『転生者、海名真』
「...熱い。」
段々と意識がハッキリとしてくる。何が起こったのかわからなかった。意識を失う前、河原で絵を描いていたことを思い出す。
まずは周りを見渡そうとするが、すぐに右目が開かない事に気付いた。それどころか右半身全体が酷く焼けていたのだ
「そうだ...絵を描いていたときに周りが白く光って...勢いよく吹っ飛ばされて気を失っていたんだ...」
立とうとすると脚がふらつき私が見に付けている義足が何かを踏みつけまた転んでしまった。さっきまで使っていた筆が偶然そばに落ち、それを踏んでしまったようだ。そばには少し焼けたキャンバスが落ちている。私の身体がキャンバスを守ったのだろう。描いていた絵は残っている。左目のみを使い周りを見渡す。
その風景は地獄という表現に相応しい。最初に目に入ったのは大量の死体が流れる川。川の近くには多くの人が集まり死体で赤く染まっている水を飲んでいた。次に人々の声に気づく。
「水...水...水」
恐怖した。ほぼ焼死体のような人々がフラフラ歩きながら、『水』その一言を繰り返しながら川に次々と集まってくるのだ。次に光が来た方向を見た瞬間私は驚愕し、目を一気に見開いた。私が絵を描いていた理由。それは人間の感情の爆発を表現する事。頭の中では描けていたがそれをどうしても表現仕切れなかったもの。だが私が思い描いたものが正に目の前一面の空に広がっていたからだ。
私はすぐに足元の筆を手に取り、目の前の巨大で不気味なキノコ雲を先程まで描いていた川の絵に追加で模写し始めた。その雲がそこにある理由も分かっていないのに。川の死体で赤く濁った水を使ってだ。
「この絵だけは...描ききってから死ぬ...!!」
焼け爛れた皮膚で塞がっていた右目も無理やり開け、雲を再度見る。怖い。だが、美しい。そう思わずにはいられなかった。自分でもイカれていると思うが。
私はもうすぐ死ぬ。自らの身だからよくわかる。死ぬ前にこの風景を絵に残す。絶対に。絵を半分程描いた頃にヒューヒューと喉が鳴り始めた。
「水...」
私は死体をかき分け酷く汚れた川の水を飲んだ。その瞬間気が遠くなる。
「待て...まだ...絵は完成していない...!!」
最期に私の目にある文字が目に入る。キャンバスの左下に自分で書いた『1945年8月6日』という日付だった。
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「やった!!成功したわ!!」
目の前に急に女が2人現れた。片方は同い年ぐらいに見える。
「へ?」
俺は困惑した。さっき死んだばかりだと言うのに俺は小さな部屋の中に突っ立っていた。それも完全な健康体で。
「私はエレオノーラ!トリニティ王国の王女のエレオノーラ・トリニティと言います!まずは説明を聞いて下さい!」
俺は驚きっぱなしだったが説明させてくれと言うなら聞いた方が良さそうだ。
「わかった」
「ありがとうございます!まず、足元にある魔方陣はわかりますか?私とそこにいる従者、ソール・イカロスがこの魔法陣を書きあなたをこの世界に転生させました。転生させた理由を簡潔に言えば、あなたにこの世界を救って頂きたいからです!」
『転生』聞いたことがある単語だ。だが俺が?ただの一般人だぞ?
「この『転生』というのは他世界で死んだ者を召喚する技術です。そして転生した者には強力な能力が与えられるため貴方は今この世界で有数の協力な力を授かりました。この世界はある者によって危機に直面しているため打開策として貴方を転生させたのです!」
死から蘇ったのは素直に言うと、嬉しい。だが、それはそれとして勝手に死者を異世界に蘇らせて世界を救え?随分自己中心的的ではないか?という考えが始めに来た。だがその考えはすぐに消えた。
「転生させて急に世界を救えって...ちょっとそれは自分勝手すぎるんじゃ...」
そこまで言った瞬間に王女が答える。
「自分勝手なのは分かっています!!その上でお願いします!!どうか、どうかこの世界の民を貴方のお力でお救い下さい!!」
王女さんは正座の姿勢から両手を地面に合わせ、ゴンッと頭を床に打ち付けた。そう、土下座だった。頭を床に打ち付けるタイプの。
なるほど。一国の王女が土下座をするとは思わなかった。なりふり構っていられない状況であろうことが分かる。確かに誠意は伝わった。だが...
