『洞窟を進む』
「うう...」
猫女シフェルが起きる。
「おい猫女!!」
「うへっ!?」
「殺すぞ!!」
俺は既にエレオノーラに治してもらった腕を掲げ猫女を脅す。
「ひぃっ!?ごめんなさーい!!」
そう叫び猫女は凄い速さで逃げていった。
「一件落着...なんですかね?それより先程の音と衝撃波はなんだったんでしょうか...?」
「あの雲じゃないかな?」
俺は木で遮られて一部しか見えていない黒い積乱雲を指差す。
「どうしましたか?マコト?」
その雲を見た瞬間にソールが目を見開いた。
「あれは...!?早く洞窟に入りましょう!!」
「えっなんで!?」
「あれは、『複製』転生者の能力の1つです!!あの雲は回りに毒をばらまきます!!洞窟に屋内に入れば助かりますので早く!!」
「あっああ!!分かった!!エレオノーラも早く洞窟に入ろう!!」
「はい!!」
積乱雲全体を目で捉えることはないまま、俺達3人は爆弾で広がった穴から洞窟に入った。中にはかなり広い空間が広がっていた。
「エレ!!『再生』を全員に使ってください!!」
「うん!!」
返事をした瞬間、エレオノーラの眼の中に四芒星が現れた。
「えっなにその眼!?すげぇ!!」
「エレのその眼は『魔眼』ですね。強力な固有魔法を持っている者は体に魔法の影響が出るんです。最も影響が出やすいのが眼で、エレは魔法を使ってる時にその模様が出るんです。」
恐らくソールや猫女を直している時から模様はあったのだろうが、気付かなかった。
「へーっ面白いなぁ。というか猫女がこの洞窟の場所を他の仲間に伝えると思うんだが、此処に居たら捕まるんじゃないか?」
「あの雲が現れた場所一帯には入ってきはしませんよ。軍関係者はあの雲の危険性を知っていますから。夜の内は追ってこないはずなので安心して下さい。それにしてもトリニティ王国の近くであの雲が出現するなんて...」
「今まではなかったのか?」
「今まであの雲はトリニティ領地から見える範囲には出現しませんでした。『複製』の転生者が行動を始めたのかも...」
行動をし始めているとしても、今は何も分からないと言うわけか。
「そうか。とりあえず今日はこの洞窟で野宿をするのか?」
「いえ、洞窟は王国の領外まで続いてるのでこのまま洞窟の中を数十キロ進みます。」
「え!?少しぐらい休みたいんだけど....」
「必要ですか?」
「いやそりゃぁ...いや...あれ...?」
さっきまでは疲労感があった数十分走った後にあの猫女との戦闘。疲れないわけがない、が今は疲労感が全くない。それどころか今すぐスポーツの一つでもしたい気分だ。
「それもエレの『再生』の効果です。魔法を発動している間は睡眠、食事、排泄、呼吸等が必要なくなります。先程までは魔力の回復に専念していたため使っていませんでしたが。」
「魔力の回復?40億の魔力を持っているんじゃなかったのか?」
「転生の魔法陣を使用するために1割程、つまり4億程の魔力を使用しました。通常転生魔法陣は個人が使うような物ではなくて、国を挙げて使用するものなんです。」
「国を挙げてってどんな風に?」
「魔力を集められるアイテムがあって、それで数ヶ月かけて魔力を集めるんですよ。そのアイテムはとても貴重な物なので王族であろうとも勝手に使用するのは許されなかったんです。」
「その魔力の回復にはどれ程かかる?」
「人によって回復のスピードが変わるのですが、エレは1日で1億程回復します。」
1日で1億...つまり40日で全回復か。早いのか遅いのか分からん。
「とにかくここから洞窟の出口まで歩いて距離を稼ぎます。その間でマコトは魔力循環を学んでください。走るエネルギー程度ならエレはほぼ魔力を消費せずに回復させれますから。エレ、魔力循環の図を。」
「ではマコト様!!一緒に頑張って覚えましょうね!!」
そう言いエレオノーラは細い管が腕、足、胴体、頭、それぞれの部位に張り巡らされた様な図を取り出した。こんな難しいのを覚えなければいけないのか...
* * *
使えるようになるまでに時間はさほどかからなかった。基礎魔力循環とやらでもかなり思考が良くなっていたんだろう。
「うおお...!!頭がハッキリしてくる!!」
全能感というのだろうか?今でも何でも出来るような気がしてくる。が、それは長くは続かなかった。
「うわぁ!!思考が遅くなるぅ!!」
「最初は継続できないんです。次は継続してできるようになりましょう!!マコト様!!」
「継続して使えるようになってからやっと実用的になるので頑張って覚えて下さいねマコト。洞窟を抜けたらどこの国にも属さない地域に出ます。魔物が蔓延っているので覚えないと厳しいですよ。」
「そう簡単には習得できないか。あと魔物ってのはなんだ?」
「魔物は生物に魔力を流し込んだことで生まれる生態系から逸脱した化物の事です。『複製』の転生者が量産しているようで、どんどん魔物が増えているんです。」
生態系から逸脱した化物か...魔力循環の完全な習得にはかなり時間が掛かってしまいそうだ。洞窟を抜けるまでに覚えられるだろうか...?