『自己犠牲の転生者』
人間(男)・『転生者』海名真
限界魔力保有量 1600
固有魔法 『自己犠牲』
「ウミナマコトと言う名前なのですね」
「ああ、珍しいか?」
「いえ、転生者は全員同じ世界の同じ国から来ているようで転生者は全員このような名前をしています。」
転生者は日本から来ているのか...?いや、そんなことよりも気になる情報が目の前にある。固有魔法『自己犠牲』...どんな魔法なんだろうか?
「この固有魔法はどんな魔法か分かる?」
「聞いたことがない魔法ですね。固有魔法は使うまではどの様な物か分かりません。」
「この限界魔力保有量ってのは?」
「魔力を保有していられる限界量です。一般人の限界魔力保有量は平均200程。それと、一般的には限界魔力保有量を『魔力量』と呼びます。限界魔力保有量という呼び方は正式名称なのですが、長いのであまり会話では使いませんね。」
つまり俺は一般人の8倍の魔力量があるわけね。
「だがさっき生まれが祝福されればされるほど魔力量が増えると聞いたが、何故俺の魔力量はこんなに多いんだ?精々君ら二人が祝福した程度なんじゃ?」
「それはおそらく転生者支持派が居るからですね。その者達が転生者、つまりあなたを祝福したのかと。」
「直接生まれを認知していなくても『祝福』になる訳か。それより転生者支持派?転生者に世界が滅ぼされそうになってるのにか?」
「ええ、このトリニティ王国の味方の転生者も居ますので。」
だとしても2つの国が滅んだのにまだ転生者を恨んでない奴なんているのか...?
「というかさ...王女さま魔力量は一般人の約2000万倍って言ってたけどさ...つまるところ王女さまの限界魔力保有量は...?」
「姫様の限界魔力保有量は...40億です。」
「もう全部王女様だけでいいのでは?」
思わずそう言ってしまった。
「そうもいきません。魔力量が多ければ強い訳ではなく、魔法を使い放題になるのと魔力循環がより強力になる程度です。先程説明した魔力循環も体を強化するといっても力が強くなるのではなく体が丈夫になり、反射神経や思考のスピードが強化される程度です。その上姫様は魔法の才能がないので。」
「ちょっとソール?言い方酷くない?」
王女は腕を組みソールを睨む。
「じゃあ強力な固有魔法か汎用魔法の才能が必要なのか。」
「ええ。ですがその悪魔は強力な固有魔法を持っていますので情報収集と準備が必要と思われます。」
「...その固有魔法ってのはなにか分かるか?」
国を2つ滅ぼしたのであろう固有魔法。どんなものか興味がある。
「奴の固有魔法は、『複製』様々な物を複製する魔法だと聞いています。」
『複製』か。確かに強そうだ。
「あと何故一国の王女がそんな軽装で、こんな小さな部屋で転生者を召喚したんだ?」
悪い予感がする。それもすごく濃厚な。
「『複製』の転生者を討伐する勇気がある者がいないからです。なので姫様が自ら行動を起こしました。」
「なるほど。つまりお前達はトリニティ王国ってやつの軍に終われている最中だな?」
この予測は当たらないでくれ。お願いだ。
「正解です。」
「...つまり俺も見つかったら軍と転生者を恨んでる奴らに追われるわけだ。」
「それも正解です。」
「どっちも当たってしまった...最悪だ。」
「申し訳ありません。」
「いや、いいんだ。大体分かった。そしてここでのんびり俺と話しているってことは一旦は軍を撒いたんだな?」
「はい。」
「ここはトリニティ王国の領の外か?」
「いいえ。なのでこれからトリニティ王国を出ます。」
「とりあえず...王女さんの土下座に免じて協力をしよう。世界が滅びそうって聞いた上で、王女に土下座までされたらどうしても放っては置けない。」
自分で言うのもなんだが俺は他人を放っては置けない優しい人間だと思う。俺が死んだ原因だって優しさが仇となったようなものだ。
「ありがとうございます!!」
また王女が土下座した。2回目だが感嘆してしまう綺麗な土下座だ。
「そんな簡単に土下座しないでくれ。」
「ごめんなさい!!」
王女は土下座を止めて立ってくれたが、あまりにも腰が低すぎるのではないだろうか?
「それで...領外までかかる時間と道中の障害はある?」
「領外までおよそ5日。障害となりうる要素は軍のモルブ隊と魔物です。」
魔物なんてのも存在しているのか。それとモルブ隊?
「その障害について詳しく...」
ドンドンドン!!
扉を叩く音が部屋に響いた。
「!?」
「こんな早く来るとは...!!」
「マコト!エレ!逃げますよ!!」
「「了解!!」」
「ゴフッ!!」
「グッ!!」
男の苦しそうな声が聞こえた。俺とエレオノーラが返事をした時には既に扉が開いていたが、逆に扉の先に居たのであろう兵士2人の片方は気絶。片方はソールが後ろに回り首を絞めていた。
「ひえっ...」
俺は思わず女のような声を出してしまった。同時に兵士の目がグリンと回った。
「行きましょう!!マコトはこれを着てください!!」
渡されたのは黒いマント。既にソールさんとエレオノーラはすぐに走り出していたが、俺はソールの強さにただ驚いていた。先に倒れていた兵士は剣の鞘で喉を潰されていたのだ。死んではいない様に見えるが...大丈夫だろうか?
「頼もしいけど怖っ...」
俺は着ている学生服の上にソールさんに渡されたマントを簡単に着て二人に続き走り出した。外からさっきまで居た部屋の外見を見た。田舎の廃屋だろうか?さっきのうす暗い部屋では気付かなかったが、空は綺麗な夕陽で輝いていた。