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時は約2ヶ月ほど遡り、まだ肌寒さが残った4月。




『ピピピピピピッ』




時計の針が6時を指すと同時に枕元に置いたスマホのアラームが早朝の静かな薄暗い部屋に鳴り響く。


布団の中からモソモソと手を伸ばし、アラームを止める。




「うう~ん...」




まだ布団に包まれていたい気持ちを抑え、気合いで一気に身体を起こす。


中学生までは自宅から学校までの距離が近く、毎朝8時起きでも余裕で間に合っていた。


しかしこの春からは6時起きでないと学校に間に合わない。日々動画を見て夜更かしをしてしまいがちな茉白にとって、この2時間の差はかなり大きい。




「さむっ...」




布団から出て、重い足取りで階段を降り1階の洗面所に向かって冷えた廊下を歩く。




洗面所の鏡の前に立ち、軽く髪をクシでとかした後、腰ほどまである髪を束ねる。


そして鏡の横のフックにかけてある白色のヘアバンドを手に取り、慣れた手つきで頭につけて顔を洗い始める。




茉白の身の回りの私物は基本的に白色で統一されている。というのも茉白の好きな配信者「akari」のイメージカラーが白だからだ。


筆箱、スマホカバーや財布、ハンカチなども全て白色で揃えられているという徹底ぶりだ。




歯磨きも終わらせ、茉白は台所に向かう。


台所では母親が何かをフライパンで焼いている。恐らくこの匂いは目玉焼きか卵焼きだろう。




「お母さんおはよう」


「あら、おはよう。ちゃんと起きれたのね」




母親が少しからかい気味に言う。




「中学は冬なんか特に布団から全然出てこなかったのに」




テーブルにある白いコップに、冷蔵庫から取り出したお茶を注ぎ込んで一口飲む。




「もう高校生だし1人で起きれるよ」




とは言ったものの、昨日の夜に不安になってアラームを10分ごとに設定していたのは内緒にしておこう。




高校生にもなるんだから自分でしっかり起きないと、という意識があったのは本当だ。


しかし今日の朝、1回目のアラームで起きれたのには他に大きな理由がある。




「まあ今日は入学式だしね。遅刻なんてできないわよね」




できあがった朝食をお皿に乗せ、テーブルに置きながら母親はそう言った。




「いただきます」


お、やっぱり大好きな目玉焼きだ。




─そう、今日は高校の入学式である。


茉白が通う高校は地域の中でもそれなりに偏差値の高い高校である。中学の頃に通っていた塾の教室の窓には「〇〇高校 合格率〇%」と書かれた合格実績のポスターが貼られていたものだ。


茉白はもともと勉強が得意というわけではなかったのだが、制服が可愛いという理由でその高校を目指した。制服の可愛さは結構重要だ。




朝食を食べ終え、2階の自分の部屋へと戻る。


パジャマのズボンを脱ぎ、濃紺にピンクのチェック柄が入ったスカートに履き替える。


シャツのボタンを留め、リボンタイをつけてブレザーを羽織り背筋を伸ばす。


自然と胸が高鳴る。




「あっ、そうだ」




鞄を持って1階に降りようとしたところでふと立ち止まった。


鞄を自分の勉強机の上に乗せ、一番右上の引き出しを開ける。


そこにはメモ帳や単語帳といった筆記用具のほかに、クリアポーチがあった。


クリアポーチの中には、フェルトで作られた羊モチーフのキャラが入っていた。




このキャラはいわばVTuberの分身キャラだ。


茉白の好きな女性配信者、akariは羊をモチーフにしたVTuberである。


外見は紫色の目をした白髪ボブで、頭にはツノが2本生えており、頭には自分の分身の羊キャラ「あーちゃん」を乗せている。


衣装は透明のフリルがたくさんついた白いドレスを身にまとい、後ろには大きなリボンが付いており、まるでお嬢様のようなとても可愛らく清楚な姿だ。


それでいて色っぽく艶やかな声を出してくるのだから、そのギャップにやられたのは言うまでもない。




akariと出会って間もない頃、茉白は100均で羊毛フェルトを買い、「あーちゃん」のキャラを自作した。


手先が器用なakariと違って不器用ではあったが、それなりに時間をかけて頑張って仕上げたのは良い思い出だ。


茉白はこの「あーちゃん」をこっそり学校の鞄に入れて、毎日お守りのように持ち歩いていた。


中学を卒業してからは失くさないようにと、しばらく机の引き出しの中に大切にしまっていたのである。




「また見守っててね」


そう言ってアクリルポーチごと鞄の外ポケットに優しくしまい込んだ。




隣の席はどんな子かな


担任の先生優しかったらいいなあ


部活は何に入ろう、友達できるかな




これからの高校生活への不安や期待で胸をいっぱいに膨らませながら




「じゃあ、いってきます」




茉白は家を出た。

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