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灼熱の昭和にデータ野球で挑む  作者: メモ帳ぱんだ
番外編

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閑話:岸原くん、ネット通販に挑戦する

 巨人に移籍してきてから初めてのシーズンオフ。俺はソファに座り、慣れないマウスでパソコンの画面を操作していた。

 横には妻の真由子が座って、操作を教えてくれている。


 このパソコンはネット回線を契約した時に、オマケとしてついてきたものだ。

 我が家では、去年からインターネット契約をしている。

 タダでパソコンをもらえるなんて、時代が変わったなと思う。俺が子供の頃はパソコンなんて雲の上の存在だった。


 このパソコン、OSには『りぬっくす』というものが入っているらしい。

 テレビの赤黄白の線に繋ぐだけで簡単にWebサイトが見れたり、ゲームができるので、妻は愛用しているようだ。


 今回、俺が慣れないインターネットを使っているのは、ネット通販サービス、『showzon』の会員登録をするためだ。

 日本でサービス開始されて一年、ネット上でなんでも頼める便利さから大流行していた。


 あまりパソコンに詳しくない事を自負している俺だ。ネット通販など使うことはないと思っていたのだが、妻に勧められて始めることにした。


 始める一番の決め手は、月五千円の追加料金を払えば、商品を翌日配達してくれると聞いたからだ。しかも月一万円で電話注文ができるオプションがつけられる。

 電話の先にいるオペレーターが、コンシェルジュのように商品を選んで注文を代行してくれるサービスだ。


 遠征先のホテルで急に物が必要になるということは案外多い。

 もちろんスタッフに依頼すればある程度の融通を利かせてくれる。でも、日用品を買ってきてもらうのにスタッフを呼びつけるのはなかなか気が引ける。

 そこでこのサービスを利用しようと思った。


 妻がキーボードを渡してきて、優しく操作を教えてくれる。


「ここに住所と電話番号、支払い方法を入れるのよ」


 キーボードとやらをほとんど触ったことがない俺は苦労したが、なんとか必要事項を入れ終わることができた。


「有料会員になるにはここをクリックして…あら?」

「どうした? 真由子」


 しばらく固まったままの妻に聞くと、登録をした直後は「通常会員」になるのが普通だが、俺の会員画面がおかしいらしい。

 showzonの会員種別は「通常会員」、「プレミアム会員」、「コンシェルジュ付き」の三種類があるらしいが…。

 そう説明を受けた上で画面を見た俺は、なぜ妻が絶句しているのかが分かった。


『三振王獲得おめでとうプレミアム会員』


 画面にデカデカと書かれた謎の会員種別。なぜ最初からプレミアム? それ以前に『三振王』ってなんだ。

 こんなイタズラをしてくる奴、できる奴は一人しかいないだろう。俺はそいつの顔を思い浮かべながら、深いため息をついた。


 俺は巨人に移籍した今季、開幕から絶好調だった。

 そして、これまで一度も縁のなかった打撃タイトルを、いきなり二つも手にした。

 本塁打王と打点王。

 夢にまで見た三大打撃タイトルのうちの二冠だ。

 

 ただ、三振の多さだけは相変わらずで、三年連続の最多三振という不名誉な記録も更新してしまった。

 画面に表示されている、『三振王』というのは、そんな俺を揶揄した悪口だろう。

 

 とりあえず画面の説明を読んだところ、俺は最初から電話での注文ができる有料会員らしい。

 気を取り直して早速電話での商品注文を試してみることにした。

 電話をかけてIDとパスワードを言うと、女性オペレーターが案内してくれる。


「岸原様は初めてのご利用ですね。会員種別は… 『三振王獲得おめでとうプレミアム会員』!? ぶっ!…すみません、少々お待ちください」


 電話が突然、保留音に切り替わる。

 絶対、オペレーターは電話の裏で爆笑しているだろう。

 オペレーターにまで迷惑をかける悪質なイタズラだ。数分すると保留が終わり、真剣な声を無理やり作っているオペレーターから説明があった。


「『三振王獲得おめでとうプレミアム会員』である岸原様は、コンシェルジュ付きのVIP向けサービスが永年無料となっております」


 こんな会員種別は初めて見ました——と語るオペレーター。

 オペレーターの説明によると、実はshowzonには一般には公開されていないヘビーユーザー向けの『VIP会員』という会員区分があるらしい。

 『三振王』会員は、その区分の名前だけが変わっただけのものらしい。

 それを聞いて少し安心した。こういったシステムを作るのはかなり大変と聞く。俺だけのためにこの無駄な会員種別を作っているわけではない事を知ったからだ。


 とりあえず試しに、電話口で一冊の本を注文してみた。

 来季から巨人のコーチに就任する元選手の自伝で、十年ほど前に出版された古い本だ。すでに書店では見つからず、探すのに苦労していた。


 オペレーターに本のタイトルだけを口頭で伝えて電話を切った。

 十分も経たないうちに折り返しがあり、「都内であれば本日中にお届けできます」とのこと。

 どうやらVIP会員限定で試験運用中の『当日配送』という新サービスらしい。

 

 横で電話を聞いていた妻も驚いた顔をしている。

 

「当日配送って凄いね」


 このふざけたイタズラを仕掛けた男を恨むべきか、感謝すべきか――なんとも言えない複雑な気分になった。

 オペレーターの言葉通り、二時間後には荷物を持った配達員が家の玄関先まで来ていた。

 配達員はなぜか二つの荷物を俺に渡してくる。


「本一冊しか注文していないんですけど、間違っていませんか?」

「こちらの箱はアメリカの本社から岸原選手へのプレゼントと聞いています」


 こんなこと初めてです…と配達員も困惑しているようだった。

 プレゼントの箱を開けてみると色紙が入っていて、上の方には『三冠王おめでとう! by 庄内毅』と書いてある。

 その下には大きな文字で『祝!三振王』、そして小さな文字で『打点王』、『本塁打王』と書いてある。


 色々、突っ込みたい気分になった。

 一般的には三冠王といえば首位打者、打点王、本塁打王のタイトルを同時に獲ることだ。

 断じて『三振王』ではない。というかそもそも、三振王というタイトルはない。それはただの悪口じゃねえか。


 色紙に書かれたメッセージを読んでいると、段ボール箱の中身を見た妻がジト目でこちらを見てくる。

 妻から渡された『プレゼント』の中身は三冊の本だった。


『猿でもわかる 三振を減らす8つの技術』

 …これはまだ良い。本のタイトルに煽られている気がするが、少なくとも野球の技術書だ。残り二冊が問題だった。

 

『浮気は文化。愛と情熱の社会学』

『バレなきゃロマンス——現代浮気の新バイブル』


「ねぇ…あなた、もしかして……」

「違うんだ、俺は浮気していない!」


 この後、妻の誤解を解くのに十分くらいかかった。あの野郎…。今度会った時は一発殴ってやる。

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― 新着の感想 ―
浮気もしない。 シャブらない。 刺青入れない。 反社と付き合わない。 岸原くん、庄内に感謝してもしきれないほどなんだぜ? ホント同世代に庄内が生まれて良かったなぁ。
岸原くん、サシで庄内に有った時 軽くバットでドついても悪く無いと思う…
ノーシャブやな(笑)きれいな○原
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