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入学式

すみれガ丘高校。


茉白がこの春から通うことになる高校である。


一応歴史のある学校らしいが、ホームページを見るとつい先日、外装工事が完了したばかりらしく校舎の見た目はひび割れひとつ無くピカピカだ。




茉白は制服のスカートの裾を揺らしながら、期待に胸を躍らせ校門をくぐった。


校門から校舎までは桜並木があり、まるで茉白を迎え入れるように花びらを舞い散らせている。


桜の木の下では、新入生らが仲の良い友達同士で写真を撮り合っていた。




「バスケ部よかったら見学しに来てね!」




満開の桜に見惚れ、茉白も写真を撮ろうとした時、ふいに背後から勢いよく声をかけられた。


振り向くと、そこには部活のユニフォームを着た先輩が勧誘ビラを片手に立っていた。




「テニス部楽しいよー!」


「吹奏楽、一緒にコンクール優勝目指しませんか?」




先輩たちの元気な声が、朝の冷たい空気を震わせている。


茉白がバスケ部の勧誘ビラを受け取ると、チャンスとばかりに次々と他の先輩がやってきた。


街中のティッシュ配りをスルーできない茉白の性格上、下駄箱にたどり着く頃にはたくさんの勧誘ビラを抱える羽目になっていた。




「やったー!クラス一緒だ!」


「うわっ俺一人じゃん」


「私も3組が良かったあ~」




下駄箱付近に掲示されたクラス発表のポスターを見た新入生の人だかりから、喜びの声や悲鳴が聞こえてくる。




(私は何組だろ...)




自分も早く名前を見つけようと背伸びをした瞬間、




「わっ!?」




誰かが背中に当たり、身体が前のめりに傾く。


反射的に手をつこうと腕を伸ばしたその時、




「!」




細く、しかし確かな力で右腕を掴まれた。


すぐに視線を右腕の方へ向ける。




そこには、血管が透けそうなほどに透き通った陶器のような白い肌に、太陽に照らされツヤがかった黒髪ストレートボブの女子生徒がいた。


茉白の茶色味を帯びたくせっ毛とは対照的だ。


その白い肌と黒髪のコントラストに一瞬目を奪われた。




左胸には校門で先輩たちが新入生につけて回っている桜のコサージュがあるので、同じ1年生なのだろう。




「あ、ありがとう」




目線が5cmほど上がる。


すぐさま礼を言ったが、その女子生徒は何も言わなかった。


すると、ふいに茉白の頭上に手を伸ばしてきた。


反射的に目を瞑る。




「花びら...」




「...?」




「頭についてた」




ゆっくり目を開けると、女子生徒は桜の花びらを1枚、指でつまんでいた。どうやら髪の毛にくっついていたらしい。




彼女は手に取った花びらを地面に落とすと、小さく会釈するような素振りを見せ、校舎の中へ立ち去っていった。




その後ろ姿を立ち尽くしながら眺める。




(綺麗な子だったな...)




あの子に支えられた感触がまだ残っている右腕を、左手で撫でるようにそっと添える。




心臓がドクドクと大きな音を立てていた。





1年2組の教室に着くと、すでに中には多くの生徒がいた。


心なしか、もうグループができあがっているように思える。




(えーっと、私の席は...)




自分も友達作りに出遅れまいと、慌てて黒板に貼られた紙の中で「上嶋」の文字を探す。




(周りの席の子、女の子だったらいいなあ)




だったら話しかけやすいのに、なんて考えながら自分の席の方に目を向け─


茉白は驚いた。




窓際の列の一番後ろの席に、さっき下駄箱で出会った女子生徒が静かに俯いて座っていたのだ。


朝の光に照らされた彼女のその姿を見て、茉白は直感的に美しいと感じた。




(あの子、同じクラスだったんだ!)




茉白の席は、彼女の一つ手前の席だ。


クラスに知り合いが少なかったことも重なり、思わず声をかけずにはいられなかった。




はやる気持ちで黒板を離れ、自分の席に近付いた時、机の脚がつま先に引っかかった。




「うわっ!」




「今度こそ床にぶつかる」と身構えたが、床ではなく自分の一つ後ろの席の机に勢いよく倒れ込んだ。




ガタガタッ─




顔を上げると、さっきの女子生徒がキョトンとした顔でこちらを見ている。


ち、近い!!




「ごめんっ、」




すぐに身体を起こして机から離れる。




(最初の印象が肝心なのに~...!)




こんなつもりじゃなかったのに、と自分の鈍臭さを恨んだ。




「あの、さっきは助けてくれてありがとう。私は上嶋 茉白。これからよろしくね」




さっきの今で格好がつかないが、ドキドキしている胸を抑え、できるだけ平然を装いながら笑顔で言った。




彼女はじっと無表情で茉白を見つめている。


下駄箱で助けてもらった時や先ほどは、動揺してあまり気に留めていなかったが、とても綺麗な瞳をしていた。


気を抜くとその瞳の奥に吸い込まれてしまいそうだ。




(もしかして顔に何かついてる...!?)




これ以上みっともない姿を晒すのは勘弁だと思いながら、今朝食べた朝ご飯を必死に思い出していると、




「あはは」




彼女が笑った。


さっきまでピンと一直線に固く結ばれていた薄い桜色の唇がほんの少し緩み、白い歯が覗いた。




「え?」




「上嶋さん、面白い」




「お、おもしろい...?」




一体なにが面白かったのかは分からないが、彼女が見せた不意な笑顔に対して思わずドキッとした。




...にしても、さっきからこの子と話していると心臓がうるさい。おかしくなってしまったのだろうか。




ぽかんと口を開けたままの茉白をよそに、彼女は再び視線を机に落とした。


すると床に何かが落ちていることに気付いたのか、身体を屈めて拾い上げた。




「これ...」




それは茉白が羊毛フェルトで作った「あーちゃん」が入ったアクリルポーチだった。


さっきつまずいた弾みで鞄から落ちてしまったのだろう。




「あっ!それ私の...!」




拾った際、彼女が大きく目を見開いて驚いたような顔をした気がした。




茉白は「もしかしたら同じ『akari』を知っているファンなのではないか」と考えた。




しかし、それよりも先にお世話にも上手いとは言いにくいハンドメイドを見られた恥ずかしさが勝ってしまい、「akari」について聞くことはしなかった。





─それが茉白と明莉の出会いだった。


しかしこの入学式以降、二人が話すことはそれほど無かった。というのも、そもそも話す話題や接点があまりなかったのだ。




授業中のペアワークも、基本隣の席の人とばかりであるし、部活も委員会も違う。


休み時間も、茉白は中学からの同級生であるサキやその友人たちと一緒にいることが多く、明莉とは滅多に話さない。




彼女は何の部活に入っているのか。


そもそも入っているのか。


なにが得意でなにが苦手なのか。


趣味は?好きなものは?嫌いなものは?




茉白は彼女のことをまだ全然知らない。

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