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短編集・異世界恋愛&ファンタジー

浮気した旦那が離婚をチラつかせてきたので、もちろん私は受け入れます

6月中は短編を毎日投稿予定ですので、お気に入りユーザー登録をしていただけると嬉しいです!


「おお、エルマ様。本日もお会いできて光栄です」


「私もお会いできて光栄ですわ」


 エルマ・ラーフォルトを慕う者は多い。

 ラーフォルト家に嫁ぎ、貴族との交流を率先してこなす女性。

 艶々した黒髪と黄色の瞳。

 貴族と接することがよくあるので、身だしなみには気を使っている。

 綺麗なドレスに髪は整えられており、彼女が結婚をしていることを残念がる男性もいた。


 今日も彼女はパーティで色んな貴族をその話術で喜ばせ、楽しい時間を提供している。

 男性の話をよく聞き、女性の愚痴に付き合う。

 そういうことを続けている間に、いつの間にか彼女は無くてはならない存在となっていた。


 同じようにパーティに出ている夫のズルト・ラーフォルト。

 顔立ちこそ端正であるが、女性に鼻の下を伸ばす醜い男。

 身長はやや高めだろう、だがあまり体を鍛えていないので、どうしても逞しさが感じられない。

 しかしそんなズルトであるが、他の男性陣は彼を羨ましがっている。

 それはエルマと結婚したことだ。


 結婚生活はすでに6年目。

 貴族男性たちがエルマとの結婚を望んでいたが、だが両家の話し合いの結果、エルマはズルトと婚姻関係となった。

 

 そんなエルマは今日もため息をつく

 またズルトが女性に声をかけ、気安く肩を抱いている。

 伴侶がいるというのに、それも同じ場にいてそんなことをするものなのだろうか。


 普通の夫婦なら喧嘩をするところだろうが……ズルトはとある理由から、エルマに対して優位に立っていると考えていた。


 パーティが終わり、馬車で帰宅する二人。

 その中でエルマは窓から外を眺めるばかり。

 その様子にズルトがニヤリと笑い、エルマの肩に手を回す。


「どうしたんだ、機嫌を損ねたのか」


「いいえ、別に」


「そんなに拗ねるな。俺と離婚はしたくないだろ?」


「それは……」


 よく離婚をチラつかせてくるズルトであったが、最近のエルマはどちらでもいいと考え始めていた。

 人の弱みを握り、そして自分の好き勝手にする。

 元から愛情は無かったので、結婚生活に終止符を打つのも悪くないかも。


 そんなエルマの思案を知らず、ズルトは笑う。


「嫌だろ。そうだろ? だってお前は俺と別れたら、家がどうしようもなくなるからな」


 エルマの実家が没落の危機にあり、それを救ったのがズルトの家。

 今も援助を続けており、それを停止すると脅しているというわけだ。

 卑劣で性格の悪い男。

 良いのは顔だけ。

 エルマは呆れ果てているが、だがまだ離婚を踏み切れない段階にいた。


(この人はまだ調子に乗っているだけ。いずれ改心するようなことがあれば、それでいい。終止符を打つとしても、この人が何かをやらかした場合だけ。そうでなければ、これからも夫婦関係を続けよう)


 離婚となれば、流石に世間体が悪い。

 そこまで気にはしていないが、だが極力離婚は避けたいとも考えていたエルマ。

 だがズルトの性格の悪い言葉を聞く度、それもどうでもいいかとも感じ始めていた。


 そしてある日のこと、ズルトはとうとうやらかしてしまう。

 それは彼が浮気をしていたことだ。


 上手くやったつもりだったようだが相手も伴侶を持つ女性で、旦那から告発され、彼の愚行が明るみに出てしまった。


 ズルトの自室でエルマは腕を組み、彼を見下ろす。

 ズルトは開き直っているのか、不貞腐れたような顔で視線を逸らしている。


「それで、何か言い訳は?」


「無い」


「そうですか。それでこれからどうするおつもりで?」


 いつもより語気を強めるエルマに対し、ズルトは腹を立てたのか彼女を睨みつける。


「おい、なんだその態度は。旦那の浮気の一つや二つ、許すのが常識だろ」


「そんな常識聞いたことありませんが。ではあなたは、私が浮気してもヘラヘラ笑って許してくれるのですか?」


「男と女は違う! 俺はいい。だがお前は駄目だ」


 話にならないとエルマは嘆息する。

 ズルトは彼女の態度が気に入らないらしく、また離婚をチラつかせてくる。


「いいのか、離婚するぞ? それで困るのはお前なんだからな」


「そうでしょうか」


「そうに決まってるだろ。それが嫌なら、浮気を許せ――」


「別に嫌じゃありませんけど。離婚しましょうか」


「……は?」


 エルマの信じれない返答に、ズルトは唖然とする。

 彼の情けない表情を見て、エルマは吹き出してしまう。


「ははは。だからいいですよ。離婚しましょう」


「いや……いやいやいやいや。良くないだろ。困るだろ、お前」


「だから困らないと言っているのです。浮気するようなクソ野郎と婚姻関係を続けるより、離婚した方が清々しますし。それにその方が幸せになれるでしょうしね」


「な、ななな……」


 怒髪天を衝くズルト。

 自分と別れた方が幸せになれる?

