『水浴び』
「ふぅ...気持ちいいな。」
気温は春ぐらいだろうか?魔物との決着の後、俺達は近くの川で水浴びをしていた。二人は曲がった川の土が盛り上がった部分を挟んだ先で水を浴びている。
「昨日の夕方頃にこっちの世界に来てから今日の朝まで数時間でほぼ2連戦...疲れた。」
『再生』で体は疲れていなかったが、精神の方にはかなりの疲労が溜まっていた。
「そう言えばマコト様は前の世界では何で死んだんですか?」
向こうからエレオノーラが語りかけてきた。
「俺は前の世界でトラックに轢かれたんだよ。」
「トラック?」
「トラックってのは俺の世界にある移動手段で、そのトラックに子供が轢かれそうになってるのを学校って所に向かってる途中で見つけて、その子供を助けたんだが俺が変わりに轢かれちまったんだ。」
「子供を助けて...だからマコトの固有魔法は『自己犠牲』なんですね。」
「なんだ?死因が固有魔法に反映されるのか?」
「はい。前の世界での死因や死ぬ直前にしていた事が転生者の固有魔法になるらしいんです。」
「じゃあ『複製』の転生者は?」
「噂で聞いた程度ですが...死ぬ直前に絵を描いていたらしいです。それが模写だったようで、それが固有魔法『複製』の元になったのかもしれません。」
「絵を描いていた...俺も絵を描くから以外にそいつと似てるかもしれないな。」
「私も彼が絵を描いていたのを見たことがあります。」
「エレオノーラが?」
「はい。彼は既に滅亡している一国ともう一つの残っている国、エノラ王国が共同で召喚した転生者なんですがトリニティ王国に『複製』の転生者が訪れたことがあって、その時に絵を描いていたのを見たんです。」
「彼ってことは男か。」
「はい。二十代前半位の。というかマコト様は絵を描かれるんですね。」
「下手だけどね。嗜む程度だよ。俺はもう川から上がって乾くのを待つけど...そっちは後どのぐらいかかる?」
「こちらは髪を洗ってるのでもう少しかかりそうです。」
「わかった。よいしょっと。」
俺は川から上がり体と服が乾くのを待った。その間に今まで気付かなかった音に気づく。
「ちょっとエレ。くすぐったいので時々突っつくのやめてくださいよ。」
「いいじゃんこんなに大きいんだから触らせてくれたって。御利益ありそうだし。それに減るもんじゃないでしょ?」
「確かにエレの胸は小さいですもんね。」
「私はまだ成長途中ですー」
ソールさんの胸大きいの!?今思い出すとマントを身に付けた状態でも結構...そう思いながら二人の胸を想像し...いや、止めよう。あの二人は俺の事を信用してくれてるんだ。こんな妄想するべきじゃない。そう思い直し俺は耳を塞ぎ大人しく体と服の水が乾くのを待ったが、その間少しだけ。本当に少しだけ俺の股間が元気になっていた。
* * *
「今度はマコト様ですね
「いや俺は別に...」
「ダメです。髪が傷みますので」
ソールの髪とエレオノーラ自身の髪を乾かしたあと、エレオノーラの風を起こす魔法でほぼ強制的に髪を乾かされた。前の世界にいた頃は入浴後は当然自分で髪を乾かしていたので、同い年ぐらいの女の子に髪を乾かして貰うのは流石に抵抗があった。
「別に俺はいいのに...」
「旅は病気になったらおしまいですから用心しないといけませんよマコト様。」
「君の『再生』があるんだし大丈夫じゃ?」
「私の『再生』魔力の消費が激しいので使わないに越したことはありませんよ。」
「では、これからエノラ王国を目指しましょう。」
ソールが次の目標を示す。
「エノラ王国ってさっき言ってた『複製』の転生者を召喚した内の一国か?」
「はい。エノラ王国には『炎』の転生者がいます。エノラ王国は『複製』の転生者を召喚した責任を重く見ており、トリニティ王国とは違い『複製』の転生者打倒に積極的な国です。『炎』の転生者を仲間に引き入れられればかなりの戦力になるはずです。」
「それって俺入国できるのか?」
「私達が行動を起こす前にもう手は回しています。『複製』の転生者を倒すために、私達二人が転生者を新たに召喚しながらトリニティ王国を脱出、その後エノラ王国に向かうことを既にエノラ王国の国王に何ヵ月も前に話し、許可を貰っています。」
「用意周到だな。でもそのエノラ王国にトリニティ王国の追跡が来ることはないのか?」
「それも私達がエノラ王国に居ることをトリニティ王国には告げ口しないことを国王に約束しています。そもそもエノラ王国は『複製』の転生者討伐を掲げていますが、トリニティ王国は『複製』の転生者討伐は完全に諦めているので、両国とも仲が悪いんですよ。私達以外のトリニティ王国の人間は入国すら難しいです。でもやっぱりマコトは拘束されるかもしれませんね。転生者ですし。」
「やっぱり拘束されるの!?」
「もしそうなった場合はマコト様が処刑台に送られる前に私達が助けますよ!!」
「処刑台に送られる前提!?」
「冗談ですよ。エノラ王国に転生者をそのまま連れてくる場合は私達二人が信用出来ると判断した場合だけと約束したので、私達が転生者であるマコトをエノラ王国に連れてきた時点で貴方は私達に信用される人物だと見なされるはずです。貴方は悪人とは程遠い行動しか今のところしていませんから、私達二人は貴方を善人だと信じていますよ。第一、貴方の固有魔法『自己犠牲』はエレの『再生』の力がなければ屁でもありませんから。」
「そりゃどーも。屁でもない固有魔法で助かったぜ。」
そのまま連れてくる場合は...?信用されているのは嬉しいが、もし信用されていなかったらどうなっていたのだろうか...?あまり考えたくない。