は続けた。
「あそこだけ、風の流れが違う。
魔物は近づきにくい」
「……風、か」
村長は深くため息をついた。
「分かった。
村人には“念のため”とだけ伝えよう」
完全に信じたわけではない。
それでも、何もしないよりはいいと判断したのだろう。
その夜、俺はもう一度風を読む。
北の森から、確実に近づいてくる流れ。
数は増えている。
(間違いない)
風は、嘘をつかない。
そして三日後の夜明け前、
その予感は、現実になった。