「そこまでやんなくていいから!!そこの壁に寄りかかってるソールさん!?も少しは心配したら!?」
「姫様はいつもこんな感じですから。」
「いやだからって...」
「私は大丈夫ですので気にしないで下さい転生者様!!」
そう言いながら頭を上げた王女のデコは無傷。かなり勢いよく地面に打ちつけた様に見えたが。
「あ、あれ?大丈夫なのか?」
「姫様は魔力循環を常にしているので大丈夫ですよ。傷がついてとしても固有魔法『再生』を持っているので止めなかったのです。」
魔力循環?固有魔法?今度は聞いたことのない単語が出てきた。
「じゃあいくつか質問があるんだけど。答えて貰っていい?」
「はい!転生者様!!」
まずはこの世界を知るために情報収集だ。
「まず固有魔法ってのはなんだ?」
「はい!この世界には魔法という物が存在していて、固有魔法と汎用魔法の二種類があります!まず魔法は魔力を消費して使います。固有魔法は普通の人は持っていないのですが稀に固有魔法を授かった人が生まれるのです。私の固有魔法は『再生』傷を直すことができます!汎用魔法は理論上誰でも使える魔法ですが魔法の才能がないと使えない汎用魔法も多数あります。そして転生者は強力な固有魔法を必ず持っているので転生者は協力な力を持っているのです。」
なるほど。だから俺を転生者として召喚したわけか。
「じゃあ魔力循か」
「はい!魔力循環ですね!!説明します!」
言葉が遮られた。だがハキハキと喋っていて元気で聞いていて気持ちがいい声だ。
「魔力循環は魔力を全身に循環させることで肉体を強化するものです。これは魔法ではなく魔力をもっている者なら誰でもできる技術です!」
「うん。わかったからまずは頭を上げて貰えるかな?ずっと土下座した状態で喋られると気まずいからさ。」
「はい!」
王女さまがバッと顔を上げる。
まさか土下座したまま喋り始めるとは思わなかった。このお姫様、あまり常識がないのだろうか?
「で、魔力ってのは?」
「魔力は『祝福』を受けた者に与えられます。『祝福』はそのままの意味で、人々に生まれが祝福されればされるほど魔力は多くなり、特に平和な王国の王族や英雄の子などは多くの人に祝福されるため必然的に魔力量は多くなります。このトリニティ王国は長いこと平和で、私は王族のためほぼ全国民から祝福を受けました。なので一般人の約2000万倍の魔力を持っています。」
生まれが祝福されれば魔力量が多くなる...か。それより一般人と比べて2000万倍の魔力...2000万倍?とんでもない姫様だ
「じゃあ世界の危機ってのはなんだい?」
「それに関しては私がお答えします。」
先程まで壁に寄りかかって静観していたソールが話し始めた。
「私は元軍人なので世界の状況に関しては私の方が知っている故。」
腰には剣を持っている。護衛なのだろうか?
「今この世界に転生者は貴方を覗き三名。その中でこの世界に1番初めに召喚された転生者が急に多くの人に対する虐殺をし、この世界に存在していた4つの国の内の2つを滅ぼしました。2つの国が滅んでから一年ほどが経過しましたが、おそらくあの転生者はトリニティ王国、更には世界をも滅ぼすかもしれません。そんなことになる前にあの悪魔の様な転生者をなんとかして倒したいのです。」
悪魔の様な転生者...ね。どんな奴なんだろうか。
「なぜそいつは国を滅ぼす?」
「分かりません。ただの道楽か...この世界に恨みがあるのかどうかも...」
「なるほど。ところで俺の固有魔法ってのは?」
「それを調べることができるアイテムがここに。」
そう言うとソールは持っていたカバンから一つの紙の様な物を取り出しながら俺に近付く。
「これに触れて魔力を流し込んでください。触れながら適当に魔力を流し込むのをイメージするだけです。」
イメージか...魔力を流し込むイメージ。いやまあ魔力とか言われてもわからないのだが。
すると紙に文字が浮かび上がった。
人間(男),『転生者』海名真
限界魔力保有量 1600
固有魔法 『自己犠牲』