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灼熱の昭和にデータ野球で挑む  作者: メモ帳ぱんだ
番外編

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閑話:庄内くん、ビルを買う 後半

 今日は俺の野球博物館の開幕式だ。

 賞状とかトロフィーとか記念球とか、気づいたら溜まっていたので、とりあえず展示してある。ついでに妻が集めていた俺グッズも一部出してもらった。

 倉庫が空いて助かる。


 招待客が続々と入ってくる。マスコミは開始直前まで別室で待たせてあるので、関係者には落ち着いて挨拶ができる。

 と言っても俺は日本球界にはあまり知り合いがいない。

 来ている野球関係者はキャンプで一緒した阪急やオリックスの若手ばかりだな。

 

 殆どの関係者は妻の知り合いばかり。先輩は生粋の陽キャなのでいつも友達を量産している。

 俺は少し友人を作るのは苦手だ。まぁ、その分深い関係の友達は作れているだろう。多分。


 知り合いがいないかキョロキョロしていると、俺の親友の岸原がエントランスにいることに気づいた。

 知らない人との挨拶は妻に押し付けて、俺は彼に挨拶をしにいく。

 俺を見つけた岸原は貼り付けたような笑顔をしている。招待状の返信では犯行予告みたいな文章が届いていたが、機嫌は悪くなさそうで安心した。


「おい、テメェ。Showzonで買い物したら、変な本が届いたんだが」


 いや、ちょっと機嫌が悪そうだ。

 そういえば、アメリカから日本支社経由で、岸原の三冠王祝いの手紙を送った気がする。ついでに本も入れたかもしれない。


「前人未到の三年連続最多三振、おめでとう」


 俺は胸を張って言った。これは事実だ。

 岸原は微妙な顔をしている。謙遜だろう。

 二年連続三振王のあと、チームを裏切ってFAで移籍して、そこでまた三振王を取る。

 なかなかできることじゃない。


 俺が珍しく褒めているのに、岸原はなぜか視線を逸らした。

 ちょっと微妙な雰囲気になったが、気にせずに話しかけた。


「まぁ、せっかくだ。展示を案内するよ」


 最初は塚口ジュニアやシニア時代のユニフォーム、次に高校のユニフォーム。

 この辺りは母親が大事に実家で保管しておいてくれた。

 岸原は適当に相槌を打っている。退屈そうだな。正直、この辺は前座だ。


 そして俺は、一つのショーケースの前で立ち止まった。


「これが俺の原点なんだよなぁ……」


「……ボロいパソコンにしか見えんが」


 失礼な。

 これは飛鳥台高校の数学研究会にあったNEC PC-9801だ。

 廃棄予定だったので貰ってきた。

 指紋一つついていないショーケースの中に鎮座している。その横には、このパソコンで作った打者攻略シートを並べてある。

 このシートにはインコースが苦手なPF学園の4番バッターの情報が書いてある。


 この攻略シートには俺の手書きのメモがついているな。『こいつはどこに投げても打つからデッドボールを狙いに行け。たまに振るから三振になるかも』

 我ながら良いアドバイスだ。

 飛鳥台のピッチャー達は素直にこのアドバイスを受け止めて、この打者のインコースにストレートを投げ込んでくれた。


 そのシートを見た岸原はまた微妙そうな顔をしている。


 次は国民栄誉賞の盾だ。これは先週もらった比較的新しいものだ。

 副賞の黄金のバットもある。どうしても受け取ってほしいと随分しつこかったので、官邸まで出向いて総理からもらったものだ。

 この展示物は時系列を無視して適当な空いていたスペースに置いてある。来場者が自由に触れる展示にした。


「……雑な扱いやな」


「基本的に国民栄誉賞って何の価値はないしね。内閣の支持率を上げるための道具だし」


 岸原は頭に両手を当てて、しばらく黙り込んだ。

 体調でも悪いのだろうか。


 それからも、俺の活躍を支えた機材が並ぶ。

 IBMやSunの名機たち。

 どれも厳重なショーケース入りだ。俺の大事なコレクションを万が一にも取られたら困る。


 ついでに俺が長い間乗ってたホンダのアコードも展示している。これは入り口から搬入するのに苦労した。

 この車の思い出は……特にないがとにかく壊れなかったな。流石、日本車だ。


「さて」


 俺は歩みを止めた。


「これが目玉の展示だよ」


 博物館の奥、天井の高い空間に、巨大な三体の銅像が並んでいる。

 俺と、桑原と、岸原。

 中央に立つ俺が、二人と仲良く肩を組んでいる構図だ。


 この世代の三人衆は、全員が一線級で活躍した。

 ただ、岸原だけは……まぁ、この中だと活躍としてはちょっと微妙かもしれない。だが、親友の誼で入れてやった。


 三つの銅像の中で、特に桑原の銅像は出来がいい。俺の隣で満面の笑みを浮かべている。


 岸原は、しばらく銅像を見上げていた。

 引き攣った笑みのまま、こちらを振り返る。


「……これ、許可は?」


「もちろん。君のところの球団事務所から、二人分もらった」


 本人には内緒で、今日サプライズにするつもりだった。

 今日はたまたま桑原が来られなかったから、まずは岸原にだけ見せる形になった。


「桑原も喜ぶと思うんだよな。大好きな俺の横に並べて」


 岸原は何か言いかけて、口を閉じた。

 そして、何も言わなくなった。


「そ、それは……」


 言葉が続かないらしい。


 そのとき、秘書が声をかけてきた。


「社長、メディアがコメントを求めています」


 ああ、もうそんな時間か。

 何人来ているのかと聞くと、秘書は平然と答えた。


「約四百人です」


 四百人?

 日本中のスポーツライターが集まっていないか?


「お前、日本に帰ってこないし、SPで記者近づけんやろ」


 岸原がぼそっと言う。


「そうかなぁ」


 確かに、アポ無しで近づいてくる人間はSPが止めている気がする。妻に任せきりだから詳しくは知らない。


 別室に向かうと、無数のフラッシュが焚かれ、マイクが突き出された。


「日本復帰の可能性は?」「球界再編への関与は?」「参院選に出るという噂は?」


 よく分からない質問ばかりだ。

 適当に答えながら、俺は思った。


 岸原に展示の説明をちゃんとできていないな。

 あとで戻って、もう一周付き合ってもらうか。

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― 新着の感想 ―
side桑原が見たいような見たくないような
うん、おもろい。ついでに○原おかんと、自分の母親に、先輩義理母、○田親族会議とかあれば(笑)
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