表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灼熱の昭和にデータ野球で挑む  作者: メモ帳ぱんだ
メジャー編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/76

第61話 イチャイチャ回

「毎日食べても飽きない!僕も食べてます!味噌味、新登場!」


 テレビからは、俺が出演しているカップ麺のCMが流れている。

 我ながら、いい演技だと思う。

 どうやらこの商品、メーカーが相当気合を入れているらしく、頻繁にCMがオンエアされている。

 これは俺にとってもいいことだ。他の会社がCMを企画する時に、候補として「庄内毅」という名前が真っ先に浮かぶようになれば理想的だろう。


 今回の日本帰省で、やるべきことはほぼ終わった。

 籍を入れた。

 CM出演でしっかり稼いだ。

 必要な人材もリクルートした。

 そして、日本にいるうちに会社から投資ビザが出せる体制も整えた。


 残りは数件の仕事を片付けて、成田から旅立つだけだ。

 そろそろスプリングトレーニングも始まる。これは春季キャンプとオープン戦を合体させたようなもので、球団に所属している限り、基本的に参加は義務だ。


 すでに来季に向けての仕事の調整も進んでいて、アメリカでも何件かCM出演が決まっている。


 今は、先輩との貴重なイチャイチャタイムだ。

 一階の机で真面目に仕事をしていた先輩を、強引に抱き上げて二階へ運び、ベッドの上で後ろから無言ホールド。

 シャンプーの香りがふわっとする。可愛い。

 先輩の仕事を邪魔するのは、俺の数少ない趣味のひとつだ。


 最初はパタパタと抵抗していたが、俺の腕力には敵わず、やがて諦めて大人しくテレビを見始めた。

 関西に行っている間に溜まった仕事を片付けたいのだろうが、そうはさせない。

 この人は明らかに働きすぎだ。


「向こう帰ったら、犬を飼いませんか?」

「なんでこの状況で普通に話を始めるのかな?」


 今日は、いつもより機嫌が悪そうだ。

 常にニコニコしている顔が、少し曇っている。

 俺が30分近く無言で捕獲し続けたせいかもしれない。


 だが抗議に屈するつもりはない。

 俺は令和の男。過重労働を黙って見過ごすことはできない。

 ライフワークバランスこそが人生の要だ。


「今日はキミが好きなハンバーグなのになぁ。このままじゃ晩ごはんなしになっちゃうなぁ」


 むっ、それは困る。


 俺は昭和の男。「男子厨房に入るべからず」という家訓を忠実に守っている。

 自分で飯を作るなんてありえない。


 晩ごはんを人質に取られた俺は、やむなく先輩を解放した。

 …なんと卑劣な戦術だ。



 夕食を終えてソファでくつろいでいると、先輩が仕事の話を切り出してきた。

 やれやれ、そろそろ休ませたいところだ。捕獲しようと立ち上がった瞬間、先輩は警戒した顔でテーブルの反対側へと素早く回り込み、腰を低くして要件を伝えてくる。いつでも逃げられる構えだ。…可愛い。


