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02.早く帰りたいボッチ vs セクハラ貴族(2)

 

 太一は、裏庭で揉めている人々の前に飛び出した。


「ちょっと待った!!!! お前! 何をしている!」


 太一の視界に、6人の人物が目に入った。

 見たことのないメイド服を着た2人に、見慣れた制服のメイド4人。

 うち1人は太一の部屋を掃除してくれるメイドで、大きく目を見開いている。



(あ、あれ?)



 太一は目をパチパチさせた。

 てっきりセクハラ貴族がいるかと思いきや、女性ばかり6人だ。



(聞き間違いだったのかな?)



 そんなことを考えていると、



「おい! おまえはなんだ!」



 くぐもった声が聞こえてきた。

 メイドのスカートが揺れて、小学校低学年くらいの金髪男児が現われる。

 どうやらメイドのスカートの中に入っていたらしい。


 太一の目が点になった。



(え? まさかコイツ?)



 てっきりオヤジかと思いきや、まさかの子ども。


 男児は偉そうに胸を張ると、太一を怒鳴りつけた。



「なんだおまえ! わたしのお楽しみタイムをジャマするな!」

「お楽しみタイム?」

「スカートめくりだ!」

「…………」



 太一はゲンナリした。

 つまり、このお子様はスカートめくりをして遊んでいたということなのだろう。


 一瞬、このまま回れ右をして帰ろうかと思うが、金髪男児の首に光る石を見て、太一は考えを改めた。

 いかにも高そうにキラキラ光る石には、金色の紋章がデカデカと掘ってある。



(あれって、多分上位貴族の証だよな……?)



 よく見れば、男児はとてつもなく高そうな服を着ている。


 太一の頭に一瞬でロジックが組み上がった。


 ――――

 悪いことをした金髪男児を叱る

 ↓

 親である上位貴族が「うちの息子になにするんだ!」と怒る

 ↓

 手打ち

 ↓

 最強になって魔王討伐!

 ――――



(キタコレ!)



 作戦変更。

 「セクハラ貴族を思い切り侮辱して手打ちコース」

 から

 「親の身分が高そうな男児を叱って、その親に手打ちにされようコース」

 へ切り替えだ!



 お腹の中の消えかけた火が再燃するのを感じながら、

 太一は、金髪男児の前に仁王立ちになった。



「お前、やっていいことと悪いことが分からないのか? 彼女たちが嫌がっているじゃないか!」



 男児が太一を睨みつけた。



「うるさいっ! お前、私が誰だか分かっているのか! お前なんて父上にかかれば一瞬で手打ちにされるんだぞ!」



 この言葉に、メイドたちが一瞬で青ざめた。

 太一に向かって、


「どうか謝ってください」

「私たちは気にしていませんから」


 と懇願するように言う。



 太一の心が期待で膨らんだ。


(手打ちだと! 望むところだ!)


 こうなったら徹底的にやってやると、彼は男児に近づくと、首根っこを掴んで持ち上げた。

 日本では無理だが、こちらでは軽々とできる。



「な、なにをする!!」



 男児が足をバタバタさせる。



「お前の親のところに行って、お前の教育方針について抗議する!」


「ええええええ!!!!」



 メイドたちが真っ青になった。


「お、お待ちください、こ、この方は……!」

「降ろしてください、今ならまだ間に合います!」


 必死に太一を説得にかかる。

 男児がメイドたちを睨みつけた。



「黙れ! こいつを父上のところに連れて行くぞ! 目に物を見せてくれる!」



 太一も口を開いた。



「案内してくれ、こいつの父親に一言ガツンと言ってやる!」



 メイドたちが、青を通り越して白くなりながら口をパクパクさせた。

 何か言いかけるが、男児に睨まれて口を閉じる。

 そして、



「こ、こちらでございます……」



 と、消えそうな声で建物内を先導し始めた。


 その後ろから、太一が、男児が「降ろせ!」と言うのも構わず、子猫のようにプランとぶら下げたまま歩き、更に後ろをメイドたちがオドオドしながら付いてくる。


 この何とも不思議な行列を見て、王宮内の人々は目をぱちくりさせた。



「な、何をしている!」



 騎士や文官が血相を変えて駆け寄ってくるが、男児が



「邪魔するな! 父上のところにこいつを連れていく!」



 と叫ぶと、すごすごと引き下がる。


 そのやりとりを見ながら、太一は思った。

 この男児の親の身分は相当高いな、と。



(これは期待できそうだ!)



 そして、かなりのスピードで王宮を通り抜け、一行は立派な扉の前に到着した。

 扉の前を守っている騎士たちが慌てて止めようとするが、男児が


「父上に用事がある! 開けろ!」


 と叫ぶと、ビシッと敬礼をして扉を開ける。


 そして、太一が部屋の中に一歩踏み込むと、そこは会議室だった。


 巨大な丸テーブルには、10人ほどの身分の高そうな年配の男性たちが座っており、訝しげな目で一行を見ている。


(おお、どれが父親でも期待できそうだ!)


 太一は期待に胸を高鳴らせながら、男児を高く掲げて叫んだ。



「こいつの父親は誰だ!」



 会議室の全員の目が驚いたように見開かれる。


 しばらくして、一番立派な椅子に座っていた男性がゆっくりと立ち上がった。

 物静かながらも強い瞳を太一に向けると、にこやかに微笑んだ。



「私だが、息子が何か?」




 ** *




 一方その頃、太一の出て行った教室は、蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。

 飛び出した太一を面白半分で追いかけた男子が、血相を変えて教室に飛び込んできたからだ。



「た、大変だ! 南田君が、いたずらした王子を捕まえて国王に抗議しに行った!」



 南田が去った後、その場に残ったメイドに聞いたところ、王子は嫌がる女性のスカートをめくって歩く常習犯で、城で働く女性達はみんな困っていたらしい。



「メイドさんは、“みんなが嫌がっているのを見かねて、南田君が抗議しに行ってくれたんじゃないか”って……!」



 文官は真っ青になった。

 国王に直接抗議なんて、命知らずにもほどがある!



「い、今すぐバカンス王女に知らせなければ!」



 文官が血相を変えて飛び出すと、教室は騒然となった。





おはようございます!

今日も元気に投稿開始です

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