 この女は何を言ってるんだと、眉を吊り上げる。


「そこまで言うなら離婚してやる! 後悔するんじゃないぞ!」


「分かりました。ああ、こちらの書類にサインをしていただいてよろしいですか?」


 浮気をした時点で、ほぼ離婚を決めていたエルマ。

 離婚するに当たり、書類をすでに作成していたのである。


「何があっても復縁は迫らない……今後ラーフォルト家を助けることはない……なんだこれは!?」


「書いているままの意味ですよ」


 これから先、面倒なことが起きないようにといくつかのルールを記載していたエルマ。

 ズルトはそれを見て、バカにするようにフンと鼻で笑う。


「復縁を迫るとしたらそっちだろう。それにラーフォルト家を助けない? バカにするな! お前の助けなど、これから一生必要無い!」


「ではサインをお願いします」


 エルマを睨み、書類をひったくるようにして手に取るズルト。

 高ぶった感情のままサインをし、投げつけるようにしてエルマに返す。


「これにて離婚成立。さっさとここから出ていけ!」


「言われなくてもそうします。それでは」


 ズルトに頭を下げ、すぐに身支度を始めるエルマ。


(離婚を踏みとどまっていたのがバカみたいだわ。これならもっと早くに離婚すれば良かった)


 バカ旦那の行動に呆れ、変な笑い声を出すエルマ。

 そして彼女は、清々しい気分で実家へと戻るのであった。


「姉さん。どうかしたの?」


 実家に戻ると、出迎えてくれたのはエルマの弟フィン。

 彼は黒髪の美青年で、年齢は20歳だ。

 

 姉の帰還に驚きつつ、だが喜びの笑みを浮かべる。


「離婚してきたのよ」


「そう……まぁいずれそうなるとは思ってたけど。あんな人だったからね」


「あなたもそう思う?」


「俺だけじゃなくて、家族全員そう思ってたよ」


 笑い合うエルマとフィン。

 まさか家族全員が離婚を予測していたとは。


 エルマが実家に戻ったことは、すぐに貴族間で話題になった。

 まず一番に上がったのはバカなやつ、 とエルマを手放したズルトへの蔑む声。

 そして次に上がったのは――これでエルマはフリーだ!

 という男性たちの声であった。


 エルマと離婚し、自由となったズルトはそれからも女遊びを欠かさない。

 伴侶がいないとなると歯止めが利かなくなり、欲望のままに行動をしていた。

 だがある異変に気付き、彼は真っ青な顔をすることとなる。


 一方エルマは、実家でのんびりとした生活を送っていた。

 日々男性から届く求愛の手紙。

 彼女を狙う男性は多く、エルマは送られてきた手紙全てに目を通していた。


「モテるんだね、姉さんは」


「嬉しいことに、好意を抱いてくれる方はいるようね」


「再婚の予定は?」


「まだ未定。再婚のことは考えてもいないわ」


 姉弟でそんな会話を交わしていると、屋敷の入り口付近が騒がしいことに気づく二人。

 何ごとかと玄関の方へ向かい、騒ぎの正体を確認することに。


「ああ、エルマ!」


「ズルト様……どうしましたか?」


 屋敷までやって来ていたのはズルト。

 彼は必死な表情で叫んでいたが、エルマの登場に笑顔を浮かべる。


「じ、実はラーフォルト家が危ないんだ! 流通が途絶え、さらには他の貴族から縁を切られ始めている。それも全て……エルマの所為というじゃないか!」


「私の所為? まさか。あなたの所為ですわよね?」


 ズルトの目が丸くなる。

 自分がしでかしたことにまだ気づいていないようだ。


「俺の所為? 何を言ってる。こちらとの取引を中止した者も、他の貴族たちも言っていたぞ。エルマと離婚したから、こちらから手を引くと」


「だからあなたの所為じゃありませんか。私と離婚したのはあなた。いつも離婚をチラつかせてきましたよね。私はそれに賛同しただけですから」


「ううっ……」


 エルマは人望があり、彼女を慕っている者も多い。

 そんなエルマがいるからこそ、ラーフォルト家と取引をしている業者もあり、それら全てが撤退をしてしまったのだ。


 まさかの出来事にパニック状態に陥っていたズルト。

 話を聞き、助けを乞うためにエルマに会いに来たのだ。


「お、俺が悪かった……だから助けてくれないか?」


「離婚の書類にサインしたのをお忘れですか?」


「……ああ!!」


 ラーフォルト家を手助けしない旨を記載されていたことを思い出し、ズルトの顔から血の気が引いていく。


(なんてことだ……まさかこんなことが起こるとは思ってもみなかった。あんなサイン、するべきじゃなかったんだ)