「テレビ局から、バラエティの出演依頼が来ているんだけど、どう思う?」


 バラエティ、か。聞けば、わざわざ撮影チームがアメリカまで来て、しょうもない企画を撮るらしい。

 タレント3人とローション綱引き……? なんで俺が男相手にそんなことをしなきゃならないんだ。アイドル相手なら考える余地はあるが。


 まだ実績が固まっていないうちに色物枠で呼ばれるのはリスクが高い。

 最初のイメージは大事だ。この時代のテレビにコンプラなんてものは期待できない。


 ソファに腰を下ろし、じっと考えを巡らせる。

 警戒が解けたのか、先輩が俺の隣に戻ってきた。

 その瞬間、不意打ちで捕獲。ふふ、油断したな。

 そのままお姫様抱っこで2階へ運び、ベッドに放り込んで後ろからホールドしながら返事をする。


「バラエティは、もうちょっと活躍してからにします」

「ちょっとぉ、仕事まだあるから離してほしいんだけど…」

「今日は働きすぎです。ほら、ネンネしましょうね」


 そう言うと、先輩は観念したように寝る準備を始めた。

 家では尻に敷かれている俺だが、ベッドの上では話が別だ。


 先輩と話し合いをしていて、正論パンチで論破されそうになった時——俺には奥の手がある。

 ベッドに連れ込んで物理的に話し合いを終わらせる、という裏技だ。


 ついこの前も、この方法でサンフランシスコの自宅にあるUNIXマシン、Sun-3の買い替えを認めさせた。

「今のより騒音が大きくなるのは嫌だ」

「同じ機種を徒歩15分のオフィスにも置く予定だよね」

「値段が高すぎる」

 …先輩の言うことは、どれも正論で反論できなかった。


 その日は先輩の抵抗も相当激しく、ベッドの上での「説得」も長期戦になった。

 とはいえ、この方法は乱用するつもりはない。

 基本は夫婦で仲良く話し合いで決めたい。

 でも、男にはどうしても譲れない場面というのもあるのだ。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇


 サンフランシスコに戻った俺は、オフィスの立ち上げに取りかかっていた。

 内装はすでに設計通りに仕上がり、残るはコンピュータの設置くらい。

 朝から山本先輩と一緒に、Sunの新型SPARCstationを2台セットアップする。

 この機種はデータ分析用で、俺用と山本先輩用だ。正直、全米を飛び回る俺に使う時間なんてほぼないが、やっぱり自分のPCが職場にないのは寂しいじゃないか。


 他にも、家電屋でまとめ買いしたテレビとVHSプレイヤーを設置。

 データ入力作業用にはSun-3を3台用意した。1台は俺の自宅で使っていた愛機だ。新天地でも頼むぞ、相棒。


 バイトを雇い、テレビを見ながらひたすらデータ入力をやらせる。その結果は交差検証して誤りを検出する。そういった仕組みを構築するつもりだ。

 こういう統計まわりの仕組みは山本先輩の方が詳しい。俺はバイトと雑談する気もないので、運営は山本先輩に金を渡して全部任せる。



 職場で一番大事なものはなんだろうか。

 良好な人間関係?アクセスの良さ?風通しの良さ?


 違う。職場で最も大事なのはネットワーク、そして強力な冷房だ。

 ネットが死ねばコンピュータはただの箱、冷房が死ねばマシンは熱暴走する。そういう意味では風通しの良さも大事だ。冷房には空流設計も大事だからな。


 うちのオフィスは床を10センチかさ上げし、その下に電源と通信ケーブルを通す設計にしている。ケーブルにつまづいて転ばれたら、大事な大事なコンピューターが壊れてしまう。


 イントラネットも構築する。そのために買ってきたぜ、ルーター。各端末とルーターをケーブルで繋ぎ、満足げに頷いていると、山本先輩が言った。


「今からがネットワーク作業の本番だけど…」


 ……え、これで終わりじゃないの?

 ああ、ルーターにダイナミックルーティング機能もDHCP機能もないのか。端末に手動でIPを振って、経路も全部設定しないといけないのか。原始時代かな。


 その辺りの便利機能がルーターにないなら、よく考えたらこのルーターいらなかったな。L2のスイッチングハブでよかったじゃん。そっちの方が安い。リピータハブ(馬鹿ハブ)は許さん。


 シリアル接続でルーターをコマンド制御し、計5台の端末にクラスAのプライベートアドレスを割り当てる。(ここは俺のギャグセンスが炸裂する爆笑ポイントだ)

 あとはルーティングテーブルをちょっと設定して終了。


 こうしてオフィスは完成した。

 といっても二階建ての一軒家みたいなもので、収容できるのはせいぜい10人。

 あとは任せた、山本先輩。俺は面倒な人間関係には関わらない。

 俺は家でイチャイチャしてるから、分析が終わったデータだけ持ってきてくれ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