 後悔してももう遅い。

 約束は約束。 

 丁重にサインまでしてしまっているので、どうすることもできない。


 しかしズルトは諦めるようなことはせず、エルマに懇願する。


「なあエルマ。俺たちは元夫婦だ。助け合いも必要だろ?」


「確かに、助け合いは必要ですわね」


「だろ? じゃあ俺を助けて――」


「助け合いは必要ですが、あなたは何をどうして助けてくれるのですか? 力も無い、コネも無い、これから没落していくだけのあなたが」


「え、あ……」


 核心を突かれたような言葉に、ぐうの音も出ないズルト。

 焦り、苛立ち、余裕を失っていく。

 そしていつものように、癇癪を起す。


「俺が助けろと言えば助ければいいんだ!」


「お断りします」


「お前……それが元旦那に対する態度か!」


「それが元妻に対する態度ですか? 私たちはもう他人なのですよ。助けてもらう立場で、よくそんな言葉使いを」


「た、頼むから助けてくれ! お前が言ってくれれば、全て丸く収まるんだから!」


 今にも泣きそうなズルトの顔を見て、フィンが含み笑いをする。

 そして正しいことを話すかのようにして、彼に言う。


「他人は助けないけど、また夫婦になれば助けてくれるんじゃないかな」


「あ! そうだ、再婚しよう! またやり直せば、全部上手くいくじゃないか!」


「何故あなたのようなバカと再婚しなければいけませんの? それにそのことも書類に記載されていましたよね。復縁は迫らないと」


「あああああああああああああああああ!!」


 またサインしたことを思い出し、自分がしでかしたことに叫ぶズルト。

 こうなることを理解していたフィンは、姉の後ろで声を殺し、酸欠になりそうなほどに笑っている。


「頼む……頼むから何とかしてくれ」


「自分で何とかしてください。こうならないために書類にサインしてもらったのですから」


「だがこのままじゃ、ラーフォルト家が!」


「ええ。終わりでしょうね」


「だろ、だから助けて――」


「嫌です。お引き取りを」


「嘘だろ……俺たち、こんなことで終わりなのか?」


「もうとっくに終わっていましたから、私たち。」


 ズルトは膝をつき、涙を流しながらエルマに頭を下げる。


「お願いだ……これまでのことは全て謝る。だから助けてくれぇ……」


「残念ですが、私に謝っても仕方ないのです。あなたが失ったのは私だけではありません。信用も失ったのです。大事なことにも気づかず、欲望に忠実に行動した。全てあなたの責任でしょう」


「ううう……うわぁああああああああああああああああああ」


 大泣きし、地面に顔を埋めるズルト。

 だが全ては遅すぎた。

 エルマが迷っている間に改心していれば、こんなことにはならなかったのに……


 それからラーフォルト家は破産し、ズルトは地獄のような日々を送っている。

 それに対し、エルマは穏やかでありながら幸せな人生を謳歌していた。


 家は弟と共に自力で立て直し、毎日のように愛の告白をされ、充実した日々。

 ズルトと違い、愛情を向けてくれる家族が傍にいる。


「このまま結婚しないのもいいかもね」


「それは駄目でしょ。姉さんを求めている人は数多くいる。本当に幸せにしてくれる人は現れるはずだから」


「そうかしら……そうだといいわね。次はちゃんとした男性を見つけないとね」


「あれほどのクズでバカはそうそういないでしょ」


「それもそうね」


 姉弟で笑い、そして未来に想いを馳せる。


(自分はどんな方と再婚するのだろう。はたまた、再婚をすることは無いのだろうか。どちらにしても私は幸せに生きていける。だって自分を想ってくれている人が、周りにはいるのだから)


 今日も彼女を訪ねてくる男性がいるだろう。

 そしてエルマはまだ知らない。

 真の運命の出会いはもうすぐそこまで来ていることに……

最後まで読んでいただきありがとうございます。

作品をこれからも投稿を続けていきますので、お気に入りユーザー登録をして待っていただける幸いです。


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― 新着の感想 ―
他の方々の感想と同じく。 数人にモテているわけではなく万人に慕われているなら他にも資産家の方がいたでしょうし、ズルト側の利が書かれていないので何故選ばれたのか謎。 いまだに援助を受けていて立ち行かなく…
>エルマの実家が没落の危機にあり、それを救ったのがズルトの家。 >今も援助を続けており、それを停止すると脅しているというわけだ。  この状況と物語に結構な矛盾が感じられてしまいました。 ・エルマの…
「あれほどのクズでバカはそうそういないでしょ」 正しいんだけど、そうそういない「あれほどのクズでバカ」見つけてきて結婚した (家族として結婚許可出した)のがあなたたち一家ですよね? 反省すべきがズルト…
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